58話 最初の村に辿り着けば
ドルターラの聖地トルタの町を目指して、ローアニエスト公国に入りました。
しかし、何か変です。
ケータ達はロブナント領を経ち、王都クルゼナントに立ち寄った。
ローアニエストに行く前にブルム伯爵に会っておこうと思ったのだ。
グラーム教の事件では神様に無理やり転移で送られてしまったので仕方なかったが、今回のように事前に報告できるならば一応国外に出る前に挨拶ぐらいはしておこうと思ったのだ。
「お久しぶりです。ブルム伯爵」
「ああ、よく来たな。ケータ、マルキャルト。ロブナント領はどうだ?」
「はい。農村でのんびりしていたかったんですが、ちょっと野暮用でローアニエスト公国に行くことになりまして」
「ローアニエストに? 何か事件とか不穏な動きがあるのか?」
「いえいえ、そんなんじゃ……実は、ドルターラの生演奏が聴きたくなりまして」
「マルキャルトもか?」
意外そうに聞くブルム伯爵。
「いえ、私はケータ殿の護衛です」
「そうだろうな。あまり音楽とか聴くタイプじゃないか」
「ブルム様、私が音楽聴いては変ですか?」
ムッとするマルキャルトを、まあまあとケータが宥める。
するとブルム伯爵は。
「いや、悪い悪い。そういうわけではないんだが……それよりケータに護衛が必要なのか」
「ケータ殿はこの前、倒れたのです」
「倒れた? 大丈夫なのか?」
「はい。もう心配はいらないと言ったんですが、どうしても、と」
ケータは手を振って元気をアピールするが。
「病み上がりに楽器の演奏を見たいと言って、隣国まで行こうとするのですから心配にもなります。それに、私も魔道具で見せてもらってから興味が湧きましたし」
「ドルターラかあ。閣下も一度聴きたいと言っていて国賓扱いで演奏者を呼ぼうとしたのだが、ローアニエスト公国に断られてな」
国王の招聘ですら断られるのか……
「あー、そうなんですか。だとしたら難しいかなあ」
「ん?……どう言うことだ?」
「トルタという町がドルターラの聖地だと聞いてそこに行こうと思ったんですが、クルゼ王国の人間だと町に入れないのではないか、と」
それを聞くとブルム伯爵は。
「いや、ローアニエストに行って見たり聴いたりする分には問題ない。現にクルゼ王国の商人でトルタの町の生演奏を目にしたという話はよく聞く」
「行けるんですね! だとしたら、来た甲斐があった。どこにあるのか、どうやっていけばいいのかがわからなかったんですよ」
「なんだ。ケータ殿。それを聞くのが目的か? 私に逢いに来たのは」
ブルム伯爵はニヤッと人の悪い顔でケータを見ている。
「そんなことありませんよぉ。でも、調べてもわからなかったので、知恵をお借りに来たのは本当ですけど……」
「いや、いい。それに……あんまり役に立てないかも知れない」
どういうことだろう?
と、話の続きを待つと。
「トルタの町の名は有名なんだが、実は私にもどこにあるのかはわからないんだ」
「ええっー。そうなんですか……。困ったなあ。北の街道を使うか、ジャル・シャロウから船で行くのかが知りたかったのに……」
「ああ、それなら北の街道を行くしかない。ジャル・シャロウからの定期船には乗れないのでな」
「そうなんですか?」
「ああ、商人たちも港からローアニエストの国には入れないそうだ。船の上に向こうの商人がやってきて、その場で商談と荷物の積み下ろしのみが可能なのだとか。交渉については何の問題もなく持っていった積荷もいい値段で捌けるし、帰りの荷物も安く譲ってもらえるそうなのだが、何にしても華やかに見える港町に降りられないのは残念だとこぼしていたよ」
「随分、極端な国なんですねー。だとすると北の街道を進んでも町に入れないんじゃないですか?」
そういうと、ブルム伯爵は難しい顔をして。
「そこが不思議なんだ。北の街道からローアニエストの町に入る限りは何の制限もないんだ、と。だが、その町にたどり着くのは楽ではない」
「?」
「まず、地図がない。トルタの町はどこにあると聞いても『街道をそのまままっすぐ行って、着いた町で聞け』とか『恐らくもっと北にあるだろう』とか答えるばかりで、何日かかるかとか、ローアニエストのだいたいどの辺にあるのかとかがわからないと聞いている」
「それは困りますねー」
「ああ、だから根気良く、言われるがままに街道沿いの町を巡りながら聞いて回った商人がわずかにたどり着いたことがあるだけなんだ。ちなみに、その時の旅での商売は大赤字だったそうだよ」
まあ、そうだろうな。どこにあるかわからないのでは大きな荷物は運べないし、北の街道がつながっていることがわかっているにしてもどこまで、この道の状態が持続するかもわからないのだ。
大きな馬車では通れない道もあるかも知れないし、夜盗などが出没するなら護衛もつけないといけない。
けれど……
「……でも、帰ってきた商人はいたんですよね。その人たちに聞けば……」
「それがな。その商人たちもわからないと言うんだ。随分聞いて回っては見たんだが……北の街道がローアニエスト内でどこに繋がっているかを聞いて地図に書き込んでおこうと思ってな。だが、ローアニエストに行った商人を順番に呼んで話を聞いても、あやふやでしかも聞くたびに違うことを言う有様だ」
姿を消しつつもその話を聞いていたリレイアは念話でケータに話しかけた。
——認識阻害系の術をかけられたと考えるのが普通なのですが……
——歯切れが悪いな。リレイア。
——それだけではないように思えますの。
なんだろう?
——他の可能性は?
——幻惑系ですとか……それも広い意味では認識阻害系に含まれますけど、全く別の可能性もあります。
——魔法じゃないとか?
——いえ、魔法かどうかは別としても……魔素を使った何かではあると言えるだけで正確にはわかりませんわ。
魔素を使ったことは断言できるんだ。
それなら、まあいいかなあ。
魔素に関する何かなら、リレイアが現地で調べればわかるだろうし。
「ブルム伯爵。明日、王都を経ちたいと思います」
「北の街道で行くのだな」
「はい。商人も行き着いているのならなんとかなるのでは、と」
「たどり着いた商人は3割もいないぞ。まあ、危険なことはあまりなくて、路銀を使い果たして帰国を余儀なくされるケースがほとんどだが……」
そこでケータは冒険者なら討伐で旅の途中の路銀を賄えるので、商人とは違うのではないかと思ったのだが……
「冒険者として魔獣や魔物を討伐すれば、ギルドで売ることはできますよね?」
「いや、それは難しいな。冒険者ギルドは非常に少ないらしい。そして、何より魔獣や魔物が少ないそうだ。普通の大型野獣が精々と言うところか。まあ、旅の商人には十分脅威ではあるがね」
「そうですか……野獣ではギルドに持って行っても二束三文ですものね」
だが、ブルム伯爵はそれに異を唱える。
「いや、そんなことはないぞ。大型の野獣ならギルドで買い取ってくれるだろう。まあ、ギルドに行かずとも立ち寄った村で宿代の代わりとか現物交換ができるかも知れない。流石に小さな村では、金貨と交換して儲けるというわけにはいかないだろうが」
「ええ、それで大丈夫です。宿代が節約できるなら」
「私も剣を振るってケータ殿を助けます」
「わかった。行ってこい。陛下にもケータたちがローアニエストに向かったと伝えておく」
「そんな……わざわざ陛下に言わなくとも……」
ケータは自分が国の重要人物だとは思ってはいない。
だが、ブルム伯爵は別の意図があるようだ。
「いやいや、陛下はケータのことを気にしておられるんだよ。特に、トルタに向かったと聞けば自分も行きたかったと悔しがられるだろうな」
ケータはブルム伯爵に礼をして王宮を辞した。
自分の借りていた部屋はもうなかったので、王都に宿をとり翌日の朝に出発することを決めた。
◇
翌日、ケータはローアニエトに向けて出発した。
北の街道を進み、国境までの間で途中一泊する予定だ。
そして、立ち寄るのは北の街道の店だ……ん? 看板がでてる。
「メイソンさん。お久しぶりです」
「あれっ? ケータさんにマルキャルトさんじゃないですか。また何か事件ですか」
この店の責任者であるヨシュア・メイソン本人が店の前に立っていた。
「いやだなあ。事件じゃなくてもメイソンさんには会いに来ますよ……まあ、今回は旅の途中で立ち寄ったんですけどね。それにしても看板出したんですね。『北の街道・道の駅』って……その名前は……」
「ええ、もう転生者が襲ってくることもないと思いまして。逆に他の転生者が立ち寄ってくれたら名前でわかるじゃないですか。同じ元日本人の繋がりも持ちたいと思いまして」
「それで『道の駅』なんですね? 日本人の転生者なら絶対気付きますね。繋がり……か。いいですね。転生者が敵とは限りませんもんね。では、僕がヨシュアさんの転生者繋がりの第一号ってわけですか?」
「ええ。ですから歓迎しますよ。ここは宿屋ではないので、お客さんには提供していないのですがケータさんは特別です。余った部屋がありますので泊まっていって下さい。夕食も腕に縒りをかけて出しますので期待してください」
転生者には見つからないようにしてきたし、それはある意味では正しかったけれど、同じ元日本人同士で敵対せずに済むのなら仲良くやっていきたい。
でも、それは危険と隣り合わせの現状では中々できることではなくて……
だからこそ、それを繋がりとポジティプに捉えるメイソンさんの気持ちがケータはとても嬉しかった。
夕食の時間になり食堂に行ってみると、華やかで新鮮な肉と野菜を使った料理が並んでいた。
この世界では香辛料の入手も難しいはずなのに、味付けにはふんだんに利用されていてとても旨い。
それは、ここの料理はピボーテ子爵の親戚がやっているからだ。
一族で王都でお菓子の店を経営しているが、お菓子だけでなく料理も負けず劣らずだ。
「ケータ殿、前にカリオンと対決した日には緊張して味もよくわからなかったのですが、こんなに美味しかったんですねー」
「いや、料理のレベルはあの頃からさらに上がっていると思うよ。まあ、あの時も味は抜群だったけどね」
「はい!」
マルキャルトは嬉しそうだ。
その晩はメイソンさんにもドルターラの聖地トルタの町の話をしたら、大層悔しがっていた。
「メイソンさんもドルターラが好きなんですか?」
「いえね、最初は楽器の名前すら知らなかったんですよ。ですけど、ここは北の街道じゃないですか。ローアニエスト帰りの商人の人たちが絶賛していて、魔道具で映像を見せてもらったんですよ。そうしたら、ハマってしまって」
「『スラマーセルの瞳』ですね。リレイアがそれの改良バージョンを作ったんです。いくつかの演奏の映像の魔石があるので、ご覧になりますか?」
「ええ、是非!」
そんな訳で一晩の宿と食事の礼も兼ねて、ケータは名人と言われるパメロ・キュレータの演奏を見せた。
「これ、凄いですね! 画像も鮮明ですし、音がちゃんとステレオで鳴ってます」
「そうなんですよ。実は魔石の中の音楽情報はちゃんと2チャンネル分あることをリレイアが見つけまして」
「うわー、こんなの見せられると私も実際の演奏を見に行きたいです。実は日本ではライブに随分行っていた口でして」
ケータには意外だった。
メイソンさんは引っ込み思案で、ライブとか積極的に行くタイプには見えなかったから。
しかし、そう言うことなら……
「もし、トルタの町に辿り着けたら、魔石に録画して来ますよ」
「はい。楽しみにしてます」
ケータはトルタの街で録画するつもりの魔石がいいお土産になるといいなと思った。
その日は、メイソンさんの店の部屋に泊めてもらい、翌朝ローアニエストに向けて出発した。
◇
北の街道を進むと左右に広がっている草原の向こうの森がだんだん近くなってくる。
草原は北に行くほど狭くなり、森がその分だけ広がっているからだ。
——魔素が濃くなってきましたわ。
——魔の森が近いのだから当然だろうな。
リレイアとクリスクロスは姿を消している。
他の旅人や魔の森で狩りをしている冒険者と出くわす可能性があるからだ。
——けど、おいら何かおかしな感じがしてる。
——クリスクロスもですか? 私もです。
リレイアとクリスクロスは何か違和感を覚えているらしい。
——何か危険があるのか?
——魔獣が出たならおまかせを。
ケータとマルキャルトは魔獣に対する備えが必要なのかと考える。
ちなみにマルキャルトとケータは念話が使えないので、いつも通り呼びかける脳波をリレイアが念話として仲介している。
——いえ、そう言うのとは違いますの。
——おいらも危険だとは思わねーけど……
クリスクロスとリレイアはどうにも歯切れが悪い。
けれど、危険じゃないと言うので先へ急ぐ。
そうして北の街道を進んでいくと、立て札が一枚あった。
“これよりローアニエスト公国。目的なき他国民の立ち入りを禁ず”
なんなのだろうか。
国境には誰もいないし立て札一つだけである。
しかも『目的なき他国民の立ち入りを禁ず』とは随分曖昧な禁止事項だ。
——おかしいですわ! 魔素の組成が一変しました。
——おいらもこんなの見たことないよ。土属性魔素ばっかりじゃんか!
どうもさっきから2人が感じていた違和感はこのローアニエストの魔素の組成によるものらしい。
——でも、危険はないんだろ?
——ここまで異常な状況だと自信がないですけど。例えば、周りの森の植生を見てください。見たこともない植物ばかりです。
それを聞き、周りを見渡すケータ。
言われてみれば、確かに森の木も草も何か少しずつ違うと気づく。
——ああ、随分珍しいもんがあるじゃねーか。リレイア、お前解るのかよ。
——ええ。初めてみる植物が多いですけど、アルーダ様にいただいた知識の中にはありました。
—— ちぇっ。アルーダ様にもらった知識じゃあ、知ってても当たり前かあ。
どうもクリスクロスはリレイアが知らないと思っていたらしい。
知らなかったらしたり顔で説明して威張るつもりだったんだろうか。
……そんなことよりこの先どうするか、である。
—— それで、どうするんだ? 一本道だからこのまま進むしかないと思うんだが……
—— はい。それで構いませんわ。先ほど心配だったのでナノマシンを飛ばしてみましたが、あと3kmぐらい先に村がありますの。そこで、話を聞いてみて今晩は泊めてもらうことにすればいいと思いますわ。
リレイアは、もうこの先に村があるのは確認済みなのだ。
それなら何の問題もないように思われるが、それにしては浮かない様子である。
—— リレイア、何か他の心配事か?
—— ええ、ナノマシンの損耗率が高くて……いえ、そのことについては村についてからにしますわ。
ナノマシンがいつもより損耗する。
その不穏な言葉に理由を聞きたいケータであったが、それ以上は何も話さず一同は歩いてローアニエストに入って初めての村にたどり着いた。
「こんにちわ。どなたかいらっしゃいますかー」
ケータが、声をかけると2、3人村人が出てきた。
「ありゃー、旅の方ですかあ。こん村は宿とかないんですけどー、村長んとこ行けばあ、泊まるとこぐらいなんとかなりますき」
「ありがとうございます。それで村長さんの家は、どこにあるんでしょうか」
「村長の家かえー、そりゃーまー、この先ずっと行ってー左に大きな屋敷があるさー。まあ、田舎の村長の家だに大きいと言うても高がしれるけんども」
「はい。それでは訪ねてみます」
僕らは村の中を歩いていくと。
—— 村の中の魔素の状態は普通ですのね。
—— そうだな。でも、村の外より魔素が濃いのは変じゃないか?
—— まあ、それはそうですけど、村の魔素量としては標準的ですわ。
リレイアとクリスクロスはそんな会話をしているが、ケータとマルキャルトには全然わからない。
人間はその町や村の魔素量なんて気にしてはいないので。
ほどなく、他の村の住居よりひとまわり大きい藁葺き屋根の屋敷が見えてきた。
「マルキャルト。あれじゃないか?」
「はい。きっとそうだと思います。私が先に行って挨拶してきます」
マルキャルトは村長の屋敷に走っていった。
村長らしき人に頭を下げて、ケータ達のことを説明しているようだ。
やがてマルキャルトがケータを手招きした。
ケータは駆け寄っていく。
「どうだって?」
「はい。こちらに泊めて頂けるそうです」
村長が挨拶してくる。
「この村の村長をしているヤン・ギランですじゃ」
「フラウ・ギランです」
うーむ、宇宙でいろいろ戦ってそうな名前だな、とケータは思う。
「こんにちは、ケータ・リーフォンです」
「あっ、マルキャルト・ルーエンです」
先に行って、村長さんにあーだこーだ話してたのにマルキャルトはまだ名乗ってなかったらしい。
自己紹介ぐらい先にしておいてよ、とケータは思う。
まあ、田舎の村なのでマルキャルトが貴族であることを名乗らないのは既定路線だ。
下手に名乗って謙られても怯えられても困る。
「ようこそ、この何もない村ロプルートへ。クルゼの国の方ですかな? 街道を使ってくる旅の方は大抵この村に最初にたどり着くようで」
大抵? おかしな話だ。
北の街道は一本道で、よほどの目的があって獣道を進む以外はこの村に着くはずではないのか。
「大抵と言うことは、他の村に着くこともあるんですか?」
「はて? どうだったかの。確か、そんな話も聞いたような気もするが」
「ええ、ラピの村に着いたという話も聞きますよ」
ヤンさんもフラウさんも他の村に着くことがあると言っている。
「そのラピの村は、どこにあるんですか?」
「どこじゃろうのう。おーい」
村長は、村の者を呼んだ。
村の真ん中にはデコボコした狭いエリアがあり、そこに粗末な板切れが立て札のように立っている。
広場とも呼べないそこには結構な人数が集まって、あーだこーだと話し合っているようだった。
その中の一人がやってきた。
「ラピの村はどっちにあるんじゃ」
「村長。今日はラピは村の東の道の先にあります」
今日は? 今日は、って何だろう?
明日は違うのか?
「旅のお方。ケータさんだったかの。ラピの村に用事があるのか?」
「いいえ」
「だったら、気にせんほうがいい。行き先はどこなのじゃ?」
「トルタです」
「……トルタ……か。難儀じゃの。今日はこの村でゆっくりするが良い」
「それでトルタの場所は……」
「わからん」
おかしい。
旅人は必ずこの村を通るはずだ。
それなら、詳しい場所はわからなくとも帰りの旅人からトルタからの道のりを聞くこともあるのではないだろうか。
ケータは聞いてみた。
「だいたいの方向でもいいので」
「そうさのぉ。まずは朝旅立つならそのまま北に進んではどうじゃ?」
「そんなあなた」
「ありがとうございます。そうしてみます」
おそらく適当に勧めた進路に異を唱える村長夫人のフラウさん。
だが、ケータ達はそれには何も言わない。
その日は、村長の屋敷に泊めてもらい夕飯までご馳走になってしまった。
ちなみにケータとマルキャルトは恋人と勘違いされたらしく、一つの部屋に通された。
—— 村長夫妻をこの部屋に入らないように意識誘導しておきますわ。認識阻害も一応かけておきますの。
—— 頼む。
リレイアはこの部屋に入ってこないように村長夫妻の意識を誘導し、認識阻害もかけこの部屋に入る気にならないようにした。
その後、この部屋を防音処理し、亜空間展開で作った広い部屋に机を出した。
「マルキャルト。すまない。なんか村長夫妻に勘違いされたみたいで」
「いえ、構いません。むしろ、私なんかで何か……申し訳ないです」
マルキャルトは男女の機微に疎くこういう話になるとしどろもどろになる。
ケータも得意な方ではないので、話が進まない。
「あー、いつまでやってんだよ。それよりおかしな魔素の状態と明日の行き先はどーすんだよ」
「そーですわね。まずはそれを考えませんと……」
クリスクロスとリレイアが話を戻してくれた。
「そうだな……で、どうなんだ? リレイア。ナノマシンの損耗率が高いとか言っていたが。何か調べてわかったことがあるんだろ?」
「はい……一応は調べてはみたんですの。ただ今ひとつ結果に納得できないというか、信じられないといいますか……」
「おいらも本当なら村の外に出て周りを見ようと思ったけど、やめたんだよ」
リレイアの歯切れが悪いのはなんとなく様子でわかっていたけれど、こんな時は真っ先に飛び出していくクリスクロスまで自重していたとなると簡単な話ではなさそうだ。
「本当か! それはかなりの異常事態だな」
「ケータ殿、どう言うことです?」
「いや、僕も何かはわからないが、クリスクロスが自重するほどのものだっているから、余程のことじゃないかと」
「おいらの自重が判断基準なのかよ……」
「くすっ」
マルキャルトが笑って、なんとなくなごむ。
しかし、実際に何が起こっているのか。
まずはリレイアに状況を説明してもらわないと。
「リレイア、そろそろ調べた結果を教えてもらっていいか」
「はい。まず、この国に入ったときにクリスクロスも気づいた通り、魔素の組成が一変しました。ここでは、土属性の魔素が異常な濃度で存在し、そのほかの魔素はほとんどありませんの。その結果、よほど土属性に特化した動物でない限り、魔物化・魔獣化は起こりませんわ」
「魔物や魔獣が出ないのは厄介ごとが少なくていいじゃないか」
別に魔物と戦いたい訳じゃないので、魔物化しないのは助かるのだが。
しかし、魔物を狩っておかないと道中の旅費の足しにはならない。
「それはそうなのですけれど……ただ、少ないだけじゃなく、他の魔素成分を使った魔法の効果が極端に落ちてしまいますの」
「リレイア殿。それはどう言うことなのですか」
マルキャルトは魔法が使えないので、余計わからないのだろう。
「この国に入った時に、この異常な環境に気づいてナノマシンをばら撒いたんです。それぞれの属性の魔素を纏わせて」
「それで?」
「土属性の魔素を纏ったものは80%以上、帰ってきたのですが、それ以外は5%も帰って来ませんでした。しかも、帰ってきたナノマシンも酷く衰弱していてデータもほとんど取れませんでした」
「そのことから何がわかったんだ?」
「わかりませんの」
「「「はっ?」」」
思わずみんな声が出た。
まさかリレイアから何もわからないという答えが出るとは思わなかったのだ。
「そうなのか?」
「ええ、僅かにわかったことは大地自身のゆらぎがあるらしいと言うことだけですの」
「「「…………」」」
結局、その夜はそれ以上の話は進まず、翌日は村長の言う通りに北に向かって出発することだけを決めて就寝した。
リレイアが魔素の調査をしようとしてもおかしな結果しか返って来ません。
そして、リレイアの言う『大地自身の揺らぎ』とは?
次回、『59話 ドルターラの聖地を探すならば』 10/28 投稿予定です。




