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71話 モグルーク王国を救うならば

 いきなり攻めてきたタリオトルテ大帝国を退け、沸き立つモグルーク王国。

 ですが、これはまだ前哨戦にしか過ぎません。

「タリオトルテを破ったぞ!」

「モグルーク王万歳!」

「今までの恨みを晴らす時がきた!」


 勝利に湧き立つモグルーク軍であったが、ケータ達にそれを喜んでいる余裕はなかった。

 それにはモグルーク王も気が付いている。

 だが、まずは労いの言葉と感謝をケータ達に伝える。


「ケータ殿、助かった。よくタリオトルテ軍を退けてくれた」

「鉄砲水で弓兵がいなかったので、安心して騎馬同士の戦いに持ち込めたのは幸運でした」


 もちろん、運の問題ではなくリレイアの事前準備のせいなのだが、それについては触れず。


「それで今後について話したいのだが、協力してもらえるだろうか?」

「はい……ですが、できましたら必要最小限の少人数での会議を開いていただきたいのですが、できれば僕ら以外は5人程度まで絞り込んで」


 5人とするとサリナ、モグルーク王シャルース、最低限の近衛兵が2名、宰相ということになる。

 参謀の一人が騒ぎ出した。

 最初に食ってかかってきたゼルアーノ少将である。

 何人かがそれに追従する。


「我々を作戦会議に入れないと申されるのか!」

「はい。これはクルゼ王国の最重要機密になりますので、これが守られないのならば協力できません」


 その一言に気色ばむ参謀たちを王が抑える。


「わかった。其方たちは控えよ」

「「「「「………………御意………………」」」」」


 不満たらたらではあるが、王の命とあらば仕方がない。

 しぶしぶ参謀達は引き下がった。


 王はケータ達と共に貴賓室に移動した。


「僕、これ苦手なんだがなあ」


 ブツブツ言いながらケータは最低限の魔法結界を張った。


「ほう、聴覚視覚その他魔法探知まで許さないとは念の入ったことだな」

「はい。これからお見せすることはそれだけの重大事項ですので」

「わかった」


 王がうなづくのを見て、ケータは言った。


「リレイア、クリスクロス。それからグラムゼア様、出てきていただけますか?」


 すると目の前にモヤがかかり、3人が姿を現す。

 近衛兵は武器を握り直し、宰相は息を飲んだ。


「妖精が2人? それにこの方は? 大変高貴な人物とお見受けするが」


 モグルーク王はグラムゼアの雰囲気で只者ではないとわかったようだ。

 最初にリレイアが結界を展開し直す。


「すいません。ケータの結界は甘いので先に貼り直させていただきました。リレイアと申しますの」

「おいらはクリスクロスだ」

「グラムゼアという。一応、これでも神だ」

「「「「「神!!!!!」」」」」


 モグルークの5人が驚く。


「あれっ? サリナも驚いてる? 言ってなかったっけ?」

「きっ、聞いてませんよーーー。あーーー、これまでの無礼の数々。あーーー、お許し下さいぃぃ」


 4人がグラムゼアの前に跪く。

 サリナは完全に土下座だ。


「いやっ、顔を上げてくれ。普通に話してくれて構わない。今はケータと共に旅をしているのだし」


 それから(かしこ)まるモグルークの一同をなんとかテーブルにつかせて会議がやっと始まった。

 ケータがこの国にきた経緯(いきさつ)を説明した。


 タリオトルテのドワーフが弾圧されて命からがらラングレー大山脈を越えて来たこと。

 新金属の開発成功によるタリオトルテが世界統一のため兵をあげようとしていること。

 そのことを悲観してクルゼ王国の鍛治師が身を削って羅鉄鋼を大増産していること。


「わかりました。それでクルゼ王国がケータ殿たちを使して下さった訳ですね。しかも、クルゼ王国は神にまで頼んで」


 宰相の勘違いに笑って、グラムゼアは答える。


「いやいや、違います。クルゼ王国は私のことは知りません。それにケータは自発的にこの国に来たのです。ダーバンシャイ山脈で遭難していたサリナの話を聞いてね」


 サリナは。


「私、まさか神様の一行に助けていただいたとは知らなくて、ホン・ワリャンとローアニエストのどちらからも援軍が得られないと聞いて絶望して……まさか、クルゼ王国がそんな大国であったとは知らなくて」


 それにマルキャルトが申し訳なさそうに。


「いえ、サリナ殿。クルゼは決して大国ということはなく……そう、ちょっとケータ殿が特殊なんです! 妖精を連れた冒険者など他におりません。まして神に協力していただけるなど」


 話が脱線している。

 そこでパメロが口を開いた。


「確かにそうだね。でも、少し話を戻さないか? 問題は今後タリオトルテがどうなるか、という事と。ランシェル神主国の英雄ザーフェスト・オーをどうやって呼び戻すか、ってことなんだろう?」

「ザーフェスト・オー…………彼を救えるのか? 呼び戻す? 北西部の魔界に向かったんだぞ! 誰も踏み入れられるはずが……」


 それに答えたのはリレイアだ。


「できますわ。そのために来たんですの。ですが、それは後回しにしましょう。まずはタリオトルテにどう対抗するか。まずは敵の規模と編成。攻めてくる時期について考えなければなりませんの」

「わかった。だが、どんな規模できたとしても本格的な戦闘となればモグルークは対抗することはできない。おそらく動員できる兵力は8,000。それに対しタリオトルテ軍は最低でも15,000。最悪30,000以上で押し寄せてくることが考えられる」


 そこで、リレイアが目配せするとマルキャルトがうなづく。


「それならば対抗できると思います。タリオトルテは補給部隊を含めて最大35,000と見積もっています。籠城戦ですし、少し準備に時間が取れれば8,000で兵力で十分守り切れます」

「だが、手応えありとすればタリオトルテは何度も兵をあげてくる。こちらが疲弊していけば対抗は難しい」


 宰相は心配そうだ。


「大丈夫です。策があります。リレイア殿、羅鉄鋼はどれくらいありますか?」

「全員の武具と防具に補助具として組み入れらる数が揃ってますの。余裕もありますわ」

「なるほど。ある程度継戦能力はあるわけだな。だが……」


 マルキャルトは不安が拭えていないことがわかったので、勝算があることを示すことにした。


「これから参謀たちを交えて改めて会議をしませんか? リレイア殿、クリスクロス殿、グラムゼア様は姿をお見せすることはできませんが、すでに話した羅鉄鋼を使えば私とケータ殿で、作戦立案ができます。そこで徹底的に緒戦でタリオトルテ軍を叩くことができれば、そう簡単に手を出してはこないはずです」

「可能なのか? 圧倒的に数で劣る我が軍でタリオトルテ軍を一方的に叩くことなど」

「はい。お任せください」


 マルキャルトは成長していた。

 クルゼ王国の北の陣地で魔獣のスタンビートを止めた時の経験と技術。

 それだけでなく、人に信用してもらえることがどれだけ大事かがわかってきたのだ。

 彼女は騎士であり将ではない。

 しかし、必要とあらば指揮を取ることも厭いはしない。


 貴賓室を出て軍務管理室に戻ると宰相が参謀達全員を集め会議を始めた。

 最初にモグルーク王が発言する。


「冒険者ケータとの会談が終わった。内容についてはクルゼ国からの協力に対する報酬額についてであったため、参謀全員に知らせることができなかった。だが、安心して欲しい。最大限の協力を得た場合でも、我が国の財政に大きく影響がない金額での報酬であったため作戦の制限はない。残念ながらその額については明かせないが、それ自体がクルゼからの協力の条件であるため了解して欲しい」


 これは嘘だ。方便と言ってもいい。

 貴賓室を出る直前に、パメロが思いついてケータに進言した内容をモグルーク王に伝えたのだ。

 貴賓室に入れなかった参謀たちが臍を曲げることがないようにとった一種の口裏合わせのようなものである。


 幸い、参謀たちにとっても納得できる理由であったので、機嫌を損ねることはなかったようだ。

 だが、敵の大軍が来るとわかっている以上、それが跳ね返せるのかは不安である。

 真っ先に発言してきたのは、若い将校だった。


「それで、タリオトルテに我が軍は対抗できるのですか?」

「大丈夫だ」


 宰相が答えた。

 これも打ち合わせ通りである。

 王に対しの発言であれば、どうしてもその矛先は鈍る。

 と言ってもちろんケータたちは余所者であるわけで、信用してもらえない。


 そこで、宰相には悪いが説明役兼防波堤になってもらうことにしていたのだ。


「何が大丈夫なのですか! 根拠を説明して下さい!!」

「わかった。では、これを見てもらおう」


 宰相が出してきたのは、一本の剣。

 先のタリオトルテ軍からの鹵獲品である。

 例の新金属が使われていた。


「我が軍の新人兵士を一人連れて来い。ちゃんと正規の剣を持たせてな」

「はっ」


 参謀の一人が部屋を出ていき、若い兵士を連れてきていた。

 どうやら子飼いの腕利きを連れてきたらしい。

 宰相は説明を求めた参謀に鹵獲品の剣を渡した。


 そして、若い兵士に軍の正規の剣を構えさせると、鹵獲品の剣と打ち合うように命じた。

 両者は躊躇いながらも剣を打ち合わせる。


 キン、キン、キィィン


 三度打ち合わされ、モグルーク王国の兵士が持つ標準的な剣は真っ二つになった。


「なんと……」

「これが、敵の新金属でできた剣だ」


 参謀たちに動揺が広がり、それに宰相がそう言った。


「敵の装備がすごいことがわかりました。ですが、これでは余計こちらが不利である条件が増えただけじゃないですか!」

「まあ、待て。それではもう一本剣を。ああ、普通の剣で構わん」


 宰相はまた軍の標準的な剣を受け取ると今度は、ケータから別の剣の鍔を受け取り剣に取り付けた。


「これで、もう一度打ち合ってもらおう」


 鍔を変えても剣の強度が変わるはずもない。

 一見無駄のような試みではあるが、宰相が言うことであり王の御前である以上、参謀達は黙って成り行きを見守っている。


 キン


 今度は、たった一度打ち合わされただけで終わった。

 今度は鹵獲品の新金属の剣が折れたのである。

 ざわつく参謀達、その一人が尋ねる。


「どういうことなのでしょうか?」


 するとマルキャルトが前に出て発言する。

 彼女は挨拶してからというもの何も発言はしていなかった。

 唯一、タリオトルテの新金属を試すために羅鉄鋼の鍔を付けた剣を一度振るっただけだ。

 だが、その実力は身のこなしからその場にいるすべての者達に伝わっていた。


「私が説明します。クルゼ王国の騎士マルキャルト・ルーエンと申します」


 完璧な騎士の振る舞いに参謀達は気圧されているようだ。


「今、こちらの標準剣に装備したのが、我が国の羅鉄鋼製の鍔です。この鍔は装備者の魔力をわずかに消費し装備している武器の物理強度と対魔法強度を大きく上昇させます。しかも、敵が魔法を唱えてきた場合、魔素または魔法現象が出現している限りはそのまま吸い込むことが可能で、それが羅鉄鋼自体を強化します」

「素晴らしいです。ですが、いくら強力でもこれ一つではタリオトルテに対抗できません」

「これは、潤沢に用意しています。こちらの兵士8,000名の全部の剣に装備していただいても十分余裕があります。さらに盾に装備する羅鉄鋼の補助具もあります。こちらは約3,000あり物理防御も魔法防御もさらに強力になっています」


 その話を聞いた参謀達は、やっとこのクルゼから来た者たちがただの冒険者ではないと気づき始めた。

 だが、剣の切れ味で勝るだけで楽観できる状況ではない。


 それから、ケータは参謀達にタリオトルテの後方にある攻城兵器についての調査結果を公開した。

 このままではモグルーク城の城壁が持たないこと。

 さらに、魔獣を用いた装甲車が存在することを明かし、これだけでは勝てないことを伝える。


「それでは、やはりタリオトルテに勝てないのですか?」

「いえ、手はあります」


 半信半疑で聞いていた参謀もいたのだが、こうなっては聞き漏らすことはできない。

 途中から一緒に話を聞いていたモグルーク王と宰相の目の色も変わってきたからである。


 マルキャルトは城の外に堀と落とし穴、塹壕を適切に用意することが大事であると提案し、工兵の準備を依頼した。

 一部参謀がまた工兵より騎兵の訓練などの方が重要であるという意見を出したが、クルゼナントの北陣地で発生した魔獣のスタンピードに対抗した例をあげて、一つ一つ説明して行った。


 そして、タリオトルテが攻めてきた場合でもモグルーク国境から王城までの距離は長く、三分の一は補充や補給部隊であり三万全部が攻撃してくる訳ではないことを説明したのだが、逆にそんな基本的なこともわかっていないモグルーク軍の上層部が心配の種でもあった。


 とりあえず、工兵の編成と当座の作業を割り振ったところで会議は解散したが、ケータ達にとってはこれからこそが本当の作戦会議だった。

 また、貴賓室を使うことも考えたが、参謀達を刺激することを考えて宿泊する客室があるフロアのラウンジに全員集まっていた。

 ここは給餌がコーヒーなどを持ってきてくれるので大変ありがたいのだが、逆に言うと何を聞かれているかわからない。

 従って、リレイアがケータがいる机から数m以上は聞こえないような遮音環境を作り、口元もぼかして見えるように光学迷彩をかけている。

 探索魔法などについては、ケータが普通に阻害している。

 これは、客人に対して魔法で調べようとする事自体が失礼であるので、堂々と阻害処理をしても構わないからだ。

 とは言え流石にリレイア、クリスクロス、グラムゼアは姿を現す訳には行かない。

 そこで、表向きは『お茶やクッキーが美味しい』とか、『案内された部屋が豪華だった』などと言いつつ念話で話すことになるのだった。


——リレイア。さっきの会議でモグルーク軍の強化の話をしてたけど、あれだけで凌げるとは思ってないだろ?

——はい。ケータの言う通りあれだけで勝てるとは思ってませんわ。初戦ぐらいは勝てるかもしれませんけど、おそらく城壁を崩されれば継戦不可能になりますの。


 リレイアは一応今のままでも一回は勝てると思っているらしい。

 当然、それは阻止したいと考えているのはマルキャルト。


——リレイア殿。一応、工兵を組織してもらえるみたいなので、攻城兵器を近づけなければいけると思う。ただ、時間的余裕がどれ位あるのかが心配で。

——ああ、それならおいら奴らの陣地調べてみたぜ。妖精たちと会話してだけどな。聞いた様子だと攻めてくるのにひと月半はかかるだろうな。だけど、あの国は本当にヤバいらしいな。あの妖精達も結構逃げ出していて、これからはおいらが自分で行かないとわかんねぇかもよ。


 ケータ達にとってそれは痛い。

 妖精達の通信は特殊な魔法であり、気取られる心配のない方法だったので傍聴の危険がなかったのだ。

 クリスクロス自身が行くのはリスクがある。


——それはやめてもらおうかな。君のことを預かっているのは私だ。何かあったらアルーダ様に申し訳が立たない。

——まあ、グラムゼア様がそういうなら行かねーけど。


 だが、誰も心配していないようだ。

 リレイアがいるのだから。


——大丈夫ですわ。確かにこの星では最上級の軍備ですが、魔法にあまり依存しない以上ナノマシンとボットの活動が阻害されることはなさそうですもの。

——それはいいけど。調査だけじゃなくて、今回の戦闘でナノマシンはまた使うんだろ?

——ええ、タリオトルテとモグルークの国境近くに相当大きな森がありますの。今、人工的に魔素を増大中ですわ。

——リレイア殿。それって……

——はい。マルキャルトの考えている通りですわ。


 リレイアが考えた作戦は意図的な魔獣のスタンビートだ。

 タリオトルテ軍の背後から大型魔獣の集団を襲い掛からせるつもりなのだろう。

 クルゼ王国で苦労したマルキャルトは流石に複雑そうな顔をしている。

 いくら敵だとは言っても魔獣を嗾けることに抵抗がある。


——まあ、覚悟を決めるんだね。あの国が周りの他国を蹂躙してきた歴史を止めることが一番重要だと思う。

——えっ!…………あ、まあ、そうですね……でも、意外です。パメロ殿がこの方法をあっさり受け入れるのは。


 マルキャルトはパメロがそう言ったことが、本当に意外だったのだ。

 彼は楽器演奏者であり、いかにも平和主義者に見えたから。


——ああ、それは僕らドルターラ弾きは結構残酷なんだよ。人を蹴落としてでも自分がステージに上がることを悪いことだとは思っていないぐらいでね。まあ、僕は実力以外で蹴落とすことはしなかったから、甘いと言われることが多かったけど。

——なるほど。わかります。私も王都の騎士団にいた時は正々堂々とした戦い以外は認められない性分でしたが、北の砦を守る時にはどんな方法でも犠牲者を出さなければいいや、って思えたことに自分自身びっくりしましたもの。


 話しているうちにマルキャルトも気持ちの上で折り合いがついたようだ。


 これで、背後からタリオトルテ軍を削る方法についてはメドがついた。

 だが、ケータは浮かない顔をしている。


——でも、あの軍の練度で大丈夫かなあ。基本的な戦術のいろはもわかってなかったようだし。

——大丈夫ですわ。マルキャルトが工兵を指揮する能力は本物ですし、私も手を打ちますの。

——リレイアが? 何をするつもりだい?

——実は、羅鉄鋼のストックはさっき話した量よりかなり多いんですの。これを城壁に埋め込んでしまおうかと考えてますの。


 そう言った途端に全員が唖然とする。


——あっ、ああ、それなら心配ないな。

——リレイア殿。それじゃあ、私が手配した工兵部隊も不要じゃないですかあ。


 マルキャルトがボヤく。


——いえ、これは保険ですの。マルキャルトが敵の重火器を防ぐことが一番重要ですわ。それをこの国の工作部隊がやり遂げることに意味がありますの。

——なるほど! 私たちに『おんぶに抱っこ』で勝利してもこの国のためにならないと。わかりました。しっかりこの国の兵士を鍛えて準備します!

——流石はリレイアだね。士気を高めるために私も何かしなきゃと思ってたよ。


 そう言って呆れはしたものの、各自それから2週間。

 迫るタリオトルテ軍を迎え撃つためにモグルークを強化し続けたのである。

 ケータ達は本格的に攻めてくるタリオトルテに対抗すべく、準備を進めていきます。

 戦力の差は大きいですが、どうやって打ち破るのか?


 次回、『72話 タリオトルテの大軍を退ければ』 12/13 投稿予定です。

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