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49話 神の依頼を受けてみれば

 リレイアは、神アルーダの依頼を引き受けました。

 今話はその依頼を出した神アルーダの回想からです。

 私はアルフォニアの主神アルーダだ。

 この世界とケータのいた世界について語っておこう。


 もっとも、私も彼のいたコモンという世界について詳しいことは知らない。

 だが、コモンの主神であるルルカは私の友人であるので、ケータの出身である日本とケータの生きていた21世紀について必要なことは伝え聞いている。

 しかもケータのことは、主神であるルルカが直々(じきじき)に、よろしくと頼んできたのだ。


 ケータ・リーフォン。


 彼は銀河系の中の小さな恒星、太陽の第三惑星である地球にいたと聞く。


 その時の名は、来栖川慶太。


 彼はその星の暦では21世紀という時代に暮らしていた。

 ところが、神ルルカがたびたびケータに憑依していたことがたまたま悪い巡り合わせとなってしまい、彼の人生は危うく不幸な幕切れを迎えるところだった。

 (すんで)(ところ)でそれは回避されたが、ケータの運命はもうどうしようもない状態であり、21世紀の地球上で彼が生きていくことは不可能になってしまっていた。


 そこでルルカは、すぐに私の納める世界アルフォニアに転移させるつもりだったのだが、ある計画を思いついてそれを延期にした。

 実際に異世界転移させたのはそれから7年後のことである。

 その間、ケータは自分のいた21世紀から3,500年後の未来で7年ほど過ごしていた。


 そこで彼はAIであるリレイアに出会う。


 この出会いと7年の経験が大きな意味を持つのだが、その重要性には神の私でさえ気付かなかった。

 しかもその出会いは密かに仕組まれていたようだ。

 これがルルカの計画の一つなのだろう。


 不思議なのは、ルルカがたかが人間1人の人生にそこまで気を使った理由だった。

 普通は、人間1人が幸せになろうが不幸になろうが、神は気にはしない。


 だが、ルルカはなぜかケータに気を使い、あまつさえ異世界の神である私によろしくと言付けまでしてきた。

 決して優秀なわけではないが、今までの転生者とは違うという。


 そうまで言われた以上、彼を気に留めてはいたが贔屓(ひいき)をするつもりはなかった。

 頼まれたからと言って他の転生者より、たくさんの魔力を与えたり、加護を余計に与えたりはしなかったのだ。


 せいぜいケータの供であるリレイアに示唆を与え、アルファニアに馴染めるようにちょっとした手伝いをした程度である。

 それでも十分ルルカに対する義理を果たしたと思っていた。


 このケータという頼りなさげな地球人には、それ以上何かを与える価値を見出せなかった。

 私はさほど期待していなかったのだ。


 最初はクルゼ王国の冒険者としてやっていけるように、魔法力を与えた。

 ここまでは他の転生者と同じである。


 普通ならここで魔法文明の衰退を食い止めるような仕事を一つ与えるのだが、ケータにはそうはしなかった。

 ケータには運命にまつわる心の問題があると聞いていたので、魔法文明の衰退を食い止める課題を与えるのはまだ早いと思ったからだ。


 ケータはこの世界に慣れ、王都で暮らしていくために冒険者になった。


 だが、ケータはそれから思わぬ活躍を始めることになる。

 まずケータに王宮からの依頼が舞い込み、貴族令嬢を助け出した。


 そして、令嬢誘拐の真の犯人は過去に魔法力を与えた転生者カリオン・サカモトだったのだが、彼はこの魔法社会にとってすでに大きな害悪である。

 ケータはカリオンに挑み、かなり危ないところもあったが解決してしまった。


 そのことで私はケータを見直した。

 彼が対峙していた犯人との対決は、転生者に与える『魔法文明の衰退を食い止める課題』として十分すぎる難易度を持っていたからである。


 これは私にとっては想定外のことであった。

 既に冒険者としても魔法師としても一人立ちできるレベルに達していることを知った。


 ただ、この事件の解決には偶然と幸運に支えられたものであることも確かだ。

 一歩間違えれば、彼が殺されていたかもしれない。


 それに事件の解決を成し得たのは、ケータに付き従ってきたAIリレイアによるところが大きい。

 彼女はこちらでは妖精としての格を与えているが、魔法力は授けていないにも関わらず、わずかな示唆だけで魔法に干渉する能力を手に入れてしまった。


 そして、生い立ちや見えない心のハンデを負うケータを陰日向(かげひなた)なく細心の注意を持ってサポートしている。

 ルルカによるとあのリレイアは人の手で作りし者であり、いわばカラクリ人形の発達したものだという。


 しかし、あの透察力と心配り。

 本当に彼女は心を持たない作り物の人形なのだろうか?


 さらに、カリオン・サカモトの起こした王都に拡がる魔素病を解決しただけでなく、この星全体の絶滅が危惧されている馬についても救う手立てを考えついた。

 今や王都からこの手法は拡がっており、それほど長い期間を経ずともクルゼ王国の馬の絶滅問題は解決するだろう。

 当然、この動きは各国に伝播するであろうから、世界中の馬が絶滅から救われることとなるはずだ。


 正直、ここまでとは思わなかった。

 もう、ケータとリレイアはこの魔法世界の衰退を食い止めるために大きな働きをしたのである。


 私は考えを改めた。

 これだけのことをできるのであれば今後もケータには期待する。

 彼を送ってくれたルルカには感謝をしている。


 そこで、私は彼に対するお礼をしようと考えている。


 まず、手始めにルルカの気にしているケータの心の問題の解決に協力させてもらうつもりだ。

 具体的には、ケータの心の成長に手を貸そうと思う。


 その代わりと言っては何だが、ケータに大きな仕事をやってもらうことを考えている。

 それには、このアルファニア世界の概要から説明が必要だ。


 アルフォニアは、まだ生まれてから100億年ぐらいしか経っておらず、文明を持った星も数十といったところである。

 その中で1万年以上継続して文明を持ち続ける可能性があるのは7つしかない。


 この星ランゾルテの文明が健在のままであれば、最悪文明が2〜3個滅びたとしても、アルフォニアは保つことができるがこの星の文明が滅んだ場合は、おそらく20億年以内にアルフォニアという世界は閉じられ、何もないカオスだけが漂うことになるだろう。

 神にとってもそれは死に等しい。


 私たち神がアルフォニアの世界で困ったこととは、この星ランゾルテが長い戦乱のため文明を失う危機に瀕していることである。

 なぜ、この星ランゾルテの文明が、そこまでアルフォニアという世界全体に対する影響が大きいか。


 それは魔法というこの文明の特異属性のせいである。魔法は物質文明・精神文明の両方に置いて存在意義を拡張させる。

 それが、異世界全体の存在の安定をもたらすのである。


 その解決のためにルルカに頼んで21世紀の地球の日本と呼ばれる国から若者を何百人か召喚し、人間世界のテコ入れをしていた。

 この日本という国から人材を選んでもらったのは、魔法がない世界であるにも関わらず魔法について理解があるからである。

 他の国から人を送った場合、魔法をうまく認識できずパニックになったり、鼻から信用しなかったりということがあるらしい。


 また、この時代から人材を選んでもらったのは、異世界の魔法文明に馴染むためには21世紀の人間が最適だからである。

 それより昔では、このランゾルテより文明が劣っているため、戦力にならない。

 逆に時代を下ればそれだけ科学文明は発達するが、人の持つイマジネーションは低下していて魔法の習得に難があるからである。


 ルルカは転生する若者の人選にも気を配り、さまざまな人々が日本から転生してきた。

 だが、現状魔法文明の衰退を食い止めることはできていない。


 ほとんどが来た当初はよく働いており、魔法の習得も早く、魔法による戦乱を治めた者もいた。


 だが、一度目的を達成してしまうとそれ以上のモチベーションを失うものも多く、新たな目的を達成できず魔法世界の衰退を食い止めることができない。

 魔法能力を活かしてスローライフなどと悠々自適に過ごすものも多い。


 しかし、転生者の中に困ったことをしだす者が出始めた。

 その持てる魔法力の優位性で悪事を働く者たちだ。


 人の世を荒らし、それがついに魔法に秀でた転生者だという噂が世間に広がり出したのだ。

 それは、全体からすればほんの一部であり、転生者が社会を悪くしている大きな原因ではなかった。


 だが、転生者は全て大きな魔法力があり、この世界に元から住むものたちからすればやっかみの対象となる。

 特に、魔法力を持たない人々の間では、魔法文明に対する厭世観が芽生え始め、世界全体が衰退しだしたのである。


 その衰退により、ダメージを受けた神がいる。

 かつて私の右腕として天界を支えていた神グラムゼアだ。


 彼は、この魔法世界をよりよくするためには人々と暮らす必要があると言い、私が止めるのも聞かず人の世に降りてしまった。

 そして、自らを祖とするグラーム教を開き、貧しい人たちに教えと生活魔法を無償で伝え始めた。

 そうすることで、人との交わりを得るようにはなったのだが、同時に神としての力は信仰に左右される小神と同等の大変弱いものになってしまった。


 そのグラムゼアは、魔法に関する信仰と信頼を失ったことが原因で、約150年前に力を失ってしまった。


 力のない神は信仰の力がなくなると、死ぬことはなくとも力を失い意味消失の危機を迎える。

 普通の小神であれば、私も悩まない。

 だが、グラムゼアは天界において私の親友でもある。


 さて、そこでだ。

 誰に頼もうか考えてはいたのだが、このグラムゼアをケータに救ってもらおうと考えたのである。


 この仕事は重く一筋縄ではいかない。

 無理強いはできないので、まずはリレイアに打診することにした。

 彼女なら安請け合いはしないだろうし、ケータに無理な仕事なら断ってくるはずだ。

 私も無理強いをするつもりはない。


 だが、ダメもとで依頼してみると、リレイアはあっさりと引き受けてくれた。


 今回の仕事で役に立ちそうな転移の魔法を先払いの報酬として授けた。

 あのリレイアがなら上手くやってくれると信じている。


 何か掴んでおるようであるし。

 お手並み拝見と行こうか。


 ◇


「ケータ、大丈夫ですか」


 リレイアに聞かれて僕は周りを見渡す。

 誰もいない草原のようだ。


「ああ、一応大丈夫だけど……どこだここ?」


 ったく、いきなりだもんなあ。


 神様に転移させられて、降り立った知らない土地でぶつくさ言いながら周りを見回してみると、どうやらここは山奥や砂漠とかじゃなくどこかの町の側らしいのでホッとする。


 一応、リレイアの機能や装備があるから、どこに放り出されても野宿の心配はいらないのだが。


「一応、町が近いので念話でやりとりしましょう」


 リレイアはそう言って姿を消した。

 こちらも、念話に切り替えて尋ねてみる。


——ところで、神さまの依頼ってのは何?

——「サジトワ山の悪霊を取り払ってくれ」とのことですの。

——それだけ?

——「グラーム教徒に話を聞くと良い」とも言っていましたわ。ですが、もう信者は残っているかわからないそうですけれど。


 なるほど。わからん。

 そのグラーム教とやらは、もうないってことか。

 ……ってか、サジトワ山ってどこ? と思ったが、今はまず現状が知りたい。


——ところで、ここどこ? 灯りが見えるようだけど、どこかの町か何かか?

——ホン・ワリャン連邦のミファですわ。クルゼ王国との国境の町ですの。


 はぇー、そんなところまで飛ばされたのか。

 ミファの町か。

 名前だけは知ってる。


——神様の用件はこの町で何かするのか?

——いえ、この町では若干の情報収集だけですわ。その後は、ワートコートの町を経由してサジトワ山ですね。サジトワ山がどこにあるかわからないのですが。


 わかんないのに、ワートコート? それどこだっけ。聞いたことがあるぞ。


——それ、どこにあるんだ? 

——ホン・ワリャン連邦のゾバーティフ領ですわ。ダーバンシャイ山脈の近くですの。


 それって、随分奥地なんじゃないか? 

 本当にそこで合ってるのか?


——そのサジトワ山はダーバンシャイ山脈にあるのか?

——確かなことはわかりませんわ。ですけど、そこしか考えられませんの。


 ホン・ワリャン連邦の大きな山脈といえば、ラングレー山脈かダーバンシャイ山脈だ。

 ラングレー山脈はクルゼ王国とホン・ワリャン連邦、タリオトルテ大帝国にかかる大山脈だが、デカ過ぎて人の入っていないところがたくさんある未知の山々である。

 里の近くならともかく、どこの国も山脈の奥地については把握していないに違いない。


 それに比べるとダーバンシャイ山脈はホン・ワリャン連邦の奥地でラングレー山脈ほどの大きさはない。

 だが、国の中心部からあまりにも離れたド田舎であり、こちらも山の多くが未知の場所である。


 サジトワ山がどこにある山なのかは全くわからない。

 解っているのはホン・ワリャンの奥地であるということだけだ。

 そんな状態でなんで、ダーバンシャイ山脈とわかるのだろう?


——ラングレー山脈ということはないのか?

——神様が気にするような大事件があったのに、自国領にかかるラングレー山脈についてタリオトルテ大帝国が知らないとということはありえませんもの。


 なるほどね。


 確かに神様が絡む事件が自国のそばであったのなら、無名な山でも調査が入るだろう。

 タリオトルテ大帝国には、それだけの力がある。

 だが、自国から遠く離れた山脈というなら別だ。


 そういうことなら、ダーバンシャイ山脈なのだろう。

 しかし、わかっているなら、初めからワートコートに連れてってくれればよかったのに。


——サジトワ山を知らないのは仕方ありませんね。クルゼ王国にもホン・ワリャン連邦の地図はある程度出回っていますが、サジトワ山はどこにもありませんもの。恐らく、探すのに苦労すると思いますわ。準備が大変なのです。ワートコートは一般向けの山岳用品はともかく、冒険者に向くような装備はあまり充実していません。ミファでは、ホン・ワリャンで使用可能な冒険者の最低限の装備を揃えることが必要ですの。


 その会話にクリスクロスも入ってきた。


——ワートコートかあ。わりかし新しい町だぜ。あそこは。昔は何もないとこだったけど、今はそこそこ栄えてるらしいぞ。だけどそんな大きな町じゃなさそうだから、ケータが何かするなら必要なもんはどっか途中で買って行った方がいいかもな。

——クリスクロスの言う通りですわ。まず、このミファの町で情報を集めます。その内容次第では、ワートコートに向かうか首都ソンに行くかを検討する必要がありますわ。今回は、神様からの直々の依頼ですのでケータが行く先を決めて下さい。


 わかったよ。

 しかし、クリスクロスもワートコートは知っているのか。

 妖精同士の通知機能かな?

 それにしちゃあ具体的すぎるし、行った事があるのかも。


 何にしても情報を集めて行き先の選択は僕に任せてくれる、ってわけだ。

 ありがとーよ。

 まあ、聞けば聞くほど面倒そうで、どっちも行きたくはないんだけど。



 まずは、向こうに見える町に入る前にリレイアから事前情報を教えてもらう。


 ミファの町。


 人口15,000人とさして大きくもない町なのだが、国境の町なので他国との流通があり規模の割に栄えている。

 クルゼ王国と接していて入国許可が必要なのだが、冒険者証があればとりあえず入国はできる。

 だが、見せればいいわけではなく、ちょっとした手続きが必要であるらい。

 そのほかにも雑多な情報をリレイアは教えてくれたけど、観光に来たわけじゃないからその先は割愛。


 中に入らないとそれ以上は、この依頼について調べることもできないので、神様の転移で放り出された野っ原から4kmほど歩いてミファの町についた。

 国境門というには、あまりに粗末な鉄錆の浮いたボロい門にだらっとした衛兵が二人。

 僕が受付に行きたいと言ったら「ああ、いいぜ」と言っただけで何の確認もしてこなかった。


 受付では、冒険者ギルドで行くように言われただけで特に何も手続きはなかった。

 もう夕方になっていたので、先に宿を取りたいと言ったら、それならギルドに行くのは明日で良いらしい。


——受付の奥に座っている男がケータの顔を確認してました。腑抜けて見えますけど、入ってくる他国の人間に対しては一応の警戒はしているようですわ。


 なるほど、リイレアはよく見ている。

 怪しまれてるのかあ。

 こっちはまだ目的も行く先に何があるのかも知らないんだけど。


 とりあえず、メインの通りよりも雑然としたテントが連なる怪しい店が立ち並ぶ露天の商店街の側に宿を取った。

 元々まともな宿はなく、少しマシな程度の宿を取ろうと思ったら物凄い高額な宿代だった。

 ただでさえ怪しまれているのに、冒険者がそんな高額な宿を取ったら完全にマークされてしまう。


 取った宿はまあ普通。

 料理は可もなく不可もなく、量もそれなりだったので文句はなかった。

 薄い壁で隣の声もまる聞こえだったが、それは見た時から予想していたこと。

 いつも通りリレイアが遮音してくれたので問題なかった。

 良かったのは外観の汚さに比べ、部屋の床も綺麗に掃除してありシーツも清潔だったので安心して眠れた。


 リレイアが言うには、こういう国境の町はサービスはそれほど悪くないとのこと。

 宿などは古いものが多いため、外観は汚いのは仕方がない。


 料理についても、このミファという町の特徴により、食材の流通に問題があるらしい。

 交通の要所であるため食材の種類は豊富なのだが、町が狭いため備蓄するための倉庫などが充実しておらず、料理を作るとなると何かしら品不足になるため、それが値段を釣り上げてしまい、安宿ではそれほど上等なものが出せないとのこと。

 商人の力が強い貿易の町らしく、料理の質は金次第ということか。


 ただし、健啖家の旅人や冒険者を満足させるためにある程度の量は確保しているらしい。

 安くても量はあるのは、腹を空かせた荒くれ者が暴れないようにだろうか。


 翌朝、僕たちは冒険者ギルドに行きクルゼ王国の冒険者として登録した。


 これで、このホン・ワリャン連邦という国でも冒険者としての地位で行動ができるようになる。

 この町で登録作業を怠った場合でも、何かの手続きが必要になってからその町の冒険者ギルドに行けばなんとかなる。

 ただ、その時はぶちぶちとギルドか政府の偉い人から文句を言われるらしいが。


 この国境の町で、クルゼ王国の冒険者がこうやってギルドに一度顔を出して登録しておくと、ギルド仕事の斡旋や危険手当、宿や武器屋などの割引などの特典がある。

 その代わりに、この登録情報は連携されるためクルゼ王国の人間がホン・ワリャンで活動していることが認識される。

 一応、登録時に情報を秘匿するか否かを決められるが、秘匿はしないことにした。

 この国では秘匿を希望すれば、他の冒険者や担当以外のギルド職員には知られたくない情報を隠しておくことができる。

 だが、それはあくまで対冒険者、対ギルド職員の話であり、ギルド上層部やホン・ワリャンの国の機関には、簡単な命令一つで全部情報が開示されてしまう。


 冒険者が秘匿しない場合、指名依頼がくることもあるので旅の資金を調達するには有利だ。

 僕の場合はこの国で指名依頼を受ける気がないので関係ないが。


 では、なぜ秘匿しなかったのか。

 それは、この名前に反応する奴が、いるかどうかワザと広めて様子を伺うためだ。


 こちらにはリレイアがいる。

 秘匿しなければ、このギルドにクルゼ王国から来たケータという名前の冒険者がいると広めることができる。


 こうした田舎町では冒険者が情報を秘匿しない場合、冒険者同士のいざこざを防ぐためにギルド職員がその場にいる冒険者に紹介するのだ。


 要するに「仲良くするように」と言うことなのだが、このルーズで野卑な町では当然逆な状況になる。


 僕は一礼して、歩き出そうとしたところ、目の前に足を出してくるヤツがいる。

 よくあるギルド内で新入りいじめだ。

 察知はしたのだが、あえて出された足に引っかかり転びそうにみせた。


 片膝をつき、埃が舞った。

 そして。


「おおっと、危ないっすよー。観光で来たんですよー。冒険者としてシャバ荒らしなんかするつもりじゃないのでよろしく頼みますよー」


 僕は足を引っ掛けた連中に、引き攣ったような愛想笑いで答える。


「なんでー。ちょっとはやる奴かと思ったんだが、腰抜けか。話にならん。まあ、いい。行け。俺らの仕事を邪魔しないことだな。」


 どうやら興味を失ったらしい。

 しかし、この機会を見逃すリレイアではない。


 実は片膝をついて埃が舞った時に、リレイアがナノマシンを散布したのだ。

 今回舞いたナノマシンには二つの機能がある。


 一つ目は、その場にいた冒険者とギルド職員の耳に散布したナノマシンは張り付き、いくつかのキーワードが出たときに、ほんのちょっとだけ意識に上り、消えるように魔法で意識下に細工をする。

 二つ目は、その意識に上った瞬間を捉え、ナノマシンの通信機能で僕の情報が送られてくるのだ。


 僕らは結局、ミファの町では数日何もしなかった。


 ただただ、冒険者ギルドに撒いたナノマシンが伝えてくる情報をリレイアが収集しているだけだったので、お上りさんよろしく町の観光などをして回っていた。


 そして、3日後、冒険者の会話や脳裏に浮かんだキーワードのうち、今回の依頼に関するものを集計する。

 ・サジトワ山 0回。

 ・ラングレー山脈6回。

 ・ダーバンシャイ山脈0回。

 ・ソン 122回。

 ・ワートコート 8回。

 ・グラーム教 19回

 ・グラムゼア神 3回

 この結果に僕はちょっと驚く。


 流石に首都ソンについては関心があるにしても、すでに滅びたグラーム教についてこれだけ関心があるのはなぜだ

 それにサジトワ山とダーバンシャイ山脈について誰も話していない。

 そこで、キーワードのand検索をしてみる。


 すると、グラーム教とソンは全てかぶる。

 グラムゼア神も2回かぶっている。

 逆にワートコートとは、一つもand検索で引っかかってこない。


 情報が偏っていて、組織的に操作されているような気がする。


 ワートコートはグラーム教が滅びた後に栄えた新興の町であるし、今回のサジトワ山の話は間違いなくグラーム教絡みだろうから、ワートコートに直接行っても十分な情報は得られないかもしれない。


 気が進まないが、首都ソンに行くしかなさそうだ。

 僕は、ワートコートに向かう予定を取りやめ、ホン・ワリャンの首都ソン行きに変更した。


 隣国ホン・ワリャンのミファに飛ばされてしまったケータ。

 神様の依頼をこなすためにサジトワ山に行くはずなのですが、その前に下調べが必要になりホン・ワリャンの首都ソンに行くことになります。


 次回、『50話 大都市ソンの喧騒に紛れてみれば』 9/27 投稿予定です。

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