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56話 ケータが倒れたならば

 事件は解決し、神グラムゼアはその力を取り戻しました。

 やっとクルゼ王国に戻ってきたところでケータが倒れてしまいます。

「さて、何から話そうか……とは言っても、もうケータ達はこの事件についてあらかた知っているだろう?」


 現神グラムゼアはそんな風に、吹っ切れたように話を始めた。


「はい。まあ、そうですね……ですが……」

「ああ、わかっている。だが、聞きたいこともあるだろう? もう何も隠し立てせず話すよ」


 確かに『ヘイセニアの殺戮』については最後のスイズリーの問わず語りで明らかになったと言えるだろう。

 しかし、ケータはグラムゼアの口から事の全てを聞きたかったし、事件のきっかけや動機などには不明な点があった。


「私からもお聞きしたことがありますの。宜しいですか?」

「ああ、構わないよ。リレイア」


 ケータが言い淀んでいる間にリレイアが話を進める。


「まず、『ヘイセニアの殺戮』はスイズリーが全て仕組んだことだったのですよね」

「ああ、そうだ。彼は私に付き従ってくれていた神の一人だったのだが、人間たちが私と気やすくしているのが気に入らなかった。それで、あの事件を起こした」

「と言うことは、皆殺しにするつもりだったのはグラーム教の信者だったのですね」

「そうだと思う。スイズリーが消えた今、確かめる術はないが」

「だとすると『ヘイセニアの殺戮』自体は村人が全て殺される大事件だったにもかかわらず、グラムゼア様を釣り出すための陽動だったんですのね」


 確かにその通りだ。

 しかし、それだけのために大惨事を引き起こすと言うのは、どういうつもりだったのだろう。


「スイズリーはヘイセニアの村人を皆殺しにするのを躊躇わなかったんでしょうか? そこまでする動機も分かりません」


 ケータはそう尋ねたのだが。


「あいつが躊躇う? そんな訳ねーだろう。ケータ。お前見ただろう。ヤツのやり方を!」


 クリスクロスがそう吐き捨てる。

 それにグラムゼアも心情はともかく同意する。


「私もそう思う。心の中では彼に躊躇う気持ちが残っていたとは思いたいが……」

「動機については?」

「彼は最終的に人間全てに対しての憎悪を抱いていたのだと思う。グラーム教の信者だけでなかった。私は山で働く民にも魔法を教えていたんだが、その者たちにも敬う気持ちが足りないと彼は腹を立てていた。それで、おそらく彼は人間に絶望したのだ。人間という種族を誰ひとり信用することができなくなっていた。それが全ての事件の動機だと思う」


 ケータはその話を聞いて腑に落ちたようだ。


「そう……なんですね。全ての人間が敵だと。それがあの絶望の理由……ですか」


 予想していたことではあるけれど、ため息しか出ない。

 でも、これが最後だ。


「では、他教徒と協力してグラーム教を殲滅させるためではなく、共倒れを狙ってだったのですね」

「そうだ。この山を見てそれを悟った私は、遺体を弔うこともできず封印していたのだ」


 全てがつながった。

 これでこの事件は解決したわけだが、これからどうしたらいいのだろう?


「グラムゼア様。お話、ありがとうございました……それで、これからどうなさるおつもりなのですか?」

「ああ、それなら…………本当は天界に帰り二度と地上には降りないつもりだったのだが、ジャムラスと約束したからな。地上に残るよ」

「おいらも話は聞いている。さっきアルーダ様からグラムゼア様にそれについて伝言を聞いてるんだ」

「なんだい? クリスクロス」

「おいら、これまでケータたちと一緒にいて、何かことあるごとにアルーダ様に報告してたんだけど、これからはグラムゼア様に報告するように、って」

「なるほど、私はクリスクロスの送ってくれるケータについての現状報告を聞けばいいんだな。それで?」

「実はリレイアの力は制限しなくちゃいけないんだけど、もうおいらじゃあ、どこまで抑えればいいのかわからないんだ。だから、その加減をグラムゼア様に一任するって言ってた」


 ああ、そうだったのか、とケータは思う。

 すでにリレイアには使う力の制限などないと思っていたのだ。


「うーん、それは大役だな……わかった。引き受けよう……だが、私は今までのリレイアの力の使い方は適切であったと思う。当面何も制限しないつもりだ」


 グラムゼア様は快諾してくれたし、リレイアもホッとしたようだ。

 すると、クリスクロスは言いにくそうに。


「それとーー、もう一つあるんだ。おいらが言ったわけじゃないですよ。アルーダ様が……」

「なんだい?」

「もう、アルーダ様が直接ケータを監視するつもりはないので、何かあるならグラムゼア様経由でやりとりしてくれ、と……」

「なるほど! 連絡係か。喜んでやらせてもらおう! なんなら、一緒に冒険するのも面白そーだ」


 なんと、神様を連絡係に使うと言うのにグラムゼアは嬉しそうだ。

 しかも、冒険に同行しようとまで言っている!


「本当ですか!」

「いや、冗談だ」

「「「!!」」」


 うーん、神様も冗談言うんだ。


「だが、本当にピンチになったらどこにいても即座に君達を助けに行こう。私とはいつでも会話ができるようにして、クリスクロスとは『神の回廊』をつないでおく」

「『神の回廊』とはなんですか?」

「ああ、神と天使のみに使えるトンネルみたいなものさ。そこを通れば距離がどんなに離れていても、即座にそこにいかれる。話もできるし、イメージを伝えることもできる。伝えたくない時は、回廊側の意識を遮断しておけばいい。遮断しても呼びかけることはできるので安心して使ってもらっていい」

「リレイアは使えないんですか?」

「あー、確かこちらでは妖精の格であって、天使ではないのだが……まあ、いいだろう。わかったリレイアとも回廊をつないでおく。ただ、リレイアは元々コモン世界のAI? というかなり特殊な存在だ。あまりに持つものが異質だ。他の世界の知識が膨大に流れ込んでくると、アルファニアの神である私にとっては結構な負担なんだ。ピンチの時以外は使わないつもりなので、普段は遮断しておいてもいいかい?」

「わかりましたわ。ありがとうございます。聞きたいことがあったら、クリスクロス経由で構いませんのね?」

「ああ」


 これで全てが終わった。

 先払いでもらった報酬である転移魔法。

 それを駆使しても今までより数倍大変なこの事件を解決できたのは僥倖だったとは言える。

 さらに、いつでも神グラムゼアが相談に乗ってくれ、ピンチの時は駆けつけてくれるという。


 ケータ達はホン・ワリャン連邦の山間の町を後にする。

 ワートコートから歩いて15分も進めば、田舎町のことだ。周りには誰もいない。


 帰りはあっけないものだ。

 神の力が戻った神グラムゼアからすれば何ほどのことでもない。


 まず、白いモヤに包まれた神の結界に包まれ、グラムゼアはケータ達を見送ると光と共に転移が完了した。

 周りを見渡すと、そこはクルゼ王国のロブナント領であった。


 ホン・ワリャンの領土では転移魔法が阻害されていたのだが、神グラムゼアの魔法で送ってくれたのでそんなことは関係なかった。


 そして。


 ソラノ村の家に帰ってみる。

 と、一人取り残されたマルキャルトがお冠だった。


 そりゃそうだろう。

 いきなり、何の言付けもなく、いきなりいなくなったのだから。


「ケータ! リレイアにクリスクロス! 今までどこに行ってたんですか!!」


 彼女がそう言ったことにケータが答える。


「ああ、悪い。実は、ホン・ワリャンに行っていて……」


 そこまでいったところでケータはバッタリと倒れた。

 何の前触れもなく。


「ケータ! ケータ! 大丈夫ですか!」

「どうしたんだ! ケータ!」


 リレイアとクリスクロスが駆け寄る。


 それまで一人取り残されてお冠だったはずのマルキャルトは呆然としている。

 その中で最初に我に帰ったのは、やはりリレイアだった。


「お待ちくださいませ。私が体調と精神、特に魂の摩耗について調べます。クリスクロス、魔法的な異常の検知については任せますわ、手伝って下さいませ」

「わかったぜ!」


 リレイアは、ケータの魂に問題が残っているのは知っていたが、その原因は過去のしがらみによるものが原因であると認識していた。

 だがそれは、異世界に来たことでほとんど解消されたはずだった。

 体が16歳に若返ったことで40歳までの不幸な生い立ちの蓄積したダメージもチャラになったと神ルルカに聞いている。


 それなのに何故?


 原因が『命運』に関することであれば、リレイアが見逃すはずがない。

 確かにヘイセニアで見たたくさんの『恨み』、『憎しみ』、そして何より『大量の無残な死体』を目の当たりにしたことはケータにとってダメージではあるものの、その影響については確かに掴んでいたはずだった。


 それなのに何故?


「クリスクロス。元々ケータが抱えてる『命運』については、何も問題が見つかりませんの。魔力的な負担はどうです?」

「わからねぇ。少なくともおいらの知っている限りの異常な魔力の暴走の兆候はなんもねーよ」


 リレイアは最後に健康状態をもう一度チェックした。

 ケータの健康状態については常日頃からモニターしているので、突然のこの変調の理由がわからない。

 わからなければ対処のしようがない。


 とりあえず対症療法をするため今の状態を観察すると、息が上がっていて額にわずかに汗をかいている。

 熱はないようだ。

 倒れた時にどこかにぶつけたような打撲もない。

 ナノマシンを投入して血液、リンパ、神経、各臓器、脳、筋肉の内部、骨格、皮膚、髪の毛の先まで調べたが、さしたる異常が見つからなかった。


「困りましたわね」


 リレイアはそう言って、ひとしきり考えると意を決したように言った。


「クリスクロス。グラムゼア様に連絡を取って頂けませんか?」


 リレイアはクリスクロスに頼んだ。


「えっ!? ああっ、でも、グラムゼア様に今送ってもらったばっかりだからなあ」

「気が進みませんか? でしたら私が……」

「よっ、よせっ! お前が天使の力を使うのは……わあったよ。おいらが連絡する」


 クリスクロスは最初は拒んでいたが、リレイアが自分で連絡を取ると言うのを聞いて折れた。

 本来はAIであるリレイアは、このアルファニア世界における妖精の格を神アルーダに与えられている。

 そして限定的ながらも神グラムゼアから天使の力も受け取っているのだ。


 しかし、それはかなり特殊なものであり、安易に使うとこの世界での理に大きな歪みができる可能性がある。

 世界中の妖精が、アイデンティティーに疑問を抱くような大事にも成りかねない。


 クリスクロスは目を閉じて、一心不乱に神に呼びかけ続ける。

 なかなか返事は来なかったが、ケータとリレイアとクリスクロスがいるこの空間が変異していく。

 これは、亜空間が広がる兆候だ。

 リレイアは一瞬身構えたが、その波動の暖かさは記憶にある。

 3人がすっかり亜空間に飲み込まれたその中に、現神グラムゼアが現れた。


「すまない。送ったあとすぐに呼び出されるとは思わなかったから……それより、どうしたんだい……ああ、そうか」


 グラムゼアは現れると挨拶をして周りを見渡すと横たわるケータの姿に気がついた。

 状況は分かったらしい。


 それから徐に右手を伸ばすと、暖かい波動がケータに降り注ぎケータの息使いは常態に戻った。


「あのっ、ケータはどうしたのでしょうか?」

「ああ、ケータの魂は揺らいでいる。そのせいで精神に負担がかかったんだ。その痛みを少し和らげた」


 意外な言葉に驚くリレイア。

 ケータはしがらみから解放されて、尽きそうな命運の問題は無くなったのではないのか?


「ケータの心は戻ってないのですか?」

「いや。命の危機となるような重大な運気の低下はない。これからそうそう悪化することもないだろう。これは全く別の問題なんだ」


 心配そうな顔のリレイア。

 クリスクロスが尋ねる。


「グラムゼア様。今、ケータはどうなってんだ」

「ああ、一時的に不調にはなったが、精神の負担を和らげる波動を送ったからもう少しすれば目を覚ますだろう。私が来なくても悪化することはなかったがね。ただ、二、三日寝込むことになったかも知れない」


 リレイアがおずおずと聞いてくる。


「それって、何が原因なのでしょうか?」

「そうだね。リレイアが気が付かなかったのも無理はない。説明しよう」


 リレイアもクリスクロスも神妙に次のグラムゼアの言葉を待った。

 すると、それまで固まっていたマルキャルトが恐る恐る口を挟んできた。


「あのーーー、この方はどちら様なのでしょうか? お名前は先ほどの会話から、グラムゼア様と言うのはわかったのですが……」

「ああ、わりい。こちらにいるのは、ホン・ワリャンで世話になった神様のグラムゼア様だ」

「グラムゼアだ。よろしく」

「神様っーーーー!!!」


 たまげるマルキャルト。さもありなん。


「リ、リレイア。ケータとあなたが異世界の人だとは知ってましたど、貴方達、神様とも知り合いだったのですか?」

「あー、すいません。マルキャルト。そういえば説明してませんでしたね。実は主神であるアルーダ様の頼みでホン・ワリャンのある事件を解決に行ってたんですが……」

「主神……アルーダ様……神様の頼み……はああああ?」


 力が抜けるマルキャルト。さも……もういいか。


「それについては、後で説明しますのでとりあえずはケータの今の状態についてグラムゼア様の話を聞きたいのですが、よろしいですか?」

「はあ」


 もう、驚き過ぎてマルキャルトはそれしか返せないらしい。

 それを肯定と受け取って、リレイアはグラムゼアに話の続きを促した。


 それからグラムゼアが語った話は、ケータの転生にまつわるものだった。


「ケータとリレイアは君らの世界から、異世界であるこのアルファニアに転生してきたわけだ」

「はい」

「だが、本当は少し違う。確かにケータは転生した訳だが、リレイアは転移している」

「はい。それについては了解しています……ん?……あっ、あああ!」


 慌てるリレイア。

 なんのことかわからないクリスクロスとマルキャルト。


「気づいたようだね。ケータは元々は、来栖川慶太だ。こちらに来た時にケータ・リーフォンになったわけだけどこれは単に名前が変わったわけではない」


 コクコクうなづくリレイアとクリスクロス。

 マルキャルトは知らなかったので目を丸くして、ええっ、と口を手で抑えている。


「つまり、このアルファニアに元々ケータ・リーフォンという人物はいたんだよ。残念ながら、慶太が転生する直前にクルゼ王国の森で魔物に襲われて死んでしまったがね」


 リレイアはなるほどとうなづく。


「わかりましたわ。つまり、今のケータは来栖川慶太の意識と亡くなった元のケータ・リーフォンの意識が鬩ぎ合って不安定になっている状態だと言うのですね?」

「その通りだ」

「でも、今になってどうしてそんなことになったんでしょうか?」

「ああ、それは元のケータ・リーフォンは死んでしまったせいで、表層に登ってくる意識は弱かったんだ。だから、来栖川慶太としての意志が押さえつけていたんだ。ところが、私の事件に関わったせいでその意識が揺らいでしまった。そうすると元のケータ・リーフォンの意識の方が強く現れてくることになったんだよ」

「それだけですか?」

「時期も悪かった、来栖川慶太がケータ・リーフォンを受け入れ心と体に慣れるに従って、元のケータの記憶や心情も引き継いでしまう。揺らぎの要素が重なってしまったんだ」


 顔を見合わせる4人。


「では、どうすれば……」

「一時、本人が元のケータの意識を認識してしまった以上、二つの心が今のケータに同居することになるだろう。しかし、基本的には大丈夫だ。複数の意識がケータの中でうまく折り合いをつけられるようになるまで、少し混乱するだろうがね」


 そこで、リレイアは何か考えている。

 右へ左へと細かく飛んでは空中で静止し、また細かく飛んでは戻ってくる。

 思い悩んでいることがあるときの仕草だ。


「ちょっと気になることがあるんですけれど……」

「なんだい?」

「元のケータ・リーフォンさんはどんな人だっんですか?」

「ああ、私はアルーダ様から聞いている大凡のことだけなんだけど、それでもいいかい?」

「お願いします」


 それからグラムゼアは、アルーダから聞いていた元のケータ・リーフォンについて語った。


「ケータ・リーフォンはクルゼ王国の遥か西にある小国コルキニア出身で、年齢は慶太と同じ16歳。ケータのいた村では狩人をしていたらしい。住んでいた村には恋人がいて、名前はフィリア。彼はリアと呼んでいたらしい」

「ああ、それなら……ケータが寝言でその名前を口にしたのを聞いたことがありますわ」

「そうか。すでに、ケータ・リーフォンの記憶は戻りつつあったんだな」


 グラムゼアはリレイアの話にうなづき、元のケータの話を続ける。


「ケータのいた国では結婚の時に異国の石を使った指輪を贈る風習があるんだ。ケータは結婚を約束したフィリアのために、はるばるこのクルゼ王国まできた。しかし、このクルゼ王国の魔物は強く、王都に近い森でその生涯を閉じたのだ」

「そんなことがあったんだな」


 クリスクロスが納得したように言う。


「その記憶をケータは引き継いでいるのですか?」

「ああ、きっと徐々に思い出していくだろう」

「そうなんですか……今後、冒険者は続けていかれるのでしょうか?」

「それは大丈夫だ。むしろ、元のケータの持っている狩人の腕と知識も加わるので、冒険者としてはさらに強くなる」


 うーん、と腕を組む4人。

 そこで、マルキャルトが。


「えーと、グラムゼア様。私、騎士をしているマルキャルトと申しますが……」

「知っているよ。君は素晴らしい騎士だね」

「いいえ。私などまだまだで……」


 照れるマルキャルト。

 だが、すぐに我に帰ってグラムゼアに尋ねる。


「ケータの心が二つの人格でせめぎ合っているとおっしゃってましたが、そんな状態で冒険者を続けていくのは危険ではないでしょうか?」

「そうだなあ。彼の中で折り合いがつけば大丈夫なのだが、しばらくはあまり強敵相手であるとか、人の命に関わるような依頼はやめた方がいいかも知れない。目一杯人の死に関わる問題を解決してもらったばかりの私が言うのは何なのだが」


 そう言って申し訳なさそうに謝るグラムゼアにリレイアは。


「いいえ、そんなことはありませんわ……でもどんな仕事がいいんでしょうか? それとも仕事は休んだほうがいいのですか?」


 グラムゼアはそれなら、と。


「ちょっと冒険者の仕事を離れて、ケータの趣味にでも付き合ってあげたらどうだい?」

「ケータに趣味なんてあんのかよ」


 グラムゼアの提案に、クリスクロスがツッコんだ。

 だが、リレイアは。


「あっ! ありますわ。ケータは音楽が好きで未来でもピアノを始めて5年ぐらい続けてましたし、曲を聴くのも好きなんですの」

「それなら、いいものをあげよう」


 グラムゼアは魔道具をリレイアの前に置いた。

 それは、木の台座の左側には薄い膜が貼った丸い輪が付いていた。

 右側には、上向に小さなクリスタルがあり、中央には魔法陣があり小さな魔石がセットされていた。


「これは『スラマーセルの瞳』といい、人の見た心象を再現する装置だ。アルーダ様は、異世界の人間に説明する場合は ”びでおのような物だ” と言えば通じると言っておられた。それでわかるか? リレイア」

「はい。わかります。これはどう扱えばよろしいのですか?」


 グラムゼアは魔道具の魔法陣の端に触れた。

 すると、魔道具の上に映像が浮かび上がり、丸い輪から音が流れ出した。

 この世界の楽器なのだろう。

 全体としてはギターに似ているが、不思議なカッコをした楽器だ。


「あんまり綺麗な映像じゃねーな。音もしょぼい」

「でも、素敵な曲ですわ。私が元のコモン世界にいたときにこれを聞いたとしたら即座にシステムに推薦します」

「まー、こいつが上手いことはおいらにもわかるぜ」


 リレイアは手放しに誉めている。

 クリスクロスも装置はしょぼいとは言うものの、この演奏は気に入っているようだ。

 映像なんて言葉を知っているのは、以前にあった転移者からビデオ映像を見せてもらったことがあるからだそうだ。


「でも、これをどうするんですの?」


 リレイアはキョトンとしている。


「これをケータに見せてやればいい。見せたらどうなると思う?」


 悪戯好きな子供みたいな目をして、グラムゼアはリレイアに聞いた。


「あーー、間違いなく見に行きたいと言うでしょうね」

「おいら、嫌な予感がする。グラムゼア様、おいら達に何かやらそうとしてるんじゃあ」

「いやいや、ケータのリハビリにちょうどいいから、行ってきたらいい」

「そんなこと言って、絶っ対ー何かやらせるつもりだ!」

「まあまあそう言わずに。ちょっとお願いを聞いてもらうことになるかも知れないけど、今のケータには本当にいい骨休めになるだろうね」


 クリスクロスは面倒事はゴメンだと言わんばかりだが、リレイアは違うようだ。


「その依頼自体は、ケータの心に何かいい影響がありますの?」

「ああ、ある。そこは受け合おう」

「わかりました。その依頼受けますわ」

「ケータに相談しなくていいのかよ」

「この演奏を聴いてその依頼を受けない、ってことがあると思いまして?」

「二つ返事で受けるだろうな」


 リレイアはグラムゼアに聞いた。


「それで、どんな依頼なんですの?」

「それは秘密だ」

「「「「えーーーー!」」」」

「まあ、行けばわかる」


 グラムゼアはこの場所と演奏者については語ったが、依頼内容については教えなかった。

 そのまま、グラムゼアはさよならと挨拶をして空中に消え、亜空間も解除された。


 グラーム教の一件は心の負担が大きかったようです。

 ケータはまだ目覚めていませんが、起きた時に見せるようにと不思議な魔道具を渡されたました。

 そこで、ケータの心の中の充実を図りながらも……また神からの依頼です。


 次回、異世界の章・音の都編開始。


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