59話 ドルターラの聖地を探すならば
ロプルート村から北へ向かうケータ達。
しかし、見送る村人にどこに行くかわからないと言われます。
それって一体……
翌朝、ケータ達はローアニエストで最初に立ち寄った村ロプルートから、北に向かって出立することにした。
「ケータさん、午前中に行かれるのか……本当は午後の方がはっきりするのじゃが……しかし、どこに着こうとトルタの位置がわかるわけでもないか。そうですの、道中お達者で」
「北へ向かおうと思うのですが、次の村はどこになるのでしょうか?」
「うむ……昨日はマルポト村だったかの」
今度は「昨日は」である。
どうせ聞いてもはっきりした答えは返ってこないだろうと踏んで、ケータは気にせずに行くことにする。
「「ありがとうございます。お世話になりました」」
ケータとマルキャルトは挨拶をして村を後にした。
もちろん、リレイアとクリスクロスは姿を見せていないので、挨拶はしないがそれでも村長さんに礼はしていた。
意外に律儀だよな。この妖精ども。
村を出てしばらく進むと霧が立ち込め始め、ものの5分で前がすっかり見えなくなってしまった。
「ケータ。注意して下さい。大地におかしな波動を感じますわ。地震のようなものとは違いますの……これは、まるで大地が転移しているかのような……」
「バカな。そんなことあるわけないじゃん……んん?……おおおお……なんだこれは!!」
姿を消していたはずのリレイアとクリスクロスが、あまりのことにその姿を見せ実声で話してきた。
余程のことが起こっているらしいのだが、ケータとマルキャルトにはただ霧に巻かれただけで何も把握できない。
「収まるようですの」
そう言って、リレイアはまた姿を消した。
クリスクロスもそれに続く。
やがて霧が晴れ、ケータたちはまた北に向かっていた。
ほどなく次の村に着いたがまだ昼前だ。
もう一つ先の村まで行けるはずなのだが…………
—— ケータ。この村がどこなのか聞いてみてくださいませ。
—— 村長さんの話じゃ、マルポト村じゃなかったっけ?
—— 私、聞いてきます。
ケータとリレイアの会話を聞いていたマルキャルトは、聞いたほうが早いとばかりに村の中に走っていった。
ほどなくマルキャルトは帰ってきたが、顔色がない感じがする。
「どうだった?」
「違い……ました。ここはマルポト村ではなく、ペーニャという村だそうです……」
よほどショックだったのか?
いや、混乱しているのだろう。
ロプルートの村長が嘘を言ったとは思えないし、一本道で迷うはずはなかった……はず。
—— マルキャルト。あなたがおかしい訳ではありませんわ。何かがあるんです。
—— リレイア。そうは言うけど、何かって何だよ。
クリスクロスが苛立つ。
この得体の知れない状況にもやもやしているのだ。
—— わかりませんわ。それより、ケータ。マルキャルトのケアはしておきますから、あの村民が集まっている掲示板を見てきてもらえませんか?
—— わかった。
ケータは呆然としているマルキャルトをリレイアに任せて、村人が集まっている掲示板のところへ走っていった。
「こんにちは。この掲示板には何が書いてあるんですか?」
「この村の近辺の地図だよ」
「地図? なんかどんどん書き込んでいるみたいですけど、古い地図を書き換えているんですか?」
「何言ってるだ。昨日の地図を書き換えとるんだ。地図は毎日、書き換えないと困るだろ」
その村人は何を当たり前のことを言ってるんだ、と訝しげにケータを見ている。
「あ、ああ……そうなんですね? 僕らは北に行きたいんですけど」
「北? ああ、あんた他の国からきた旅のお人かい? どこに行きたいか知らないが、方向なんぞ決めてもどこに着くかわからんよ」
「トルタという町に行きたいと思いまして……」
「トルタかい……トルタは有名だし、どんな町かは皆知っている。だが、どこにあるのかは誰にもわからねぇ。もし、北に行くんなら……おい、お前ら! 北に行った連中は戻っているか!」
その村人は掲示板の前の村民たちに北に何があるか聞いている。
「はい。今日は北は近いですよ。ヤムダルアです」
「旅人の旦那。今日はついてますぜ、夕方までに北の道を進めばヤムダルアの町に着きます。冒険者ギルドもあるそこそこの町なんですわ。そこでトルタがどこにあるか分かるとは思いませんが、少なくともこんな田舎の村よりも飯も宿もいいところに泊まれます」
「あっ、ありがとうございます」
ケータは村人に礼をして、マルキャルトがいるところに戻っていく。
「北に向かおう。聞いた話はおいおい話す」
そう言いながら目配せをすると、マルキャルトは察してくれたらしく何も聞かず、村の外へ一緒に歩き出した。
村の外へ出て、北の街道を進む。
リレイア、クリスクロスとも会話をするので、ここからは念話だ。
ケータとマルキャルトも念話で会話を進める。
—— どうでした?
マルキャルトが聞いてきた。
—— 北に向かうとヤムダルアの町に着くそうだ。ただ、夕方までにと言われたのが気になって。
—— やはり。そうなんですのね。
ケータの答えをリレイアは予想していたらしい。
—— 何かわかったのか。
—— いえ、まだ仮説に過ぎませんの。とりあえず、先を急ぎましょう。
そう言って、ケータたちを急がせペーニャの村を後にした。
◇
北の街道は霧が出ることもなく、しばらくは周辺の様子も穏やかだった。
ところが草深い茂みに差し掛かったところ、ガサガサと音がする。
—— 野獣ですわ。魔獣化はしていませんの。普通のオオカミの一種でしょう。
—— おいらがやるよ。
クリスクロスが飛び出して行った。
一応、妖精の一種で準天使のはずなんだが、天使って狩りなんかしていいのだろうか?
ザザザザザ、ピシィーー、ギギャ……ザザン
何か魔法を飛ばして一撃で片付けたらしい。
—— 悪りぃ、草むらから追い出して始末すりゃ良かった。運んでくれぇ。
思わず、見つけたところで魔法をぶっ放したらしい。
やれやれという感じで、ケータはクリスクロスが倒した狼を草むらから担いで、街道脇にあるちょっと広い草地に置いた。
—— どうしようか。リレイア、解体してくれるかい?
—— いえ、ケータ殿。解体も冒険者の仕事だと聞いてから勉強しましたので、私が。
マルキャルトが、解体を買って出てくれた。
解体は北の砦の修行中に、冒険者上がりで士官した騎士から教わったようだ。
真面目な彼女らしいが、女の子が率先してやる仕事でもないのだが……うーん、素早い、そして的確だ。
「ケータ殿、出来ました。これでどうでしょう」
「はぇー、見事なもんだ」
ものの10分もしないうちに、腑を削ぎ落とし、ギルドで買取り対応してくれる皮と牙と肉に分けてしまった。
町まではもう少し時間があるのでいらない部分は焼却処分し、買取り可能な部分をケータが持っていくことにした。
そして、また北の街道を歩き出す。
—— 冒険者ギルドで買取りに出した時に、話のついでという感じで周辺の様子を聞くことにしよう。
—— ケータ。今度は町の中で、ナノマシンを調査に出しますわ。実は村民たちの意識も覗いたのですが、今ひとつ自信が持てなくて……これだけ大きな町ならはっきりするでしょう。
そのまま北の街道を進むと夕方日が落ちる前に町に到着した。
確かにその町はヤムダルアの町だった。
リレイアには何か腹案があるようだ。
—— ケータ。この時間ならまだギルドは買い取りを受け付けるでしょう。行ってきてもらえますか。
冒険者ギルドというものは、クルゼナントのような大規模なものは全ての業務を24時間受け付けるのだが、小さなギルドの場合は夜間に受け付ける業務が限られている。
依頼受付などは緊急のものがあるので24時間受け付けるものの、解体した獲物の買取りなどは夕方をすぎると翌日まで窓口が閉まってしまう。
—— マルキャルト。宿を取りましょう。ケータにはボットを経由して念話でどこに泊まったか知らせますわ。私はまず、この町のあちこちにナノマシンを飛ばして調査しようと思いますの。
なるほど、手分けして調査を進めるのか。
—— OK。リレイア。買取りついでに、トルタについても聞いてみるよ。
—— わかりました。リレイア殿。まずは宿を取ります。少し広めの個室にしますね。
—— おいらはどうすんだよ。
クリスクロスのこと考えてないと怒るのでは、とケータは思ったがリレイアには考えがあるようで……
—— クリスクロスには、町の外周を丹念に調べてもらいたいですの。特に地質が不自然に変化しているところがないか、を。これはケータやマルキャルトには頼めませんので。
—— ううっ、面倒だな。けど、確かに、おいらにしか出来ねぇな。わかった!
自尊心をくすぐってクリスクロスを乗せてしまった。
クリスクロスの仕事は本当は何も考えてなかったのでは、とケータは思う。
しかしケータは、そんなことには気づかないフリをして冒険者ギルドに走っていった。
マルキャルトとリレイアは宿を探しに、クリスクロスは町の外周の調査である。
◇
「ケータ殿、お疲れ様。買取りどうでした?」
マルキャルトが、ケータにそう話している間にリレイアは個室に隠蔽と遮音、他人がこの部屋に近づかないための認識阻害を掛けた。
リレイアは姿を見せて、実声で喋ることができる。
取れた部屋は大きめであったので、今日は亜空間拡張は不要だ。
「ああ、買取りはうまくいったよ。解体が丁寧だとギルドのおじさん褒めてたぞ」
「そうですか、それはよかった」
マルキャルトは嬉しそうだ。
解体した獲物を買取りに出したのは初めてだったので、気にしていたのだろう。
「残念ながらトルタの目ぼしい情報は得られなかったけど」
「それは残念でしたね。リレイア殿、村ではなくこのレベルの町でもトルタのことがわからないと困りますね」
そう言ってる間に、クリスクロスが帰ってきた。
クリスクロスも姿を見せている。
「この町変だぞ。まるで町ごと植え替えたみたいだ。植物を鉢植えしたみたいに」
「クリスクロスお疲れ様。思った通りですわ」
クリスクロスの話に驚きもせず、当然のこととして受け入れたリレイア。
何かに気づいているようだ。
「今のクリスクロスの話ではっきりしましたの。マルキャルトと宿を探している間にナノマシンを2段階でばら撒きましたの」
「2段階?」
「はい。まず、酒場などで何が話されているかをまず把握しようと思いまして、特に周りの町や村に関して話題にしている人たちを20人ばかりピックアップしました。そのあと、その20人の意識下にある情報を細かく知るためにさらに小さい人体の奥深くまで入れるナノマシンを脳にまで送りまして、潜在的な情報を得ましたの」
用意周到だ。
何か確信があるのだろうとケータは思う。
話を促す。
「それで?」
「はい。私に俄には信じられないのですが、このローアニエストでは村や町の位置が確定していないようですわ。しかも周辺の村も含めて、どこの村でも正午に村から人を出して、自分の村の周辺を調査していますの。そして、その情報を持ち帰り、その日の周辺地図を更新しているのです」
マルキャルトはうーんと考え込んでいる。
「でも、リレイア殿。すぐに周辺の調査をしてもすぐに変わってしまうのでしたら、地図を更新しても意味がないのでは?」
なるほど、マルキャルトの疑問はもっともだ。
「それは、この辺の村はそれぞれに特色があり、畜産が盛んな村、田畑が広い村などありますから、村同士の物品の交換が重要ですの。そして、この村の位置の移動は必ず、真夜中から翌日の午前中に発生するようですわ。ですから、正午に人を出せば夕方までは安全に村同士の移動が可能ですので」
「でも、そんなこと可能なのか? あちこちの村全てを動かすなんてそんな大魔法」
ローアニエストでは、毎日町や村の位置をシャッフルして入れ替えられている。
果たして、そんなことが可能なのだろうか?
そしてそれは誰が実行しているのか?
どっちにしても、簡単に行えるようなものではないとケータは思う。
「相当なムリをしているようですわね。このやり方はすでに限界に達してるような気がしますの」
「その理由は?」
「魔素の消耗ですわ」
「あー、それならおいらもわかる」
魔素の消耗。
リレイアはローアニエストで土属性だけがやたらに強く、他の属性の魔素がほとんどないと言っていた。
それは何らかの手段で、土属性に変換されているだけだと思っていたのだが。
「確かに土属性は多いけど、せいぜい3倍程度だからな。他の属性から変換? するにしても全体の魔素の量が少なすぎらぁ。こんなことずっと続くわけがねぇ。とするとどっかで急に減ったに決まってる」
「ええ、クリスクロスの言う通りですの。元々魔素が豊富な土地だったのでしょう。しかし、長年に渡り魔素を消費し続けてきてこの土地は疲れています。いずれこの町や村の移動はシステムとして破綻します」
状況はわかった。
しかし、リイレアはそれをどうしようと言うのか?
「それで?」
「このシステム。おそらく何らかの魔法であるには違いありませんが、これを破ってみようと思います」
「大丈夫なのか? そんなことして」
「はい。この魔法の根幹は移動というより入れ替えですね。入れ替える村や町の中に状態には一才関わりません」
「ああ、それはおいらも保証する。町の周りを調べてみると、まるでそのの周囲の土地から切り離されて動いているようだったからな」
この魔法を破っても町や村には被害が出ないと言っているらしい。
「ですので、明日の夜中から明後日の午前中にかけて、この魔法の発生時刻に干渉します。破れれば、この魔法の黒幕が登場するでしょう。おそらくは敵対することにはならないと思いますの」
「なんでそんなことがわかる?」
「守りの波動? でしょうか。この魔法には邪悪なものは感じませんの」
しかし、邪悪なものを感じないとしてもこの魔法が破れることで利害関係が発生するのではないかとケータは思う。
「おいらも大丈夫だと思う。もし、これが問題だったらグラムゼア様はケータに任せねぇよ」
「「「あっ」」」
「クリスクロスにしては、鋭いですわ!」
「あんだとぉー。おいらにしては、ってのはどーゆーこった!」
そうだった。
ケータはグラムゼア様から、依頼を任されたものの内容は行けばわかると言われ、聞いていなかったのだった。
こんな旅の障害があるならなんとかしなければならないので、これを解決することが依頼の中身であることは十分あり得る。
「まあまあ、クリスクロスも抑えて……。それでリレイア。具体的にどうするんだ?」
「まず、明日はゆっくり休養してください。宿にはギリギリまで居て頂いて結構です。その後は食料を買い込みましょう。クルゼから持ってきたものはかなり減ってますし、今後、野宿や野営が続くこともあり得ますので」
「よかったーーー。今夜はぐっすり眠れるんですねー」
マルキャルトが喜んでいる。
騎士団に属しているときも、1人でいた時も基本的に宿舎や自宅、このような周囲を気にしながらの長旅は初めてだったのだろう。
そういえば、道中も随分と緊張していたようだとケータは思った。
「その後は?」
「明日は宿を取りません。夜中に町を出て北に進みます。ゆっくりで構いませんの。霧が出るのを待ちますわ。霧が魔法の合図ですので私がそれを破ります。念のため、クリスクロスにはケータとマルキャルトを守る結界を張って頂きたいですの」
「了解だぜ」
その夜、ケータたちはゆっくりと休養し、翌日は宿を叩き出されるまでたっぷりと朝寝坊した。
午後は食料の買い出しをして夜が待ち、食堂で夕飯を取ると町を出ようとしたが。
「あんたら、この時間から町を出るのか。どこに着くかわからんぞ」
「どうせ、どこに着くかわからないじゃないですか」
「そりゃそうだが、付近に村もない僻地に飛ばされて死んだ奴もいると聞くぞ」
「ああ、大丈夫ですよ。そのために食糧も買い込みましたから」
「そうかい? まあ、お薦めはできんが、止めはせん。達者でな」
「ありがとうございます」
ケータたちは、ヤムダルアの町を後にした。
行き先がどこになるのかもわからないまま、ケータ達は村を出ます。
リレイアには何か方策があるようで……
次回、『60話 ローアニエストの謎を解き明かせば』 11/1 投稿予定です。




