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5話 神が人を説得するならば

 5話です。


 慶太は未来に向かう前に、神ルルカは慶太とルーラウの2人に理解を求めます。

 夢の中で「未来や別世界に行っても、僕の気持ちは晴れないだろう」と思っていた慶太。

 神がたった一人の人間を気にしていることを快く思っていないルーラウ。


 果たしてどうなりますか……

 21世紀の来栖川慶太は死んだ。

 しかし、その死体は本人からコピーされた物であり、慶太はまだ生きている。 

 

 だが、来栖川慶太本人も死に(ひん)しており、このままでは助からない。

 慶太がいるのは、神の創造した神の領域。すなわち神域(しんいき)だ。

 

 体が横たえられている。

 意識はないがまだ息はある。

 まわりには2人の神がいてその男のことを見下ろしている。


 神ルルカは隣の属神ルーラウに話しかける。


「慶太を救うにしても、本人の意思を無視してただ命を()げるだけでは意味がない。納得して今後の人生を歩いてもらいたいのじゃ。今からこやつの意識に呼びかけて説得しようと思う」

「神が頼み事ですか? しかも、この世界の主神ともあろう方が、ただの人間の許可を得るために説得? 前代未聞(ぜんだいみもん)どころじゃないですよ!」

「まあ、そう言うな」


 一応、未来へ行ってもらうことは神の間では決定事項ではあるのだが、本人の承諾(しょうだく)が必要だと神ルルカはそこに(こだわ)った。

 神はそう言ってフッと笑った後、その体に呼びかけた。


「慶太。来栖川慶太。目覚(めざ)めなさい」

「えっ、あっ、はい」


 呼びかけには答えたが、まわりの様子を「感じて」混乱している。

 それはそうだろう。

 まわりの様子を「見た」わけではなく「感じた」のだ。

 答えはしたものの声を出したわけではない。呼びかけも耳で聞いたものではなかった。


「今、この声は思念(しねん)により直接話している。頭の中で答えを考えるだけで良い」

「はあ」

「君は来栖川慶太だな」

「はい」


 そこであなた方はと聞こうと思ったが、聞く前にわかってしまった。

 これは神様に間違いない。

 神様にあったことなどないが、これは(まぎ)れもなく神だと(たましい)が教えてくれているのだ。

 それと……夢の中であった神様がいるのがわかる。


「僕はどうなったんですか」

「君の体はいささか問題を(かか)えて追ってな。治療のため未来に行ってもらおうと思っている」

「えっ……突然そう言われても……それでいつ行くんですか? 帰ってこれるんですか?」

「行くのは今すぐになる。そして残念ながらもう帰ってくることはできん」


 そこで理不尽(りふじん)だとか、聞いてないとか言おうとしてやめた。

 これもまた神を前にして無駄(むだ)なことだと(さと)ったのだ。


「事情をお聞きしたいのですが」

「いいじゃろう」


 そこから神は事のあらましを慶太に説明した。

 まず、来栖川慶太の命運(めいうん)()きており、もうこの体で暮らしていくことができないこと。

 それを治療するには現在の技術では無理であるので未来へ行く必要があること。

 ただし、もう戻れないため今の体と同じものを死体として置いておき、21世紀の来栖川慶太の人生は終わること。


 何より僕にはありがたい話に思えるのですが、ここまでして頂けるというのは何か理由があるんですか?」


「ああ、いくつかの理由がある。まず聞きたい。お主のこれまでは不幸だったのではないか? 人生の節目(ふしめ)節目であまりに不運が重なりすぎてはいなかったか?」

「あっ、えー、はい。ですが、大抵(たいてい)は自分の無力さのせいだとは思ってはいました。確かに、運が悪いなとは考えることも多かったですけれど、なるたけそう思わないようにしてきたんです」

「そうじゃろうな」


 そこで、神は一度息を()き。


「それはお主のではない……ワシの責任じゃ」


 慶太は驚く。

 意識のない状態なので表情が変わるわけではないが、もし起きていれば目が限界まで見開かれていただろう。


「神…様の…せい……なんです…か?」

「そうじゃ」


 それからルルカ様は僕に『神の干渉(かんしょう)憑依(ひょうい)』について話してくれた。


 神は宇宙のあらゆる文明を監視している。

 ただし、細かいことまではわからない。

 だが、知ろうと思うことはある。

 ある時はその世界の詳細を確かめるために。

 また、ある時はほんの(たわむ)れに。


 知るためには、その文明の生物に干渉して一時的に憑依し、状況を把握(はあく)する。

 ところがその干渉はあまりにも大きく、生物にとってかなりの負担となるのだ。


 過去の人間に憑依した時の悪影響の例を並べれば。

 あるオリンピック選手はマラソンの途中でたった0.1秒だけ神に干渉されたことで優勝を逃した。

 ある政治家は、国会答弁の途中で干渉され、直後に言ってはならない一言から辞任に追い込まれた。

 結婚式の途中、誓いの言葉で『否』と答えてしまった者もいた。


 このようなことがあるとその人間は運気を大きく落とし、命運が削られていく。

 命運が尽きると人間は死ぬ。

 体が病に(おか)されていなくとも、大怪我(おおけが)をしているわけでなくとも、目に見えない命運を使い果たした時、人は死ぬのだ。


 だが、普通なら健康で精神的にも病んでいなければ運気がそこまで落ちることはないはずである。

 前述の神の干渉を受けた者たちも運気を落としその後の運命は大きく落ち込んだが、その後は健康も運気もある程度取り戻してそれなりの人生を歩いていくことができた。

 それは彼らが干渉を受けた回数が人生で一回きりだったからである。


 しかし、彼の場合は違った。

 そんな不運で不幸な運命が一度あっただけで、命運が尽きたわけではない。

 彼を衰弱させているのは、神からの度重なる干渉の結果だった。


「神様、私は何回、干渉を受けたんでしょうか?」


 神ルルカは、ちょっと言い(よど)んでから答えた。


「……36回」


 それに答えたのは女神ルーラウだった。


「それは……(ひど)い。なんでそんなに……干渉する相手にこの来栖川慶太を毎回選んだ理由もわかりません!」


 神の干渉が36回もあれば、本人の努力がどんなにあったとしても悲惨な人生は避けることは出来ない。

 そして神の負担から立ち直る力は、人間の生命力や寿命を酷く消耗(しょうもう)させる。

 むしろ、今までよく来栖川慶太が生き残っていたとも言える。


 そして神ルルカは答える。


「慶太、すまぬ。これは()びて許されることではないが、なんとしても慶太の人生を取り戻すために力を尽くす。未来を行ってはくれまいか」


 そして、ルーラウの方へ向き直る。

 

其方(そなた)がこのことに反対しているのもわかっている。だがワシは慶太を救わねばならぬ。過干渉で人を不幸にするのは神の罪だ。これはつぐなわなければならぬ」


 主神ルルカに仕える属神であるルーラウは慶太を救うのには反対だった。

 この宇宙を()べる主神がたった一人の人間を救うために躍起(やっき)になっているのだから。


 それを知っている神ルルカである。

 ゆえに、慶太に謝罪を、属神ルーラウに一人の人間を救う決意を示さずにはいられなかった。


 慶太は呆然(ぼうぜん)とした。


「それで僕はどうすれば良いのですか?」


 そう言うことしかできなかった。


「いや、何もすることはない。未来転移の全ては我々神が行う……ただな。一応本人の許可が欲しくてな。こうして説得しているわけじゃ」


 慶太は迷っている。

 『未来など行っても仕方がない』と一度はそう言ったが、断ったら死ぬのだ。

 怖いのは当たり前だし、後悔もある。


 それに、今まで何もできなかったのは自分のせいだと思っていたが、神様が干渉したせいだと言うではないか。


 慶太は混乱する。

 本当にそのせいか?

 自分にできることはなかったか?


 しかし、慶太は決断した。

 もしかしたら……

 もう一回やり直せるなら……


 そうしよう。

 そう思おう。


「治していただけるならありがたいことです。その……未来へ行かせていただきます。……ただ、お世話になった人達に挨拶(あいさつ)ができないのが心残りです」

「残念ながら挨拶を交わすことはできん。だが、お主の気にしている両親や友人たちについては十分な加護(かご)を与えよう。彼らの人生は今後十分に幸せと呼べるものになるような」


 慶太はひとまず安心した。

 と、そこで肝心なことを聞き忘れていたことに気がついた。


「そこまでしていただけるなら後悔はありません。それでどれくらい先の未来に行くんですか?」


 神様はそこでニヤッと笑うと。


「56世期に行ってもらおうと思っておる」

「56世期! 3,500年も後の時代じゃないですか!」

「ああ、そこに慶太を(まか)せたい者がおるのじゃ」


 そこから聞いた話は、()いた口が(ふさ)がらないというか、荒唐無稽(こうとうむけい)過ぎて実感がわかない。

 とにかく理解の範疇(はんちゅう)を超えていた。

 未来でこの体を治療して、そのまま暮らすというのだ。

 しかも未来の知識も勉強させてくれるらしい。

 その担当はAIだと言う。


「どうじゃ。行く気になったかの」

「え、えー……はい。まだ頭の中が混乱していてよくわかりませんが、行くよりなさそうです」


 慶太は一度、属神ルーラウと主神ルルカを交互(こうご)に見て言った。


「ルーラウ様が反対されるのでなければ、僕は未来へ行こうと思います」


 ルーラウは干渉する相手に来栖川慶太を選んだ理由が知りたかったが、ここで聞けないなら話すつもりがないのだろうと悟った。

 そして少しだけ(ひる)んだが、表情を消してこう言った。


「私はルルカ様に仕える身。ルルカ様の(おぼ)()しに何に不満がありましょうか」


 ルルカは答える。


「二人とも済まん」


 来栖川慶太はこうして未来に(おもむ)くことになったのである。


「それでの……」


 これで話が終わりかと思ったら、ルルカの話には続きがあった。


「もしかしたら、未来からさらに何処(どこ)かに行くことになるかも知れん。行った先で少しばかり仕事をしてもらいこともあるのじゃが……」

「人が仕事をするのは当たり前です! こうなってみると、逆にあちこちに行けるのが、楽しみになってきました!」

「おお、そうか! ありがたい。お主を送るときはなるべく便宜(べんぎ)(はか)ろう」


 その時、慶太は何も考えずに承諾(しょうだく)した。

 だが後で「ちょーーと、安請(やすう)()いをしすぎた」と知るのは(はる)か先のお話である。

 どうやら慶太は未来に行くことを納得したようです。

 次話は未来に行くはずだったのですが、来栖川慶太のひととなりをわかっていただきたくて、現代編はもう一話続きます。


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