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51話 調査を開始してみれば

 ホン・ワリャン連邦国の首都ソンに入りました。

 これからサジトワ山やグラム教について調査します。

 まずは公共の図書館から探しますが、政府の目があちらこちらに光っているようです。


 今話はケータの一人称視点で進行します。

 僕はヒューバー観光の翌日に、エルアパのエリアに移動し図書館に向かった。


 エルアパはクルゼ王国に最も理解のある豪族で、貿易や人の流通も率先して行っている。

 従って、図書館は地上4階、地下3階の広大な建物で、蔵書数ではホン・ワリャンで3本の指に入る規模を誇っていたが、この図書館で読むことのできる書物はすでにクルゼ王国に入ってる可能性が高く、新しい情報はあまり期待できなかった。


 ただ、地下が3階までというのは公的な数字であり、実際には地下は5階以上はあると噂されている。

 そしてその噂の上では、地下深くレベル3以上の禁書庫があり重大な国外秘の歴史書、魔導書が存在することが、暗黙のうちに知れ渡っていた。


 それでもこの図書館に来た理由は、地下5階までは行かれないものの冒険者特権で地下3階のレベル1の禁書庫の閲覧ができるからである。

 禁書庫の本は、当然国外に販売も持ち出しも禁止であるので、少しは情報を得られることを期待したのだ。


 一応、図書館の司書を揺さぶって見ることにした。


「あのう、地下5階のレベル3には行かれないんですよね」

「はい? 地下5階なんてありませんよ。この図書館は地下3階までなので、ホホホホホ」

「あっ、そうですよねー。ハハハハハ」

「ホホホホホ」

「アハッ、アハっ……」


 にこやかに答えられたけど、最後はちょっと(にら)まれてしまった。


——何やってるんです! こんなとこで怪しまれることなんてしないでくださいまし!

——ごめんごめん。


 一応謝る。

 けれど、ここに地下5階があることなんて近所の子供でも知ってることらしいし。

 と、そこでクリスクロスもツッコんできた。


——どうせここでひと騒動起こすつもりなんだろう?

——それでもことさらに目立つような事をしてどうするつもりなんですか!

——でも、あの司書はわかってるみたいだったぜ。ケータはもうマークされてる。ここで一つや二つ目立っても関係ねーだろ。


 クリスクロスも気付いてるみたいだ。

 禁書レベル1の図書を閲覧するために冒険者カードを出した時に、既にミファのギルドでやらかしたことを政府が嗅ぎつけてるのがわかった。


——まあ、いいですわ。ケータも相手が既に疑っているのがわかったんですのね。

——流石に周りの様子を見ていればそれくらいは……


 この街に入って監視に対してピリピリしているうちに、魔力を身の回りに薄く張り巡らせて警戒する習慣がついてしまった。

 今では、相手の感情がうっすらと色が付いたように見えている。

 慣れてくるとパッシブな魔法が常時発動するようになる。


——おう、ケータ。進歩してんじゃねーか。


 褒められたのはいいけど、クリスクロスのヤツ、なんか上からで偉そうだな。


——いいから調査を進めて下さいませ!!

——へいへい。


 クリスクロスにムッとしてたら、リレイアに怒られた。

 真面目に図書館で資料を探そう。

 キーワードはサジトワ山だ。


 1階の地図コーナーで探した時は見つけられなかった。

 これは無くなったと言うよりも見せるつもりがないと考えられる。

 そこで、一般の本は無理と判断して地下3階の禁書庫でサジトワ山、グラーム教、グレムゼア神をキーワードに探して行った。


 それでも見つからない。

 朝から探してもう昼過ぎだ。


——地道に調査して下さい。視力の強化程度の魔法はいいですが、私の作った道具を併用するような深度の高い一斉走査系の魔法は禁止です。

——なんでだよ。

——ここの結界をなめないで下さい。通常の魔法結界とは異なる不明術式がありますの。もし、異在力を使って魔素に干渉していることがわかったらどうなるかわかりません。


 そりゃ、おっかないな。

 地道というのは疲れる。


 禁止された異在力を使う道具は左手の中指にはめてある指輪だ。

 ただの走査魔法だと人がいるかどうかとか、せいぜい敵対しているか程度しかわからない。

 ところが、これを使って走査魔法を使うと異在力により機能拡張ができる。


 壁の材質や張られている魔法結界の細かい内容、変わったところでは紙の本の中身が検索できたりするのである。

 しかし、今回はそれは使えない。

 本を出してはページをめくり、また戻しては別の本をとる。


 いい加減、飽きたし疲れたしで、1階に戻り軽食コーナーで遅い昼飯を食べた。

 流石に大きな図書館だ。

 中にフードコートのような場所があり、パンとコーヒー程度はここで食べることができる。

 一応、怪しいヤツや僕をマークしている人間がいないかもチェックする。


——あー、やっぱり見られてるなあ。

——はい。でもおそらく大丈夫です。今日のところは手を出してこないでしょう。


 じゃあ、また地下3階まで行って禁書庫で調査継続するか。


 夕方近くになり、禁書庫が閉まる直前に古地図を見つけた。

 サジトワ山のおおよその位置がわかった。


 ラングレー山脈のほぼ真ん中だ。

 ワートコートの真西に廃村があり、そこから山道を道なりに行ったところにある山らしい。


 少なくともこれで、行くことだけはできるようだ。

 僕はエルアパの図書館での調査を切り上げ、サルテ氏族のエリアにある宿屋に戻って休むことにした。


 ◇


 翌朝起きると宿泊している部屋にホン・ワリャンの役人が訪ねてきた。


「これは、ロブナントからの冒険者ケータ・リーフォン様ですね」

「はい」

「なんでも、図書館で調べ物をなさっているとか」

「はー、それはどこから」

「エルアパの図書館から禁書庫の閲覧記録が回ってまいりまして」

「あー、なるほど」


 何が聞きたいんだろう?

 仕掛けてくるとしたら予想より早すぎる。

 取り込もうというのか、それとも……

 まあ、いきなり襲って来ることだけはなさそうだが油断はできない。


「ホン・ワリャンの歴史などに興味があるなら、中央図書館の閲覧などいかがですかな」


 意外な申し出だ。


 もう少し詳しい情報が欲しいと思っていたところだ。

 しかし、とても親切で言ってくれてると思うほどこちらもお人好しではないつもりなのだが。


「中央図書館の閲覧をさせていただけるんですか? 中央エリアには外国人は入れないと聞いておりますが」

「いえいえ、用のない方に入ってこられては困りますが、当国の歴史を知りたいという貴重な理解ある方に対しては、中央図書館は広く門戸を開いてまいりました。エルアパの図書館の蔵書では、どうしても豪族エルアパ氏に偏ったものに成り勝ちですしな。政府としては、外国の方になるべく正しい姿の歴史を知っていただきたいものでして」


 あれだけ情報統制をしておいてどの口がそれを言う? とは思ったが、表向きは。


「はあ、それはとてもありがたい申し出なのですが……」


 どうしていいかわからない。

 とりあえずはお茶を濁すようにそう言ったところでリレイアが伝えてきた。


——受けて下さい。

——大丈夫か? 何を調べているか丸わかりになるけど。


 でもリレイアの返事は同じだった。


——いいから、受けて下さいませ。今日中になりふり構わず調べ尽くして下さい。

——わかった。


 そこまで言うならやるけど、ロクなことにならない気がする。

 今の状況は『乗りかかった船』と言うより『毒を食うなら皿まで』の方が適切だろう、とほほ。


 「そ、そこまで言っていただけるなら喜んで利用させて頂きます」


 とりあえず、ホン・ワリャンの役人に利用する旨を伝えた。


 役人は中央政府の門までにこやかに談笑しながら同行してくれた。

 その門をくぐるところで護衛付きとなって中央図書館に案内される。

 これ、護衛じゃなくて絶対監視だけどな。


 「こちらです。こちらにホン・ワリャンの歴史が包み隠さず記されております」

 「ここって、まさか……」

 「はい。当国の最高機密レベル3の禁書庫になります」


 とんでもないところに連れてこられたが、こちらももう引けない。

 関係しそうなところを片っぱしから見ていく。


 『ホン・ワリャン正史』『ホン・ワリャン宗教大全』『ホン・ワリャン詳細地図』


 全体としてはこんなところか。この本自体は一般閲覧の棚にもあるが厚さがまるで違う。


 『グラムゼア神寓話集』『グラーム教殉教者一覧』『グラーム教教典』『ラングレー山脈登山路』

 ・・・・・


 そして、


 これだ!


 ついに見つけたと思ったが、流石に『グラーム教教典』は黒く塗りつぶされている部分が多かった。

 『ヘイセニアの殺戮』の文字を見つけたが、悲惨な事件であること以外の全てが塗りつぶされていた。

 さらに読み進めていくと、ページごと切り取られているところまである。


 周りに注意をしつつも結局何もなく丸1日中央図書館に籠り、退出する時刻となった。


 護衛が再び付き、中央門まで戻ってくると図書館の閲覧を進めた役人が待っていた。


「明日もこちらを閲覧なさいますか」


——どうする? 必要な事はほぼ押さえたけど。


 僕は役人に答える前に、リレイアに念話でそう尋ねてみると


——明日も来ると告げて下さい。続きが読みたいと言っておけば今夜は安心ですの。


 今夜は、ってことは明日はやばいってことなんじゃないの?

 いろいろ不穏なんですけどリレイアさん? とは思ったが、ここは継続を願い出ることにした。


「はい。大変参考になりました。明日も続きをお願いします」


 そう言うと、ホン・ワリャンの役人は明日もよろしくと言ってにこやかに帰って行った。

 だが、展開された知覚反応には、最後に口元が卑屈に上がっているのが丸わかりだった。


——おーい。明日、絶対何か仕掛けてくるぞ。拘束されるんじゃないのか?

——だからこそ、今夜は安全と言えますわ。今日手を出さなかったのは、こちらの戦力を掌握するつもりだったからだと思いますの。明日は準備万端でケータを捕まえる気なのでしょうね。いっそ消すつもりかも知れません。


 物騒なことをリレイアが言い出す。


——あのー、捕まるのも消されるのもごめんなんだけど。それに本当に今晩は大丈夫なのか?

——大丈夫です。このサルテでは何を起こらない方が良いし、中央エリアなら捕まえに来てもこちらも動きやすいです。今夜はぐっすりお休み下さい。ケータ。


 明日、襲われると分かっているのにそうそう眠れるわけないじゃねーか。

 ……とか思っていたが、なぜか翌朝まですっかり寝こけておりました。


 我ながら神経太いな。


 サルテの宿で朝食を済ませると昨日と同じホン・ワリャンの役人がやってきた。

 

「今日も中央図書館まで案内いたしますよ」


 ついていくと、中央エリアの門までは同じだが、その後護衛が案内してきたのは、昨日の図書館とは違う方へ案内される。

 豪奢だが、若干度を外れたいかつい建物に入っていく。


「昨日の続きを読みたいのですが」

「いえ、本日はさらにこの国を知っていただきたくて、ええ、ずっとこの国に居て頂くのが宜しいかと」


 そういうと部屋の奥が暗転し、次の瞬間には黒装束の戦士、拳闘士、獣士、魔導士、戦闘僧侶が襲ってきた。


「ガルマ・スマッシュ」


 突然唱えられた魔法にどうしていいかわからない。


——うわー、知らんぞ。そんな魔法。

——大丈夫です! 全属性対応の異在化魔法結界を3重に展開しています。


 異在化魔法結界は1層が破られたものの、2層目で弾き返すのに成功。

 リレイアの結界は敵の攻撃を防ぐだけではなく弾き返す。

 そこで、唱えられた魔弾「ガルマ・スマッシュ」の真の恐ろしさを知るのは敵自身となる。


 ズッ、ガリッ、ガガガガガ。


 魔弾は跳弾となり部屋中を駆け巡り、味方であるはずのホン・ワリャンの黒装束たちを切り裂く。


 首をズッパリ切り落とされたもの。

 盾を構えたものは、盾に沿って回り込み、体の中に入ってから暴れ回り、穴だらけにした。

 バリアを貼っていたものは、バリアごと燃え上がり、全身が焼け爛れて死んでいた。


 ヒェェェ、なんちゅう結界だよ。リレイア。

 敵の唱えた魔弾を弾き返し、敵の重厚な防具も防御魔法も突き破って、蹂躙し尽くした。


 全滅だ。


 そこでドアがバタンと開いて、また数人が駆け込んでくる。

 今度は黒装束ではなくこの国の正規兵のようだ。


「逃げられんぞ。魔法の弱体化。特に転移・跳躍は無効化している」


——今のうちに転移して下さい。

——転移? できないって言ってるぞ? 第一、どこへだよ。


 この部屋魔法の弱体化と無効化が施されているから無理なんじゃないかと思っていたら。


——大丈夫です。異在化魔法は完全には無効化できないことは既に調査済みです。国外は無理ですが、事前に調査済みの近場なら飛べます。

——調査済みの近場って? やっぱりあそこだよなあ。


 ため息をついていたら急かされた。


——早くして下さいませ。いつまでも持ちませんわよ。


 僕もこんな物騒な場所にいたくはなかったので、急いで異在化転移魔法を唱えた。

 おおおお、魔力がいつもより大量に吸い出される。


——この部屋の結界に贖って飛ぶんです。少しくらい我慢して一気に魔力を叩きつけて下さい。


 うぉぉぉぉ。


 リレイアが貼った結界にヤケクソで魔力を全力でぶつけると周りがホワイトアウトした。

 どうやら成功したらしい。


 僕は、1日観光したヒューバーのある丘の下にある岩場の影に転移していた。

 あとは見つからないうちに、ソンから急いで離れるのだった。

 刺客に追われて、ほうほうの体で逃げ出しました。

 ただし、必要な情報は手に入ったもよう。


 これからも政府の追手がかかりますが、ケータ達はホン・ワリャンの奥地へ潜入していきます。


 次回、『52話 ゾバーティフ氏領に潜入してみれば』 10/4 投稿予定です。

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