47話 敵の魔法を考察すれば
ジャミラスが唱えた魔法『グラムゼア・ランス』について改めて考察するケータ。
その途中でまた、思わぬ事に巻き込まれて……
ケータは研究小屋の再建と再稼働を一通り済ませた後、ジェラルド率いる討伐隊の一件についてもう一度考察してみることにした。
リレイアに指摘されて考えてみると、どうしても一つだけ気になることがあるのだ。
あのジャミラスという男。
異様な目、そして、僕の研究小屋をぶち壊してくれた魔法「グレムゼア・ランス」だ。
と、その前に……あの特殊な魔法について理解を深めるために、ついこの間知ったこの世界の魔法の根本的なルールのおさらいの授業をリレイアから受けた。
この世界アルファニアで一般的に知られている魔法は基本属性である火・水・土・風・光・闇である。
そのどれにも属さない魔法として無属性と聖属性がある。
一般的には最初の6属性を単独で使い、初級から中級までが何らかの方法で習う。
無属性魔法は研究者が古い文献から得ることが多く、国が主導で広めていく。
聖属性魔法は、主に教会が研究を進めていてその信者を中心に教えることが多い。
まず、初級の生活魔法ファイヤー、ウォーター、ライティングなどは教会などで安価に教えてもらうこともできる。
そのため冒険者・貴族・町人にかなりの使い手がいる。
ほんの少しでも火属性があれば、竈門に火を起こせるファイヤーは平民には便利であるし、旅に出てダンジョンに潜る冒険者の場合は、戦士などの前衛職であっても、ウォーターやライティングは使えるなら覚えておきたいものだ。
また農村ではプロウと呼ばれる畑のための土属性魔法があり、村長を中心に受け継がれ開墾や土地改良のために、各村数人が使えるようになっている。
最も魔法が使える人は希少であり、このブロウにしてもある程度の魔力がないと唱えることができない。
残念ながらこの村でも2人しかプロウを覚えられなかったが、それでも今のところ十分だ。
すでに、この土地はすでに相当改良されている。
魔法力は誰でも少しは持っているが、貴族も平民も関係なく使えるのはせいぜい10人に1人か2人。
しかも大抵は初級のものしか使えない。
だから、農村で特に子供が生まれると魔力があるかどうかは非常に気になるものだ。
村に10人の子供がいたとして、2人いたら上々。
まあ、1人でもいれば大丈夫。
誰もいなかったら、魔法力が高い嫁をどこかの別の村の農家から迎え入れる必要が出てくるだろう。
ロブナントの村長たちは、横のつながりがあり、他の村ともうまくやっているので何とかなるだろう。
さて、それより上のレベルはどうなるだろう。
農村や町人ではなく、冒険者や宮廷魔術師を目指すもの、教会で治療のため魔法を使うものなどだ。
まずは、冒険者などの場合、いわゆるファイヤーボール、ウォーターウォール、ロックブリット、エアカッターなどがそれに相当するが、カテゴリーとしては初級の終わりから中級となる。
初級か中級かは威力にもよるので本人の魔法力次第だが、より高度の魔法の習得には魔法力だけでは足りない。
中級の入り口程度の魔法なら、冒険者ギルドで講習を行なったり、冒険者同士でもそれなり報酬で教え合うこともある。
だが、それ以上の唱えられ発動することができるだけで中級魔法に分類されるもの習得には、高位の魔法使いや魔導士などに師事するか、王都の魔法学院にでも通わないと取得はできない。
魔法の習得も先に進むかどうかは、金次第というのが現実なのであった。
そう考えると神様に最初から中級以上の魔力と上級までの魔法を教えてもらっているケータは十分チートとも言える。
だが、それだけで十分とは言えなかった。
特に、リレイアは不安を感じている。
実際、王都の事件ではケータは死にかけたし、これからもっと強い魔法師にもあうだろう。
ケータの魔力は既に上級の中位まで上がっているのだが、知識として単に上級の魔法を知っているだけではそろそろ相手によって不覚をとるかも知れない。
そこに持ってきて、あの「グラムゼア・ランス」である。
上級以上については、秘伝であったり一子相伝であったりとかで、極めて習得される機会が限られるため魔法力と財力があっても身につけられるとは限らない。
さらにプラスαの何かが必要になることがあるのだ。
あのジャムラスの放った「グレムゼア・ランス」は威力からしても、その魔法のレア度から言っても、その中で飛び切りだ。
あの魔法を使えるということだけで、相当な手練れであることがわかる。
だが、ケータにはそこまであの魔法が特別であると言った認識がない。
そこで、リレイアはケータに「グラムゼア・ランス」の危険性と異常性を教えることにした。
まず、「グラムゼア・ランス」を説明する前に、リレイアはこんな話をケータに振ってみた。
「ケータはファイアー・ボールをどう思っておりますの?」
「うーん、派手な割には威力が低いというか……」
「そうですわね。で、どうしてそうなると思います?」
「それは……」
ケータは答えようとして詰まった。
ファイアー・ボールは火属性の魔素のみを使用する中級魔法ではあるが威力は高くない。
だが、何故かはケータにはわからなかった。
「ヒントは減衰ですの」
「んっ……あっ、ああああ、そうか!」
魔法としては簡単な構造であり、流石にヒントまでもらえれば気づく。
ファイアー・ボールは火属性の魔素を一気に魔法として放つ。
飛んでいくうちに火の勢いはなくなるし、大きな火球は風の抵抗もデカい。
従って速度は遅いし威力も落ちるとなると、10mも離れていれば普通の鉄の盾一つで防げてしまう。
「ということはファイアー・アローなんかどうなるんだ?」
ファイアー・アローは、速度もそこそこであり20mぐらいまでその威力を保つことができる。
「あれは、土属性と風属性を含んでいますの。それが大きく影響してるんですわ。ケータはファイアー・アローの構造はわかってますわよね?」
「えっ、ああ……なるほどね」
「解ったようですわね。説明を」
テストされているようだと思いながら、ケータは説明を始めた。
ファイアー・アローは、火属性だけではなく土属性と風属性の魔素を少しだけ使う中級魔法である。
ファイアー・アローがファイアー・ボールと違うところは、薄い膜を土属性で生成し、火属性の魔法を棒状に保護する。
風と土は対照属性なので直接当てると減衰してしまう。
この場合は、風属性は露払いの役目である。
先に風属性の魔法で局所的突風が吹き、そのストップストリームに引っ張られて土属性の薄い膜がそれなりの速度で飛ぶのだ。
標的に当たれば、風属性と土属性の魔法が相殺されて薄い膜が壊れて、保護されていた火属性の魔法がその威力を発揮することになる。
「はい。よく覚えてますね。では、あのグラムゼア・ランスはどう思います?」
ここからが、今日の本題だ。
「えっ! あれはーー…………わかんないや。そう考えると確かに不思議だな」
「私も『グラムゼア・ランス』の詳細な動作原理については把握しておりませんわ。ですが……」
そこから、リレイアはグラムゼア・ランスについての魔法動作原理の考察を話し始めた。
「グレムゼア・ランス」は、最初から火・水・土・風・光・闇の6種類の属性を含有しており、目標物に当たる瞬間に6つの内どれか一つの属性に全ての属性が変異して収束、その膨大なエネルギーを解放して爆散する。
ただし、無属性の場合は少し特殊で、対照属性を対消滅させた時にできるエネルギーを元にしている。
有効射程距離は異常に長く、威力の減衰も少ない。
爆発系の魔法であるのに、ランスという名前が付いているのは飛来する姿が6色の槍に見えるところに由来しているのだろう。
そして、何よりこの魔法の特徴は、最終的にどの属性になるかは唱えた時はわからないことだ。
勝手に相手の弱点である属性に変換されて爆発しブッ飛ぶのである。
それについては、リレイアは憶測を述べた。
おそらくそれぞれの魔法は最低限具現化していて、それぞれの属性は飛翔時には魔法化されておらず、魔素のまま運ばれると思われる。
それが、対象に当たる瞬間に何らかの判定を経て弱点属性を見つけ出し、魔素変換により弱点属性の魔素としてから、魔法化する。
それゆえ、飛翔時における減衰がほとんどなく、強力な魔法が放出されるのだ。
「そんなことできるのか? 魔素のまま魔法を運んで、飛んでいって対象に当たる時に魔法化するなんて」
「私もしれませんわ。でもそうでも考えないと説明がつきませんの」
ケータはうーむ、と唸った後、ポツリと言った。
「打ち上げ花火みたいだな」
「…………言い得て妙ですわね」
リレイアはうなづく。
確かに、どーんと打ち上げられ、火薬が運ばれて二次爆発、三次爆発で空に花を咲かせる打ち上げ花火は、魔素と魔法の関係に似ている。
この場合、火薬が魔素で、爆発が魔法の効果になる。
「ですが調べようにも困ったことに、今知っている限りではこれと同系統の魔法が思い当たりませんの。ですから、原理について仮説を立てたとしても状況的な範囲に留まりますし、再構築して自分で使うことは今のところ、考えつきませんわ」
問題はこの魔法の習得だが、はっきり言って方法は「ない」。
ケータはそんな方法を知らなかったし、リレイアもそういう技術を教えている機関を見つけることができなかった。
失われた魔法なのだ。
唯一わかったのは、王都の図書館にあったホン・ワリャンの書物のグラムゼア教とその魔法の歴史についてだけであった。
起源はこの世界の神グレムゼアの力を借りて、7種の属性を練り上げるのだがグレムゼアを信仰しているグラーム教はすでに失われているため代々一子相伝のように受け継がれた魔法の伝承は途絶えたはずだった。
この魔法を使ったグレムゼア教の教徒は神官と信徒が一人づつと記録されている。
思ったより少ない。
そして、あのジャミラスでグラムゼア・ランスを使えるのは三人目ということになるのだが、あの魔法の威力だけではなくジャミラスの凶暴な性格、なぜ習得過程出来たのかなどきな臭い感じがプンプンする。全く厄介である。
その中でも、ケータとリレイアが危険視している点は二つ。
まず、いきなり何の前触れもなく小屋に対して魔法をぶっ放した異常性。
あれが、激情と狂気に根ざしたものなら、敵となった時に攻撃が読めない可能性が高い。
行動規範が分からないのは怖い。
敵とした場合、人質などを取られると交渉が通じなかったり、容赦なく殺したりと言ったことがありそうだ。
言うならば「冷静な狂気」。
そしてもう一つ。
リレイアにとってはこちらの方が大きな問題である。
あの小屋にグラムゼア・ランスを打ち込んだ時、ジャミラスは言った。
『半壊? てっきり跡形もなくなると思ったが、それに最終属性が無であるのもおかしい……何かあるか……』
グラムゼア・ランスは、対象物に当たる際に最も弱点となる属性に変化して力が解放される。
木製の小屋に当たるなら、まず可能性が高いのは火属性に変化して燃え尽きるパターンだ。
次に小屋がボロければ、水属性になって水圧でバラバラになることも考えられる。
木が老朽化している場合は、腐食させて崩れさる土属性ということもあるかも知れない。
粗暴で大雑把な人間が、どの属性に弱いか気にせずブッ壊したいと言うならこの魔法はうってつけだ。
しかし、放った後にどの属性に収束したかを気にしており、放たれた魔法の威力で小屋が全壊に至らなかった点を考えるだけの思慮深さがあるとすると問題なのだ。
この小屋で「高度な魔法実験がこのアルファニアとは異なる次元で行われている」のを知られることが。
この片田舎に引っ込んだ理由の一つは、あまり敵の動向に左右されずに研究をしたかったからだ。
今回のように未来技術が暴かれる可能性を考えなくてはならないのは、頭が痛い問題だ。
ただ、ジャミラスは避難小屋の壊れ方を気にしたものの、中まで詳しく調べようとはしなかったのは幸いだ。
避難小屋はカモフラージュしてあり、建材もわざとガタが来ているように変質させてはいたが、元は再建時と同様未来技術によるコーティングがなされており、すべての属性に対してそれなり耐性がある。
従って、半壊はしたが爆散はしなかったので、調査されていたら知られたくない色々が露見していた可能性があるのだ。
ケータは、良くない予感があった。
ジャミラスの行動が気まぐれだったらいいけれど、そんな気はしない。
考えると胃が痛くなるほどヤバそうな奴だ、と。
暗澹たる気持ちを持ちながら、研究小屋の窓から夜空を見上げ、この星の二つの月フレーメとサルーテをぼーっと見ていた。
「ケータ、どうしましたの?」
今は誰もいないのでリレイアも姿を表していて実声も出している。
「いや、あのジャミラスが気になって……それに何で小屋を攻撃したんだ? 癇癪を起こしたにしても大袈裟すぎるだろ。あの攻撃は」
「さあ、それは私にもわかりませんが……アルーダ様からその件で話があるらしいですわ」
いつそんな話があったんだ?……って決まってるよなあ、このロブナント子爵領に来た時だ。
それを見越して、ここに移住させたんだろうから。
くっそう。黙ってたな、リレイアとクリスクロス。
ケータはクリスクロスを睨みつけた。
「ん? なんだ。おいら? ああ、アルーダ様の話か? 別に忘れてたわけじゃないぞ。もう少し後でアルーダ様直々に話すからと今まで止められてたんだ」
「そうなの?」
「ああ、でももう決まったみたいだから、そのうち神様の結界に勝手に呼ばれると思うぜ」
「あれかー」
ケータやリレイアは亜空間と呼んでいたが、クリスクロスにとっては結界であるらしい。
「でも何か違うような……まあいいや、後で亜空間と結界の違いについて聞いてみよう。……んなことはともかく、また呼ばれるとすると面倒ごとかなあ。今回頑張ったからご褒美……ってこともなさそうだからなあ、このタイミングじゃあねぇ」
ケータはそんな独り言を言ったが、その日は纏まらない考えを投げ出して不貞寝してしまった。
◇
翌日、森の奥の避難小屋はさらに魔改造されていて、相当なレベルの研究ができる以前の状態まで復旧していた。
そして、この星ランゾルテの二つの月フレーメとサルーアを眺めていると、フレーメの方から、不思議な光が降りてきて研究小屋の前の庭の中空に止まった。
辺りは一瞬のうちに白い霧のような亜空間に包まれた。
どうやら神様が来たらしい。
「私だ。アルーダだ」
クリスクロスからお話があると聞いています。
「ああ、すでに聞いているか。話というか、今日はお主に頼みがある」
はあ、神さまの頼みなら聞かないわけにはいかないですが、期間はどれくらいでしょうか?
この土地から長く離れるちょっと困ってしまうんですが。
「わかっている。おそらくひと月程度であろう」
うーん、ひと月ですか。まあ、それくらいなら……いいです、お受けします。
「この頼み事の報酬の先払いとして転移の魔法を授けよう」
そういうと頭の中に魔法の呪文と成り立ちなどが情報として入ってきた。
前と同じでいきなり高密度な情報で頭がクラクラする。
それが終わると。
「リレイアはいるか?」
「御前に」
リレイアは、普段は砕けた口調だが、神の前ではやたら礼儀正しくなる。
ケータは『僕に対してと態度違い過ぎない?』と思う。
「魔法自体はこの世界に元からあるものだが、いささか大きな魔法力を必要とする。リレイアの持つ力で補助してやれば、その負担が減らせるだろう。これを」
そう言うと、神アルーダは杖を前に出し不思議な赤い光を一筋、精霊の姿のリレイアまで繋げた。
内容は読み取れないが、すごい情報量が流れ込んでいるのはわかる。
「ロード完了致しました。今後は、短距離ならケータの魔法のみで。さらに指示があれば、私の力で敵防御陣を超えての転移や、より長距離の転移することが可能になります」
「ほう。うまく行ったみたいだな。転移の魔法はいくつか制限があるが、基本的に行ったことのない場所には行くことはできん。だが、行ったことのある誰かのイメージを読み取れば、初めての場所でも転移は可能だ。しかし、それには少し危険もあるので今回の頼み事については、私がその町の近くまで送ってやろう」
「へっ? ちょっと待って! まだ、準備もしてないし、何をするかも聞いてない!」
「大丈夫じゃ、先ほど今回の頼み事の内容はリレイアに伝えてある」
えーーー、いきなりすぎる、と思った途端、目の前の風景がホワイトアウトした。
そして、ケータは気がつくと見知らぬ国の見知らぬ町に降り立っていたのである。
またしても神様の都合に巻き込まれたケータ。
ケータを巻き込んだ神様にはどんな事情があったのか……
次回、『48話 ちょっと強引な神の頼みに巻き込まれれば』 9/20 投稿予定です。




