41話 王都の暮らしが一段落すれば
事件は全て片付いてケータはクルゼ王国の大学に通うことになりました。
でも、これまでがこれまでです。
一筋縄ではいかないようで……
ケータが大学に通って一年が経過した。
半年でモンスター・パレード騒ぎがあり、ケータが大学で生徒から教師にジョブチェンジするというハプニング(?)もあったものの、その後は大過なく過ごしていた。
その間、マルキャルトはロブナント子爵の中隊に属して修行を積み、その剣技の上達から士官や陞爵の話が何度かあったが、本人はガンとしてそれを拒んだため表向きの爵位は騎士のままである。
「私は手柄を挙げておりません。信賞必罰の原則から考えてもここで陞爵を受けるわけにはいかないのです」
「ケータ殿と共に令嬢誘拐事件を解決したではないか」
「いえ、あれは誘拐されたこと自体が私の失態です。アリエッタ様を取り返したことはその失態の尻拭いにすぎません」
こんな具合だ。
しかし、このままというのも具合が悪い。
騎士のままでは伯爵家以上の護衛か、騎士団に所属しているかのどちらかが求められるため、ロブナント子爵の中隊に所属するときも問題となっていた。
これを解決したのはエリウス王の発した特例によるもので、魔素病事件の解決の褒美として特別な騎士として所属制限を緩和されていた。
具体的には二つの条件が緩和される。
まず、自分の好きにどの貴族家でも関係なく士官しても騎士の爵位を維持することができるようになった。
本来、王都で騎士が騎士でいられる条件は、伯爵家以上の貴族に仕えること、または常設の騎士団に所属していること。
これが、マルキャルトの場合は子爵家に仕えていても騎士の爵位が認められるのだ。
次に、臨時や非常勤などの騎士団であっても騎士として存続が可能になった。
マルキャルトはこの制限緩和により、もともといたパルマント子爵家に仕えることもできるし、ロブナント子爵の北の陣地の中隊に属していても何の問題もなくなったのである。
また、常設扱いではないブルム伯爵の騎士団に所属も解除していないため、他の仕事をしていても地位が保証されているのは好都合だった。
ケータたちと冒険者を続けていても騎士爵を剥奪されることはないのだ。
これについては裏があり、マルキャルトには本人が預かり知らぬところで准男爵という肩書きがついていた。
さらに、貴族の内々では男爵位として扱うことが決まっている。
マルキャルトについて依怙贔屓だと訴える貴族がいたとしても王宮にて、男爵位であることが告げられさらにそのことについては他言無用が申し付けられる。
ただ、そうなると困るのが俸給である。
土地を持たない法衣貴族である騎士に与えられる俸給と男爵の俸給は当然異なる。
マルキャルトは騎士の俸給以外は受け取ろうとしない。
仕方がないのでブルム伯爵が管理することになっており、折に触れて本人にはわからないように差額が支給されることになった。
ある時ギルド仕事の報酬に上積みされることにより、ある時は密かにケータに渡されていてマルキャルトの身の回りに掛かる諸経費に当てられていた。
そうとは知らないマルキャルトはこの特例も良しとはしなかったのだが、陛下の温情を無碍にするわけにも行かずあくまで『条件を緩和された騎士爵』としてこれを受け入れていた。
一方ポルテーロはポルテーロ商会を立ち上げた。
クルゼ王国内では、主に食品関係を扱い他国とのパイプから贅沢品の輸入を始めた。
輸出はクルゼ王国の最重要品目である羅鉄鋼を一手に握ることになる。
メイソンは、王都クルゼナントの北西の魔の森近くにある砦と北の街道沿いにある休憩所兼厩舎兼花屋(裏で魔素研究)という二拠点の統括をしている。
砦にはロブナント子爵配下のものが常駐しているが、休憩所の方も密かにピボーテ子爵がサポートし続けているのでどちらも堅調である。
砦と休憩所の間の道も整備され、その道沿いの畑もかなり拡大している。
主要作物は小麦、馬の魔素病の治療用作物(王都での魔素病についても継続して治療の研究用に作成している作物も含む)。
そして異世界からリレイアが持ち込んだバラを始めとした花を栽培している。
昨今はわざわざ、貴族がその花を北の休憩所の花屋まで買いに来ることが一つの隠れた流行になっており、貴族の社交界で女性に花を贈ることなどが一部で行われ、話題と成りつつあった。
ケータは一年間大学に通ったが、同じ研究生待遇であっても途中から中身が変わってしまった。
最初の半年は生徒として授業に出ていたのだが、レポートを月2回提出するうちにどう考えても授業内容を超える内容であるため、大学から講師として残りは通って欲しいとの依頼があり、ケータはこれを渋々受諾した。
以降、ケータは大学で教鞭を取ることになり、王国の農耕技術は大幅に向上することになる。
一年間の課程を修了した時、大学はケータを引き止めようとしたが、流石にそれは断ることになった。
また、後半の半年は特待生の奨学金だけでなく、講師としての収入もあったので懐もさらにあったかくなっていたのであった。
この世界に来た時、ケータは16歳として転生したので今もまだ17歳。
17歳にして王国の博士号を持つC級冒険者という破格の経歴になってしまった。
博士号の専攻分野は、農学・地学・植物一般・魔素工学となっている。
「さて、どうしようかな」
一年の大学生活を終えたことで、冒険者としてどこに行くのも自由となっていた。
ケータは、今後のことについて考えあぐねていた。
「一応、王宮からはもう数年は国から出ないでくれとは言われておりますわ」
「けど、おいらも飽きてきたよ。本当は森や山の方がおいら向いてるし。人間はすぐ騙したり汚いことしたりするからな……まあ、この街の人間はまともな方だけどな」
リレイアもクリスクロスも今はケータの部屋で姿を見せている。
リレイアはまだここにいてもいいつもりなのかな?
クリスクロスは飽きたと言ってるんだから、他に行きたいのだろう。
「国はともかく、この王都からは一旦出ても良いかもしれないですわ」
そうか、なるほど。
国は出なくてもいいが、王都に居続ける必要はないんだな。
「リレイア。街を出るのに何か利点とか理由とかはあるのか?」
「はい。一応、王都周辺の転生者については調査が終了していますの。そして、国内には色々とナノマシンを散布をしていますが、遠い街の場合はどうしても調査の精度が下がりますわ」
そんなことをしていたのか。
まあ、ナノマシンはパワーないからな。
調べたくても街が風上にあるだけで、到達できる数も減ってしまう。
「そう言うことか。それなら、どっか行くのも良いかもしれないな。それで具体的な候補はある?」
「そうですね。利用させてもらえるコネがあって、今まで事件の解決ばかりで遅れていた魔法自体の研究が進みそうなところ」
「おいら、わかった! そこなら賛成だな」
ほー、リレイアもクリスクロスも宛てがあるんだな。
「どこなんだい?」
「ロブナント子爵領ですわ」
「おー、おいらもそこがいいと思ってたんだ」
ロブナント子爵領。
そこは、王都の遥か南にある片田舎の領地。
領主は当然、クルーズ・フォン・ロブナント。
ケータたちとは散々関わってきたあの不良貴族である。
だが、その領地のことについてはあまり知らない。
この国において、最大の有力輸出品目である羅鉄鋼の産地であると言うことぐらい。
「だけど、何するよ。羅鉄鋼については調べるとしても、それはリレイアがやるんだろ? 僕のすることがないと困るなあ」
「いえ、ケータには折角農学博士になったんですから、その領地で力を発揮してもらいます……と言うのは建前で、魔法をもう一段上の段階まで上げないと心配ですわ。王都では、有力な魔法使いや転生者に目をつけられて、攻撃対象にされるのではないかとヒヤヒヤしましたもの」
確かにメイソンに会ってから、魔素を含む土壌での農地改革は面白いとは思ったんだよな。
強い敵については今回相手が悪かったけど、いつもあんな強い相手ばかりじゃないと思う。
でも、ああいう敵もいるのなら、魔法の向上も必要なのかも。
「おいらもそれがいいと思うな。それに……そこはちょっとまずいことになってるみたいだぜ。おいらにはどうにもできないが、リレイアとケータならどうにかできると思うんだ。感だけどよ」
クリスクロスは賛成してくれているのはありがたいが……
なんだろう? まずい事って。
だが、詳しく聞こうにも例の妖精の共感機能による印象らしく、詳細はわからないらしい。
解決できるならもちろん力を貸すが。
「でも、そうするとマルキャルトはどうするんだ?」
「彼女はもう少し北の砦で修行ですね。本人が希望するなら来てもらうのもいいかも知れませんが」
それから、僕はマルキャルトを呼んでレブナント領に移り住むことを伝えた。
一緒に来たがるかと思ったが、今は修行を続けたいらしいとのことで一旦はお別れだ。
それから数日間は、引っ越し準備やら何やらで大変だった。
まず王城で陛下と宰相に面会を申し込み、大学生活を送ることができたことと博士号まで頂いたことについて礼を伝えた。
王宮でブロム伯爵、ピボーテ子爵に挨拶したが、いろいろと便宜を図ってもらえることになり、ロブナント子爵領では平民出の学者としての経歴をでっちあげてもらった。
冒険者ギルドではギルド長とサフールさんには、さんざん引き止められたが、最後にはわかってくれたらしい。
エストレモ・パン店は、すでに僕の偽記憶は消されているので下宿しているマルキャルトと同じ冒険者パーティの一人として挨拶をした。
最後に、ポルテーロ商会のジャン・ポルテーロ。
彼には、エストレモ・パン店の仕入先になってもらった時に随分迷惑をかけた。
元の仕入れ先であるラテラル小麦店がちょっかいをかけてきたからであるが、最初はケータたちが嫌がらせを撃退していたのだが、いい加減鬱陶しいので、ポルテーロ商会の後ろ盾であるレーベン伯爵と王宮のブロム伯爵に相談した。
貴族の圧力で潰すようなことはしたくない。
もし、腹いせにエストレモ・パン店に危害を加えられたりしたら大変だからだ。
すると、意外なところから解決の糸口が見つかった。
ピボーテ子爵の親戚筋の経営する喫茶店バッセリーナ・カフェからである。
王都で人気の喫茶店であるこの店をラテラル小麦店は目をつけた。
そして、エストレモ・パン店と同じようにちょっかいをかけてきたのである。
もちろん、ラテラル小麦店はバッセリーナ・カフェに貴族の後ろ盾があるとは知らない。
「こちらの店は随分と評判が高いですな。小麦の品揃えでは王都で一番のラテラルに任せていただけないでしょうか」
ラテラル小麦店の営業は猫撫で声でそう言ってきた。
「当店は当店の味を守るため昔も今も同じ仕入先と決めておりますの。お引き取りください」
「しかし、ラテラルの小麦は最高です。さらにこちらの店の菓子の質を上げること請け合いですぞ」
「なんと言われようと変える気はありません。店頭でそのように頑張られては商売の邪魔になります」
「致し方ありませんな。今日は引き下がるとしましょう」
バッセリーナ・カフェの店長はその営業を追い返した。
だが、その日は帰ったものの翌日も翌々日もやってきた。
そして、営業が不首尾に終わると客の中にタチの悪い連中が混じり始めた。
お茶にゴミが入っていたと嘘を吐くものや他の女性客に絡むものなど。
気づけば店員が割って入るが、このままではバッセリーナ・カフェの看板に傷がついてしまう。
「これはお灸を据えてやる必要があるな」
ピボーテ子爵もこのままにしておくつもりはないようである。
僕としては、エストレモ・パン店をどのようにラテラル小麦店から切り離すか悩んでいたが、彼らが動くなら心配は無くなったも同然だった。
なぜなら、知らなかったとは言えバッセリーナ・カフェに手を出した以上、ラテラル小麦店は終わりだからだ。
この問題は王宮案件として処理される。
ただ、表立って貴族の後ろ盾を見せるわけにもいかない。
王宮の組織の隠れた拠点としても使われるので、繋がりは見せられないのだ。
──あの組織、使えませんか。魔素の毒を撒いていた。
リレイアがカリオンの利用していた組織を使っては? と言ってきた。
でも、あれ壊滅させただろ?
──はい。実態は残っていませんが、いくつかはうまく処理したので潰れたことは表沙汰になっていませんわ。しかも、裏では結構有名な組織だったそうなので、名前だけ使うのは簡単ですの。裏を取ろうとしてきたとしても、使っていたアジトがわかっていますから、仕込みをしっかりしておけば……
王宮の治安維持部隊に街のゴロツキ団員の真似をさせるのか?
──提案だけでもしてみてもいいと思いますの。
僕は、ピボーテ子爵にリレイアの話を提案してみた。
「おう、それはいいな。しかもそのごろつきの親分にうってつけの人物がいる」
「誰です」
「ロブナント」
そこで一同は爆笑した。
「しかし、どこを使う?」
「そうですね、『灰色の牙』でどうです?」
「あそこか……なるほど、あそこなら団員は秘密主義だから知らない団員が出てきても不自然じゃないな。それなりに武闘派で裏では幅を利かせていたし」
「決まりですね」
この件は、王宮の治安維持部隊が既に壊滅した組織の名前を借りて、ラテラル小麦店を潰す計画になったのである。
まず、壊滅した組織の1人がバッセリーナ・カフェで嫌がらせをした一人に接触した。
「最近、随分羽振りがいいじゃねーか?」
「誰だ! オメーは」
「『灰色の牙』のもんだよ」
「ヒッ! なっ、なんで『灰色の牙』が出張ってきてんだよ」
「そういうな……一枚噛ませろよ」
「お、俺には決められねぇ」
「仕方ねぇな。明日もここで待ってるぜ。来ないと……面白いことになるかもなあ」
この脅しをかけている組織の人間はもちろん王宮の治安維持部隊の隊員である。
随分と堂に入ってるが、演技指導は他ならぬロブナント子爵である。
果たして翌日、相手は数人の仲間を連れてやってきた。
ラテラル小麦店の番頭も含まれている。
「あんたか。うちに首を突っ込んできたのは。『灰色の牙』が協力するなら金は出すが、うちもそれほど資金があるわけじゃねぇ」
「ああ、贅沢は言わねぇよ。で、何をすればいいんだい?」
金も出さず手も汚さないとは……
それでも引き受けるつもりで偽の『灰色の牙』の面々は返事を返す。
「バッセリーナ・カフェとエストレモ・パン店で嫌がらせをして欲しい。何なら一人や二人、掻っ攫って売り捌いてもいいぜ」
ラテラル小麦店の番頭は、そう言った途端。
「そうか。なるほど……おい! 聞いたな!」
そこで、ブロム伯爵、ピボーテ子爵以下王宮の治安維持部隊が騎士の制服で現れた。
尤も偽の『灰色の牙』の面々はコートを羽織っただけだが。
「なっ! 野郎どもっ……いや、無理だな……投降する」
ラテラル小麦店の番頭は、折れておいた方が得だと考えたようで即座に降参した。
確かにこの2店については手を引かざろう得ないが利益は他でも確保できる。
そんな風に考えていただろうが、それは甘い考えだった。
ケータは、後顧の憂いを断つためにピボーテ男爵にラテラル小麦店の悪事を徹底的に暴いて欲しいと頼み込んでいた。
ただでさえ切れ者のピボーテ男爵が、やりたい放題だが帳簿管理は雑なラテラル小麦店の悪事を暴くなど朝飯前だった。
結局、ラテラル小麦店は潰れることになった。
問題はラテラル小麦店を仕入先にしていた店をどうするかと言うことだった。
「ケータ殿。後釜はボルテーロ商会に任せようか?」
そうブロム伯爵に聞かれて、ケータは迷ったがリレイアが助言してくれた。
──ポルテーロ商会に集中しない方が良いですわ。理由は二つ。一つ目は、まだポルテーロ商会は立ち上げたばかりで使用人も少なく、担当が増えすぎると納入に問題が生じるかもしれないこと。もう一つは、この件で利権がポルテーロ商会に全部移ることで、他の商人達からやっかみを受けることが予想されるし、ケータとポルテーロ商会、それに王宮の治安維持部隊との関係を勘繰られるのは得策ではないことですわ。
──なるほど、確かにそうだな。
ケータはブロム伯爵にリレイアの助言内容を話した。
「うーん、そうなると商人達との調整が必要だなあ」
「いいじゃありませんか、部下とロブナント子爵にも手伝っていただきましょう」
頭を掻くブロム伯爵にピボーテ子爵がそう答える。
散々、引っ掻き回され良いように使われた仇をここで取ることにしたようだ。
「うむ。それがいい。あいつにやらせよう!」
その後、ラテラル小麦店の得意先は、商人たちに分配された。
利権を主張し多くの得意先を強引に得ようとする商人には、ロブナント子爵が凄みを利かせそれでも聞かないところには、寄親のレーベン伯爵の影をチラつかせるとどの商人も震え上がって言うことを聞いた。
また、ラテラル小麦店のように得意先を虐めていたり、不正を働いている商店は得意先を分配してもらえなかった。
これは、ピボーテ子爵と配下の綿密な調査の賜物である。
そんな引越し準備の後のドタバタはあったものの、ケータ達は王都での部屋を引き払い挨拶を終えた後、ロブナント領に向かうのだった。
王都クルゼナントの暮らしも終わりました。
次はのどかな田舎な領地での暮らし『ロブナント子爵領編』になります。
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