50話 大都市ソンの喧騒に紛れてみれば
いよいよ、ホン・ワリャンの首都であるソンに入ります。
調査が必要ですが、きな臭いにおいがプンプン。
僕はミファの町から、ホン・ワリャンの首都ソンへ向かうことにした。
しかし、首都ソンまでの道のりは遠い。
馬車で大体20日ほどかかる。
神アルーダから教えてもらった転移魔法は、行ったことがある場所にしか使えないし、今の魔力と習熟度では距離の制限が結構厳しいのであまり遠くに転移するのは無理だ。
そこで、今回はリレイアの飛翔術式を使う。
このホン・ワリャンの国内の状況が判らないので、危険を避けるためだ。
箒による飛行はいかにも魔法使いの術ではあるが、実際には56世期の技術を併用している。
だからこそ安全性は高いとも言えるのだが、万が一にも魔法以外の技術が見つかるのはまずい。
それにリレイアの方法なら3日でソンまで到達する。
魔素を科学技術で変換しハイブリッド魔法として展開するが、魔法化した部分は完全に未来技術でシールドしているから、通常の魔法の探知には引っかからない。
視覚情報もバッチリ対策してあって、飛んでいるところを見つかる心配はない。
もちろん箒で飛ぶ場合も、飛行術式のような処理を組み込めば見つかる心配はなくなるのだが、あれはもう自動でブロックノイズをたなびかせて飛ぶ仕様になっちゃってるから、リレイアもまたわざわざ隠蔽するのが面倒になってるらしい。
ちなみに行こうと思えば即日でソンに着く方法も用意しているそうだが、今回は途中で立ち寄り宿場町に泊まり情報収集するのを優先した。
さて、その3日間で得たソンに関する情報なのだが、これがとても不可解なものであった。
ソン
ホン・ワリャン連邦国の首都にして、150万人を超える大都市である。
さぞかし、栄えた町で国民に愛される街かと思ったのだが、実際には不評ばかりが聞こえてくる。
いわく、欲しいものが手に入らない不便な町。
いわく、広いようで狭い。全体は大きくとも行けるところは限られている。
いわく、町の中は実質氏族ごとの支配区域となっている。氏族ごとのいがみあいが大きくて住みにくい。
もう、最後の話など聞いたらいい加減行くのが嫌になったのだが、リレイアが妙なことを言い出した。
——「何か」が見つかるような予感がしますの。
——適当だな。
ほんとにもう、勘とか予感とか、本当にサーバAIなのかね? リレイアは。
—— 失礼ですね。私は最新AIなんですの! 体調不良、気まぐれ、ど忘れ、好き嫌い、なんでもありますわ!
——うーん、それは威張るところではないのでは……
——何を仰るんですか? こういう『揺らぎ要素』が大事なんです! ……大丈夫です。肝心な時はシャンとしますからご心配は入りませんわ。
——へいへい。
ここで、ソンの町についても事前情報をリレイアから聞いておいた。
ソンの町の作りについては、一応ガイドブックのようなものが配布されており、町の地図と観光案内、外国人向けの規則、制限など一通りのことが書いてある。
僕はミファの町の冒険者ギルドで入手したが、各地方への馬車、獣車乗り場の案内所にも置かれている。
ホン・ワリャンの首都であるソンは150万人の住民がいるが、街が城壁で6つに分かれており、その相互の行き来については検問で許可されたものしか入れないようになっている。
その分け方は、どうなっているかと言うと。
まず中央部分。
ホン・ワリャンの政府のエリアには約10万人がいる。
住人は政府の関係者と家族、並びに政府軍の兵士などである。
自国・他国のとも他の住人は、通常このエリアに入ることはできない。
もし入る時があるとすると余程の手柄を立てた場合、または厄介な呼び出しや、何かの犯罪で捕まって裁かれる場合しか考えられない。
自分からこの中央エリアに入りたいという者もいないはずだ。
そして、その周りに5等分された、各豪族のエリアがある。
そのうち、クルぜ王国の人間はそのうち3つまで入ることができる。
エルアパ氏族、サルテ氏族の2つのエリアはクルゼに友好的な種族で問題なく出入りできる。
特にサルテ氏族のエリアには人が溢れているが、これは主に観光客とそれ目当ての商売人たちがいるせいである。
ザガンチャイ氏族のエリアは、入ることを許可しているもののお勧めできない。
ザガンチャイ氏族はクルゼ王国に借りがあるため、渋々許可はするが揉め事が多い。
一度揉めるととても平等とは言えない裁判沙汰になり、投獄かとんでもない罰金を払わされることになる。
後は、ゾバーティフ氏族とアルカント氏族のエリアだが、この二つはクルゼ王国に敵対している。
ホン・ワリャンの政府にクルゼ王国との国交の断絶を上申しているぐらいである。
よって、この二つの豪族のエリアには入ることができない。
◇
リレイアの王都ソンに関するレクチャーを受けた後、徒歩で1時間。
ソンの街に到着した。
ここはサルテ大門というらしい。
煌びやかな大きなゲートとにこやかな態度の検問所に驚かされる。
まるで、日本のアミューズメントパークのようである。
中に入ると客引きがひっきりなしに寄ってきて、安価な宿や観光案内を勧めてくる。
そうか、街の中が仕切ってあるので人の量に比べて狭く感じるんだ。
そりゃもう、ほんとどこの路地にも人がうじゃうじゃと。
なるべく人のぶつからないように大通りの真ん中を歩いているのだが、客引きがどんどん寄ってくる。
引っ掛かると面倒だな、と思ったのだがリレイアが突然、念話で話してきた。
——どうもおかしいです。お上りさんを装って宿を取って下さい。
実は僕もこの街の中で得体の知れない違和感を持っていたのだが、リレイアも同様らしい。
でも、リレイアの言う通りこの区画で宿を取るのでは、あまり得るものがないのではないかと思う。
——このサルテ氏のエリアだとろくな情報は取れないんじゃないか。
——それは承知の上です。あまりにも情報がなさすぎます。ですが、このエリアは動きやすそうです。
このサルテの氏族の区画は、他国の人間も自由に出入りできるところばかりなので、ホン・ワリャンの秘匿している情報は得られないと思っていたのだが、リレイアにはなんか策があるみたいだ。
——わかった。客引きが来たら交渉して宿を取る。情報収集は任せる。
リレイアを信じて客寄せに乗っかってみよう。
「クルゼから来たんかい。うちは大歓迎だよー。2割いや3割はサービスしちゃうよー」
「本当かい? でも安いのはいいけど、飯は美味いんだろうねぇ?」
「お客さん、サルテは海の幸が豊富だよ。飯は美味いに決まってまさあ」
「いやっはー、そいつぁあ嬉しいねー。お世話になっちゃおーかなー」
「はーい、お客さん、一名ごあんなーい」
——お上りさんを装うのはいいですが、もう少し締まったお顔をされてはいかがですの? そこまで緩んだお顔ですと宿代も足元見られますわ?
——ほっとけ。
リレイアの辛辣なツッコミは無視して、まずは宿に入ることにした。
◇
お上りさんよろしく客引きに連れられて、ケータはサルテ氏族のエリアの宿に着いた。
宿に入り記帳を済ませて、部屋に入った瞬間リレイアが矢継ぎ早に、異在力による力場をフル展開した。
——干渉無効フィールド展開。被傍受対策用擬似会話空間作成。外界センサー秘匿モード最大で展開。
——えっ、ちょっ、何? リレイア、これはどういうこと?
リレイアがこんなに急いで異在力を全力で展開したことは、かつて一度もない。
——このサルテは最初の罠なんですの。部屋の中の会話も最も傍受される確率が高いですわ。ある意味一番危ないと言えるかも。
そうなの?
——おいらも生きた心地がしなかったよ。周り全部から見張られていたぜ。
クリスクロスもか!
だとすると疑問がある。
——じゃあ、なんでここに宿取れって言ったんだよ!
——このサルテでは外国の人間を徹底的に調べられますわ。先ほど言った通り、部屋の中の会話も全て傍受されていると言っていいでしょう。
うんうん。それは聞いた。
——だから?
——だから、ここは最大警戒されていますが「それ以上」はないんです。
それ以上? えっ? あーー、そういうことか。
やっとわかった。
このサルテは観光都市としてのソンの顔にして、流入者を調べ上げる調査機関も兼ねているらしい。
全ての人間を一様に最大調査する。
不審者は、なんのかんのと理由をつけて他のエリアに入れさせない。
必要とあらば、誰もいない路地に引きづり込んでの抹殺も辞さない。
これだけ賑やかなのに人のいない場所がそこかしこにあるのだ。
その代わり、ここでの調査は通り一遍である。
全員を均等に調査する以上、それより人員を割いて探ってきたりはしない。
従って、この最初の大規模な調査にパスすれば、その後しばらくはノーマークになる。
——でも、それだったらこんな厳重な力場で防いでいたら警戒されない? 明日から動きにくくならない?
——いいえ、ケータはミファの町で冒険者登録をしました。その情報はこの首都ソンに伝わっていると見ていいでしょう。
それがどう繋がるんだろう? という顔をしていたらクリスクロスに突っ込まれた。
——鈍いなあ。ホン・ワリャンくんだりまでくる冒険者が調査に無警戒な方が余程怪しまれるだろ?
なるほど、そういうものか。
このサルテのエリアで通常の調査妨害をするのは、冒険者としては標準の対応だから国の対応としては警戒レベルを一段落とす訳だ。
逆に、サルテ以外のエリアに行った場合は、異国の冒険者であるだけに一筋縄ではいかない調査が入るに違いない。
おそらく「目」を付けられる。
この場合の「目」とは、国の秘密諜報機関の監視である。
そうなれば、怪しかろうとなかろうと張り付かれてしまい、調査の途中でものべつ幕なしに邪魔が入るだろう。
リレイアの作戦はここで好き放題調べてもらい、まず不審感をとり払ってから自由に動こうというものだった。
——わかったけど、グラーム教を調べとなると、どっちみち疑われるんじゃないか?
——ええ。ですが実際に調査を始めても3日は確実に時間が稼げます。
3日間ってことは……
——それって、3日後は荒事になるって言ってる?
——まあ……そうなりますの。
おい〜。辞めてくれよー。
調査の前に戦争かよー。
心配そうな僕の顔を見てリレイアは。
——大丈夫です。「そうなります」が「相手の目論見通りにはなりません」から。
——わかるように説明してくれよ〜
だが、泣きつく僕にリレイアは取り合ってくれない。
——それと調査は明後日からです。さあ、明日は一日観光でもいきましょう。ヒューバーにでも。そう、ヒューバーがいいですね! ヒューバーに行きましょう!
——はっ? 何言ってんの? やっぱりリレイアお前壊れてんの?
それからは何を尋ねてもニヤニヤ笑いを浮かべるだけで、リレイアは何も答えなかった。
そうかよ。
行けというなら行ってやるよ。
その有名観光地にさ。
◇
ヒューバー
ソンの側にある観光都市であり、国営の一大娯楽街でもある。
運営はサルテ氏族に任されているが、利益は各氏族に分配されている。
専用の大型獣車が毎時複数台出ていて、ソンからの無料送迎が行われている。
その内容は、表の顔として、子供家族連れの遊園地。
丘の上から一望できる大観覧台とその階下にある温泉施設などがある。
一方裏の顔は、ほぼ高レートのギャンブル、死者も出るほどのハードな闘技場(これも賭けの対象だ)そして夜の娼館は、薬物まで使った違法なものがほぼ黙認されているのであった。
翌朝、僕は送迎獣車に乗り、ヒューバーについた。
まずは定番のグアールクロコ園に行くことにした。
これはサルテ特産のグアールという果実に水飴を塗って棒状にした名物でこれを食しながら、通称クロコ、クロコダイルコウモリという動物を見るというものだ。
クロコダイルコウモリは、30cmほどの寸詰まりのあごを持つワニと飛べない蝙蝠の退化した姿である。
なーんか、似たようなシュチュエーションがあるような気がしたのだが、これ、日本にあったバナナワニ園と一緒じゃあないか!
回っているうちに気が抜けてどっと疲れたが、その後に浸かったヒューバー温泉は最高だった。
湯加減も良かったが、丘の側面から一望できる風景が非常に気持ちよくてすっかりくつろいでしまった。
——降りられる所と影になる見つかりにくいところの目星を付けといて下さい。
——えっ! それってまさか。
いきなりリレイアから、冷や水を浴びせるような一言が。
——はい。神様から習ったばかりの魔法の転移先として使えるようにしておいてくださいね。
——あーあ、ただの観光のわけないとは思ってたよ。
やっぱりそういうことか。ここから逃げ出す算段をするわけね。
観光に見せかけた準備は今日で終了。
いよいよ明日から調査開始である。
街は氏族ごとに5等分。
政府のエリアを加えると6つに分かれているホン・ワリャンの首都。
知りたい情報もその区画を越えないと手に入らない様子。
次回、『51話 調査を開始してみれば』 9/30 投稿予定です。




