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78話 世界を超えた恋人を抱きしめれば

 転生する前のケータ・リーフォンの婚約者フィリア・マリアンは死んでしまった。

 だが、生き返らせることができると言う。


 その神にも許されていない行為を押し通すつもりのリレイアに主神アルーダは……

 コルキニア。

 大陸西部にある小さな国だ。

 魔界と言われる魔素降る死の国(テル・デ・モールト)に近いにも関わらずその影響をほとんど受けていない静かな自然の国である。


 その森の中で一人の少女が死んだ。

 名をフィリア・マリアンと言う。


 ◇


 ケータはフィリアを見つけ、元のケータ・リーフォンとしての記憶を取り戻した。

 故郷であるこの国の村に自分の婚約者の亡骸(なきがら)を届けて弔おうとしたところ、リレイアに思わぬ拒否をされる。

 そして、リレイアはなんと彼女を生き返らせると言ったのだ。


「リレイア殿。そんなことができるんですか?」

「ええ、このフィリアに一回限りで。()()()()できますわ。ねぇ、アルーダ様」


 皆がその発言に対し、一斉に神アルーダを見た。

 アルーダはしばらくの沈黙ののち答えた。


「ああ……可能だ。だが、それにはリレイアの魂が必要になる」

「リレイアが身代わりになると言うのですか。それには反対です」


 アルーダの言にパメロが異を唱えるが。


「いや、そうはならないだろう。リレイアは犠牲にはならない。失うのは命ではなく魂だからな」


 ほとんどの者が何を言っているのか、と思っているところグラムゼアが。


「魂を失っても死なない、って……それはもしかしてリレイアには元々魂が二つあるということですか?」

「そうだ」


 アルーダは認めた。

 そして、リレイアの名前のほかのもう一つの秘密について話し始めた。


 ◇


 天界での邂逅(かいこう)で、アルーダはコモンの神ヌルスから思わぬことを聞いたそうだ。


「アルーダ様。ケータの名前が来栖川慶太の姉玲子の『レイ』とフィリア・マリアンの愛称『リア』から来ていることを知っておられますか?」

「ああ、それはケータの転移をする前にルルカと私で決めたことだからな」


 それにうなづき、どうしようかと悩んだ末、ヌルスは言う。


「それであるならば、リレイアについてお知らせしておいた方が良いことがあります」

「ほう?」

「実はフィリアには魂が二つあります。ケータの転生は私の次元神としての初仕事だったのですが、その時転送した魂の数が合わずにルルカ様に聞いてみたのです」

「ルルカは何と言ったのだ」

「『フィリアにはケータを支えてもらわねばならぬ』と、そして『フィリアが二人の名前からできているのなら、その魂も二つあった方が良いと思ったのでな』と言っておられました」

「そんなことを……だが、そちらから玲子の魂とフィリアの魂を送ることなどできはしまい」

「はい。フィリアさんはまだ生きていますし、別の人の魂です」

「それは誰なのです?」

「さあ? それについては『ワシが慶太にかけた迷惑によって不幸になった二人の女性の魂を託した』とだけ」


 ◇


 アルーダは天界で聞いた話をそこまで話すと、全員は半分納得し、半分は頭がついていかず半信半疑といった具合だった。

 だが、それがいいことなのか悪いことなのかを判断する間もなくリレイアが言った。


「あまり、時間がありませんわ。すぐに始めます。このフィリアの体があまり悪くならないうちに魂を送らないとうまく定着できませんもの」


 周りの了解を取らず、フィリアはその術を展開し始める。

 グラムゼアは苦笑しながら結界を貼った。


「せっかちだな。この国は外敵が少ないと言っても全くないわけではあるまいに。それに他のものに見られていいものでもない。まあ、気にしないで集中して続けなさい」

「ありがとうございます。最低限の防御は考えておりましたの。ですが、これなら万全ですわ。重ねて感謝いたします」


 リレイアはそう言ってから、展開した術に集中し始めた。

 その体が真っ白に光輝いて輪郭でしか捉えられなくなる。


 その眩しさは目を開けていられない程であったが、ケータは黙ってその様子を凝視していた。

 やがてその眩しさは二つに分離した。

 一つは元のリレイアの姿のまま止まり、もう一つは白いふわふわとした光球となってフィリア・マリアンの体に吸い込まれていった。


「成功……でしょうか?」


 パメロがグラムゼアに尋ねた。

 本当はアルーダに聞くべきだったのかも知れないが、同じ神でもまだ面識のあるグラムゼアにしたのだ。


「ああ、うまくいったらしい」

「それで、もう一つ気になることがあるのですが」

「ん? 何だい?」

「リレイアの持ってるもう一つの魂って誰のものなのですか?」

「さあ? それは私にもわからない。でも、もうすぐわかるはずだ。楽しみに待つとしよう」


 複数の世界を超えた大奇跡であると言うのに、グラムゼアは楽しそうだ。

 やがて光は収まり、リレイアは元の姿をとり戻した……が、何か雰囲気が違う。


「魂の移譲は終わったわ。でも、彼女の体を修復しないといけない……ああ、もう生き返ったのだからどちらかと言ったら治療ね」

「リレイア殿……その……口調が」


 マルキャルトがその異なる雰囲気と喋り方のリレイアに面食らっている。

 だが、それには取り合わず、リレイアは治療の術をフィリアにかけている。


「さあ、けいちゃんも手伝って!」

「「「「「けいちゃん?」」」」」


 皆がリレイアがケータをそう呼ぶ違和感に驚いているが、その中で一人だけ涙を流しているものがいる。



 ケータだ。

 転生前の来栖川慶太の愛称として ”けいちゃん”と呼ぶ人物は後にも先にも一人しかいない。


「ねぇさん?………玲子姉さんなのか?」

「あら、わかったのね。それなら一緒にフィリアの治療を手伝ってちょうだい」

「あっ、ああ、ああ、わかったよ」


 ケータは涙を拭きながらフィリアに治療魔法をかけている。

 リレイアは地球の未来の技術で、ケータはこの世界の魔法的な治療を担当しみるみるうちにフィリアの顔に赤みが差してくる。


 フィリアは目を開けた。目の前にケータがいる。


「慶太? 慶太なの? どうして……それより私……あなたが2人に見える。ううん、私の中にも2人分の記憶があるわ」


 フィリアは戸惑っていた。

 しかも、姿形はフィリアそのものだが、その様子は元のフィリア・マリアンの物ではなかった。


 リレイアがケータに呼びかける。


「けいちゃん。貴方には、彼女が誰に見える?」

「あっ、ああ……何か……そんなっ!……僕の中の2人の人格があるように、フィリアが2人に見える」


 それにうなづいてリレイアは。


「その名前はわかる?」

「一人は元のリア。フィリア・マリアンだ。僕の中に残っている元のケータ・リーフォンの記憶と感情がそう言っている。けれどもう一人は……」

「もう一人は?」


「まさか!」


 すると横からグラムゼアが覗き込んできた。


「僕には分かった。ケータ、それで合っているよ。もう一人の名前を呼んでごらん」



「ひとみ……上川ひとみ」

「嬉しい!!」


 その名前を聞いた途端、フィリアはケータの胸に飛び込み、ケータはフィリアを抱きしめた。


「信じられない……どうして」

「私はリレイアの中にいた……みたいなの……とても曖昧な感覚なんだけど」


 すると、フィリアの肩口に飛んできたリレイアは、ケータを見てそれから周りを見渡して言う。


「それは私が説明するわ。まず、私の名前から。私はAIであり、もともと『6Ω7sect-P3@203491』という個体番号を持つ存在であることを覚えてる?」

「ああ、56世期についたときにそう自己紹介された。でも名前をつけろと言われて、僕が思いつかなかったので、リレイアという名を自分で付けたんだったよな。思いつきで」


 するとマルキャルトが困惑した調子で。


「個体番号? と言うのは」

「ああ、それはね。私達AI は元々人間が作ったもので一種の機械なのよ。まあ、今の自分は神様から見ても機械の範疇を超えているらしいけれど」

「とても信じられません。別の歯車やゼンマイがあるわけじゃないんでしょう?」

「うーん、それは確かにないけれど、私たちの先祖のAIにはそれに近いものがあったわ。今は他の生き物のように胎内に近いものからの部位から作られているけれど、それでも科学的な仕組みも利用している」


 すると納得した感じでパメロが言った。


「僕も楽器が単なる道具とは思えないことがある。このドルターラも進化していけば、意志を持つようになるかもね」

「そんなものなのでしょうか?」


 マルキャルトがうーん、と悩んでいるとリレイアが。


「そうかも知れないわね? わからないけど……話を元に戻しましょう。私が作られた時は名前はなく、先ほど言った個体番号だけだけれど、実はケータに尽くすために最初から2人の神に創造された存在だったの。1人は今の私、来栖川玲子、もう1人はフィリア・マリアン。来栖川慶太にとって一番大事な存在、ケータ・リーフォンにとって一番大事な存在、『レイ』と『リア』それが私だったの。あの時は思いつきでつけた名前のつもりが神様からの一種の天啓だったのかも知れないわ」

「なるほど、名前についてはそれで説明がつくけど……姉さん、どうして僕の前にひとみがいるんだ?」


 リレイアはそれに答える前にアルーダの顔をチラッと見る。

 アルーダが何も言わないことをみて話を続ける。


「今、言ったのはあくまで名前の由来だけど、ルルカ様は2人の名前を私に付けるなら、その存在も2人の人間を根拠とするものであったほうが良いと思ったのよ」

「でも、リレイアは51世紀に人間の脳を元にビルドアップされたはずだろ? 21世紀の人間の脳などなかったはずでは?」


 すると、リレイアはクスッと笑って。


「それは、悪戯な神が21世紀の脳核と魂のスナップショットを保管してたのよ」

「それって……ルルカ様?」


 リレイアはうなづく。


「けど、玲子姉さんは事故死していたし、ひとみはその後ずっと生きていたはずだろ?」

「それについては私も知識としては知っているのだけれど、正確なことは……」


 リレイアが言葉を濁したところで、アルーダが答えた。


「私も後でルルカから伝えきいた話だが……玲子の脳核は事故死した直後に修復した状態で保管され、その時点での魂のスナップショットも取っていたのだ。上川ひとみはケータが21世紀で死んだ後、葬式で慶太を見てショックを受け、それからわずか3年後に死んだ。彼女の脳核は40代のものだったのだが、彼女についてはコモン世界の主神ルルカがことあるごとに魂のスナップショットをとっていたらしい」

「なんで……そんなことをしてくれていたのでしょう」

「おそらく、罪滅ぼしだったんだろう。慶太がひとみに告白したときにうまくいかなかったのはルルカの干渉が原因だ。それまで何度も干渉により、慶太の人生を狂わせていたことになんとか報いるために、上川ひとみの人生について何度となく魂のスナップショットを撮っていた、と言っていた。慶太がいつか告白した時の16歳の上川ひとみに会うことができる可能性を信じて」


 ケータはその話を唖然として聞きながらも、頭に浮かんだ疑問について尋ねる。


「でも、その魂のスナップショットはリレイアのビルドアップにどうやって反映したんでしょう?」

「神は人の事象について直接関与できないというのは、知っているかね?」

「昔、ルルカ様に聞いたような気がします」

「それは基本的に正しいが、それには厳密には『人が何らかの制御ができる状態においては』という条件下についてはのものなのだ」

「それはどういう?」


 ケータの疑問に今度はリレイアが話を継ぐ。


「私たち50世期以降のAIはビルドアップが亜空間領域で行われているの。すると、どうしても人類が干渉不能な瞬間が多々あるのよ。そういった限られた時間の中で、ルルカ様が魂のスナップショットを私に反映してくれたの」

「姉さん……というか、この場合はリレイアか。ややこしいな……リレイアはそのことを覚えていたのか?」

「記憶として内包していたのか、という意味ならイエスよ。でもね、当時の技術ではAIは1人の脳核からビルドアップすることにのみ対応していたの。だから、通常あり得ない2人分の記憶が存在が確認されたところで、不安定な記憶による誤動作を取り除くため自然に封印するようになっていたのよ。だからはっきりとは認識できていなかったわ」


 それを聞いて今度はフィリアに。


「君はフィリアなのかい? それともひとみなのかい?」

「それはケータと同じ。意識は上川ひとみね」

「それにしては……」


 フィリアはケータにガッチリ抱きついている。

 元の上川ひとみの性格からすると考えられない。


「いや?」

「そんなことはないけど僕の中の記憶ではひとみがこんなに積極的だなんて……」

「それは…………」


 フィリアは言いかけて口をつぐんだ。

 グラムゼアがとりなすように。


「まあ、知らないことだから仕方がないけれど、日本にいた21世紀の来栖川慶太の死体の第一発見者はひとみさんなんだよ。だから、あの時失った慶太を二度と手放したくないんだろう」

「ひとみ……そうなの?」


 フィリアは真っ赤になって首を縦に振り、ケータの胸に顔を埋めた。


 フィリアは生き返りました。

 それだけでなくその中に宿る魂は、はるか昔に告白に失敗したはずの高校の同級生上川ひとみだった。


 フィリアは生き返りました。

 そして、ケータともに実家に向かっていますが、記憶は取り戻せても心情的には20%ぐらいしか実感がありません。

 そんな心のままて帰っていいものか悩みながらも懐かしい実家のある村に……


 次回、『79話 懐かしい生まれ育った家に戻れば』 1/6 投稿予定です。

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