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63話 音楽の町トルタにたどり着いたならば

 やっとトルタの町に着きました。

 しかし、ドルターラの名人にはなかなか逢えず……

 翌日、ケータ達はカルパソの町を朝早く出発した。

 カルパソの西口から歩いてきた道は、もう一つの大きな道と合流して蛇行しトルタの北の入り口に着いた。

 トルタの町はカルパソよりは小さいものの、メインの入り口にはアーチがあった。


 “トルタ

  ドルターラの聖地にようこそ”


 そのように書かれている。


 それを見てからのケータのテンションが高い。

 …………というか酷い、はしゃぎ過ぎである。


 まあ、無理もないのかも知れない。

 異世界アルファニアに来て好きになった楽器ドルターラ。

 そして、なんと言ってもこのローアニエスト公国の小さな町トルタはドルターラ弾きの集まる聖地なのだ。


 アーチをくぐると大通りがある。


 馬車はあるが、当然自動車がないこの世界ではかなり広い通りだ。

 南北に走る通りの中央分離帯がずーっと公園として続いている。

 両側に商店街が続いているが、観光地らしいお土産物屋が散見される。


 人通りはそれなりに多い。

 ここだけ見るとなかなか栄えている日本の温泉街に近い感じだ。


——へぇー、こういう感じなんだな。けどよ。そのドルターラ、ってー楽器の音は聞こえねーな。

——ここは商店街だからですわ。それに、よく耳をこらせば、聞こえますわ。この通りの奥から。

——ん? あー、これかあ。確かに悪くねーな、この音色は。


 クリスクロスとリレイアがドルターラの音を聞きつけたようだ。

 ケータとマルキャルトにはまだ聞こえない。


 メインストリートをそのまま歩いていくと遠くに広場が見える。


——あそこじゃねーか。宿のマークが聞いた通りの模様だぜ?


 カルパソでこのトルタの宿が予約しておいたのだが、その宿が見える。

 大きくはないがなかなか風情のあるいい宿のようだ。

 とりあえず、チェックインを済ませるとそのまま大通りに戻った。


 さらに進んでいくとどうやら噴水があるようで、その周りにいくつから人だかりがある。

 ここまでくると、ようやく何かしらの楽器の音が鳴っているがわかる。


「賑わってるじゃないか。でも、人だかりが全部ドルターラを見にきているわけじゃないのかな」

「そう見たいです。ケータ殿。大道芸人もいるみたいですよ。ほら、ボールやリングでジャグリングしている人もいます」


 その中で、ドルターラ弾きたちは思い思いに演奏している。

 噴水のそばまで歩いてくると、ここは大道芸の激戦区であるあるもののドルターラ弾きにとっては、あまり適さないところであることがわかる。


——近くでいろんな人が芸をやってるせいでうるさくなって、楽器の音を聴くのには適しませんわ。

——おい。あっちみろよ。噴水の向こうは木がまばらになっていて、小さな人だかりがあちこちにあるぜ。


 噴水を過ぎると広場は左右に広がり、まばらに生えている木のところに一人ずつの演奏者がいる。

 客は少ないところで数人、多いところでは三十人近くいるところなどがある。

 ケータは一通り眺めてから、人の集まりは中ぐらい、大体十数人が聴いているドルターラ弾きのところへ歩き出す。


「一番人が多いところがいいんじゃないんですか?」

「いや、あそこの人も悪くはないんだけどね」


 マルキャルトはギャラリーが多いところが一番上手いのではないかと聞いたのだが、ケータの意見は違う。


——さすが、ケータ。音楽を見る目はありますわ。弾く方もまあ……

——リレイア……  やめてくれない?


 ケータが念話でリレイアが言いかけたのを止める。


——ケータ。音楽をよく聴くが、弾くのはダメってことか?

——違いますわ、クリスクロス。ケータのピアノは決して下手ではありませんの。ただ……

——リレイア! やーーめーーてーー!


 その念話を聞いていたマルキャルトがくすり、と笑った。


 ◇


 実際のところ、ケータは音楽については詳しい。


 学生時代や社会人になってからも音楽は好きだった。

 56世期でも音楽を聞いてはいたが、やはり人生の大半を過ごした21世紀で聞いた音楽が心に残っている。


 ジャンルはクラシックでもジャズでもロックでもポップスでもアイドルものでも何でも聞いていた。

 その中でもリズムとベースとハーモニーとソロの楽器または歌で構成されるものが一番聞きやすい。

 要するに数人でやる現在のバンド形態のものが好みであった。


 ポーーーーン、ポーーン。

 キキッ。

 ツーーン、ジャラン。ポーーーーン。


 ケータが見つけたドルターラ弾きのところに近づく。

 最初見かけた時は試し弾きをしていたのだろう。

 これから本格的に演奏が始まるようだ。今はチューニングをしている。

 一本ずつ調弦しては、全弦を弾いてバランスをと整えている。


 そして、曲が始まった。


 初めてみる生のドルターラ。


 よく見てみるとその演奏方法がわかってきた。

 基本は両手で弾く弦楽器の部分だ。

 演奏方法はギターと共通することも多いのだが出てくる音が違う。

 多少はギターに似ているが、その清らかさと透明度はギターより高くハープのようにも聞こえる。


 ピックを使ってストローク奏法で弾くと、ギターならジャカジャカとと胴鳴りをするはずなのに、ドルターラでは音はあまり歪まずクリーンなまま空間にコード音が広がる。

 また、つま弾くとそのままハープのように流麗なメロディを奏でる。


 彼はドルターラの赤い魔石に魔力を込めるとアルペジオに乗せて曲を歌い出した。

 その魔石は演者が座っている椅子の部分に付いている。

 この椅子部分もドルターラの一部であり、カホンのようにリズムを受け持っている。


 曲の途中で、赤い魔石は輝きを増した。

 するとどうだろう。


 サビ前のフレーズで彼のゴーストが後ろにも現れて、弦楽器の部分の輪唱になった。

 そしてサビではメロディーにハモリが加えられ、デュエット構成で歌い上げた。


 ケータは感銘し、彼の前の帽子に少し多めの銅貨を入れた。

 この人の演奏は本当に素晴らしかったからだ。


 数曲を歌ったあと、楽器だけの曲を2曲やり、その回のステージが終わった。


 そして帽子の前にあるボードの名前を読んで声をかけた。


「カルステンさん」

「はい」

「素敵な曲ですね。それに、ドルターラはこんな豊かな響きを紡ぎ出すのですね。特にあのサビのハーモニーが素晴らしかった」

「ありがとうございます。この地方に古くからある歌で『ワトイアの恋歌』と言います。ドルターラが生まれる前からこのあたりでは歌われていたのですが、この楽器の響きとともにローアニエスト王国全土に広がっていきました。私の演奏などまだまだですがね」

「とてもそうは思えません。このトルタの町はドルターラ弾きのメッカだそうですが、あなたの演奏に一番感動しました」

「あー、はい……嬉しいのですが、この町にはかつて私などはとても敵わない素晴らしいドルターラ弾きの名手がいたのです。今は『堕ちた弾き人』と言われているのですが……」


 途中まではにこやかに話してくれていたのだが、途中から急に歯切れが悪くなった。

 もしかしてその『堕ちた弾き人』がパメロなのだろうか? もしそうなら何かしらの理由でパメロは演奏をしない、またはできない状況に陥っているのだろうか?


「『堕ちた弾き人』ですか? それはどなたなのでしょう」

「いえ、それは私の口からは、ちょっと。どうしてもということなら、楽器屋ヤンクで聞けば教えてくれると思いますが、嫌な思いをするかも知れません」


 そこまでは聞いたものの、言いづらそうにする相手にそれ以上詳しく聞くこともできず、礼を言いケータ達はドルターラ弾きカルステンから離れた。

 その後、何か事情がありそうだ、嫌な思いというのはなんだろう、と思ったケータ達はまずはその楽器屋に行っていろいろ聞いて見ることにした。


 まずは大通りに戻る。

 だが、ざっと見渡したところ、教えてもらった店は見つからない。

 それどころか、意外に楽器店が少ない。


 しょうがないので、メインストリートの入り口にある案内所で聞いたところ、分かったことは……

  ・この町にまともな楽器屋は12。

  ・そのうちドルターラを扱う店は7つ。

  ・そのうち3つがドルターラ専門店。

  ・半分おもちゃのようなトルタにきた記念に買う程度のミニ・ドルターラを扱う店を含めれば20を超える。

 

 この大通りに面している楽器屋は8つでドルターラ専門店はない。

 だが、大通りから一本路地を入ると小さな工房がたくさん並んでいる。


 それらの店のほとんどはドルターラの部品を製造しているのだ。

 そして、その中に3軒だけドルターラ専門店がある。


 専門店を探すのは看板を見ればいい。

 ドルターラの専門店なら末尾はドルタリアーヌである。

 その周りにある部品の工房には ”ドルタルーゾ” という名称が付く。


 例えば「ドルターラ ネック工房イワン」であれば ”イワン・ネクト・ドゥ・ドルタルーゾ” となる。


 細い通りをキョロキョロと見渡しながら、看板を確認する。


 ”ヤンク&ソン・ドルタリアーヌ”


 あった。

 

 ケータ達は店に入る。


「こんにちわ」

「いらっしゃいませ……あのぅ、旅の方でしょうか?」

「はい」

「ドルターラをお求めでしたら表通りの店の方をお勧めします。こちらは地元のプロ・ドルターラ弾き向けの専門店でして。まあ、お売りしないわけではないのですが、値段が最低でも2桁以上違いますし、場合によって5桁以上高い楽器になってしまいます。それと当店は基本カスタム品から受注生産のみとなっておりまして、半年以上の納期が必要ですので」


 お店の主人ヤンクは申し訳なさそうにそう言った。

 一見さんの購入は受け付けていないのだろう。

 しかし、ケータ達の用事はドルターラを買うことではない。


「いえ、すいません。実はドルターラを買いに来たんじゃないんです。この街の伝説的なドルターラ弾きについてお聞きしたくて……」

「……お客さん。『堕ちた弾き人』について聞きにきたんですかい」


 ヤンクの口調がぞんざいに変わる。

 先ほどまではケータをまっすぐ見ていた目は伏し目がちになり、視線を合わそうとしない。


「いえ、『堕ちた弾き人』かどうかわからないんです。パメロさんというドルターラ弾きの名人の演奏が聞きたくてこの町に来たので……ただ、もしかしたら『堕ちた弾き人』がパメロさんのことを指すんじゃないかと思いまして」

「そうかい。だが、そう簡単に話すわけにはいかない。今日のところは帰ってくれ」


 顔を見合わせるケータ達。


「そうなんですか。広場でカルステンさんの演奏を聞いて感動しました。そこで、お聞きしたところ、かつてもっと素晴らしい『堕ちた弾き人』と言われる弾き手がいたが、自分には何も言えない、とおっしゃって」


 するとヤンクは顔を上げた。


「カルステンのヤツか……わかった。知ってることは教えよう。ちょっと待っててくれ」


 門前払いという感じから、態度を一変した。

 口調は変わらなかったが。


 それよりケータは折角目の前にある本物のドルターラを見たい。


「お店の中を見てて良いですか? 触りはしませんので」

「かまわない」


 ヤンクは、奥に何かを取りに行った。

 ケータはその間に、できたばかりで綺麗に磨き上げられたドルターラをじっくりと見ていた。


 このドルターラという楽器は、21世紀の人間からするととても奇妙に思える。

 正面から見ると背中にトロンボーンを背負って、カホンに座り、ギターを弾いているように見えるのだ。

 その全てを一人でやるのは凄いが、見る人によっては奇妙奇天烈なネタ楽器だと思うだろう。


 しかし、この見事なドルターラを見ているとそんなことは微塵も感じない……はずなのだが、ケータは見ているうちに疑問が生じてきたのでリレイアに念話で尋ねた。


——これ、どうやって弾くんだ。というか、弾きにくくないか? ギターに似てるところもあるけど。 


 音楽というのは綺麗な音が鳴ればいいという物ではない。

 単に透明度が高いだけならこのドルターラに軍配が上がるとしても、弾きにくさは表現力・奏法など楽器の自由度の幅は狭める。

 であるなら、ギター以外のサウンドが鳴るとしても説得力に欠ける。


 しかし『スラマーセルの瞳・改』で聞いた音も広場で聞いたカルステンの演奏も、不思議に心に直接語りかける説得力を持っていた。


——それは、大きく二つの要素がありますが、実は魔法が関わっていますの。

——魔法? じゃあ、ドルターラは魔道具なのか?


 ケータはびっくりするが、マルキャルトもクリスクロスも何のリアクションも示さない。


——知らなかったのか?


 クリスクロスは知っていたようだ。

 マルキャルトは……何も考えてない?


——いえ、魔道具とはちょっと違いますわ。あえて言うなら、魔法による補助機能を持った楽器ですね。

——魔法による補助機能?

——はい。それが二つの機能になります。一つは、連携と拡大ですね。


 ドルターラのメインはギターに見える部分だ。

 これは弾いた音がそのまま出ているので、誰にでもわかる。

 

 とすると説明が必要なのはそれ以外の部分だ。


 まずは、その清らかな音を支えるホーンサウンドである。

 背中に背負っているように見えるトロンボーンのようなシステムはかなり低い音を出していて、音域的にはユーフォニアムからチューバのあたりまでをカバーする。


 だが、ギターを弾いただけではトロンボーンもチューバも鳴らない。

 どこかで弦の出力を変換したとしてもトロンボーンに空気を送り込むことはできないし、できたとしても力不足だ。


 リレイアは、それを補っているのが魔法であると説明した。

 ギター部分に埋め込んであるのは魔石には、その機能であるらしい。


 ケータがそれに気が付かなかったのは、地球のギターの指板にも貝をあしらったものがあるので、普通の装飾品だと思い込んでいたからである。

 この魔石がギター部分の音を拾って、トロンボーンに空気を送り込む風属性の魔法を起動している。 

 同様に、座っているカホン部分は、前から叩くと低い音がしていてバスドラ相当の低域を担当する。

 ドルターラ弾きはブーツを履き、踵で叩いてカホン部分を操作する。


 後ろ側から叩くとスナッピーがかかるようになっていてスネアドラムの役目を担う。

 これには風と土の属性が関わっているらしい。


——なるほど、各楽器の部分が時間差なく連携し、動力不足は拡大魔法で補っているわけだ。

——はい。そうですわ。

——とすると、もう一つは。


 そこで、リレイアは少し首を捻り。


——もう一つはですね、いくつか機能があるのですが……ああ、そうだ。昨日のカルステンさんの弦やコーラス部分が輪唱になっていたでしょう?

——ああ! あれか!

——あのように、出力された音に対して加工する魔法は、カホン部分の正面についている魔石によって行われますわ。

——それって、コーラスとかリバーブとかエコーとか、そういう奴か?

——ええ、ケータは音楽について詳しいですから説明が楽ですわ。


 クリスクロスとマルキャルトは置いてきぼりだ。


——わかりました。次に生演奏を聴くときに改めて説明します。でも、必要はないかも知れませんわ。


 ケータにはわかったような気がしたが、クリスクロスとマルキャルトは余計わからないという顔をしている。


 ◇


 リレイアの説明が一通り終わる頃に、ヤンクは戻ってきて言った。


「あんた達、これがなんだかわかるか」


 ケータはうなづくが、マルキャルトは首を横に振る。

 同様にリレイアは解っているが、クリスクロスにはわからない。


 それは地球のもの。

 デジタル・オーディオ・プレイヤーとイヤホンだった。


「これを持ってきた男が、パメロ・キュレータを悪様(あしざま)に罵倒した。そして、これを聞かせてな」

「……なんと言ったんです?」

「『お前の演奏など意味のないものだ。嘘だと言うのならこの曲を聴いてみろ』と言ってパメロに渡した」

「……それで」

「パメロ・キュレータは、それを聞いているうちにうずくまり、それでも聴くのをやめなかった。丸一日それを聴いているうちにそれが壊れて聞くことができなくなった」

「それを渡した男は?」

「渡したきりで立ち去った。嘲笑いながら」


 それを見ていたケータは。


「ちょっと見せてもらえますか?」

「ああ、構わないよ。持って帰ってもらってもいい。壊れてるからな」


 それを受け取ったケータは念話でリレイアに聞いてみた。


——これ本当に壊れてるのか?

——調べてみますわ……ああ、単なる電池切れです。ちょっとポケットに入れて下さい。充電しますわ。


 ケータは受け取ったプレイヤーをポケットにいれた。

 すると、ほんの30秒もしないうちに……


——充電状態80%まで回復しました。

——えっ? …………ああ、ありがとう。


 ケータは『何でこんな短い時間で』と思ったが、そこはリレイアのことである。

 何か21世紀ではわからない手段で急速充電したのだと納得した。


 ポケットから出して、電源をONにする。

 起動を確認してリストを選んで曲を再生してみた。

 表示モードがスペクトラムになっているで、音域ごとのボリュームが棒グラフのようにピコピコ動いている。

 ケータはイヤホンを付けて曲を聴き始めた。

 知っている曲だ。


 普通に21世紀で流行っている曲であったが、自分がいた頃より少し古いものが多い。

 ジャンル的にはクラシック、ジャズ、ロック、J-popとなんでもござれであった。


「あれっ? 壊れてたはずなんだが……」

「たまたま調子悪かっただけじゃないかなあ?」


 電池が切れていただけだが、説明してもわからないだろう。


「そのう……悪いが俺にも聞かせてくれないか?」

「あっ、はい。どうぞ」


 ケータはストップボタンを押して、ヤンクにプレイヤーを渡した。

 ヤンクは手間取っていたが、▶︎マークのプレイボタンを押して聴き始めた。

 1曲、2曲……結局10曲目までを聞いたところで、プレイヤーを止めた。


「これか……パメロの奴はこれを聞いたのか……」


 そう言って、しばらく下を向いた後。


「不思議なもんだなあ。そして……ドルターラ弾きに取っちゃあ地獄みたいな魔道具だ」


 この世界の人間には魔道具に見えるらしい。

 しかし、地獄みたいと言うのはどう言うことなのだろうか?


「曲は聴いたこともないし、歌っている歌詞も異国のものでまるでわからない。だが、演奏がもの凄いものであることだけはわかる。どうやってこんな音を作ることができるのかはわからないがな……それで、あんた達はこれが何だかわかるんだな?」

「はい」

「カルステンがウチの店の名前を出したってことは、奴のドルターラを聴いたんだな?」

「はい。素晴らしい演奏でした」

「そうか…………あんたらなら……もう薄々気づいちゃいるんだろうが、『堕ちた弾き人』ってーのは稀代のドルターラ弾きパメロ・キュレータのことさ。そのパメロは、そのけったいな魔道具で音を聴いたあと、呆然としてな。時の名人が作ったドルターラを全部燃やしちまったんだ。それからパメロはドルターラを弾かなくなった。まあ、弾きたくてもこの町のドルターラ職人が嫌がって奴に楽器を作らないだろうがな」


 その話を聞いて、ケータはリレイアに念話で尋ねる。


——パメロを(おとし)めたのは……

——ケータには解っているでしょう? 私に確認するまでもないですわ。間違いなく地球からきた転生者ですの。地球の音楽の方が勝っていると言いたいだけの鼻持ちならない者もしくは名人と言われるパメロを貶めることを目的とした愉快犯ですわ。

——わかった。でも、そいつのことよりもまずはパメロがどこにいったか、だね。


 ケータも勿論、そうは思っている。

 ただ、何となく確認したかったのだ。


「それで、パメロは今どこに?」

「知らん…………と今までは答えてきたんだが、俺はあんたたちに賭けることにした。パメロの奴はこの先のドルターラのホーン職人ピネラ爺さんが預かってる。ただでは会わせないと思うので、カルステンと俺の名前を出してくれ。おそらくそれでパメロに会うことができるだろう。できれば、奴を……パメロ・キュレータを救ってやってくれ。またドルターラが弾けるように」

「わかりました。僕も是非彼の演奏を聞きたいんです。何ができるかわかりませんが、力を尽くします」


 ケータ達はヤンクの店を辞した。

 そして、ドルターラのホーン職人ピネラの店に向かった。


 だが、店は閉まっている。

 横に小さな出入り口と鈴がついているので、それを鳴らした。


 一度、二度。

 鈴を鳴らしても人は出てこない。


 けれどしつこく鈴を鳴らし、戸を叩くと……。


「なんじゃあぁぁ! お前らはぁぁ!!」


 激怒した小太りの爺さんが現れた。

 これが工房の主ピネラだろう。


「すいません。ヤンクさんの紹介で来たんですが」

「ヤンクじゃと? 修理なら奴のところを通せ。新品のオーダーは今は受けておらん」

「いえ、そうじゃあなくて…………ああ、カルステンさんからも話を聞いていて」

「……なんじゃ。それを早く言え!」


 ピネラは突然、怒りの表情を消し手招きをしてケータ達を家の中に入れ、周りを見渡すと小さな出入り口を閉じた。


 探していたドルターラ弾きの名人パメロ・キュレータは地球からの転生者に心を折られていた。

 今は『堕ちた弾き人』と言われて、ドルターラからも距離を置いている様子。


 ケータ達はそんなパメロの力になれるのか。


 次回、『64話 パメロ・キュレータに会えば』 11/15 投稿予定です。

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