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64話 パメロ・キュレータに会えば

 やっとパメロに会うことができたケータ。

 けれど憔悴しドルターラを手放した彼をもう一度演奏者に引き戻すことができるのか?

 ケータ達はドルターラの聖地トルタの街に辿り着いた。

 中央の噴水のある広場でドルターラ弾きカルステンの演奏を聴き感銘を受けたが、当のカルステンが言うには今は『堕ちた弾き人』と呼ばれている名人がいるとのこと。


 ただし、それが誰かは教えられずドルターラ専門店のヤンクを訪ねることになった。

 そこで、『堕ちた弾き人』がパメロ・キュレータであること。

 地球のデジタル・オーディオ・プレーヤーの音を聴き、おそらく絶望したこと。

 そして、彼を匿っているドルターラ職人ピネラの工房を訪ねたのだった。


 中に入るとそこは、まるでガラス工房のようであった。

 中央奥に炉があり、そこに筒状のものが熱されている。


「ドルターラの菅の部分って真鍮じゃないんですか? 火で炙ったりしたら黒焦げになりそうですけど」

「しんちゅう? 何を言っておるんだ! この材料はな……いや、そんなことはどうでもいいだろう。奥へ来い」


 ケータが質問したことには答えず、炉の左奥にあるドアから奥に部屋に進む。


「こっ、これは! ケータ殿! 凄いですね」

「あ、ああ」


 今まで、黙っていたマルキャルトが声を上げた。

 ケータも生返事をした後、見渡して呆然としている。


 部屋には所狭しとドルターラのホーン部分。

 上にも下にも壁にかかっているのは菅、菅、菅。

 大きさは様々あり、オーダーに合うようによりいろいろ取り揃えられている。


 その中で、たった一人。

 さして大きくもないホーンを見つめ、のろのろと磨いている男がいる。


「おい! パメロ。客だ。ちっとはシャキッとせんか!」

「えっ…………あ、はい」


 ようやく顔を上げ返事をした。

 それを見てケータは挨拶をする。


「初めまして。冒険者をしているケータ・リーフォンと言います。こちらは騎士のマルキャルト・フォン・ルーエン様です」

「あ、ああ、どうも」


 自己紹介にボーっ、と答えるパメロ。


「あああああ、すっ、済まん。こいつは口の利き方も知らなくて! パメロ! 貴族様にちゃんと挨拶をしろっ!」

「い、いえ、いいんです。構いません。私のことはマルキャルトとお呼びください。敬称も不要です」


 工房主のピネラ爺さんは嗜めたがマルキャルトが取り成す。

 だが、それにはあまり反応していない。


 ただ、視線がケータの左手に向いているようだ。

 その手にはデジタル・オーディオ・プレイヤーが握られている。


「それは……動くのか?」

「ええ」

「動く? 動くのか! かっ、貸してくれ! その音を聞いて! 聞いて! 解き明かさないと………」


 急に勢いこみ、まるで掴みかかりそうな勢いであったが、そこまで言うとパメロは急に気を失った。


「またか」


 その様子を見たピネラは言った。


「時々、そうなるんじゃ……だが、最近は落ち着いとったんじゃがの。お前さんのその左手に持っとるものを気にしとったようじゃが」


 頭に手を当て、首を横に振る。

 その様子を姿を消して見ていたリレイアが念話でケータに話しかけた。


——ケータ。私が説明してはいけませんか?

——この爺さんに姿を見せるのか? 大丈夫?


 ケータは心配ではあるものの、そんなに悪い手ではないような気もする。


——任せて下さいませ。悪いようにはしませんわ。

——よし。任せた。


 ケータの横に小さな光が生じ、それが広がると同時にリレイアが姿を現した。


「なっ、なんじゃ! これは!」

「はい。実は僕の冒険の手伝いをしている妖精のリレイアです」

「なんと! お前さん達は妖精と旅をしているのか?」


 ピネラは腰を抜かさんばかりに驚いている。

 しかし、それには取り合わず、リレイアは『スラマーセルの瞳・改』を出して説明を始めた。


「まずはこれを見て下さい」


『スラマーセルの瞳・改』には既に魔石がセットされていて、起動すると共に演奏が映し出された。


「むっ、これはパメロの演奏ではないか。しかし、この魔道具はワシの知ってるものとは違うな。絵も音も別物に見える」


 すると気を失っていたパメロが起き出してきた。

 『スラマーセルの瞳・改』の画像と音を聞いて愕然としている。


「こっ、これは! どういうことなんだ! 音に広がりがある。『スラマーセルの瞳』からは暗く閉じた音しかしないはずなのに……」

「ええ、この『スラマーセルの瞳・改』は私が造った改造版ですの。画像も音も今までとは違いますわ。今、『暗く閉じた音』とおっしゃいましたが、それは高い音も低い音も十分に再生されず、広がりのない音のことを言ってますわね?」

「ああ、そうだ。実際にドルターラを弾く場合は、弾き手の力量次第で音を広げることができるが『スラマーセルの瞳』で記録するとその情報は失われてしまう」

「いえ、そうではありませんの」

「えっ!?」


 パメロとリレイアのやりとりを聞いていたケータ、マルキャルト、ピネラがポカンとしている。

 話についていけず、置いてけ堀りになっているのだ。


「あーあーあー、勝手に話を進めるから着いていけてねーじゃねーか!」

「うわっ、また妖精が現れよったぁ!」


 クリスクロスも姿を現した。


「貴方まで出てくる必要はなかったのですけれど……」

「それよりリレイア。今の話で僕もわからなかったことがあるんだけど『弾き手の力量で音を広げることができる』ってどう言うことなんだ?」

「ああ、それを今から説明しますわ。まずドルターラ弾きの半分以上は魔法使いであるのは解ってますか?」

「「「「えっ」」」」


 それに対し4人が声を上げたが、その内容は違う。

 ケータとマルキャルトは初耳だったので声を上げた。

 それに引き換え、パメロとピネラは『なんで知っているんだ!』という意味で声を上げている。

 クリスクロスは最初からわかっていたので、腕を組んだままうんうんとうなづいている。


「先ほどの話ですけど、まずドルターラのカホン部分にある魔石が音を広げていると以前説明しましたよね。


 こくこくうなづくケータとマルキャルト。


「あれは少し嘘です」

「「えーーーーっ!!」」

「いえ、完全な嘘というわけではないのですが……あの魔石からどのように魔法を操るかは楽器奏者の魔法能力次第なんです。あくまで、魔石はその楽器の出力と魔法との連結と魔力補助を行なっているだけで」

「あーー、そうなんだ」


 ケータはわかったらしい。

 マルキャルトは話の内容がわからずに頭を傾げている。


「あー、こいつはいいよ。後でおいらが説明しといてやる」

「クリスクロス殿、よろしくお願いします」


 なんとなく微笑ましい。

 マルキャルトは本当は説明を聞きたかったのだが、話の腰を折らないようにそれだけを言った。

 だが、ケータは怪訝な顔をしている。


「ドルターラ弾きが魔石を利用した魔法使いであることはわかったよ。でも、これがどういう話につながっているんだ?」


 そう問うケータの疑問を無視してリレイアはパメロに向かって。


「パメロさん。ケータが持っているプレーヤーの音に絵を付けて『スラマーセルの瞳』で見ることができるのですが、見たいですか?」

「そんなことができるのか? 見たい! 是非、見てみたい!」


 するとそこでケータが慌て出す。


「ちょっと待って。リレイア。これ曲のwavデータだけだよね? どうしてライブ映像が出るの?」

「ああ、この音源はライブ盤が発売されてるんですの。ケータがいた昔の音楽関連の映像ディスクは全部集めてありますわ」

「えー、それ見たいなあ」

「後にして下さいませ! まずはこれを再生します」


 リレイアは魔石を取り替えて再生した。

 それは、21世紀のオーケストラのライブ映像だった。

 リレイアは亜空間で古いブルーレイディスクを再生(56世期から考えては、だが)した。

 その出力を魔石にリアルタイムで魔法信号に変換して入力している。


「何!! あの音はこんな大勢でできていたのか!!」

「はい。そうですわ。パメロさんはそのことで悩んでいたんではないのですか?」

「なぜ、そのことを…………」

「それは、ドルターラ弾きが決して合奏をしないことから判断致しましたの」


 リレイアの話に呆然とするケータ、パメロ、そしてピネラ。


「そうじゃ。ドルターラ弾きは決して合奏はしない。それは、独立独歩の精神が強すぎると思われてはいるが、本当のところは違う」


 ピネラが押し殺した声でそう言った。


「わからない。なんでなんだ。リレイア」

「わかりませんか? ケータ。多重録音で考えてみてください。最終段階のリバーブやEQを思い思いに施したものをそのままミックスしたらどうなります?」

「えっ? あーー、そう言うことか。でも、だったら片方の魔法を切ればいいじゃないか」

「それができませんの」

「はっ?」

「このドルターラのカホン部分の魔石が扱えるのは、奏者自身の肉声と奏でた音だけなんです」

「…………と言うことは、両方で音響効果を加えると音が濁るし、片方を切るとそっちの演奏がショボくなってしまうのか……」


 この世界で最も優れた楽器であるドルターラの限界がここにあった。


 確かにドルターラは自分で出す音に対して、自由に音響効果をつけられる。

 楽器ごとの音量バランスを取り、楽器全体にリバーブをかけることも、ボーカルだけエコーをつけることも、弦の響きだけをコーラス効果で左右に広げたり、高音弦と低音弦を左右に分けて出力することも……


 だが、『一人で何人分もの楽器を調和し見事な音響効果を付加して鳴らせる』ドルターラではあったが、逆に『他人との合奏することができない』ことにより楽器編成を拡大できないという欠点を持っていたのだ。


 そしてその原因はドルターラの歴史のせいでもある。

 ひたすらに孤高の学期であろうとするドルターラという楽器のあり方。

 他のどの楽器より素晴らしい唯一の楽器として、排他的に発展してきたのだ。


 一緒に演奏できないのは、他の楽器を阻害してでも自分の楽器を前に出すため。


 その常識から言えば地球のオーケストラのように大人数が調和して演奏している様は衝撃的だった。

 しかも、大変音響設計のいいホールで録画されたものらしく、ホールエコーによってその輝きはさらに磨き上げられていた。


 それに疑問を持ち続けていたパメロは、その映像を見ながら苛立ちを抑え切れない。


「そんなことはどうでもいい! どうしてこれだけ多くの演奏者が綺麗に音を重ねることができるんだ! 全員が音に反響の魔法をかけたりすれば、濁って聞けたものにならないはずだ!」

「ん? これには反響の魔法なんて付加してないですよ。パメロさん」

「そんなはずはないだろう? これだけ綺麗な響きは魔法を使わなければ得られるはずがない」

「いえ? これは別も加えていないはずだけど……リレイア、どう言うことなんだ?」


 ケータもパメロもお互いに訳がわからないという顔をしている。


「ケータ。この世界にはホール音響という概念がないんですの。この世界では、いくら大きくても部屋の中は余計な響きが付く悪環境。従って部屋はできる限りデッドにしますし、音楽に適するのは反響の少ない野外と言うのが常識なのですわ」

「うーん、そうかあ……じゃあ、パメロさんの悩みをどうやったら解決できるんだろう」

「いえ、もういいですよ。今、リレイアさんの見せてくれた大勢の演奏が可能ならば、私の中にあった疑問と(わだかま)っていた部分がかなり納得がいきましたので」


 ケータはパメロの悩みを解決しようとしているが、当のパメロはもういいと言う。


「パメロさん。その『かなり納得』の部分を『全部納得』に変えてみたいと思いませんか? ケータに手伝ってもらいますが、私がサポートすれば、きっと満足が得られますわ」

「まあ、ここまできたら構わないが……そう簡単に満足できると思えないけれど」

「では、明日ドルターラを弾いていただけますか? 曲はそうですね。昼間カルステンさんという方が演奏されていた『ワトイアの恋歌』でどうでしょう?」

「ああ、その曲なら何百回と演奏してきたからな。全く問題ない」

「それで……ああ、ケータ達はみんなもう帰っていいですよ。宿にお戻り下さい。私は少しパメロさんと打ち合わせがありますので」


 リレイアはケータ達を追い返すようにして、パメロと二人部屋に残った。


 ◇


 ケータ達が宿に戻って、2時間ぐらいしてたった頃、突然部屋の空気が変わった。


——おっ、リレイアが帰ってきたんじゃねーか。


 ケータ達の部屋には、いつものように防音と認識阻害の魔法がかけられた。

 リレイアが姿を現す。


「『帰ってきたんじゃねーか』じゃないですわ。クリスクロスが部屋の隠蔽処理をしておいてくれればよかったじゃないですか!」


 それを聞いてクリスクロスも姿を現す。


「そうは言うけどよ。ここ壁が薄すぎて防音すると不自然になるんだよ」

「まあ、ここじゃあ食事で呼びに来る時も声掛けだけで済みますものね。わかりましたわ。では、食事を先に済ませましょう」

「リレイア殿。食事の後にすることがあるんですか?」

「そうだな。何かあるのか? リレイア」


 そこで、外から声が聞こえた。


「夕食できましたよ。食堂においでください」

「リレイア。お前、防音したんじゃなかったのかよ」

「しましたよ。中からは漏れないけど、外の音は聞こえるようにしましたの」

「器用なことするなあ」


 リレイアの技術は着実にアップしているらしい。

 リレイアとクリスクロスは再び姿を消し、ケータ達は食堂に夕食を食べに行った。


 ◇


 食後に部屋に戻るとリレイアは、宿の自室に亜空間拡張を施しおよそ50畳ほどの広間に広げた。

 さらに、大きなスクリーンと電子ピアノが用意されている。


「おー、Fen○er Rhode○じゃないか。これどうしたんだ!」

「ケータに弾いてもらおうと思いまして」


 これも21世紀の……いや、モデルとしては20世紀のモデルだ。


「おー、弾く弾く。そのうち上手くなったらみんなに聞かせるよー」

「そんな流暢なこと言ってられませんわ。明日、パメロさんと合奏してもらうんですから」

「「「えーーーー!」」」


 ケータとマルキャルトとクリスクロスが驚いている。

 隣には小さな机が用意されていて配線がスクリーンに続いている。


「急拵えですからね。手っ取り早くスクリーンに大写しするために有線で繋いでますわ。楽譜はこれ。先ほどパメロさんと打ち合わせて、パート分けしてきました。これくらいなら3時間も練習すればミスなく合わせることができるでしょう」


 勝手に進んでいる話にケータは焦る。


「待って待って待って」

「待てませんわ。では、まず一回は見てもらいましょうか」


 リレイアは『スラマーセルの瞳・改』でパメロに弾いてもらった演奏をスクリーンに映し出した。


「おーー、流石に見事だな…………っと、なんか音が少し抜けているような」

「はい。簡単に言えば、パメロさんにはマイナスワン状態で演奏していただきました」


 マイナスワンとは楽器用のカラオケのようなものである。

 この場合は、ケータが弾く電子ピアノの部分を抜いた残りをパメロが弾いているのだが。


「それでこの楽譜か。なるほどーー、あー、いいアレンジだな。これくらいならって………… 3時間んん。覚えらんないよぉ」

「あー、頑張れ」

「ケータ殿、楽しみにしています」

「とほほ……」


 その後、ケータはリレイアにビシビシ特訓を受け、その曲の電子ピアノ部分をマスターしたのは3時間を少し過ぎた夜半のことだった。


 ◇


 翌日、噴水前の広場の一番大きな場所。

 唯一座席のあるステージの上にパメロ・キュレータとケータは立っていた。


「何が始まるんだ?」

「あのパメロ・キュレータがまたドルターラを弾くらしいぜ」


 どこから話が漏れたのか、ここでステージで彼が弾くことがすでに広がっていた。


「『堕ちた弾き人』がか? 名人の作ったドルターラを燃やしちまって誰もあいつにゃあ、楽器を作らねぇ、って話だぜ?」

「それは、ヤンクの店が用意したんだと。しかも合奏するとかで」

「えーー! 俺、パメロの演奏だけの方がいいなあ」

「そりゃ、そうだ。どこの馬の骨ともわからない奴が一緒に演られても迷惑なだけだよな」


 事情を知っている人もいるらしい。

 つまり、ケータにとってはかなりのアウェイ…………


——リレイア。僕、緊張してきたよ…………しかも、なんかさりげなくディスられているような。

——大丈夫ですわ。昨夜練習したんですから。それと、パメロさんとの合奏前に軽く弾いてみて下さい。

——何弾けばいいんだよ。

——そうですわね。Stuf○の『いとしの貴○』の冒頭でもどうですか?

——あれかー、うろ覚えだぞー

——最初の32小節ぐらいで構いませんので。

——分かったよ。


 ケータは電子ピアノを引き出した。

 その途端、異常に洗練されたサウンドが会場に溢れ出した。



「おお、いい音してるじゃねーか」

「こんな音、聞いたことないぞ」

「それほど、下手くそって訳じゃないらしいな」


 ケータは会場の雰囲気が和らいだことにちょっとだけホッとした。

 『ちょっだけ』だったのは弾き始めた途端、思った以上の音が響いたからだった。

 電子ピアノには、弱いコンプレッサーとフェイザー、さらにオートパンがかかっている。

 要するに音響効果の見事さに、弾いている自分がビビったのである。


 すでにパメロはいつでも曲が始められる状態にある。


「準備はいいようだな」


 そう言ってステージにヤンクが現れ、聴衆の方へ向き直った。


「集まってもらってありがとう。今日はパメロ・キュレータの新たな門出だ。今までいろいろあったが、まずは今日の演奏を聴いてくれ。その上で奴をどう思うかを決めて欲しい。もちろん、ドルターラ職人達に対する不義理は償わさせる……いや、そんな話をもういいだろう。早速演奏してもらおう」


 まばらな拍手の後、パメロはギター部分を爪弾き出した。


「「「「「オオオオオ……」」」」」


 どよめく観衆。

 その音はショートリバーブがかかっていたが、今までのドルターラによる音響効果をはるかに上回る上質のものだった。


 パメロは一瞬、眉を動かしたが曲を弾く手にはいささかの澱みもなかった。


 ◇


 昨日、パメロはリレイアとの打ち合わせで揉めていた。


「どうして、カホンの魔石を使わせてくれないんだ!」

「そこだけは、私が担当させていただきますわ」

「ドルターラを知らない妖精にできるものか!」

「今から試してみましょう。二、三曲お願いしますわ」

「……わかった。だが、ロクでもない響きだったら承知しない」


 それから、パメロはほんの数小節弾いたところで顔色が変わる。


「…………凄いな」


 結局、一曲弾ききったところで言った。


「参った……全面的に任せるよ。ったく、とんでもないもんだな」


 ◇


 ドルターラのギター部分による爪弾きにホーンサウンドが追加されるタイミングで、ケータの電子ピアノのフレーズが重なる。

 そこで、またしても観衆がどよめく。


「凄い……二人の演奏はピッタリ一体化されているぞ。このエコーって魔法は、複数の演奏に同時にかけることはできないはずじゃないのか」

「そう、そのはずだ。普通はドルターラに合わせて他の楽器を弾くと音が濁って聞くに堪えないはずなのに、こんな美しいハーモニーとは……どうなってるんだ?」


 流石はトルタの民であるのか、それとも聴衆の中にドルターラ弾きがいるのか、この技術の難易度を正確に捉えているようだ。

 16小節のイントロの後、朗々と歌われる『ワトイアの恋歌』。


 曲は進み、少し長めのアドリブパートを含め、6分で終わった。


 ワーーーーーー


 いつの間にか大観衆になり、割れんばかりの拍手を受けたパメロとケータ。

 その一曲でケータはステージを降り、パメロは数曲を演奏した。


 そして、会場ではマルキャルトが人探しをしていた。


「あっ、カルステンさん」

「ああ、えーと確かケータさんと一緒にいらした方ですね」


 見つかったらしい。


「はい。マルキャルト・ルーエンと申します。一つお願いがありまして」

「何です?」

「今、演ってるパメロさんと合奏していただけませんか?」

「パメロとですか? とても名誉なことですが合奏は…………どうして、ケータさんがうまくやれていたのがさっぱりわかりませんが」


 すると、マルキャルトは魔石を一つ取り出して。


「今日、合奏する時だけ、カホン部分の魔石をこれに取り替えていただけませんか? それで全てうまくいくと聞いてます」


 それを見ていたカルステンは。


「よくわかりませんが…………そうなんですね。やってみます」


 カルステンは自分のドルターラを持ってステージに上がった。

 いつの間にかケータの弾いていた電子ピアノは片付けられており、カルステンはケータのいた位置で手早くセッティングする。

 そしてパメロに言った。


「何をやる?」

「そーだなあ……『リフレイン・オブ・ラブ』でどうだ」

「ああ、今日にふさわしい曲だな」


 最後に演奏されたパメロ&カルステンの『リフレイン・オブ・ラブ』はその日、伝説になった。


 それ以降、リレイアがパメロに渡した魔石の使い方はカルステンに引き継がれ、やがて浸透しドルターラの合奏という新境地が一般に広がっていくことになる。

 パメロが衝撃を受けたのは、地球文明の卓越した録音技術だけでなく、アルファニア世界の合奏ができない不自由さゆえのものでした。

 それが解決でき、名手同士の素晴らしい演奏が聞けるようになりました。


 けれど、パメロから意外な申し出が……


 次回、『65話 夢の跡を共に歩けば』 11/18 投稿予定です。

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