77話 リレイア
リレイアが神々の問題を解決しようとしています。
それに対し神々は話し合い、その話の中でリレイアの名前の秘密が明かされます。
アルファニア世界の天界。
それは、ケータ達のいたコモン世界に比べて格段に狭く、神々の数も少ない。
従ってアルーダが多くの責務を主神自ら受け持ち、解決していかなければならない。
だが、リレイアの言ったサルーテに関する問題については、アルーダだけでどうこうできる問題ではなかった。
そこで、天界に神々が召集された。
「皆に集まってもらったのは他でもない。サルーテの問題を解決すると異世界から来た者から申し出があったことに関してだ」
その主神の一言に集まった神々がざわついている。
そこに一人の神が尋ねた。
「そんなことができるのですか?」
「ああ、あの者ならできるだろう」
幾人かの神が驚いている
神の作りし天空のシステムを異世界から来たものが地上からどうにかできると言うのが信じられない。
「しかし、単純に破壊などすればランゾルテに住む全ての者が死滅するでしょう。仮に地上に影響なく消滅させるとしても魔法を持たない惑星になることは避けられません」
「そうだな。だが、そんなことはしないだろう。恐らく代替のシステムの構築を考えていると思う」
「可能なのですか? 任せても、大丈夫なのですか?」
「それはわからない。まずは計画を聞くつもりだ。無理があるのなら止める。だが、問題は別のところにある」
沈黙が落ちた。
全ての神がアルーダを注視している。
「もし、リレイアがこの問題を解決できたとしても、このアルファニア世界の全ての神が追うべき罪は償わなくてはならない。惑星ランゾルテの文明の発展に魔法という安易な方法で不自然に神が手を貸したことは大きな罪だ。この我々の持つ『神々の原罪』に対する贖罪の手立ては何かないものか。意見があれば率直に出してもらいたい」
再び、沈黙する神々。
だが、誰も何も言わないまま時が過ぎる。
「わかった。償う方法がないとなれば、この件に関しては全ての世界の意思により、裁かれることを待つ以外にはない。そうなれば、私は主神から降りることになるだろう。代わりの者については後日相談することとしよう。以上だ」
神々は一人また一人と去っていき、最後にアルーダとグラムゼアが残った。
「すまんな、付き合ってくれるか」
「相談に行くのですね、コモン世界の神に。私でよければご一緒します。初めて異世界の神と会うので緊張しています。しかもあのケータがいた世界ですからね」
そう言ってグラムゼアは笑った。
◇
再び天界に現れたアルーダとグラムゼア。
但し、ここはアルファニアに属する世界ではない。
主神や属性神のような上級の神のみしか入れないどこでもない世界。
異なる世界の神々の邂逅は、このような場所で行われる。
「自分で承知しておいて何ですが、こんなところに私が来てもいいんでしょうか?」
グラムゼアが畏まっているのも宜なるかな、空間に漂うオーラの輝きが違う。
「大丈夫だ。流石に其方だけでここに来るのはいささか問題だがな。…………おや、来たようだ」
アルーダは遠くに二つの人影を見つける。
コモン世界の主神ルルカと次元神ヌルスだ。
「久しぶりじゃの、アルーダ。そちらは?」
「ルルカ様。お初にお目にかかります、グラムゼアと申します」
「おお、其方がか。確か地上で自らを封じていたと聞いているが」
「はい、そうだったのですがケータという転生者に助けてもらったのです」
「えっ!?」
ルルカとヌルスが顔を見合わせる。
するとアルーダがうんうんとうなづいて。
「そう、あのケータだ。ケータ・リーフォン。そちらから転生する前の名前は来栖川慶太」
「慶太が、か……そうか、息災でおるようじゃな」
しばらく談笑していたが、一瞬間を置いてアルーダの顔が引き締まる。
「今日、来てもらったのは、ランゾルテという惑星についてなのだ」
「慶太の転生先で魔法がある星だったな」
「ああ……実は謝らなければならないことがある」
それは何かとは聞かず、ルルカは次の言葉を待った。
「このアルファニア世界で唯一魔法が使えるこの星は、自然にできたものではない。その魔法文明は神の手によるものなのだ。本来このようなことを神の干渉により生成することは天界でも禁忌とされているのだが、世界の安定成長のためには仕方がなかった」
するとルルカは。
「知っておるよ」
「えっ!」
「実は慶太を送る前から、転生のため人を送るたびに違和感を感じていたのじゃ。確信したのは、ワシの横にいる次元神ヌルスからの報告を受けた時じゃったがな」
「そうか……知っていたのか」
ならば、他の世界でも勘付いている神がいるかも知れない。
これは天界では重大なルール違反だ。
神が世界を支えるための文明に自ら手を入れて、その価値を嵩上げしていたのだ。
最悪、アルファニア世界が抹消されてしまうことも考えられる。
それだけは避けたいとアルーダもグラムゼアも思っている。
「アルーダ様……」
不安そうなグラムゼアがアルーダを見る。
だが、ルルカは鷹揚にワハハと笑うと。
「大丈夫じゃ。もう、他の世界の神も気づいておる。この件は黙認ということになっておるのじゃ。これ以上、魔法が使える星を神の手で作り出すようなことをしない限り、どこの世界の神も何も言わん」
ホッとするアルーダとグラムゼア。
それを見てルルカは言う。
「もし、アルファニアがどうにかなるとしたら、ワシがここが何を話してもどうにもならなかっただろう。だが、そんなことを告白するためだけにワシをここに呼んだわけではないだろう? 話してみよ」
すると、グラムゼアが進み出て。
「実はこの魔法世界を神の手で維持してることがリレイアにバレてしまいまして」
「ほう?」
「それで彼女の言うには、その神のシステムを壊して別のシステムを構築して魔法世界を維持することができる、と言うのです」
「これは傑作だな! リレイアがか?……クックックッ、ワーーハッハッハ」
「ル、ルルカ様?」
笑い転げるルルカをグラムゼアは困ったような顔で見上げる。
「わっ、悪い……魔法システムの再構築だったな。リレイアに任せて仕舞えば良いだろう」
「ですが危険です」
「そうじゃな、リスクがあることは否定せん。だが、あの者ならうまくやるだろう。それに、いくら黙認という形をとっているにしても神がずっと一つの星にこだわり、その生態系に深く関わるシステムに直接関与し続けるのは問題になるやも知れぬ。思い切って託してみれば良い」
「そうですか……」
今ひとつ踏ん切れないアルーダとグラムゼアだったが、ルルカは続けて言うには。
「それに、ワシは確信しておる。リレイアならうまくやれると、の」
「それは?」
「ケータの存在じゃ。あの者はケータがいる世界のピンチなら粉骨砕身の気持ちで頑張るだろう。ケータの存在が危うくなるような失敗を許すはずがない。それに、ケータ自身の力も上がっているのじゃろう?」
「はい。あの者は不思議です。今までの転生者に比べて、特別に能力が高いわけではありません。ですが、彼と共にいる者は結びつきを大事にしているものばかりです。彼らは単なる冒険者仲間というより家族のようです。何か大きな信頼関係を築き上げています」
「それは何よりじゃ……地球では望んでもできなかったことだがの……いや、なんでもない」
話が一段落したところで、ルルカが昔の話をする。
「それにしても最初に話してから随分経ったものだ。アルファニアの魔法世界を救うために慶太を送ると決めた時に、サポート役をつけることに其方は難色を示していたな」
「転生者にサポート役を付けたことなどありませんでしたから。しかも人ではない者。命と呼べるものがあるかどうかもわからないAIという謎の存在でしたから」
「そうだな。リレイアか…………」
ケータの転生は随分計画的に行われていた。
その当初からAIと共に送ることまで。
そのAIという魂があるかどうかもわからないものに、人の未来を託すには慎重にならざろう得なかった。
魂があるのであれば、気持ちが変わることもあるだろう。
だが、間違ってもケータから心が離れるようなことがあってはならない。
それを避けるため、その行動の枷としてそのAIを二人の名前により縛ることにしたのだ。
その枷
その名前
その由来こそ、ケータに尽くすリレイアの最大の秘密だ。
ルルカは、慶太の姉の来栖川玲子の名前から「レイ」
アルーダは、慶太の転生先のケータ・リーフォンの婚約相手、フィリア・マリアンの愛称から「リア」
この二人名前を組み合わせて名付けたのが「リレイア」。
転生前と慶太と転生する先のケータ、二人にとって最も大事なこの名前による縛りは強力で、リレイアの心がケータから離れてしまうことはない。
「残念ながら慶太が転生した時、すでに元のケータ・リーフォンは亡くなっており、記憶も感情も3割しか受け継いでいませんけれどね」
「だが、そうするとこの後問題になるかも知れぬな。フィリアは生きているんじゃろう? どうするんじゃ? ケータの精神の大部分が慶太である以上、その婚約相手と結婚するかどうかわからんぞ」
「うむ…………あっ! なんだっ!」
アルーダが話の途中で急に何かの知らせを受けたようだ。
虫の知らせというやつだ。
本来、アルファニアで起きたことなら、主神であるアルーダは詳細に知ることができる。
顕現するしないに関わらず、神は遍在する。
その世界のどこかにいなくともどこにでも存在するのが神だ。
だが、それはあくまで『アルファニアに留まっていれば』である。
この異なる世界の神々が集う天界にいる今、アルファニアは今『主神なき世界』だ。
アルーダには『何かが起きた』としかわからない。
「どうした!?」
「わからない。だが、イヤな予感がする。アルファニアに居れば分かったが、ここでは掴めぬ……」
「そうか、では其方ももう戻った方が良いじゃろう」
「わかった。では、今日はここまでにしよう。ありがとう、システムの件はリレイアに任せることにする」
アルーダとグラムゼアは、意を決したようだ。
ルルカとヌルスに挨拶をして天界を辞した。
◇
神々が天界で自分の腹案を検討しているとは夢にも思わないリレイアは、最悪止められるのも覚悟の上で計画を進めていた。
まずはタリオトルテとランシェルの戦争を一旦終わらせること。
しかも、ランシェルの一方的な勝利により一時的な休戦状態を作り出し、その休戦中にタリオトルテの戦力をアップしなければならない。
「前も聞いたけど、なんでタリオトルテの戦力をアップさせるんだよ。そんなことをすれば、またランシェルに戦争を吹っかけるだけだろ? それでもし、ランシェルが滅びるようなことがあったら一大事だぞ?」
「大丈夫ですわ。ランシェルにはタリオトルテに対抗できる準備を整えますから。タリオトルテの戦力増強が必要なのは、わたしたちが関与しない状況で戦ってもらわなければならない状況になりそうだからですの」
「タリオトルテが単独で戦うのか? で、何と戦かうんだよ」
「魔獣?……ですかね」
「なんで疑問形? まあ、いいや…………どうせ、それ以上は教えてくれないんだろ?」
「計画がもう少し具体化したらお話ししますわ……ん! 何か私に干渉していますの! これは!!」
突然、リレイアが話の途中で周りを見渡した。
特殊な結界が周りに展開されて、神が降臨することはわかったがその光はいつもより眩しい。
光が収まった時、アルーダとグラムゼアが現れた。
そして、ここにはケータとリレイアしかいなかったはずだが、クリスクロスもパメロもマルキャルトも強制的に呼び寄せられていた。
「わっ! なんだ! おいら森の中にいたはずなのに……あっ! アルーダ様、グラムゼア様」
クリスクロスが慌てふためいているのを見て、パメロとマルキャルトは周りを見渡す。
自分達も強制的に呼ばれたことに気づいた。
二人の神が顕現していた。
しかも主神アルーダは珍しく焦っているようだ。
「ケータ。急いでいかなければいけないところができた。他の者も同行を頼む」
「でしたら、ザーフェスト・オーも同行させて頂けないでしょうか」
「ああ、構わない。時間がないので私が呼ぼう」
目の前にいきなり白い人影が現れ、形と色を取り戻す。
ザーフェスト・オーだ。
彼は何だと言おうと思ったところで、神のオーラに気づき膝をつき礼をする。
「これからケータと共にある場所に同行してもらいたい。仔細は付いてから話す」
「ははっ!」
その返事を聞くや否や白い結界は虹色に輝き、一度暗転してからまたその白さを取り戻す。
霧が晴れるようにその白い結界が消えていく。
気がつくと
ケータ達は見覚えのない森の中にいた。
「ここはおいらがいた森の中とは違う」
「先ほどより少し寒い。北に移動したようだな」
ケータ達は周りを見渡して、様子を窺っている。
近くを見て、だんだんその周りを見渡しているとリレイアが、森の奥に人が倒れているのを見つけた。
「あれは……」
「ああ、人が倒れている。行ってみよう」
ケータ達が進んでいくと、少しだけ日が差し込んで、草地になっていた。
そこに一人の少女が横たわっている。
歳はケータと同じくらいなので17、18歳ぐらいか。
マルキャルトが腕を取り脈を見るが。
「もう亡くなっています」
「そうか。誰なんだろ……うっ……この子は……フィ……リア」
ケータが途中から譫言のようにその子の名前を呼んだ。
元のケータ・リーフォンとしての記憶が呼び起こされ、婚約者であったフィリア・マリアンであることを思い出した。
「遅かったか……」
一緒に来ていたグラムゼアがつぶやく。
横には黙って立ち尽くしているアルーダ。
だが、そんなつぶやきには気づかずマルキャルトはケータに尋ねた。
「ケータ。知ってるんですか」
「ああ、僕の婚約者だ」
「「えっ!…………」」
パメロとマルキャルトが驚く。
それをオーが怪訝な顔で見ている。
それに気がついたクリスクロスが説明を始めた。
「おう。でっかいにいちゃん。なんでケータが自分の婚約者を一目でわからなかったのか、って思ってるんだろ?」
「ああ」
「それは、このケータは元々別の世界から来た、えーーなんつったかな?……そうだ! 来栖川慶太って人間なんだよ。そんでもってこの世界に来た時にちょうど死んじまったケータ・リーフォンに転生したって言う訳さ」
それを聞いたザーフェスト・オーは考え込んでいる。
「……だが、ケータは今、元のケータの記憶を思い出したようだ。死んだ人間の記憶をどうして持っている?」
「それは……えーと……」
するとグラムゼアが。
「私から説明しよう。来栖川慶太がこちらに転生するときに、転生先の人間としてケータ・リーフォンを選んだのはアルーダ様だ。だが、慶太がケータに乗り移る前にケータ・リーフォンが死んでしまった。しかし、アルーダ様は慶太にその記憶を引き継ぐことにしたのだ」
「なるほど」
そして、その話をアルーダが引き継ぐ。
「来栖川慶太は元の世界……コモンというのだが……では不運続きであり、幸せな人生を送っていたとは言えない。しかも、その原因がコモンの主神のせいであったので、我々もなんとか報いてやりたいと考えていた。そこで私はコモンの神と話し合い、せめてこの世界で愛を育むことができるようにと選んだのが婚約者を持つているケータ・リーフォンだったのだ」
「しかし、アルーダ様。その相手、フィリア・マリアンはこうして亡くなってしまっています。なぜ、なのでしょうか?」
グラムゼアがアルーダに腑に落ちないという風に尋ねた。
この世界の主神である以上、この世界の誰がどこで死ぬかと言うことはある程度わかっている。
その少女が死ぬ運命であるなら、慶太の転生先にケータ・リーフォンを選ぶはずがない。
その全てをコントロールすることはできないが、これと決めた人物がどうなるかを注視すれば見落とすことなどない。
それだけ慶太のことを気遣っているのなら、転生後に結婚する相手が死んでしまうような転生対象を選ぶことはないはずだ。
アルーダは苦渋に満ちた声で、それに答えた。
「運命が変わっているのだ。私はこの世界で起こる事象は全て見通すことができる。だが、それはこの世界で生きとし生けるものについて全てを把握することができるからだ」
「つまり、コモンからの転生者がたくさんきたことで、この予想外のフィリアの死が起こってしまったと言うことですか……」
「ああ……そうだ」
それは、地球で言うバタフライ効果のようなものであったのだろう。
コモンから何百人も来ている転生者の行動は、アルファニアの事象を少しずつ変化させている。
異世界からの転生者の行動による運命のズレは、主神のアルーダにも把握できない。
目の前の少女の運命にしてもそうだ。
直接、この世界にきた転生者が彼女を亡き者にしたわけではない。
偶然に偶然が重なり、このような悲劇が生まれた。
ここで、本当なら話に入ってくるはずのリレイアが、まるで人形のように生気のない顔して止まっている。
いつもの軽口ではなく、何か心ここに在らずといった感じを受ける。
今まで見たことのないリレイア。
「リレイア」
声をかけたのはケータ。
「はい!」
それにリレイアは答え、一瞬で元の活力に満ちた顔に戻る。
「彼女を家まで連れて帰り弔ってやろう。この森を出たところに僕……元のケータ・リーフォンとリアの生まれ故郷の村があるはずだ」
「記憶が戻ってますのね」
「ああ」
リレイアはそれを聞くと意を決したように言った。
「では、このまま遺体を連れて帰るのはやめましょう」
「「「「「えっ!」」」」」
ケータ達だけでなく、神であるグラムゼアでさえも声が出た。
アルーダは眉を顰め、リレイアを凝視している。
「フィリアを生き返らせます」
「なんだって!!」
ケータは驚いて叫んだ。
他の者も同様だが、アルーダだけは目を伏せている。
人を生き返らせること。
それは神でさえも行うことが許されていない最大の禁忌である。
神グラムゼアでさえ、それはできない、と言おうとしたのだが主神アルーダが黙って目を閉じているのを見て口を噤んだ。
ケータ・リーフォンの婚約者であったフィリア・マリアンが亡くなりました。
死んだ者を生き返らせることなど神にも許されていない行為ですが、リレイアはそれに挑みます。
次回、『78話 世界を超えた恋人を抱きしめれば』 1/3 投稿予定です。




