44話 討伐隊の横暴を危惧すれば
シュー・ジェラルドの調査隊がやってきます。
ギルドの冒険者や騎士など、大規模な討伐隊を率いるという彼の目論見は外れていますが、油断はできません。
シュー・ジェラルドのパーティがやってきた。
ケータは伝手を頼んで討伐隊の申請許可を妨害したため、ジェラルドが率いてきたのはわずか6人だった。
こういう時、王宮に伝手があるのは本当に助かる。
まず、王都のブロム伯爵に連絡を取り、王宮と冒険者ギルド両方に手を回してもらった。
その結果、ジェラルドは100人以上の大討伐隊を申請したが王都からの許可は降りず、結局得られたのは再調査のみ。
一応、ブロム伯爵からギルド職員のサフールさん経由で、ギルド長まで話が通っていたと一報があったので大人数で来ることはないとは思っていたが、自腹で雇った冒険者崩れを雇ってくることも考えられたので気が気でなかった。
だが、王宮内に話が通っていて調査のみ許可というのは、陛下直々の制限事項だったので、流石にジェラルドもそれを無視して規定以上の人数を連れてくることは断念したらしい。
よって、依頼上の名目は調査隊。
ただし、現地住民の有志を募って協力を仰ぐことは許可する。
また、遭遇した魔物については討伐すべし、とのこと。
こちらとしては、現地住民の調達も禁止して欲しかったところだが。
この有志というのが曲者だ。
本当の調査目的に賛同して参加するものなどいないが、報酬には賛同する住民は当然いるのだ。
想定通りとはいかなかったが、これならなんとか乗り切れるだろう。
ありがたきは王都の有力な人脈とコネ。
だが、安心はできない。
少人数でも横暴な策を取られる可能性があるし、現地住民がどれだけ集まるかも心配だ。
領都の中央広場に着いた討伐隊の長ジェラルドは言い放った。
「我々は王都から来た魔の森討伐隊である。陛下からの本格的な討伐の許可は降りず、一旦は調査ということになり、この規模になってしまったのは遺憾であるが、我々の調査で明らかになれば、さらに大きな討伐隊を王都に申請することができる。ついては、我々のサポートをする探索補助者を200名ほど徴発する。1日について、200ジャールを支給する。志のあるものは我が元に集え」
ケータはそれを聞いて頭を抱える。
調査隊のはずであるが、討伐隊だと言ってしまっている。
しかも200名もの人員を徴発するつもりのようだ。
はっきり言って6人の調査隊に200人の協力者なんて滅茶苦茶もいいところなのだが、協力者の人数の制限は明記されていない。
この辺についても、ギルド仕事の内容としては明らかにおかしいのだが、書類は作らず現金でやり取りしているので、指摘してもしらばっくれるだろう。
ちゃんと証人を用意して王都に意見書を出し、お伺いを立てれば撤回できるのだがその時間はない。
その場限りの怪しげな正論を振り翳して押し切られるだろう。
だが、おかしい。
報酬にも見合わないはずであるので、赤字になるはずなのだ。
シュー・ジェラルドには何か目的があるのだろうか。
とりあえず、これだけの規模で森に入るとなれば、名目は調査であっても魔物を狩ることを主眼に置くだろう。
──ケータ。名誉欲なのではありませんか?
──ん? ああ。なるほど。そういうことも考えられるか。
元よりこの依頼はギルド仕事の中でも旨味のあるものとは言えない。
となれば、大規模の人員を指揮することにより、成果を大々的に喧伝するつもりなのだろう。
とすると本格的にまずい。
手柄を立てる機会があれば村人を犠牲にしてでも決行するだろう。
むしろ、そういう目的なら犠牲があった方がジェラルドにとって都合が良い。
犠牲を出し、それを打ち破って無理矢理作った実績を持ち帰って、危険性をでっち上げ、大討伐隊を再組織してくるつもりなのだ。
だが、この討伐隊に感じる違和感はそれだけではない。
ケータはジェラルドの他に、何とも言えないゾクッとする凶悪な視線を感じたのだ。
それも複数。
──ケータも気づかれましたね。警戒すべき者がいるようです。本人に対するアクセスは逆探知の危険があるため、周りの討伐隊のメンバーをスキャンします……わかりました。ジャミラスという名前の冒険者のようです。詳しいことを知っているものはいないようですが、得体の知れない感じから他の討伐隊メンバーからは恐れているようです。
明らかに他のメンバーとは異なるオーラを感じる。
──そいつ一人だけか?
──いえ、そのジャミラスの隣にいるスイズリーも気になりますの。
──具体的には?
──それが掴みきれませんの。とにかく、何か良くないものを感じますわ。
ケータはやはりリレイアも感じ取ってはいたか、と思う。
しかし、掴みきれないのでは今ところ手を打ちようがない。
──あー、それじゃあわかんないな。一旦置くか。だが、放置もできまい。
──はい。ジャミラスと行動を共にする様ですので、一緒にマークします。
不穏な人物がシュー・ジェラルドの他に二人もいると思うとケータは憂鬱になるが、とにかく討伐隊がどう動くか、観察せねばと気を引き締めた。
中央広場は、近隣の農民が農作物を町民は衣類などを売る市場となっており普段から賑わいを見せている。
討伐隊はしばらく探索補助の人員を待っていたが、なかなか集まらないことに剛を煮やし、馬上から居丈高に徴発命令を発すると、早速農民達を無理やり連れ去られようとし始めた。
身の危険を感じた町人たちはすぐ逃げ出したが、売り物を広げている農民たちはそう簡単に動き出すことができなかった。
ケータはどう動こうか迷う。
ここまで、直接的行動を過激に行うとは思わなかったからだ。
しかし、いきなり200人をここで挑発するのは無謀に思える。
止めに入ろうかとも思ったが、表立って戦ったり魔法を使ったりはできない。
農民たちを守るためとは言え、存在を明かすわけにはいかないのだ。
最終的に農民たちの命の危険があるのなら、魔法を使うことは辞さないがそれでも56世紀の技術だけは隠し通さなければならない。
目立ってしまうのは下策だ。
ケータは、何か農民が連れて行かれるのは阻止する方法はないものかと考える。
いざとなったら農民を助けるための魔法をぶっ放す用意はしながらも、討伐隊の様子を見ていた。
すると実際には、無理やり連れ去さられようとしているのは数人であるようだ。
ただ、いきなり拘束したり銃や魔法を放つと言うことなく、話をしているうちに自らジェラルドの討伐隊に参加しようとしている農民もいる。
様子を見ていると指を何本か出して交渉しているように見える。
どうも金に釣られた農民がいるらしい。
それは予想していなかった。
やりとりをよく聴いて見ると若い農夫にとっては良い条件のようなのだ。
領都で日雇い仕事をするとだいたい平均で日当 80ジャールだ。
一方、ジェラルドが提示した額は200ジャール。
いつもの2.5倍の日当に目がくらむ連中がいるのは当然だ。
仮に3日間もらえるなら600ジャール。
たった3日で一週間は遊んでいられるのだ。
特に、若い連中には楽して稼ぐチャンスに思えるのだろうが、後でどんな危険な目にあうのか想像が及ばないのだろう。
人の流れがジェラルドがいる方に多くなる。
雲行きが怪しくなってきた。
参加したい農民町民が結構な数になりそうなのだ。
まず10人が賛同し、それに釣られてまた何人かが集まっていく。
最初は農夫だけであったが、町人の中にも話に乗るものがいるようだ。
このままでは、本当に200人がついていってしまうかもしれない。
これは二つの意味でまずい。
一つは、もちろん徴発された人たちが危険な目に会うこと。
もう一つはこのロブナント領の構造的な欠陥だ。
この土地はもともと仕事が少なくて困っている人が多いのだが、農作物の収穫時期だけは一気に人手不足になる。
そのため町人であっても農家に一時的にアルバイト作業を請け負うのが毎年の流れなのだ。
そして、この二週間こそが最も人手が必要になる繁忙期である。
しかも、少なくない数の領民に金が渡ると二つのまずい事態が発生する。
一つ目は単純に人手が取られて農村の収穫作業に遅れが生じてしまうこと。
もう一つは、小金を手にした領民が農作業を渋って、討伐が終わっても協力しないことである。
その結果、農民と町人が合わせて200人もこの季節の畑を疎かにすれば収穫期の農家は大打撃を受ける。
未収穫なまま放置された作物は市場価格に悪影響をもたらすだろう。
食糧不足はじわじわと進み、3ヶ月後に取り返しがつかないことになりかねない。
他の領地から離れているこのロブナント領では、臨時に他領から支援を受けることが難しい。
そんな困った事態に、いい手を思いついたのはリレイアだった。
──そうですね。まず、徴発を止める必要があります。あの方達を使うと良いかも知れません。
不意にリレイアが、指さした方を見ると中央広場の衛兵たちがいた。
──あいつらを使ったのバレたら子爵がうるさいんだけどなあ。
──上手くやります。それに町の治安を守るのが衛兵ってもんですわ。
それを聞いてケータは考え抜いた後、町の治安維持者たちに仕事をしてもらうことにした。
ちょっとタダ働きになってしまうことに心の中で詫びながら。
まずはリレイアが、認識阻害の魔電子科学術を展開し、広場に常時詰めている領の衛兵たちの会話の途中に擬似思考を挟み込む。
『あそこに不穏な集団は誰だろう?』
まずは衛兵にジェラルドたちを認識させる。
「ジェラルドとかいう王都からきた連中だろ」
うまく言っているようだ。
リレイアが衛兵の脳内に直接語りかけたのだが、衛兵は仲間から聞かれたように錯覚して答えた。
『あいつらか。王都の正式な討伐隊とか言っているぞ。とてもそうは見えんがなあ』
「ん、確かに。そう言えば」
話に乗ってくる衛兵達。
うまく興味を誘えたようだ。
「でも、関わると面倒くさそうだぞ」
衛兵の脳内に擬似思考を送ったのだが、面倒くさがっているやつもいるらしい。
この衛兵をなんとか討伐隊に関わるように仕向けないといけない。
そこで、リレイアは衛兵のプライドに訴えることにする。
『だが、俺たち衛兵の前で堂々と挑発行為をされてはたまらん。まずはロブナント様に謁見して許可を得てから動くのが筋じゃないか? 子爵領を舐められるのは我ら衛兵隊の名折れだろう?』
「むむ。わが子爵領衛兵隊の名折れだと? お、おお、そうだな、それは見過ごせないな。俺たちの領地で勝手はさせられん」
「よし、討伐隊をロブナント子爵様の元へ連れて行き、筋を通してもらうとしよう」
衛兵たちは重い腰を上げて、ジェラルド率いる討伐隊の方へ歩き出した。
「討伐隊のジェラルド様ですね」
「なんだ、貴様らは」
「子爵領中央衛兵隊です」
「当領の町民・農民を徴発するとのお話を聞いたのですが、もしそのおつもりならまずはロブナント様にお話を通すのが筋だと思いますが」
「衛兵隊如きが、我らの徴兵を邪魔するのか」
ここで、ジェラルドの部下はしくじった。
虎の威を借る柄の悪い冒険者が衛兵を軽んじる発言をしたのだ。
普段は穏健で事なかれ主義の衛兵たちもメンツを潰されては引くに引けない。
「ロブナント子爵直属の中央衛兵隊を『如き』と申されるか。よろしいでしょう。ロブナント子爵に連絡を。討伐隊は当領の衛兵隊を下に見ており、許可も得ず徴発されるようだが、よろしいか、と」
こうなれば、こちらの思う壺。
思わぬ抵抗に、討伐隊の顔色が変わる。
地元の貴族の体面を潰すことの愚行にやっと気づいたようだ。
「む……悪かった。ちょっと焦っていたようだ。貴君らを貶めるつもりはない。ロブナント子爵様への謁見をお願いしたい」
「承知いたしました」
これでロブナント子爵に急遽手紙をやり取りをする貴重な時間が稼げる。
ケータは子爵との間に独自の魔法を使った通信手段を持っている。
それを使って先にロブナント子爵に通信を送る。
一般的に魔法を使った通信手段の所要時間は約5分。その後距離に比例し1km1分程度。
なので同じ中央広場からでも5分はかかる。
しかし、ケータの魔法もリレイアほどではないけれど未来技術とのハイブリッドであるので、この距離ならノータイムで送ることができるのだ。
“クローズ・フォン・ロブナント様
シュー・ジェラルドと名乗る冒険者が6人の配下を連れて、領都ロブナントに向かっています。
ロブナント様に謁見を申し出るでしょう。そして、農民の徴発を希望してきます。
目的は魔物討伐ですが、当領の魔の森には問題がないことは私が確認しています。
できれば農民の徴発は許可しないようにお願いしたいところですが、断りきれない場合であっても20人を限度として下さい。
それ以上ですと、問題が発生した時に村だけでなく、領内の食糧事情が致命的に悪化する危険性があります。
ケータ・リーフォン”
◇
ロブナント子爵はケータ・リーフォンからの書簡を受け取った。
これを読んだ子爵は、間の抜けた口調でこういった。
「そりゃー、大変だ。また、厄介事を持ち込んでくれるじゃないか、奴さんも」
全然大変そうでないような口調でそう呟いた。
それと、まるで厄介事を持ち込んだのがケータのせいであるかのような物言い。
決してそんなことはないのだが……
ロブナント子爵はブツブツいいながも冒険者の謁見に対し一通りの準備を行なった後、実際に農民の挑発が行われた場合の被害の試算を始めた。
「今は農作業の大事だが……この時期に収穫がとど凍ったとして3ヶ月後の食糧事情にどれだけ影響を受けるのか考えると……確かにヤバイな」
それはリレイアがまずいと言った被害状況と一致する。
元々、この土地は厳しい食糧事情にあり、地元の住民は飢餓状態にあったものもいる。
それがここ数年で収穫量を倍々で増やすことに成功している。
ここ2年は余裕があり領内の食糧の需給を安定させているので楽観的になっていたかも知れない。
ロブナントは、ケータの手紙の内容を受け入れ、農民の挑発は最悪でも20人までとすることにした。
そしてもう一つ、挑発される人員の中に衛兵を入れることを決めた。
そして、さらに……
「あいつにも骨を折ってもらうか」
そこで、ケータに返信した後、もう一通の書簡を書き送信した。
ケータに当てた方の返信は、討伐隊がロブナント子爵邸に到着する5分前というギリギリのタイミングであった。
シュー・ジェラルド率いる討伐隊の6人がロブナント子爵に謁見した時、すでに子爵側としては対応が決まっていた。
農民町民など200人を徴発すると主張する討伐隊と一悶着あったものの、初期調査としてはあくまでも有志の農民町民を20名まで募るとすることを承知させた。
こうして、討伐隊が到着してのひと騒動はまずは収まったのだったが、ロブナント子爵からの返信を受け取ったケータはため息をついた。
“討伐隊の魔の森での活動を監視してくれ。便宜は図るから。誰か挑発するメンバーでも紛れ込ませるようにしてもいいし。うちからも衛兵を出す予定だ。よろしく”
「何がよろしくだよ。知らせてやったら仕事が増えちゃったよ」
だが、ボヤくケータに
──ケータも大概ですね。最初から監視も領民のケアも自分でするつもりだったくせに。
リレイアは独りごちた。
討伐隊が魔の森に向かいます。
ロブナント領での徴発は20名だけになりましたが、被害が出ないようケータ達は隠れて見張ることに。
次回は、『45話 討伐隊が森の奥に向かえば』 9/9投稿予定です




