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75話 死の国で英雄を探せば

 いよいよザーフェスト・オーに会うために死の国に入ります。

 ケータ達は魔素降る死の国(テル・デ・モールト)を目指して大陸西部を北上していた。

 魔境とも魔界とも言われるその地は、人は愚か動物や魔物でさえも近づけない強力な魔素に包まれていた。

 その中にも、魔獣はいると言われているが、魔界の外の魔獣とは別次元の生き物であると言われている。


 その環境に対応し魔獣に対抗する手段はたった一つしかない。

 『ルオークの杖』と言われる伝説の魔道具だ。

 

 中は空洞で、筒となっている杖の材質は羅鉄鋼であるが、表層より奥はハニカム構造になっている。

 その内径と同じ大きさの超小型の魔法陣がびっしり書き込まれていて、魔素を取り込んだり一気に吐き出したりすることを可能にしている。


 リレイアは『ルオークの杖』を量産しようとしたが、10本までしかできなかった。

 それ以上は、不安定になり魔素の取り込みも排出もかなり低いレベルでしかできなかったのだ。

 さらに、強靭なはずの羅鉄鋼が大変脆くなってしまい、落としただけで割れてしまったものもあった。


 オリジナルに変化がないのにそれ以上コピーが作れない理由はわからなかったが、同一の個体からそれぞれ異なる何かが受け継がれるらしく、受け継ぐものがなくなったところで、コピーができなくなると言うことまでは突き止めていた。


 魔素降る死の国に行くならば、この杖が命綱だ。

 行くメンバーはケータ、マルキャルト、パメロ、リレイア、クリスクロス。

 使う杖は1人2本までだが、リレイア、クリスクロスはケータの影に隠れれば不要だ。


 しかし、独自で動かなければならないこともあるため2人で2本。

 とすると残りがコピーした2本とオリジナルの1本の3本。


 ケータ達は出発した。途中で小国コルキニアを通ることもできるが、手紙だけを出しこの国には入らないことにした。

 若干遠回りになるというのが言い訳めいた答えであったが、実際は、コルキニアにはケータ・リーフォンの婚約相手であるフィリア・マリアンが待っているのだ。

 今のケータの意識は来栖川慶太のもので、異世界転移した時に既に宿主であるケータ・リーフォンは死んでいた。

 

 神アルーダの計らいでその記憶と心情は残っていたが、フィリアと結婚するというのは今のケータの心情からすると難しい問題だった。

 このことに心を揺らしていたケータを気遣い、死の国に行く途中で数泊し、いよいよ明日その領域に入るという時に手紙の返事が届く。

 ケータはそれを読むと、元のケータの心情が一気に溢れフィリアに会いたい気持ちに囚われてしまう。


 そこで、ケータは手紙の残った思念からフィリアのいる位置を掴み、魔力によるリンクを張ることにする。

 ただし、死の国に入るとそのリンクは切れてしまうので、リレイアに頼んで森の中に小さな結界を張ってもらい、ボットと魔素を扱うナノマシンにより、リンクを保持してもらうことにした。

 これでケータ達が魔界から出たらすぐにフィリアが今どこにいて、どういう状態にあるかがわかることになる。

 

 ◇


 魔素降る死の国(テル・デ・モールト)にたどり着いた。

 入った途端、空気が変わる。

 『ルオークの杖』のおかげで影響を最小限にはしているが、肌に感じる異常な感覚はケータ達全員に伝わっている。


「これ、すげーな。おいら達みたいな妖精でも生きていられねぇのか」


 クリスクロスは目を剥いた。

 妖精は魔素を操る力に長けており、魔素がかなり濃い森においても影響を受けない。

 だが、この魔界は全く別だ。


 この異様で荒涼とした大地にリレイアもクリスクロスも姿を現している。

 ここでは、普通の人間に見つかる心配はなく、もし見つけられるような能力者がいるならば隠れるだけ無駄であるからである。

 こんなところで人に会う心配はいらないのだ。


 パメロが遠くを見ていった。


「予想以上ですね。ただ、岩場が多いですけど遠くに緑も見えます。植物もあるんでしょうか」

「ありますの。でも、あれを植物だと思わないでくださいませ」


 リレイアは注意を促すように全員に警戒を呼びかける。


「近くにいれば間違いなく襲ってきますわ。しかも食虫植物が大型化した程度ではなく、その速さだけでも豹や虎と言った獰猛な動物並みと考えるべきですの。それに力は中級魔獣以上。(つた)や根を振りかざしてくるので絡まれると厄介ですわ」

「わかった」


 ケータ達は岩場が続く中を進んでいた。

 その向こうに見えるのは普通に考えれば森だ。

 確かに大木のような幹、緑色に生い茂る葉。

 だが、その色はどこか毒々しく、リレイアの言う通り風もないのに蠢いていて、様子を見ながら獲物を狙う肉食動物のようにも見える。


 その中で、英雄オーを探すための頼りは、リレイアが『ルオークの杖』を10本以上作ったときにできた出来損ないの素材で作ったボットのみだった。

 これはなんとか2時間で10km四方を飛び回って映像情報を持ち帰ることができたが、使い捨てであり数も20台しかなかった。


 ケータ達は途中で休憩を挟みつつ、約6時間周辺を調査した。

 その間、リレイアは6台のボットを投入し、ザーフェスト・オーを探したがその痕跡を探すことができなかった。

 しかも、そのうちの2台が帰ってこなかった。


「どうしようか。地図もないし、闇雲に進んでもしょうがないけど」

「おいらもあんまりこの魔界に深入りしたくねーな」


 ケータは皆に相談してどちらに進むかを検討してたのだが、珍しくクリスクロスの弱気な意見が出た。

 リレイアがボットの情報を報告したが、こちらもどちらに行っても大差はなく進行方向を定める決め手に欠ける、という内容だった。

 

「帰ってこなかったボットの方向にもう一度ボットを投入するのはどうでしょうか?」


 マルキャルトが提案した。

 だが、ケータとリレイアはその案に慎重であった。

 その方向でまたボットを失うとなると操作能力が激減するからだ。


「それじゃあ、ボットを出してさらに、そのどちらかの方向に向かったらどう?」


 パメロが大胆な意見を述べる。

 帰ってこなかったボットの方向に進むのだ。

 危険とわかっている方向に進むのはどうかと思うのが普通だ。


 だが。


「おいらもそれがいいんじゃねーかと思うぜ。怖いけど。ザーフェスト・オー、って奴はおそらく安全な方向に向かうとは思えねーからなあ」

「クリスクロスは賛成かあ。でもパメロ、帰ってこなかったボットが調査した方向に進む理由は?」

「ああ、それは何でボットが帰ってこなかったかわかるのでは? 仮に戦闘になったとして、その脅威度も早めに知るべきじゃないか、と」


 なるほど、と一同は納得した。

 その発想がなかったのは、とにかく戦闘を避けて早くオーを見つけるという方針に囚われていたからだ。

 一回も戦闘なしで済ますつもりはなかったし、危険な相手がいるならそれがどれほどのものか事前に知る必要があるだろう。


「そう……だね。初めて戦うなら、装備が充実していて気力もまだ十分にある今の方がいいな。リレイア、いいかな?」

「ええ」


 ケータ達の腹は決まった。


 ◇


 翌日、帰ってこなかったボットの方向に2台ずつ計4台を発進させた。

 程なく1台が戻ってきてその映像を見たところ、ボットが見たこともないような奇怪な魔獣に襲われていた。

 触手のようなものから吐き出す溶解液でボットはあっという間に溶かされていた。残るボットは10台。


「危険ですわ。あの魔獣に安全に対処できるか分かっていませんの」

「いや、でも初めて見た魔獣だ。あれが倒せないとこの先、調査が難しいんじゃないか? 魔獣から逃げてばかりとはいかないだろう?


 リレイアは逃げることを進言したが、ケータは戦うという。


「遠くから攻撃できませんか?」

「ああ、それなら結界で囲んでから魔法攻撃したら良いのでは」


 マルキャルトが遠隔で攻撃する方法はないかといい、パメロは結界内では魔法が有効であるのではないかという。

 それは盲点だった。


 普通は、ここまで魔素が濃い土地では魔法は意味をなさない。

 魔法が発動しても空中を飛んでいる間に魔素に当たるので急速に減衰するからだ。


 だが、結界を張ると事情が変わる。

 この魔境では結界は1分と持たないが、魔法を相手にぶつけるには十分である。

 結界を張ってから魔法を使うときに、結界内の領域の魔素を使えば良い。

 魔素を魔法により大量消費すれば、結界内の魔素濃度は一時的に急速減少し威力ある魔法を魔獣にぶつけることが可能となる。


「わかりましたわ」


 リレイアは渋々承知し、ボットを攻撃用にチューニングした。

 そのボットにパメロはバフをかけ、攻撃力防御力ともに強化。

 それを囲うようにクリスクロスが結界を貼り、最後にリレイアが物理的な防御膜を何重にも施した。

 これは守りのための結界であり、魔獣を攻撃する時の結界は術者が自分で賄う予定である。


 リレイアは、昨日ロストした方向に攻撃用のボットとそれの監視用のボットを投入した。

 結果としてその2台は帰ってきた。


 結果は意外なものであった。

 魔獣は物理防御が弱く、攻撃用の結界を貼ったボットからの魔法攻撃には余裕で耐えたものの、結界で守られた刃による物理攻撃には、簡単に切り裂かれてしまった。


 ケータたちは戦闘のあった場所に駆けつけてみると、攻撃用のボットは魔法結界も物理防御膜もかなり薄くなっていた。

 リレイアはこの結果に近接戦闘は危険ではあるが、遠隔の物理攻撃なら撃退可能と判断する。


 ケータ達が進まなかった方のボットは無事帰ってきたが、活火山のある高山地帯で溶岩流が流れ出ていることから、ザーフェスト・オーはそちらにはいないとわかった。


 リレイアは2日目の残りの時間をこの領域の魔獣用の装備を準備することにあて、それぞれに遠隔物理攻撃用の武器を用意した。


 まず、ケータには指輪を渡した。

 これは亜空間につながっており相手にかざすと高熱の火槍弾を放つことができる。

 威力もあるし連続でも打てる。

 ただし、亜空間からの出し入れにちょっと時間が必要なため、指示をしてから火槍弾がケータの前に現れるまで、1.5秒のタイムラグがあることが難点である。


 マルキャルトの剣には、ウィンドカッターの魔法を使ったかまいたちを発生させる仕組みを組み込んだ。

 これは、結界内で魔法を完成させ、かまいたち自体は慣性で飛ぶため、射程が50mと短かったが、マルキャルトには連続の剣技を放つ高い能力があったため、手数で勝負できる利点があった。


 パメロには弓を持たせた。

 当然、自然の弓では長い射程は望めないはずだったが放たれた矢は、途中で固形燃料で飛ぶようになっている。

 要するにロケット弾である。

 このロケット弾は後方にカメラがあり、パメロの視線を追っている。

 全く魔法を使わずパメロの見ている方向に向かうという誘導弾であり、射程は200m以上ある。

 威力がありすぎることが難点であり、50m以内の敵である場合、矢を放ったパメロ自身が危険に晒されてしまう。


 全員の装備が整ったところで、リレイアはボットを進行方向約1kmに展開した。

 そのボットの後をなぞるようにケータたちは進み、魔獣を発見するとすぐさまボットは引き上げ、用意した対魔界用物理攻撃兵器により、殲滅していった。


「案外、通用しますね」


 マルキャルトにとっては手応えがないのだろう。

 彼女の放つウィンドカッターは剣を振る動作と同期しており、その威力も剣術能力に依存するため魔獣は例外なく切り裂かれていた。


「いや、マルキャルトの場合は特別だよ。それに攻撃はともかく守りの方は『ルオークの杖』におんぶにだっこだから」

「あっ……ああ、そうでした……」


 マルキャルトはパメロに言われてしゅんとする。

 ちょっといい気になっていたと反省したが。


「ごめん、そんなつもりはないんだ。実際、マルキャルトのウィンドカッターは討伐数ではダントツだし」

「いえ、それは、まあ」


 マルキャルトは恥ずかしそうにしている。


「気にしないでいいよ。マルキャルトが攻撃している時に守りを疎かにしていないことは知っているし、今の調子で攻撃してもらって大丈夫だから」


 ケータが取りなしたところで、やっとマルキャルトはにっこりと笑った。


 そうこうしているうちに日は暮れ、2日目が終わり、野営地に火を灯した。

 この火は普通の焚き火に見えるが、燃やしている薪に魔法陣が仕込まれていて魔獣が嫌がり近寄らないような術が組み込まれている。


 普通のテントに見えるそれも、中に入ると、リレイアによって空間拡張が施されている。

 そこまではいつもの通りであるが、今回は魔素遮断処理が行われていた。

 これはリレイアがこの魔界に入ってから開発した新技術であり、夜間の間は『ルオークの杖』に魔素が溜まり続けることを避けることができる。


「リレイア。装備が充実したし、もう何日か滞在期間を増やすかい?」

「いいえ、予定通り3日目である明日中にオーの手がかりが見つからなかったら引き返しますわ」


 その一言に全員がうなづいた。

 確かに『ルオークの杖』により体調を崩すこともなく、戦闘においても魔獣に遅れをとるようなことはなかったが、心理的な疲労はかなり溜まっていた。

 単純に『ルオークの杖』により濃い魔素による影響を排除できる時間いっぱいまで活動できるとは考えていない。


 その夜は皆が言葉少なに就寝した。


 ◇


 3日目。


「誰かがいた形跡を見つけましたわ」

「本当か? リレイア。そこはどこでどんな風になってたんだ?」


 全員が集まってくる。

 リレイアはボットの展開した範囲を空中にディスプレイした。

 現在地を青い点で、その形跡を見つけた地点が赤い点で表示している。

 ディスプレイの横には距離表示と方向が図示されているが、コンパスも役に立たないので方向はよくわからない。


「どっちに行けばいいのかはボットから取得できるんだろう?」

「ええ、わかりますわ」


 リレイアはボットの展開方向から向かうべき先がわかる。


「距離は近いな」

「ええ、間に障害もないようですし」


 ボットの調査した内容により、近づくと危険なエリアは紫または黒で範囲表示している。

 現在地から形跡を見つけたところまでの間はクリーンである。


 ケータが赤い点をタッチするとウィンドウが開き、見つけた形跡の画像が表示された。


「普通の焚き火の後だな」

「何かを煮炊きしたような跡もある」

 

 どうやら、ここに人がいたことには間違いがない。

 但しそれがザーフェスト・オーであるかどうかがわからないので、周囲に残り少ないボットを放って調査するのは賭けであった。


「今日に賭けてみようと思いますの。残りのボットをフル投入して調査するつもりですわ」

「意外だな。確証はないんだろ?」

「ええ」


 リレイアはこういう場合、慎重論を唱えることが多かったのだが、その日に限って積極策を提案してきた。


「わかった。とにかくそこに向かおう」


 ケータ達は最大限の警戒をしながら岩場を進み、ボットが見つけた焚き火の跡までたどり着いた。


「様子はどうだ?」


 ケータは焚き火の跡を調べているリレイアとクリスクロスに声を掛けた。


「うーん。足跡からするとかなり大柄の男がいたみたいだけど、ちょっと重すぎるんだよな」

「重すぎる?」

「ああ、大柄の硬人族と考えれば、これだけでかい靴の後はわかるけど、足跡が地面に沈み込みすぎてんだ。おいらもランシェルにいた連中を見てたけど体が屈強だとは言っても限度があらあ。それが並外れてんだよ」


 クリスクロスは荷物が多すぎて一人で運べる量ではないと言う。


「そうですわね。相当の重さを背負って歩かないとこれほど地面が沈むことはありませんわ」

「リレイアの意見も一緒か」


 ザーフェスト・オーが普通なら持ち切れないほどの大きな荷物を抱えて移動していることはわかった。

 だが、どうしてそんなことができるのかを議論している時間はない。


「ケータ殿。それはともかく、どっちに向かったかはわかるのか?」

「ああ、それは……ボットの情報によると……なんだこれは!」


 リレイアが空中に展開しているディスプレイを見たケータが見たのは、交戦中のボットの情報だ。


「リレイア。ボットが戦っているのか?」

「いえ、ボットは今のところ観戦している状態のようです。一方は人型ですからザーフェスト・オーの可能性がありますわ」


 ケータ達はディスプレイが指し示す方向に急行した。


 死の国は想像以上に厳しいところ。

 見つけられないまま戻るか、それとも最後の一日でオーを見つけることができるか。


 次回、『76話 震える月を見上げるならば』 12/27 投稿予定です。

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