65話 夢の跡を共に歩けば
ケータはトルタの町でドルターラの名人であるパメロ・キュレータに会い、生演奏を聞くだけではなく共演まで果たした。
これで、パメロには礼を言い後は帰るだけになるはずだったのですが……
パメロ・キュレータの演奏が広場で行われた翌日。
トルタの町は、ドルターラ弾きパメロの復活の話題で持ちきりだった。
それほどまでに感動的であったし、ドルターラ同士の合奏という新境地が人々を興奮させていた。
元々はそんなに興味がなかったマルキャルトでさえ、最後のトルステンとのデュオには感動して涙を流していた。
開けた翌日の朝食後、チェックアウトまでは少し時間があるのでケータ達は防音処理をして部屋で話していた。
「昨日の演奏は良かったですねー。ケータ殿があんなに夢中になっていた意味が分かりましたよ」
「そうだろう? 最初に『スラマーセルの瞳』を見た時からパメロ・キュレータはすごいと思ってたんだ」
マルキャルトが昨夜の演奏を思い出している。
それを、さも自分の手柄のようにパメロのことを話すケータ。
まるで、有名になったアイドルの初期ファンが『俺が育てた』とか豪語するような勢いである。
「けど、あのカルステンのにーちゃんとパメロが演ったのを聴くと、ケータの弾いたのは大したことねーな」
クリスクロスにそう突っ込まれたが、元々プロの演奏家でもないケータに多くを期待しては可哀想だ。
「うっ、うるさい。あれは、ドルターラでも合奏が可能であると証明するためだったんだからいいんだよ」
「そーですわよ。ミスもなかったですし、あのデュオ演奏もなかなかでしたわよ」
「ほーら、リレイアもそう言ってるじゃないかあ」
いつになくワイワイとしている4人。
そこで、唐突にケータは言った。
「リレイア。昨日のパメロ・キュレータのステージは撮影しといてくれた?」
「あっ、忘れました!」
「ウソーー!」
「嘘ですけど(笑) 。ちゃんと『スラマーセルの瞳・改』用の魔石にも、56世紀の技術で撮った3D鑑賞可能な超解像度版も収録してありますわ」
「変な嘘、つくなや」
ケータがあまりにも必死なので、揶揄いたくなっただけだ。
まあ、メイソンさんやロブナント子爵、果てはクルゼ国王陛下まで、楽しみに待っているのだから、映像が撮れていなかったら確かに大変である。
◇
しばし歓談した後、宿をチェックアウトしたケータ達を意外な人が待っていた。
「パメロ……キュレータ……さん?」
昨日まで普通に話してたクセに、あの演奏を見た後だと有名芸能人に会った時みたいにキョドッてしまうケータ。
「はい。ケータさん。昨日は本当にありがとうございました。あれっ? あの妖精のお2人は?」
「ああ、すいません。一応人前には姿を現せないことになっているので、彼女らのことは内密に。必要であればどこか他人の来ないところでお話はできますが」
「ああ、そうなんですか。それじゃあ……私の家まで来てもらえませんか? 公園の奥に僕らドルターラ弾きの住まいが点在しているところがあるんです」
「はい。構いません」
ケータとマルキャルトはパメロに連れ立って、公園の噴水を超え木がまばらに生えた草はらを歩いていた。
もう少し経てば、木の袂をステージがわりにして何人ものドルターラ弾きが演奏を始めるのだが、流石に昼前では人影も少なかった。
「ここは僕らドルターラ弾きにとって修行場でもあるし、有名になるための真剣勝負の場でもあるんです」
「真剣勝負ですか?」
「はい。ここで、観客を集めればパトロンがついて、この公園のメインステージに出られます」
メインステージに出るのが大変なことはわかる。
昨日の演奏も実はステージ代がかかっていたのだ。
それを払ったのはドルターラ専門店のヤンクである。
「そうして名前が売れていけば、商人に顔が売れれば『スラマーセルの瞳』に演奏を収録してもらえます。演奏を同時に100個ほどの魔石に録画するほどになれば、それだけで3ヶ月は暮らしていける収入になるんです」
なるほど、『スラマーセルの瞳』の魔石に収録された映像は、印税のような形で演奏者の収入になるらしい。
「だとするとパメロさんは、すごいお金持ちなんですね?」
「まあ、一度辞める前まではそれなりの蓄えもあったのですが、癇癪を起こして全てのドルターラを燃やしてしまいましたからね。今はこのドルターラの代金を払うためにあくせくしてますよ」
「そうなんですか。でも、また演奏を始められたのならすぐに人気になって、取り返せるようになりますよ」
そういうとパメロは照れたような顔で笑った。
「…………それで、一つお聞きしたいことがあったんですが、答えにくかったら答えて頂かなくてもいいのですけれど」
「なんです? またドルターラを弾けるようにして下さったケータさん達に何も隠し立てするつもりはないです。何なりと聞いてください」
ケータはちょっと躊躇った後に切り出した。
「パメロさんはどうしてあれほどまでに、あのデジタル・プレーヤーの音を聞いてショックを受けたんですか?」
「あっ、ああ、やはりそのことですか…………いいでしょう。正直にお話しします。あの音は私が長年感じていた疑問を解決したものなんです。あれだけ多彩で繊細、しかもダイナミックな音楽を奏でるのが私の夢でした」
そこまで聞いただけではわからない。
長年の夢が叶った音が聞けたのならよかったのではないか。
「ところが、それを渡した男は『お前の演奏は意味がない。こんな音は出せないだろう。誰とも協力しない音楽などくだらない』と言って帰っていったのです。その最後の一言に打ちひしがれてしまいました」
「『誰とも協力しない』というところですか?」
「はい」
パメロ・キュレータは演奏家として長年疑問に思っていた。
なぜ、ドルターラ弾きは合奏をすることができないのか。
他の楽器同士では合奏することはままあるが、ドルターラと別の楽器、ドルターラ同志で合奏はしない、できない。
その理由は知ってはいるものの、ずっと胸の奥に蟠っていた。
さらに、ドルターラは魔法により他より表現が多彩であることにより、他の楽器を一段下に見る人が多い。
このことにもパメロは心を痛めていたのである。
プレイヤーを渡した男の言葉は心無いものではあったが、その言葉を受けた彼の胸のうちに燻っていた想いでもあった。
「でも、昨日できたじゃないですか?」
「いえ、昨日できたのはリレイアさんのおかげです。今までドルターラ弾き同士が一緒に演奏したことはほとんどなくて、演ったとしても濁ったエゴのぶつかり合いのような悲惨なステージにしかなりませんでした」
確かに昨日はリレイアが、ケータとパメロ、カルステンとパメロの音をまとめていた。
簡単に言うと昨日のリレイアの仕事はミキシングエンジニアとPAである。
今ではSRとも言う。
今までドルターラを使った演奏では決してできなかったことである。
だが、リレイアが手伝ったのは単にパメロの望みであっただけのことではない。
「ケータ」
「ん? なんだい。リレイア」
「パメロさんにデジタル・プレーヤーを聴かせた転生者の行動に悪意を感じますの」
「ああ、そうだな」
「えーと、ケータさん? リレイアさん?」
ケータはパメロに事情を話すかどうか迷った末、打ち明けることにした。
「すでにパメロさんはお気づきだと思いますが、僕たちはこの世界の人間ではありません」
「……はい。それは、なんとなく解っていました」
「僕たちのいた世界には魔法はなく、その代わりこの世界より科学技術という文明が発達しています」
「それが、この音楽を聴く機械なんですね」
「いえ、それだけではありません」
そう言って、ケータはマルチテープレコーダーを出した。
旧式のアナログメーター付きで簡易ミキサー機能もある。
「ちょっと見ていて下さいね」
ケータはドラムマシンのパッドを叩いてドラムパートを簡単に入れ、次にベースをキーボードから入力した。
「随分、小さな楽器からいい音が出るんですね」
「はい。しかし、これも本当の演奏ではなく擬似的なものですけれど」
「疑似的?」
パメロは疑念を抱いていたが、ケータはそれには取り合わず、昨日の電子ピアノをさらに重ねた。
「とりあえずこれで、ミックスダウンしてくれないか? リレイア」
「はい。ボーカルパートを私が入れた後で良いでしょうか」
「ああ、歌付きの方がいいな。それでお願いする」
リレイアが歌を歌う。
思いもよらず伸びやかな声だ。
歌唱が終わるとそのマルチレコーダーに、さらにいくつかの機械を繋いで調整をした。
「一応、簡単なミックスダウンができました。スピーカーで聞いてみますか?」
「ああ。リレイア頼む。パメロさん、ちょっと聴いてみて下さい。これを聞けばパメロさんが悩んでいたものの正体がわかると思います」
リレイアはパメロの前にアンプとスピーカーを用意して、レコーダーの出力を繋いだ。
ボタンを押すと先ほど順番に録音した音が再生される。
もちろん、それだけではない。
ドラムスは硬めの音に仕上がっており、スネアにはショートリバーブが効いていた。
ベースはバスドラとセットになり、グルーブをより感じる仕上がりだ。
電子ピアノには昨日と同じフェイザーとオートパンがかかっていてところどころブルージーなサウンドである。
ボーカルにはショートエコーとリバーブがかかり、おまけにサビの所はハモリがついていた。
「こんなに変わるんですか。物凄く広がりを感じますし……それに歌は1人で歌っていたはずですよね?」
パメロは驚いている。
単なるリバーブのような残響の処理は、ドルターラの魔石で実現できるが楽器ごとに細やかに設定などできない。
ドルターラの各部分に簡単なハモリを付けることならできるが、別人が歌った歌にハモりを入れることなどできはしないのだ。
「これが、僕らの世界の技術です。きっと、レコーダーを渡して曲を聴かせた人物は嫌がらせをしたのですよ。『この世界より自分のいた世界の方が上だ』と言っていたずらにパメロさんを傷つけるためにね」
「そう……なのでしょうか? 実際、私たちドルターラ弾きからしてみると、ケータさんの世界の人たちは数段上の音楽を作っているように感じますが」
「いえ、これは単に科学技術が上であるだけで、単独であれだけの音楽を作り上げる人は僕のいた世界もそうそういません。まあ、僕のいた世界の最高の1人がパメロさんとどっちが上かはわかりませんが……」
すると、パメロさんはとんでもないという風に手を振りながら言った。
「あ、ああ、別に私は世界一になろうなどとは思っていませんが……本当に私の演奏は価値があるものなのですか?」
「はい。それは間違いなく」
そこはケータが力強く肯定する。
「あっ、ああ、そうなんですね」
力が抜けたようにパメロさんが答えた。
それを見たケータは、パメロさんが落ち着くのを待って言った。
「それで、パメロさんは昨日のことで夢が叶い、今までの悩みも少しは解消されたんでしょうか?」
「はい。大体は」
「大体? では、まだ他にあるんですか?」
「ええ、実はそれが今日、ケータさん達を宿の前で待っていた理由なのですが……」
そこまで言って、それ以降を言いにくそうにしているパメロ。
「僕らに協力できることがあったらなんでも行って下さい」
「そうですか?…………では、私を旅に一緒に連れて行ってもらえないでしょうか?」
「「「へっ?」」」
流石に予想外。
ケータ達三人が同時にポカンとしている。
いち早く立ち直ったリレイアが問う。
「パメロさん、どうして私たちと同行したいのでしょうか。私たちは冒険者であって旅は危険なことがあるんですのよ?」
「それは、重々承知しております。しかし、元来ドルターラ弾きは冒険者であったものが多いのです。吟遊詩人として。魔物との戦いもこなせるものも少なくありません。かくいう私も中級レベルの魔獣には引けを取らないつもりです」
あっけにとられるケータ達。
「戦えることはわかりました。けれど、やはり動機が掴めないのですが……」
「ええ、理由は3つあります。1つはずっとこのトルタで暮らしてきましたので、外の暮らしを見てみたいことです。ドルターラ弾きは自分の曲を書いて一人前です。多くの経験をして今までにない曲を書いてみたいのです」
「なるほど、ドルターラ弾きとしてパメロさんにプラスになることなのですね」
「はい、そうです。それと理由の二つ目として今回のことがあります。できればケータさん達に恩返しがしたいのです。ただ、よく考えるとケータさん達は相当腕が立つようです。返って足手纏いになりそうな心配はあるのですが……」
ケータ達は顔を見合わせる。
「恩返しなんて。そんな必要はないですよ。パメロさんの演奏が聴きたくてここに来たんです。それが聴けたのですから感謝したいのはこちらなんです……あと、足手纏いとかは気にしなくていいですけど、本当に冒険者として過ごすことになると、ドルターラを弾く時間が減ったりしませんか? それで後悔しないのであれば、大歓迎ではあるんですけれど」
「はい。後悔はありません。ドルターラを弾くことがしばらくできないとしても最低1年は修行を兼ねて、ついて行きたいと決心してますから」
すると、クリスクロスが口を出した。
「あー、ついてくるなら問題ねーぜ、そりゃあ、一日中弾くって訳にはいかねーだろうが、どこにいってもにーちゃんが楽器を弾く時間ぐらい取れるはずさ」
「そうなのかい? でも旅の宿やテントを張ってのキャンプでは、楽器など弾けないだろう?」
「ふふん。それがなあ……まあ、後でのお楽しみってことで。とりあえず、楽器を弾けないって心配はねーから」
そういうクリスクロスにパメロは訳がわからないという感じでケータに向かって言った。
「ケータさん、本当なのですか? この妖精さんの言うことは」
「あんだよ! おいらの言うことが信じらんねーのか」
「よせよ。クリスクロス。信じられないのは仕方ないだろ」
ケータにそう言われて、クリスクロスはちょっと考え込む。
そして。
「…………あーーー、まーそーいうもんかもな」
「すいません。パメロさん。このクリスクロスの言うことは本当です。どこに泊まってもドルターラを誰の迷惑にもならず弾く時間が取れることは保証できます」
それを聞いてパメロは破顔したが……ちょっとこわばってもいた。
そして、最後の理由を恐る恐る切り出す。
「最後の三つ目は私のエゴです。実はその……プレイヤーを渡した男がこうも言ったのです。『一人で演るなら、せめて ”たろく” ぐらいしろよ』、と。それが何だかわかりませんでしたが、ケータさん達ならわかるんじゃないか。もしそれが優れた音楽なら体験することができるんじゃないかと思ったのです」
それを聞いてケータとリレイアを見た。
「”たろく” って」
「ええ、ケータ。おそらく多重録音のことですわね。できますわ。パメロさん。きっと、新しい音楽の作成形態に驚くことになるでしょうけれど」
「本当ですか! ありがたい…………というか、既に私は着いていく気になってしまってますが、どうなのでしょうか? 同行を許可願えますか?」
ケータ、マルキャルト、リレイア、クリスクロスの4人は顔を見合わせた。
意志は顔を見ただけで解ったので念話で確認することも不要だ。
ケータは言った。
「たった一つだけ条件があります。それさえ、飲んでくれたら一緒に冒険をこちらからお願いします」
「なんです?」
「僕らのことは、さん付けせずに名前で読んで下さい」
「わかった。これからよろしくな、ケータ、マルキャルト、リレイア、クリスクロス」
ついに、ケータ達の冒険者パーティに新メンバー吟遊詩人パメロ・キュレータが入った。
◇
そのままケータ達はヤンクの店を訪れた。
「ヤンク」
「おお、パメロ。行くのか」
「ああ…………それで、あのドルターラの代金なんだが……」
昨日、弾いたドルターラはヤンクが急いで用立てたものではあるが、名手パメロ・キュレータが弾くにふさわしい一級品であった。
普通なら相談、打ち合わせを経て注文し、何年もかかるカスタムメイドの品のはずである。
もちろん、パメロはそんな注文をしているはずはなく代金も支払っていない。
「おう、それならツケといてやる……はずだったんだが、実はな。そこのケータの旦那に払ってもらってるんだ」
「えっ、ケータさんが!!」
パメロはケータを見た。
ケータはそんなパメロにダメ出しをする。
「パメロ。さん付けは禁止ですよ」
「あっ、ああ……でも、ドルターラの代金なんて……あの出来からいって凄い金額だったんじゃないですか?」
「まあ、安くは無かったですけどね。恐らく、すぐにパメロのおかげで戻ってくることになると思います」
「???」
パメロはわけがわからなかったが、店のもう1人の男が現れた。
「おう、パメロ。行くのか」
「ピネラ爺さん! あんたには本当に世話になった」
「よせよせっ。ワシはお前に仕上げの菅磨きのバイトをさせてやっただけだ」
「……ありがとう。このドルターラも大事にします」
ヤンクの店を出てもパメロの門出を祝う人、出ていくことを惜しむ人、様々な人たちに見送られ、一行はトルタの町を後にした。
◇
トルタの町を出たのはいいものの、どうすればクルゼ王国に戻れるかわからない。
とりあえず、東に進めばカルパソに着くのはわかっている。
けれどそこからどう行ったらいいのか?
恐らく南に進めばいつかはクルゼ王国に着くだろう。
しかし、それでは森の中に入ってしまうかもしれないし山岳地や海ということもあり得る。
「さあ、どうやって帰ろうか」
ケータがそう言った時、周りの様子が変わった。
これは結界は張られる前兆だ。
しかも、この感じは既視感がある。
隠れていたリレイアとクリスクロスも既に姿を現している。
白い霧が周りに現れ、それまであった景色が薄らいでいく。
人の形に輪郭が浮き出ててくる。
「グラムゼア様」
そこには、現神グラムゼアが現れた。
「やあ、ケータ達。久しぶりだね。私の願いを見事に見抜き、叶えてくれたことを感謝する」
それを見ていたパメロは当然、戸惑っている。
「えー、すいません。この方は?」
「えーと、神様のグラムゼア様です。何回かお世話になっています」
「神様? お世話になっている?」
ケータが説明するも驚くのも無理はない。
「ああ、君がパメロ・キュレータだね。初めまして、私はケータ達に頼んでいたのはローアニエストの魔素を通常の状態に戻し、魔法使いを救うこと。そして、君を助けることだったんだ。まさか、ケータが仲間にしてしまうとは思わなかったけど」
「はあ」
「君の演奏を楽しみにしていたんだ。僕にも聞かせてくれるかい?」
「そ、それは……もちろん……なんですが」
パメロはまだ元に戻っていない。
そこでグラムゼアはもう一度ケータに向き直り。
「あー、そうそう。ケータ達にお礼をしていなかったね。今回はオリハルコンの塊とその加工技術を伝えよう。とりあえず、リレイア」
「はい」
「君に教えておくから、あとはケータ達に教えるなり自分で使うなり好きにしてくれていいよ」
グラムゼアとリレイアの間が輝き、光の粒による道ができる。
しばらくそれはグラムゼアからリレイアに向かって流れ、やがて消えた。
「これでいい。大体わかったかな?」
「はい、わかりましたわ。でもこんなにたくさんのオリハルコン、いいんですの」
「構わない。私のいたあの山の向こうの坑夫たちが長い間、私に納めてくれたものなのだが、もうグラム教はなくなったしあれがあると悪用しようとするものもいる分けなので、君に預けるのが一番いいと思ったんだ」
それを聞いてケータは。
「そんなにたくさんあるのか? 一体どれくらい?」
「えー、まあ構いませんが数トンはありますの。オリハルコンは強度が桁違いであるにも関わらず大変軽い金属ですから、容積で言うと金や銀の数百トン分ぐらいになりますわ」
桁違いだ。
「そんなになるのか? 私もちゃんと測っていなかったからな。それでリレイア、君ならどう使う?」
「そうですね。もちろん、使い切ることなどは考えもできないですが、皆さんの武器や防具をオリハルコン製にするかオリハルコンとの合金、またはメッキにします。それと、パメロ様のドルターラもホーン部分をオリハルコン合金製にするといいのですが、トルタの鍛冶屋に加工技術の一部を教えなければなりませんの」
「かまわない。それとリレイア。君自身は使わないのかい?」
「私ですか? 一応考えておりますの。まずボットのいくつかをオリハルコン製にしてみますわ。それといざと言うときの結界もオリハルコンを媒体とした防御膜に作り替えようと思いますわ。バリエーションを持たせたいので従来のものも持たせますけど」
これは一概に強化のためではない。
リレイアには56世期の技術があるわけで、いくらオリハルコンといえどそれほど既存のボットの材質よりアドバンテージがあるわけではない。
あえて言うなら、この世界の物を使うことでコモンからきたことを糊塗する必要があるときに有利である、と言ったところだろう。
だが、そのことを知ってか知らずか、グラムゼアは気にせず会話を続ける。
「ああ、それがいいだろう。君の一番気にしていることはケータを守ることだろうから」
「はい」
「だが、ケータはもはや、それほど弱くないんじゃないか?」
「ええ、それなのですが、これからいく先はホン・ワリャンを超えて西に行くような気がしますの。そうなると……」
「ああ、そっちまでいくとすると、ケータだけでなくマルキャルトとパメロも強化しなければいけないね。よし解った。それも私が協力しよう」
グラムゼアは魔法についてを説き、ケータは単なる魔力の上昇だけではなく深い意味において魔法に習熟していった。
また、それまで魔法を使えなかったマルキャルトも基本的な魔法を使えるようになった。
実はマルキャルトは剣技の上達の途中で、魔力を使っていたのであとはそれを顕在化するだけで済んだ。
確かにいざと言うときのスピードや踏み込み、剣筋の鋭さは既に人の領域から抜きんでていたのは魔法を知らぬ間に使っていたからに他ならない。
最後にパメロであるが、彼には捜査系とバフ、デバフ系の魔法が授けられた。
演奏者として長いこと活動してきた彼は、観客の様子や何を求めているかなどを上手に受け取る能力がある。
また、彼の音楽は多くの人を幸せにしてきたわけで、これも魔法によるバフ掛けに通じるものがあったのだ。
その鋭敏な感覚を元に、周辺の調査やバフ、そして逆にデバフをかけるといった補助魔法師としてケータと共にパーティを組むことになったのである。
なんとパメロが仲間になりました。
こうなれば、帰り道で立ち寄る町や村で生演奏をせがまれてしまうのも仕方がなく……
次回、『66話 帰り道が演奏旅行になったならば』 11/22 投稿予定です。




