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67話 ザギメデの異変に駆けつけて見れば

 ローアニエストからやっと帰ってきたと思ったら、王都でライブをやらされたケータ達。

 それも済んで自宅のあるロブナント領に戻ってみるとどうやら様子がおかしくて……

 王都クルゼナントで最後の夜の演奏会を終えた後、翌日、ケータ達は国王エリウス・フォン・クレーゼに呼び出された。


「昨日はご苦労であった。素晴らしい演奏会だった。まさかケータの演奏とマルキャルトの歌まで聞けるとはな」


 そう言って王エリウスは笑うが、ケータとマルキャルトはその一言に冷や汗タラタラである。

 実はこの一言は、パメロを連れて来たのに、王宮で演奏会を開く予定を入れてなかったケータに対するちょっとした嫌がらせである。


「いえ、ほんのお目汚しで……」


 王エリウスは、やっとそこまで言うケータにまあ許してやるかという顔で、今度はパメロ・キュレータの方を向く。


「パメロ」

「はい」

其方(そなた)の演奏は噂以上のものだった。あのような天上の調べを聴くことができたことを感謝する」

「身に余る光栄です」


 普通、王族の前に出ると萎縮してしまうものだが、元々人前に出ることには慣れているパメロである。

 受け答えも堂にいっている。


「ケータと共にクルゼ王国に移り住むとのことだが、土地と援助を出そう。賓客としてクルゼ騎士爵と同等の地位も約束する」

「ああ、それについてなのですが、ケータ殿と共に冒険者としてやっていくつもりですので、ロブナント子爵領の農村部にあるソラノ村に居を構えるつもりです」

「そんな田舎で良いのか? できればこの王都で音楽家としての活動を期待していたのだが」

「申し訳ありません。私を救ってくれたケータの役に立ちたいのです。それで、ケータの住む家の近くを借りる算段がついたので、そこに小さな小屋を建ててもらうつもりです。どうせ冒険者としてあちこちに行く予定ですので、そこには最低限の生活用品があればいいので」


 王エリウスはちょっと残念そうにする。

 是非とも手元に置いて、ちょくちょく演奏を聴きたいと思っていたのだ。

 だが、それには触れず。


「欲がないの。まあ、いいだろう。何か必要な物があれば、ブラムにでも言えば出来る限り用意させよう」

「ありがとうございます」


 再度、ケータの方に向くエリウス王。


「ケータ」

「はい」

「其方には感謝もしているが、少しばかり文句もある」

「えっ、あっ、何かまずいことがありましたでしょうか?」


 ケータは慌てる。

 さっき演奏会を開かなかったことで怒られたばかりだ。

 その上、国王直々に怒られるとなると、何をやらかしたのか。


「いや、そこまで(かしこ)まらなくとも良い。罰を与える気もない……いや、既に償ってもらっておるからな」

「?」


 ケータはマルキャルト、パメロと顔を見合わせるが、2人とも首を振る。

 思い当たるところはない。


「わからぬか……では……ブルムはおるか」

「はっ、ここに」


 ブルム伯爵がエリウス王の前に進み出る。


「説明してやってくれ」

「ケータ殿。陛下はローアニエストと平和的な関係を深めることができたことを大変評価しておられる。だが、クルゼナントの学院を離れる時に、クルゼ王国を出るときには一報するようにと言っていただろう? 陛下はそのことを言っているのだよ」

「あっ、ああぁ……すいません」


 ケータは汗を掻きながら平謝りする。だが、エリウスは、


「そこまでせずとも良い。何か理由がありそうだな。話せるなら聞こう」

「そ、それが……」


 まさか神様に用事を言いつけられたとか、転移で送ってもらったとかは言えない。

 神様のことを言っていいかもわからないし、信じてもらえるかも疑問だ。


「ケータ。無礼であるぞ。陛下に隠し立てするつもりか!」

「やめぬか! ケータが王国に仇なす理由で隠し立てをすると思うのか!」


 臣下の一人がケータに詰め寄るが、王エリウスはそれを制止する。


「す、すみませぬ。陛下」

「よい……そうだな……ケータよ。今は話せなくとも時が来れば打ち明けてくれるか?」

「それは、必ず」


 ケータ達はそこで解放された。


 ◇


 王都を後にして一路南に進む。

 ケータはマルキャルトとパメロを連れて、ロブナント領の農村地帯に戻って来ていた。


「参ったあ。まさか『他の国に行ったのは神様に連れていかれたからです』なんて言えないもんなあ」

「そうですの?」

「ええっ! リレイア。あそこで神様のこと話して良かったの?」

「いえ、あの場では無理ですが、先触れで匂わすことができたのでは? ロブナント子爵とピボーテ子爵には私の子はもうバレてますのに」

「いや、ムリムリムリ! リレイアとクリスクロスにこともまだブルム伯爵には秘密にしてるんだ。それに妖精のことは打ち明けられても神様となると……」


 そりゃそうだろう。

 妖精なら目の前に姿を表すことで驚かれはするものの疑われることはない。

 ところが、神様に頼まれました、では信じてもらうことなどできないだろう。

 まさか、証人として来て下さいとも言えないし。


 ケータとリレイアが話し込んでいる間に、マルキャルトとパメロはクリスクロスの案内で先に行ってしまっている。


「ケータ殿ー。早く行きましょー」


 マルキャルトが手を振っている方へケータは走って行った。

 ソラノ村はもうすぐだ。


 目の前の丘を登ったところでやっと目指す村が見えた。


「随分、久しぶりだなあ」

「ええ、ケータ殿。私の家もケータ殿の側に作ってもらえますか?」

「ああ、そうか。マルキャルトは領都に住んでいたんだっけ。でも、冒険者ギルドは領都にしかないから仕事するときは、立ち寄るようにするけど」


 するとマルキャルトは首を横に降り、パメロもがため息を吐く。

 そしてクリスクロスが呆れたように言う。


「ケータ。おめえ、わかんねぇーのかよう。最近の仕事はほとんど神様経由で来てるし、そのまんま連れてかれるだろーがよー」

「クリスクロス、それはたまたまだろ? これからは農地改革と普通の冒険者ギルド仕事に戻るつもりなんだけど」


 ケータはそういうが、それが希望的観測であることはわかっている。

 リレイアがそれにとどめを刺す。


「もう諦めたらどうですの? 帰ったら帰ったでおそらく、すぐにどこかに行かなくてはならなく成りそうですわ」

「リレイア。何かあるのか?」

「うーん……感……ですわね」

「……わかった。みんな一緒にソラノ村に来てくれ」


 ケータはリレイアがAIであるとかはもう考えるのをやめた。

 この完全に感情と言えるものがある未来の思考体には何かが見えているのだろうか。


 首都クルゼナントから街道沿いに南下して旅路を急いではいたが、人通りが少なくなるとケータたちは森の中に入っていった。

 リレイアは周りに誰もいないところを確認する。


「ケータ。もう大丈夫ですわ。転移魔法で一気に帰りましょう」

「わかった」


 ケータはグラムゼアに授けられた魔法を展開した。

 周囲の風景が溶けていく。

 地面さえも土の上なのか草原にいるのかわからないくなる。

 それが徐々に形作られていき、気がつけば畑の畦道にいた。


「やっと帰ってきたな」

「そうですわね。まず、チェックをしませんと……ケータ。私、ちょっと外します。ロブナント領全体の汚染状況を確認しますの」

「おいらもちょっと気になることがあるから、周りを見てくる」

「わかった」


 リレイアとクリスクロスが一旦姿を消す。

 こんなことは珍しい。

 ナノマシンなどを放ちながら、ケータ達との会話を続行するがいつものリレイアだ。

 わざわざ席を外すということは、余程集中したいんだろう。


「あそこに見えるのがケータの家ですか?」


 パメロが指差した先には確かにケータの家がある。

 見た目は大きくないが、例によって中は亜空間拡張されているので相当広い。


「はい。大きくはないですけどその辺はリレイアがいるのでなんとでもなるから」

「ああ、なるほど」

「パメロの家はその向こうの畑が途切れた所の場所にしようかと思っているんですが」

「もう少し、離してもらってもいいですか? 楽器の練習をすることもありますので」


 近所迷惑にならないようにということだろう。

 パメロがドルターラを練習していたら、迷惑どころかみんなギャラリーになってしまいそうだが。


「了解です。じゃあ、あそこはマルキャルトの家を立てようか」

「あっ、はい。そうですね。問題ありません。ありがとうございます」


 マルキャルトは嬉しそうだ。

 不満もないらしい。


 そこに、リレイアが現れた。


「ケータ、リレイア。その話待ってもらえます?」

「何か問題があるのか?」


 ケータが質問するが、リレイアはそれには答えずマルキャルトに向かって。


「今、マルキャルトの部屋は領都にありますわね」

「はい」

「少しの間だけ、その部屋でロブナント子爵との連絡をお願いしたいのですが」

「まあ、いいですけど……この前のホン・ワリャンの時みたいな置いてけぼりはイヤです」

「ええ、そんなことはないようにします。今後は」

「それならば……まあ、いいです」


 すると、クリスクロスが現れる。


「ケータ。なんかこの領地、南の方が変だぞ」

「クリスクロスも気付きましたのね。ケータ、マルキャルトをロブナント子爵との連絡係にしたいというのは、この領地に問題があるからですの」

「公害か? 随分留守にしていたから大気汚染か水質の悪化が起こっているとか」

「確かにそれもありますわ。今の汚染状況は想定より大きくなってますの」

「それも?」

「ええ、ザギメデの町で何か起きていますわ。きっと」

「それじゃあ、調査に行く必要があるんだな」

「はい。でも、村に帰ってきた挨拶とパメロの家を建てる相談でもしてきてくださいませ。その間に私自身でもう少し下調べを進めておきますわ」

「了解」


 ケータはパメロを連れて、親しい農民のラーダのところに行った。

 パメロを村中に紹介して回った後、ケータの家の近くから、少し森に近い野原にパメロの家を建てることになり、農夫ラーダに村の大工を紹介してもらった。

 マルキャルトは領都に戻り、ロブナント子爵にローアニエストでの出来事を報告する。

 てっきり、パメロの演奏が聴きたいと食いついてくると思われたのだが……


「マルキャルト。ケータはパメロ・キュレータを連れてきたのか。そリャあ、ドルターラの生演奏をすぐにでも聴きたいとこだが……ひとまず先に頼みたいことがある」

「はい。なんでしょう」

「実は、南にある町ザギメデが少しおかしい。それをケータに調べてもらいたいんだ」

「ええ、リレイアとクリスクロスも南の様子が気になると言って既に調査をしています」

「さすがだな。特に犯罪が起きているとかではないが、羅鉄鋼を造っているドワーフたちを探ってもらってくれ」

「わかりました。急ぎ戻りケータに伝えます」

「頼んだ」


 それから、マルキャルトはソラノ村に向かい、ケータ達にロブナント子爵の話をした。


「なるほど。ロブナント子爵もすでに気づいてたんだ。それでマルキャルト。具体的に何がおかしいか言ってなかったか?」

「はい。ドワーフが勤勉すぎる、と。急ぎの注文も入っていないのに羅鉄鋼の生産量が6倍になっているそうです」

「んー、ドワーフは元々勤勉じゃなかったっけ?」


 確かに生産量が6倍は凄いが、勤勉なだけなら問題ない。

 でも、ドワーフは気が乗らないなら大酒飲んで眠りこけて2、3日そのままなんてこともあるはず……


「それがどうも違うようですの。ドワーフは全く休まず、働いているようですわ」

「ああ、そうだぜ。ケータ。あいつらちょっとおかしい。何かに追い詰められているみたいだ」


 リレイアとクリスクロスがそう言ってくるということは、どうやらおかしい原因はザギメデのドワーフで、これは行ってみないとわからないようだ。


「それでリレイア、気にしていた公害の問題もそのドワーフたちが原因ということでいいのか?」

「はい。他の原因は考えなくていいですわ。羅鉄鋼の生産量が6倍にもなれば、この大気汚染やローランカルー川の水質悪化と量的に一致します」


 ケータ達はザギメデの町に向かった。

 リレイアは悩んでいたようだが、クリスクロスに相談して他の転生者が存在しないことを確認した後、ボットを展開して公害対策を開始した。

 ボットはザギメデの町からローランカルー川に繋がっている排水溝に全て、56世紀の技術を利用したフィルターを装着した。

 煤煙についてもザギメデの全ての煙突に、これまた未来技術のフィルターを付けていった。

 これで空気も水質も元の状態とほとんど変わらない。


 リレイアが悩んでいたのは、このフィルターは魔法技術に一切関与していない地球の56世紀の技術のみで成り立っているため、もし日本からの転生者がこれを見つけた場合、地球の未来からの技術がアルファニアに導入されていることがバレてしまうことである。

 そのため、クリスクロスに頼んで、妖精達にザギメデの住人だけでなく旅行者や調査に派遣されている冒険者も対象に、転生者の有無を確認してもらった。

 結果、日本からの転生者はいないとわかり、フィルターを安心してつけることができた。

 さらに設置後、パメロのアイデアでフィルターにはロブナント子爵の紋章とダミーの魔法陣が付加された。

 これで、このフィルターをつけたのはロブナント子爵が命じて魔法によるフィルターを施しているように見える。


 一連の作業を終えてケータ達一行は、ザギメデの町に入った。

 あちこちの工房からモクモクと煙が上がっていて、羅鉄鋼の精錬中であるとわかる。


「リレイア。フィルター付けたはずなのにあんなに煙出てるけど煤煙被害は大丈夫?」

「ああ、あれは大丈夫ですわ。処理済みの煙ですの。フィルターには子爵の紋章が入っているので怪しまれる心配はありませんが、いきなり煙がなくなっては不自然で、魔法以外の技術が使われていることを勘ぐられてしまいうかもしれないので、無害で無色の煙にわざわざ着色しています。あの煙は稼働確認の役割も果たしているので、ある意味営業中の証拠ですの」


 マルキャルトがキョロキョロと周りを見渡す。

 全ての煙突からモクモクと煙が立ち上っている。

 槌打つ音もずっと聞こえている。 


「どこの工房も全部稼働中のようですね。ケータ殿、羅鉄鋼の生産というのはこんなに毎日盛んに行われているのですか?」

「僕もよく知らないけれど、全部の工房がフル稼働とはおかしい。異様な感じがするな」


 鉄や薪を運ぶドワーフ達と行き交うが、追い詰められているような眼差しが気になる。

 町の真ん中には露店もあるが、観光客は少なく商人がちらほら見受けられるだけだ。

 パメロが何か考え込んでいるようだ。


「パメロ。何か気になることがあるのかい?」

「ケータ。羅鉄鋼の流通は順調だって言ってたよね」

「ああ、王都のブルム伯爵に問い合わせてみたら、特に王都で羅鉄鋼の需要が上がっている訳ではないというし、陛下が富国強兵策を取っている訳でもないらしい」


 ケータ達は宿を取り今後どのように調査を進めて行くか考えていたところで、ブルム伯爵から続報が届いた。

 リレイアはいつものように部屋に認識阻害と防音遮音の力場を設定してから、ケータに手紙を読むよう促す。


「羅鉄鋼の取引を一任している商人ジャン・ポルテーロさんに問い合わせたところ、注文はいつも通りだけど出荷量が急増しているらしい」

「それは想定通りですね。ですが、急に出荷量が増えると値崩れを起こしたりしないんですか?」

「パメロ殿。それは大丈夫だと思います」


 マルキャルトが答える。


「ああ、羅鉄鋼の需要は潜在的にかなりあり、元々売り手市場だからね。値が下がる心配もなく商売上は助かると手紙には書いてある。でも、マルキャルト、よくわかったね」

「それは、ロブナント領都に住んでいたのでその辺の事情にも詳しくなったのです」


 クルゼナントで『騎士としていかに強くなるか』という一点にしか興味のなかったマルキャルトであったが、ケータ達に出会って随分周りのことにも気を使えるようになった。


「なるほど、だけどこの手紙には続きがあるんだ。ザギメデから売り先について『タリオトルテ大帝国にだけには販売しないように』という指定がなされているらしい」

「キナくせーな。タリオトルテ、ってとこが特に」


 クリスクロスが珍しく難しい顔をしている。


「クリスクロス。何か知ってるのか?」

「いや、確かなことはわかんねーけどあの国は何か最近様子がおかしいんだ」

「具体的なことわかんないんだよな?」

「ああ、妖精たちが言うには前とは色が違う、って言ってる。元から濃い青とか灰色だったものが、今は黒や紫が混じっているらしい」

「わからないよ。その色だと何が起こるんだ?」

「戦争」

「「「「!」」」」

 

 ケータ達はその言葉に戦慄した。

 タリオトルテは常に紛争を抱えている。

 だが、それらは大国に取って戦争に当たらない。


 侵略していくことは平常時の政策なのだ。

 クリスクロスが感じた『色の違い』。すなわち、今までの規模の違う本格的な戦争を仕掛けようと考えているということは、相手の国を完全に滅ぼす、または全世界の国に対して宣戦布告し、世界統一に乗り出すということだ。


「最終戦争が始まるということか!」

「んー、それがよ。よくわかんねーんだ。確かに黒は抗戦的な国によく出るんだけどよ。紫は『恐れ』を示すんだよ」

「誰に? どこの国に恐れるんだ?」

「わかんねーよ」


 結局、その日はそれ以上何もわからず。

 翌日、ドワーフの工房に行くことにした。

 

「ケータ。どこの工房に行くんです?」

「ザギメデ町長のバンデルさんに紹介してもらうことになってる。パメロ。もしかしたらご機嫌取りしてもらわなきゃならないかも」

「やれやれ、ライブのMCするわけじゃないんですよ?」

「いや、そうなんだけど。なんとかお願いできないかなあ」

「わかりました。ドルターラ弾きも興行主とか会場とかと交渉しなきゃいけない時もありますし、なんとかなるでしょう」


 町長バンデルがうまく話を聞けるドワーフを紹介してくれるか心配していたケータだったが、行ってみるとすでにロブナント子爵からの連絡が行っていてトントン拍子に事が進んでしまった。

 そこで、少し突っ込んだ事情があるか聞いてみた。


「バンデル町長。それでドワーフがなんで急に羅鉄鋼の生産を増やしたのか何かわかりますか」

「それが全然わからんのですよ。ケータさんはロブナント子爵から何か聞いておりますか?」

「いえ、何も。せめてきっかけでもあればありがたいんですけれど」


 すると、しばらく町長は考えていたが。


「これは言うか言うまいか考えておったのですが、実は山脈を超えてきた遭難者のドワーフがおります。その遭難者が羅鉄鋼の鍛治師の元締めの親方と話をしてからドワーフたちがおかしくなり……」

「話って、その遭難者のドワーフはどんな話をしたんですか?」

「それが……教えてくれんのです。その話を聞いた親方が。遭難者のドワーフの方は親方に話をし終わったところで倒れてしまい今も昏倒したままです。魔法師が体調を維持する魔法をかけたので、命に別状はないようですが」


 遭難者も鍛治師のドワーフも口を閉ざしていると。

 では、その遭難者の素性や出身国などの情報はないのだろうか。


「遭難者はどこから来たんですか」

「それもわからんのです。何せこの町の北の山の麓で発見された時は、あまりにもボロボロの服でどこのものかも分からず。ただ、山脈を超えてきたということはタリオトルテからということになるのだが……」

「何か?」

「ありえないのだ。ラングレー大山脈は8,000m級の山が連なる大連峰ですからそこを超えてくること自体が」

「途中に山里があるということは?」

「わからん。ただ、可能性は低い。まず、食料が満足にえられないし、魔獣を狩るとすると装備を整えるだけの町が必要になる。ラングレー大山脈は奥に入るルートが確立しておらず、採算が取れ。一方、麓の村や町に住む者にとって山の資源は近場でも十分に取得可能と来ている。あまりにも遭難の危険が多すぎてわざわざ山に入る理由がない。クルゼ王国からもロブナント子爵からも地図を編纂する動きもないので未開地として放置。登山者が入り込むこともなく、行くということはそれこそ自殺志願者になるのと同義であるくらいなのでな」


 ドワーフが山脈を越えてきた可能性は少ないということか。

 そこでクリスクロスが念話で話してきた。


——ケータ。今、その遭難者を調べてきたぜ。その町長はあり得ないと言ってるが、どうも本当に山脈を超えてきたみたいだ。

——クリスクロスの言うことが本当なら……

——嘘じゃねーよ。

——わかりましたわ。それじゃあケータ。町長の話は適当に切り上げて、羅鉄鋼の親方に会わせてもらう約束を取り付けて下さいませ。


 それからケータは、バンデル町長にお礼を言い親方に合わせてもらう算段をつけた。

 遭難者の話はおそらく聞き出せないというので、羅鉄鋼の生産現場に興味があるから見学がしたいと言うと、渋々ながら了解を得る事ができた。


——ケータ。ドワーフ、ってーのは信心ぶかいんだぜ。ちょっとグラムゼア様にお願いして見たらどうだい?

——ああ、いい案ですわね。ケータも随分神様の依頼をしてきたですし、来てもらいましょう。


 ケータはそんな気軽に神様をホイホイ呼びつけていいのか、と思いながらもその線で動くことにした。

 町長にはお礼を言い、翌日に羅鉄鋼を製造しているドワーフ達の元締めジグ=メンソンに会うことになった。


 ザギメデの町で羅鉄鋼を作るドワーフの口は重く、現在の状況について教えてくれません。

 信心深い彼らに打ってつけの人物(?)が現れ、事情が明らかになります。


 次回、『68話 ドワーフ達が神にひれ伏せば』 11/29 投稿予定です。

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