82話 渡し忘れた結婚祝いを貰ったならば
リレイアの計画の中で一つだけ解決できない問題点。
それは、ケータとフィリアの故郷を守ること。
ケータ達はこの世界の魔法システムを再構築しようとしていた。
しかし、どんなに魔素を調節しても魔界の魔獣が溢れ出すことを止めることはできない。
そして、どうしても守れない国があるとリレイアは言う。
それはケータ・リーフォンとフィリア・マリアンの祖国コルキニアであった。
その解決策を持たないまま一同はこれからのことを考えあぐねていた。
すると。
不意に周りが白く淡くなり、背景のないどこともわからない領域に辺りは包まれる。
現れたのは主神アルーダと現神グラムゼアだ。
「困っているようだな?」
「ええ、ほんの少しですが」
アルーダの言葉にリレイアはちょっと悔しそうに答える。
神様は助けてくれるために出てきたのだ。それはわかる。
だが、そんなリレイアも心の中では折れるしかないと思っている。
神様に縋るというのは二重の理由でやりたくないことなのだ。
一つは大見得を切ってこの世界のシステムを変えると言っておいて、ここで助けを乞うのは癪だということ。
そしてもう一つは、これ以上直接神の力を借りることは、助けたいはずの神自身を危険に晒すこと。
このアルファニア世界の主神が抱える問題からして、この二番目の問題の方が厄介だろう。
さりとて、アルーダにしてもこの星の民を大事に思っているのだ。
そして、そんな二人の気持ちに気づかないフリでグラムゼアが言う。
「遅くなったがケータ、フィリア。結婚おめでとう……そう言えば、アルーダ様。ケータに結婚祝いを渡すの忘れていたと言ってませんでしたっけ?」
「おっ? おう! そうだったそうだった。グラムゼア。済まぬ」
いささか白々しくそう言って、アルーダが手を広げる。
すると、ケータの懐から婚約指輪がすうっーと、アルーダの手に渡る。
「おお、良い石だな。ザギメデのメリタリアか。私からのプレゼントはこの宝石を一対のものとし、輝きも少しばかり増してやろう」
そう言って指先から指輪に神の力を注いでいく。
宝石は直視できないほどに眩く光り、やがて元の状態に近い輝きに戻っていった。
そして、気がつけば手のひらには指輪が二つに増えていた。
「これは凄いわ。神様。よろしいのですか?」
「何のことかな? 私は遅くなった結婚の祝いに新たな指輪と少しばかりの加護を追加したに過ぎないが」
リレイアは珍しく、目を見張って二つに増えた指輪を凝視している。
他のものには一つ増えたことと、輝きを少し増したようにしか見えなかったが、彼女にはその力が認識できたのだろう。
「では行くとしようか」
「もう、行かれるのですか?」
「ああ、遅れていた結婚祝いを届けるだけだからな」
ケータは目の前で結界を解除し、同時に消えていく神々を見送った。
この結婚祝いに託けた神の加護がコルキニアの危機を救うカギになることは間違いない。
リレイアは黙って神々に向かって頭を下げたままだった。
◇
ケータ達は、魔獣のスタンビートに備えて、大陸西部の各国にそれぞれ誰が向かうかを話し合っていた。
リレイアはフレーメに関することを。
魔素作成システムの停止とエネルギー照射システムの調整である。
クリスクロスは、血脈に新しい魔素を補充する小型ボットを担当し、設置をこの星ランゾルテ中の妖精達に割り振るつもりだった。
と、ここで問題が発生する。
ボットには金属部分があり鉄を含む部分があったのだが、クリスクロスが頼むはずの妖精たちは、鉄が触れないという。
そのことをリレイアに相談したところ。
「困りましたね」
「リレイア。妖精が鉄を苦手としているという話は割と有名だと思うんだけど知らなかった?」
ケータは横で話していたその話を聞いてちょっとびっくりする。
地球のお伽噺でも妖精が鉄を苦手とする話はたくさんあるのだ。
リレイアが知らないはずはない。
「知ってはいたけどそれは地球の伝承とか物語の上の話でしょ? まさか、このアルファニアの妖精に当てはまるとは思わなかったわ」
リレイアはちょっと考え込んだ後、ボットの試作品を取り出した。
それを樹脂膜で包み表面は金属部分が露出しないように改良する。
さらに、本体と樹脂の間に空洞の緩衝領域を設けて、鉄を含む部分と絶縁した。
「これでどう?」
リレイアはクリスクロスに新システムの鍵となる魔素供給ボットを手渡す。
「まあ、これなら妖精たちも触れはするけどよ。重くなってないか?」
「そうね。当初一つ当たり2gだったのが今は3gね。でもたった1gよ。増加重量は」
「まあ、そんなんだけど、妖精たちに運べるかなあ? 運べたとしても時間かかるぞ」
クリスクロスは怪訝な顔をしている。
「そう? わかったわ。でも、重さだけよね?」
「そうだけどよ……」
「なら、なんとかなるわ。設置はスタンビートが始まってからでもなんとかなるもの。2ヶ月ぐらい猶予があるし」
「軽く言いやがって!」
「まあ、ちょっと考えて見るわ」
リレイアは、ひとまずこの話を打ち切って次の準備に話を進めた。
「どうすっかなあ」
すでにリレイアはケータ達のところに戻り、次の準備について話し始めているが、クリスクロスは頭を抱えている。
なんでもかんでもリレイアに任せっきりであることにちょっと引け目を感じているのだ。
「とりあえず3gのボットを妖精達に運んでもらう方法を捻り出さないとなあ」
とブツブツ言いながら姿を消した。
一方、ケータ達が話し合っている次の準備というのは人員の配置についてだ。
「リレイア。それで、誰がどこに行けばいいんだ」
「まず、都市国家群にはマルキャルトとパメロにお願いするわ。ここは、魔界から近いので時間がないから、すぐに羅鉄鋼で城の強化から始める欲しい。そして、全ての壁を必ず連結して『ルオークの杖』をその壁の根元に埋めてね」
「わかった」
「わかりました」
次にザーフェスト・オーを向かって。
「ランシェル神主国を強化して下さい。元から強固な城壁を持っているのは知っていますが、この魔獣の群れには対抗できませんので、必ず羅鉄鋼で補強して下さい」
「ランシェルは自分の国の守りに絶対の自信を持っている。他国の道具を使って補強など受け入れることが難しい」
「やらなければ確実に滅びます!」
「…………わかった。なんとしても説き伏せる。例え、腕力を使うことになってもな」
ケータ達はその発言にちょっとザワザワする。
『腕力を使っても』というのは『殴っても言うことを聞かせる』ということだろう。
相手はあのザーフェスト・オーだ。
殴られたら、ただでは済まないだろうと。
確かに、人の意見を聞いて議論している場合ではないのであるが……
ケータ達はオーの為人を知っている。
まさか本当に力づくではやらないだろうと思って、それ以上考えるのをやめた。
次はサリナ・グリーンウェル。
当然モグルーク王国を担当する。
それはそうなるとサリナは思っていたが、リレイアの要求は高かった。
「モグルークには守るだけでなく、城壁の上からの攻撃にも期待します」
「ええっ! モグルークは軍備に乏しい小国ですよ。知ってるじゃないですか!」
「いいえ、マルキャルトの訓練を受けた正規兵がいる軍隊は他にないですから」
確かにタリオトルテの大軍を打ち破った経験はある。
マルキャルトの指導は大きかった。
「でも……」
「もし、モグルークが魔獣の群れをほとんどスルーした場合、タリオトルテの市民に数十万、いえ数百万の犠牲者が出ることになります。そして、その群れはダーバンシャイ山脈を越えることになるでしょう」
「…………わかりました。シャルース王を説き伏せます」
「大丈夫ですよ。参謀のゼルアーノ少将はもう味方になるでしょうから」
「あっ! ああ! そうでしたね」
サリナはモグルークの軍備より、軍の上層部である参謀達説き伏せられるかどうかを気にしていたのだ。
しかし、タリオトルテ戦でケータ達に対し信頼が厚くなっていたのを思い出した。
「わかりました。やります!」
サリナは腹を括った。
そこに久しぶりの人物がやってきていた。
「こんにちは。ケータさん」
ヨシュア・メイソンだ。
「メイソンさんも手伝ってくれるんですか」
「ええ、リレイアさんからロブナント子爵経由でお願いされまして」
そこにリレイアが割って入る。
それを見たメイソンは。
「リレイアさん、雰囲気が変わったような」
「ええ、ちょっとイメージチェンジです」
「そうですか」
メイソンは、内面がほぼ玲子になった妖精の変化に気付いたのだ。
それに対し、リレイアは面倒臭くなって説明を省く。
メイソンもそれをスルーした。
今は非常時、時は金なりである。
「メイソンさんは、クリフラクト共和国をお願いします」
「あー、やっぱり……そうなりますか。でも、私、あの国に入れないことになってるんですが……」
「大丈夫です。クルゼ王国、モグルーク王国、ランシェル神主国の各最高責任者の全権委任状がありますから」
「ええっ!! そんなものがあるんですか? まあ、それなら拒否はされないですね……わかりました。精一杯やらせて頂きます」
「それで、羅鉄鋼は……」
「ああ、大丈夫です。クルゼを経つ時にロブナント子爵に大量に持たされましたから」
これは嬉しい誤算だ。
クリフラクトで使う予定の羅鉄鋼を持参してくれたのなら、余剰を他の弱い国に回すことができる。
「では、『ルオークの杖』だけ持ってって下さい」
「あー、これが例の……魔獣を撃退した後で研究させて下さい」
「はい。わかりました。終わった後なら使っていただいて結構ですよ」
そうは言ったが、魔獣と戦い酷使された杖が原型をとどめていることは恐らくない。
リレイアはその事を少しだけ申し訳なく思った。
そんなことを考えていた時、残ったのはケータとフィリアが声を掛けてきた。
「残った僕たちはどこに行けば良いんだ?…………って一箇所しかないよな」
「はい。コルキニアに向かって下さい」
「でも、どうするんだ? コルキニアには城壁がないから守りを固めることができないんだけど……」
そう。
それがこの作戦を考えた当初の一番の問題だった。
しかし、それは解決している。
一対の指輪に神アルーダの加護が与えられているのだ。
リレイアはちょっと考え込んでいたが。
「そうね……フィリアが倒れていたあの森に向かってくれる?」
「いいけど……あんな国境からも国の中心からも離れた小さな森でどうするんだ?」
「小さい祭壇が作ってあるの。そこに二人で、アルーダ様に加護を付与された指輪をつけて」
「これかあ。でもこれどういう効果があるか知らないんだけど」
「私も知らないわ」
無責任だ。
でも。
「一応ディスプレイも設置してあるから、コルキニアに入ってくる魔獣がいるかどうかは確認できる」
「いたら、どうするんだ?」
「さあ?」
「さあ、ってなあ……」
「多分、祈るんだと思う」
「祈る?」
今までだったら、とてもリレイアが言いそうもない言葉だ。
これも、リレイアの魂が来栖川玲子だけになった影響だろうか?
しかし、当の玲子にしてもそんな信心ぶかい性格ではなかったはずだが。
「大丈夫よ。アルーダ様がその指輪に込めた力は本物よ。おそらく、2人の祈りの力で魔獣からコルキニアを守ることができる……うーん、そうね。けいちゃんはディスプレイを見ながら念じてみるといいと思う。恐らく魔獣を群れ単位で駆逐できると思う」
「げっ! そんなことできんのか?」
「多分。神様はその指輪の持つ能力を思念とか脳波とかいったものをキーとして引き出せるようにしたみたい」
「……わかったよ。行くか、フィリア」
「ええ」
見送るリレイアは悪戯っぽく笑い、そして……
「けいちゃん、イチャイチャしてばっかりじゃダメよ。モニターしてるからあ」
「するかっ! 姉ちゃんのバカ!」
ケータはプリプリ怒ってフィリアとともにコルキニアに向かって歩き出した。
アルーダの計らいで、コルキニア防衛の目処が立ちました。
ケータ達は準備のため各地に向かいます。
次回、『83話 各地へと計画の準備に向かえば』1/20 投稿予定です。




