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79話 懐かしい生まれ育った家に戻れば

 ケータとフィリアは、転生前の人格との擦り合わせに戸惑いながら故郷の村に帰ります。

 ケータ達は森を出て1時間ほど歩き、コルキニアの小さな村ファルマールに着いた。

 そこは、元のケータ・リーフォンとフィリア・マリアンの故郷だ。

 これからケータとフィリアは親族に会う。

 それが問題だった。


 ケータ・リーフォンの両親はすでに他界しており、しばらく会っていない祖父のハイデル・リーフォンがいるだけだ。

 フィリア・マリアンの両親は健在である。


 二人とも元のアルファニアの人間としての記憶も感情も残ってはいるが、日本人としての気持ちの方が勝ってしまう。

 ましてや、高校生の時の強い思いがこの異世界で奇跡的に結ばれたのだ。

 どうしたって、そちらの方に感情が引っ張られる。


 このままでは自分の家に行っても気持ちの上では『他人様のお家にお邪魔する』ということになる。

 懐かしいはずの生まれ育った家に帰るのには気後れがあった。


 それをどうにかしようと、この村に着くまでの道すがら村に着いた時のために記憶を探り、昔思っていたこと、感情・メンタルを取り戻して違和感がないようにすることに懸命だった。


 神アルーダとグラムゼアは悩む二人にアドバイスを送って、この村に入る少し前に姿を消した。


「自然に振る舞えば良い。其方たちが感じる『自然』にな」


 自分達が感じる自然、とは何かがわからないまま村の入り口を過ぎた。

 意外だったのはリレイアとクリスクロスが姿を現したまま、村に入ったことだ。

 だが、村の入り口には柵があるだけで、一番近い家でもそこから150mは先にある。家と家の間には畑もあるので、次の家までまた100mである。

 ケータは立ち止まった。


「どうしようか?……というか……姉さんは姿を現したままでいるつもり?」

「ええ、クリスクロスに聞いたところ、この国では妖精は普通に人と共栄しているらしいので、姿を見せることは自然なのだそうよ。それより、私のことは今まで通りリレイアと呼んでね。確かに表層の記憶は来栖川玲子の部分が大きくなったけど、リレイアとして過ごしてきた記憶も鮮明にあるの。だから、今までどこりリレイアと呼んでね。私はけいちゃんと呼ぶけど」


 その話を聞いていたマルキャルトは


「なんだか、目が回るようなお話です」


 と言った。


 それはそうだろう。


 だいたい妖精が旅の仲間になると言うところから普通ではないのに、リレイアはそれだけではなかったのだから。

 確かにケータは別の世界から来たことも元は来栖川慶太であることは聞いて知っていた。

 だが、元のケータ・リーフォンの結婚相手が死んで、それに魂を吹き込んで生き返った相手が慶太の恋人で、しかも一緒の来たリレイアに残る命は慶太の姉だと言うのだ。


 まあ、当のケータにしてもリレイアに中に姉玲子と上川ひとみがいたとは知らなかったのだ。

 戸惑うばかりである。


「僕だって同じだよ。また、姉さんに会えるのは嬉しい……けど、姿はリレイアのままだし、なんだか変な感じだ。照れ臭いし。これからは姉さんと呼んだ方がいいのかな、とも思っていたけれど、言う通りリレイアと呼ぶことにするよ」


 そんなことを言っている間に、声をかけるものがいた。


「ケータ! ケータじゃないか! いつ戻ったんだ!」


 驚き、そして懐かしげに声をかけてきた村人に一瞬戸惑いながら、二人は記憶を懸命に辿る。

 先に思い出したのはフィリアだった。

 その人物はフィリアを幼い頃から知っており実家のすぐそばに住んでいる農家ジド・ライアンだった。


「ジドおじさん。やっとケータに会えたんです。この国に着いたのは昨日で私もさっきやっと会えたんですよ」

「そうなのか! よかったなあ! レーム婆さんをとっちめなきゃいけねぇな」


 なんのことだろう、と思いながらケータが挨拶する。

 記憶を辿るうちに、レームというお年寄りはこの村で祈祷師のようなことをしていた、とわかった。


「お久しぶりです。ジドおじさん。レーム様がどうしたんですか?」

「ああ、それがな。1年ぐらい前に『ケータが死んだ』と言い出したんだよ」


 ケータは一瞬ギクリとしながら、フィリアと顔を見合わせる。

 レームという祈祷師の見通す力は確かだ。


 ケータ・リーフォンは一年前に死んだという真実はなかったことにしなければならない。

 今のケータに取って代わっていることを悟られてはならない。


「そうなんですか? レーム婆さんの言うことも適当だからなあ。ピンピンしてますよ」


 と、心の中で頭を下げながらそう言った。


 だが、これ以上この話を続けるのは憚られたので、話題を逸らすためにクルゼ王国の話などをしながら村の奥に入って行った。


 ◇


「お帰り!」

「母さん、父さん。ただいま」


 フィリアが自宅に着いたときに両親は家の前に出ていた。

 様子がおかしい。

 そして、後ろにはもう二人、人影がある。


「じいちゃん!」

「おお、ケータか。よく帰ったな。元気なようだな……何か、雰囲気も変わったようだが」

「そりゃあ、何年も経てば成長もするもの」

「そうか。フィリアちゃんを随分待たせたんだ。ちゃんと支えていい家庭を作るんだよ」

「分かってるよ」


 ケータの祖父であるハイデル・リーフォンは嬉しそうではあるが、どこか遠くを見ているような気がする。

 そして……


「お主らが『無事に』帰ってこれるとは思わなんだ。許しておくれ」

「いえ、レーム婆様。わたしたちを心配してくださったのは分かっていますから」


 レームは謝罪に一瞬ギクリとしたが、フィリアは謝ることではないと首を振って答えた。


「ケータ、他の方々を紹介しておくれ」

「ああ、僕はクルゼ王国で冒険者をしていたんだ。そして共に旅をした仲間さ」

「マルキャルトと申します。クルゼ王国の騎士です」

「パメロです。ローアニエストから来ました」

「リレイアです。ケータと出会って幸せです」

「おいらはクリスクロス。ケータは危なっかしいから守ってやってるんだぜ」


 村人は遠巻きに見ている。


「まあまあ、騎士様に伝説のドルターラ名人様、妖精をお二人も連れて、ケータもすごい冒険をしてきたのね。それで、婚礼の指輪にする貴石は見つかったの?」


 フィリアの母エステルのその言葉にケータにしまった、と思った。

 元のケータ・リーフォンが東方に旅に出た理由は、フィリアのために婚約指輪のための宝石を探すため。

 知ってはいたものの冒険者としての仕事にかまけてばかりで、すっかり記憶の奥底に置いてけぼりだったのだ。


 何と言い訳しようかと思ったところで、握っていた右手の中に何かが現れた。


——けいちゃん。これを使いなさい。ロブナント領ザギメデでとれたメリタリアという石よ。蒼が強い石だけれど角度によって緑にも赤にも表情を変えるわ。


 リレイアが念話と共にケータの右手にかなりレアな天然石を出現させた。

 ザギメデの調査をしている時に、何かに使えると思ってとっておいたものだ。


「……えーーと、これなんですけど」


 ケータは右手を開いてメリタリアを見せた。


「まあぁぁあ、なんて綺麗な石なのでしょう! これが原石なの? このままでも物凄く素敵! カットするのが勿体無いくらい!」


 エステルは感激して、フィリアをバンバン叩いている。


「お母さん! 痛い!……でも、本当に綺麗ね。ケータ。いつこんなの用意してたの。森で私に会った時は見せてくれなかったじゃない!(ケータには悪いけど、ちょっと困らせてやろう)」

「いやあ、あの時はフィリアに久しぶりに会えたのが嬉しくて……(これフィリアじゃなくて、絶対ひとみの性格だな)」


——けいちゃん。ひとみさんもあまり羽目を外さないで。いい加減、バレるわよ。


 ケータとフィリアはお互いの顔を見て頷きあった。

 それはリレイアの念話に対してだったのだが、周りには結婚する二人が見つめ合っての事としか取らなかった。


「お熱い二人ね。でもそろそろ家に入ってちょうだい。ほら、皆さんも。何もない村ですけど、今夜は精一杯ご馳走しますからね」

「あっ! ああ、すいません……みんな、入ろうか」


 夕食をご馳走になることになり、一行はフィリアの実家の玄関を跨いだ。


 ◇


 フィリアの実家はこの地方特産の織物の製作を生業としている。

 奥の間には大きな織り機があり、居住スペースは2階だ。

 コルキニアの生地は独特の風合があり、他の国から買付家の商人が来る。

 直接交渉をすることもあるため人の出入りが多く、そのために入り口から入ったところは、陳列棚と店舗スペース、商談用の応接セットなどもあり、それなりの広さである。


 そこにたくさんの机と椅子が並べられて、ケータ達は焦る。

 フィリアの家族とケータ達、ケータの祖父だけだとすると椅子の数を多すぎるのだ。


 なんのためだろう、と思っていると。 

 村人が入れ替わり立ち替わり、入ってきた。

 村長だとか周りの村人だとか子供やら老人やらも含め、多くの人が。


 みな、ケータが帰ってきたことを祝って挨拶に来てくれたのだ。

 だが、それは単に久しぶり帰郷を懐かしむためではなく、婚礼の準備がやっと始まることに対してのものだ。

 ほとんどはフィリアの両親がその客をこなしてくれてはいるが、当然ケータとフィリアにも祝いの言葉を言いにくる。


「フィリアちゃん、おめでとう」

「ありがとう……トッ、ティトリアおじさん」

「ん? ああ、緊張してんだな。やっぱ、久しぶりにケータに会ったからかい?」

「あは、はは……」


 二人は残念ながら全ての人の記憶を思い出せなかったので、いくつかトンチンカンな受け答えをしていたが、その度にリレイアがナノマシンで相手の感情や記憶を探り、ケータ達にリカバリーするための知識を与えてなんとか切り抜けていった。


 夜になると織り機のある部屋が片付けられて、単なる夕食ではなく宴会となった。

 当然酒が出て宴は夜半過ぎまで続き、最後の客が帰った時にはケータもフィリアも疲れ切っていた。


「ふぅぅぅ。きつかったーー」

「私もー」


 二人とも椅子かけたままボーッとしている。

 そんな様子を見て、片付けはマルキャルトとパメロが手伝ってくれた。

 風呂に入った後、周りが気を効かせてケータとフィリアは同室に泊まったのだが、そのまま寝入ってしまい気づいたのは翌朝。

 

 ◇


 真っ赤な顔で、起きてから気づく二人。


「……おはよう」

「キャッ! あっ、ああ、ケータ……おはよう」


 ケータは頭を掻き。


「ちくしょう。疲れてて、仕組まれたことに気づかなかったよ」

「ねぇ、何もしてないのに勘繰られるの悔しいじゃない?」

「えっ、それって……どうすんだよ」

「だからー、こうするの」


 フィリアはケータにキスをした。

 朝に交わすキスにしてはちょっと長めだったかも知れない。


 ◇


 起き出した二人は、昨日の机が半分だけ残っている店舗スペースに腰掛けた。


「おはよう」

「おはよう」

「……おはよう。みんな早いな」

「……おはようございます」


 マルキャルトとパメロはすでに起き出していて、ケータとフィリアは照れながら挨拶をかわす。

 クリスクロスは何もいわなかったが、リレイアは念話で話しかけてきた。


——けいちゃん。大人になったのかな?

——うっ、うるさい! そんなわけないだろ!


 かなり意地が悪いが、他人には聞こえないように念話で言ったのがせめてもの心遣いである。 


 フィリアの両親が用意してくれた朝食を頂いて、お茶を飲みながら談笑していたところに、ケータの祖父であるハイデル・リーフォンが入ってきた。

 それにケータが気づく。


「じいちゃん。わざわざ来なくても朝食が済んだら家に行くつもりだったのに」

「いや、皆が揃っている時に話しておこうと思ってな」


 にこやかではあるが、どこか張り詰めた空気を感じたケータ達は談笑をやめてハイデルの方を向く。

 その隣にはフィリアの両親も同様に。


「昨日、レーム婆さんの言った話だがな。私には間違いだとは思えないんだ…………いや、ケータとフィリアが偽者だとは思ってはいない。だが、以前の二人とはこう……何か……うまく言えんな」


 すると、フィリアの母エステルがその言葉を継ぐように。


「昨日、森でフィリアに何があったかは知らないわ。でも、ケータと帰ってきた時、いつものフィリアとは違う何かを感じたの。レーム婆さんがあなたが無事には帰らないと言った時、お父さんと私は覚悟をしたわ。今まで、そのお告げが外れたことがなかったから」

「でも、お前たちは無事に帰ってきてくれた。確かに違和感を感じるが、同時に確かに他の誰でもないケータとフィリアであることもわかるんだ。そこで、お願いがあるんだが……」


 ケータは不安な面持ちで、何を言われるんだろうとフィリアと顔を見合わせていたが。


「なんでしょうか?」

「この村でなるべく早く結婚式を挙げて欲しいんだ」

「「!!」」

「ケータとフィリアに何があったとしてもこの村の民であることには変わりはない。ここで結婚することでコルキニアの民としての二人の結び付きが強くなれば、私達はいつだって心を通じていられる気がするのでな」


 二人は喜び、そして驚き、さらに混乱した。

 確かにケータとフィリアは愛し合ってはいたが、実際は慶太とひとみの心情の方がはるかに大きい。

 だからこそ戸惑いがある。


 確かにケータとフィリアのために結婚式を挙げてやりたいとは思うが、それはこの村の人達全てを騙すことになるのではないかと。

 その葛藤の中、どう答えようかと考えていたところ……


「素晴らしいわ。やりましょう。ケータも宝石の準備ができているし、結婚指輪については銀とオリハルコンで私が作ります」

「「!!」」


 リレイアが勝手に話を進める。

 様子見だったマルキャルトとパメロ、それにクリスクロスが祝福をする。


「ケータ殿。おめでとうございます。クルゼ王国に手紙を書きます。陛下にもお知らせしなくては」

「準備が忙しくなりますね。式では私が一世一代の演奏をして見せますよ」

「まあ、潮時なんじゃねーの。よかったじゃねーか」


 ケータとフィリアは『これでいいのかな?』と思いつつも、礼を言い皆に頭を下げた。


 ◇


 ケータ達はその後、村の中を歩いて中央の広場のベンチにいた。

 元々たくさんの人がいるわけではないこの村の昼前には他に誰もいない。

 ケータは最低限の遮音結界を展開した。


「わざわざそんなしなくても大丈夫よ。けいちゃん」


 リレイアはやれやれという風に言った。

 聞かれては困る話もあるだろうに、最近のリレイアは無頓着になっている。


 それはともかくケータにとっては、結婚話のことが気になる。


「いいのか? 魔界の方とか、タリオトルテの方とか。結婚はするつもりだったけど、先にやらなきゃいけないことがあるんじゃないのか?」

「バカね、けいちゃん。『この戦争が終わったら結婚するんだ』なんて危ないフラグは先に折っておかないといけないの!」

「えっ?……そんな性格だったっけ? って、あー、本当に今のリレイアは姉さんそのものなんだなあ」

「そのもの、って訳じゃないわ。ねぇ、フィリア……ひとみさんと言った方がいいかしら」


 するとフィリアは、リレイアに向かって。


「そうですね。次の戦いは相当厳しいものになるんでしょう?」

「ええ」

「それなら、先に結婚したいです。もしものことがあっても後悔しないために」


 するとケータは。


「変なことを言うなよ。もしものことなんて絶対起こさせないから」


 そう言ったところで、パメロとマルキャルトが「「それです!!」」と言った。


「何が?」

「リレイアが言ってたんだ。ケータは何かがあると自分を犠牲にすると」

「そうです。ケータ殿が一番自分を大事にしないといけないんです! フィリアを一人にしないためにも」


 すると、ケータは間の抜けた顔をしていった。


「僕ぅぅ!?」

「「「「「「そうです!!」」」」」」


 天を仰いだケータは言った。


「わかったよ。フィリアの思いもひとみの思いもひっくるめて結婚しよう。それから僕も自分を絶対大事にするよ。絶対手放したくないからな、君を」


 それからケータはフィリアの家とケータの実家に行き、結婚式の日取りを告げた。

 この村では結婚式は中央広場で行う。

 その準備期間を見込み、式は一週間後である。


 帰ってくるなり結婚の準備に追われることになりました。


 次回、『80話 結婚式』1/10 投稿予定です。

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