36話 失敗作物にヒントを見つけたならば
王都の流行病の正体がなんであるか突き止めました。
その治療法としてとある作物が利用できるとわかったケータは、王都から離れた掘立小屋に住む男を訪ねます。
王都クルゼナントを謎の病気が蝕んでいた。
病状は魔素病に近いが、本来魔素病は魔法を使えない者は罹らない。
だが、現在広がりつつあるこの病気は魔法が使える使えないに関わらず罹患している。
さらに、症状が似ていると言っても初期症状と中期症状の順番が違う。
元々魔素病は初期症状として魔法の威力低下が見られ、これがきっかけになって判明することが多い。
体の怠さや無気力と行った症状は中期症状で確認されるものである。
ところが今回の場合では、まず無気力や怠さが初期症状として現れる。
その後もそのまま症状が悪化するのだが、魔素が蓄積されることが原因であることは、経験のある魔法医師以外には発見することができない。
ケータ達はブルム子爵から、この難しい病気の治療方法の確立を依頼された。
本当はどんな結果でも成功報酬をもらえるはずの調査依頼であったはずだが、どこでこんな緊急性の高い絶対失敗できない依頼になったんだろう、とケータは思う。
まあ、王宮の組織ではその全容が捉え切れず、ブロム子爵の配下でさえその本質にはたどり着けなかった結論を短期間で導いてしまったのだから仕方がないのだが。
そんな病気の正体は、リレイアの56世期の技術とこの世界で得た魔素についての知識があって初めて探りあてることができた訳だが、この病気の蔓延を解決するのは難しい。
同時にやらなければならないことが三つもあるのだ。
一つ目は、この病気の治療方法の確立。
この病気は、例えこれ以上広がることがなかったとしても自然治癒は期待できない。
すでにこの病気が進行している者が少なからずいる。
ほっておけば必ず死ぬ。
その者たちを救うために、治療法の確立が重要かつ緊急なのである。
二つ目は、この食物をばら撒いている連中を捕まえること。
この病気は流行病ではなく、意図的に広められたものだ。
最早、主犯を捕まえるよりも組織的に大規模に拡大し悪化させている連中をどうにかしなくてはならない。
これを止めればこれ以上この病気が広がることはないし、これを止めないと治療と病気の広がりがイタチごっこになってしまう。
三つ目は、僕らを付け狙うカリオン。
この事件を起こした主犯。
こいつを捕まえないと、また別の事件を起こすに違いない。
治療にばかり気をつかっていると思わぬところから命を狙われるかもしれない。
前回は逃げられたが、逆に仕掛けてくる可能性がある。
カリオンは感が鋭く不利と見ればすぐに引く狡猾さもある。
だが、今回に限り同時にやらなければならないことは二つでいい。
まず、ケータ達が一つ目であるこの病気の治療方法の確立をする。
まだ目処が立っておらず一番大変である。
二つ目の組織的に大規模に麻薬を広げている連中を捕まえること。
これは、ロブナント子爵とピボーテ男爵が中心になってやってくれるだろう。
犯人のリストは既にリレイアが作成したものを渡してある。
いくら薬をばら撒いている場所を頻繁に変えようとも、所詮は人のやること。
場所ではなく、人を封じてしまえば良いのだ。
最後の三つ目。
カリオンの動向の注視だがこれは優先度が下がる。
なぜ、これが後回しにできるのか。
それは、カリオンの事情によるものだ。
ピボーテ男爵が夜盗同士の戦闘で見た時の様子からするとカリオンは不調であるらしい。
さらに、カリオンのやり口が明らかにケータ達をターゲットにしていることだ。
すなわち、カリオンはそうそう動くことはできないし、ケータに執着しているので逃げることもない。
ロブナント子爵がピボーテ男爵以下の王宮騎士の協力により、目を光らせてくれるらしいので、不意打ちに備えてさえいれば、とりあえず解決を後回しにできるのだ。
そこまでは整理できている。
防御はリレイアとクリスクロスの探知力に任せて、どう治療するのかに集中できるだろう。
だが、具体的にはどうするか?
◇
ケータ達は治療方法を探していたが、そのヒントは意外なところからもたらされた。
リレイアはこの世界に来てから情報収集のために、王都クルゼナントだけでなくその周辺の草原や森、山、川と行った自然。
さらに都市だけでなく農村、漁村、集落などについても見つけ次第調査を広げている。
そんな中で誰にも知られることなく、たった一人で暮らしながら畑を耕している男がいるとわかった。
クルゼナント周辺には魔素の濃い森があり、数年後には問題が発生する可能性もあった。
その男の存在により、リレイアはある作戦を思い立った。
場所はクルゼ王国の王都クルゼナントの北東15km。
ここにわずか4m四方、平屋建の掘立小屋がある。
ケータたちはそこを訪ねた。
最初は王都での面会を申し込んだが、断られてしまった。
ケータが一人で行くという条件でやっと許しを得たのでこうしてやってきたのである。
「初めまして、ケータ・リーフォンです。ケータと呼んでください。今日は押しかけてすいません」
「ヨシュア・メイソンです。私は王都には顔を出せない身の上ですので、ここに来ていただける方が助かります」
何やら、このメイソンという男、訳ありのようだ。
ケータはとりあえず、一人で話している。
もちろん、リレイアは一緒にいるのだが姿を現していない。
「えーと、いきなりですが僕は日本から来た転生者でして……。メイソンさんは……」
「あっ、はい……。私もです。絹田芳雄という名前でした。でも、どうして私が転生者だとわかったんでしょうか」
ケータはいきなり転生者であることを明かした。
そして、ヨシュア・メイソンが転生者であることを見抜いていた。
「それは、メイソンさんがかつて農法改革をしていたことを聞いていたので」
「どこで、それを……いや、いいです。ケータさんにはそれがわかったんですね」
なぜかヨシュア・メイソンはケータがどうやってここを突き止めたのかを聞いてこなかった。
ケータもそれの方が助かる。
ケータにもそれを話したくない事情があるのだ。
それは、ナノマシンの存在である。
これだけ高度な科学力は21世紀にはないとすぐわかる。
それを避けたかったのだ。
リレイアが常日頃から行なっている調査が、”魔薬” に犯されている患者を救うためのヒントになったのは偶然である。
この王都の北東15kmという寂れたところにたった1人で暮らしているヨシュアに注目していたのは、転生者であるからにすぎない。
クルゼナントから真北には街道があるが、北東となると人は滅多に寄り付かない。
さらに10km進むと魔素を含む森があり、危険な魔獣が出るからだ。
北西にも魔の森はあるが、そちらはギルドから討伐対象の魔物があるので冒険者がくるが、この森の魔獣は獰猛な割りに討伐しても金にならない。
肉は臭くて食えないし、倒した時に自らの毒によって溶けてしまい、ギルドに持ち込んでも買取金額が落ちてしまうからである。
街道からもずれているとなると輸送も楽でないとなれば、冒険者も寄り付かないわけだ。
そんなところに1人で暮らしている……と言うより暮らせているのは、かなり能力が高いに違いない。
小屋の周りには畑があるのだが、明らかに農法が21世紀の日本のやり方である。
しかも、うまくいっていない。
「僕が注目したのは、日本の農法で作物を作っていることです」
「…………」
このランゾルテという星全体の農業は、地球の中世に近い三圃式や輪栽式で行われているものが多い。
しかし、元日本人のメイソンは、そうはしなかった。
その理由は水田を優先し、畑は補助的に作成していたからである。
そのため、畑については軽視していた。
工夫をしなくても多少の肥料を与えるだけで毎年作物がすくすくと育つことがわかったからである。
すなわち、連作障害の心配がなかった。
表向きは。
ケータが日本の農法で作物を作っていると言った時、何も答えることができなかったのは、それこそが失敗の原因だったからである。
本来、日本の農法も畑では連作障害を避けるために休耕地を作ったり、別の作物を植えたりするのは普通であったが、米のように毎年同じ作物を育てても問題がないように思えたので、連作が可能と判断してしまったのだ。
だが、その畑の作物には見た目ではわからない『隠れた連作障害』が発生していた。
確かに作物は立派に実っている。味も悪くない。
にも関わらず連作した作物には決定的な問題があった。
魔素の排出を促進させる効果があり、魔法師の魔法力が大幅に低下してしまう。
メイソンは転生した当時に過ごしていた国でこのような作っていた畑を作っていた。
農地改革を行い、当時過ごしていた国で大幅な増産に成功したのだ。
メイソンは国に表彰され、農法は国中に広がった。
その時、その問題点は顕在化していなかったことがその被害を拡大させた。
発覚した時にはその国の大半の魔法師が力を大きく失っており、そのことに気づいた他国に攻め込まれ、国は持ち堪えたものの国力は低下した。
農民として静かに過ごしていたメイソンは国を追われた。
それなのに、なんでまたクルゼ王国でこの畑を作っているのか?
それは、メイソンがこの畑をもう一度改良して魔法師に悪影響を与えない作物を作る農法を確立したいと思っているからだ。
残念ながら研究は捗っていなかったが。
しかし、皮肉にもその悪い効果に着目したリレイアは、この畑の作物が治療薬に使えると思った。
「メイソンさん。この畑の作物を売ってもらえませんか?」
「ダメです。この畑の作物は魔法師に悪影響を与えてしまうのです」
そこで、リレイアが姿を現した。
「えっ………」
「僕の相棒のリレイアです。メイソンさんには彼女からこの作物を欲している理由を話してもらいます」
驚いているメイソン。
そこにリレイアは一礼すると話し始めた。
「私、妖精のリレイアと申します」
AIであるとは言わなかった。
未来から来ていることを知られたり、未来の技術を使っていることを悟られるのはまずいのだ。
あくまで『不思議な力を使うアルファニアの妖精』で押し通す。
それから、僕は現在王都で広まっている魔素病について話した。
すると。
「………そんなことが。しかし、待って下さい。魔素病なら教会が治療に乗り出すはずですし、なんで冒険者のケータさんが………」
それにリレイアが答える。
「説明を簡単にするために”魔素病”と言いましたが、実はこの病気は特殊な麻薬を使った別のものです。ご存じの通り、本来の魔素病は魔法師しかかかりません。稀に魔力の高い一般人もかかりますが、魔法に長けているという特徴からすれば同じです。ところが、今回の病気は魔法が使えないものにも発症しているのです」
そうなのだ。
この部分がブルム子爵たちに正確な状況を見誤っていた理由である。
魔素は魔法を使えるものにしか取り込めない。
魔法を使えないものが、魔素を含む食料を取ったとしても体内に入らず排泄されるのだ。
極端に魔素が多いものの場合は一時的に体に入って体調を崩すが、その時も結局体内に定着はしない。
魔の森の瘴気にやられるのも瘴気に含まれる濃い魔素が原因の一つである。
今回は魔法が使えないものに魔素が取り込まれているので、魔素が消費されずに蓄積する。
魔法が使えるはずのものも魔法力の低下が発生しているので、魔素の消費が追いついていないのだ。
今回、教会も動くには動いている。
魔法には共有魔法なるものがあり、魔法師同士の魔力を融通してより強力な魔法を扱うことができる。
魔素病にかかった場合、教会の魔法が使える治療師が患者に対し、共有魔法を実行する。
これにより、患者の魔素が強制的に消費されるので魔素の蓄積が解除されるのだ。
更に、通常なら共有魔法の力が呼び水となり、患者の魔法力の低下も解消されることが多い。
今回はその手が使えない。
まず、魔法が使えない普通の人間が魔素病に近い現象であることが見抜けない。
従って、共有魔法を魔法が使えない患者に試したりしてはいなかった。
そもそも、共有魔法はすでに魔法が使えるものに対してしか有効ではないので、発動もしなかったはずである。
「それで、私が作ったこの畑の野菜が本当に治療に使えるんですか?」
「研究してみなければ確かな事はわかりませんが、おそらく使えると思いますわ」
メイソンの質問にリレイアは『おそらく』と答えた。
だが、ケータはそのまま受け取ってはいない。
もう、解決の確証を得ている、と。
「しかし、魔法を使うあらゆるものに害があります。それと……いえ……その……」
「ああ、大丈夫です。実験してから使いますし、出どころは秘匿します」
メイソンが言い淀んだことをケータは理解している。
彼は国を追われた辛い過去があるのだ。
良かれと思って改良した農法で失敗した。
だが、ケータはおそらくメイソンがこの話を呑むと思っている。
なぜなら、その失敗した農法に今もこうやって改良を加えている。
きっと、未練があるのだろう。
きっと、捲土重来を期しているに違いない。
ケータはそのまま待った。
「……わかりました。ここの作物はお持ちになってください。私の名前も出していただいて構いません」
やはり、メイソンは呑んだ。
ただ、最後の一言には……
「メイソンさん、今回の件では身の保証が確保できない限りあなたの名前を出すつもりはありません。うまく行ってもいかなくても、です」
「それはどういう……」
ケータの話に困惑するメイソン。
「メイソンさん。今後もここにいらっしゃるつもりですか?」
「はい、ここには誰も来ませんし。ここは他国ですから追ってが来る心配も少ないのです。とは言ってもその可能性はゼロではないので、私は街には住めませんけど」
「でも、ここにいたとしてもあなたは追手が来ることを危惧している分けですよね?」
「それは……」
「もし、追っ手がかかったとしたら?」
「また、別の国に渡るしかないでしょうね」
そこで、ケータはリレイアと目配せをする。
どうも同じことを考えているようだ。
「もし、クルゼ王国があなたを保護すると言ったらどうします?」
「えっ! それはどういうことでしょうか?」
「実は、前の依頼が王宮からのものでしてね。達成したんですが、その時の報酬が『一つ貸し』になってるんです。それをメイソンさんの身柄保証で返してもらおうと思いまして」
その話を聞いて絶句するメイソン。
そりゃ、そうだろう。
どこの世界に犯罪者の身柄を保証することで、王宮に貸しを返してもらおうとする冒険者がいるのか。
「そんなこと、できるんですか? いえ、その前に私にそんなことまでしていただいてケータさんに何の得があるのでしようか?」
「できるかできないかは、相手の国次第なのですが、できるのなら僕には大変なメリットがあります」
そういった途端、混乱するメイソン。
どうしようと思う前にそんなことあるのだろうか、と思っているに違いない。
「ちなみにどちらの国ですか。そのー、メイソンさんの方策がうまくいかなかった国と言うのは」
「……ここからはるか西にあるクリフラクト共和国という海に囲まれた小さな国です。特定の王を立てず、貴族の評議会が統治するという特別な政治形態で評議長が国のトップなのですが、5年で代わり再選は早くて10年後です」
クルゼ王国はもちろん、いくつかある隣国にもそんな政治形態はない。
「なるほど、珍しい国の形ですね。それで、農作物の問題はそれほど大きかったのですか?」
「はい。土地が痩せていて海産物は取れても野菜が取れないことが問題になっていました。それだけに、農法の改良により単位作付け面積あたりの収穫量の増加は、一気に広がりました。ですが、それが仇になったのです」
「と言いますと?」
「周辺にある国々も決して大きくはないのですが、いくつか好戦的な国があるのです。クリフラクトは海軍の力がそれほど強くありません。それを優れた魔法師で補っていたので、魔法力の低下は国の危機を意味しました。私の犯した罪は大罪だったのです。今はどうなっているか……」
メイソンは、元々は都会の暮らしに疲れ、脱サラで農業を始めた日本人である。
サラリーマンとしても出世争いに嫌悪していた。
この争いを好まない性格。
神から与えられた魔法の力があったとしても戦争の手助けはしたくなかったのだ。
そこで、自分の力を使って世話になる国の後押しをしたかった。
痩せた土地で飢餓に苦しむ国民を救いたかった。
そのために良かれと思ってやった農地改革が逆に国を窮地に陥れてしまった。
取るものもとりあえずその国から逃げ出し、その後のことは知らなかった。
その国が逃げ出したのは、もちろん追われることの怖さがあった。
だが、それ以上にもう自分が居てもこの国でできることはないと思ったからだった。
そのことを訥々と語るヨシュア・メイソン。
その気まずい雰囲気になりそうなところにいきなり、もう一人の妖精が現れた。
「大丈夫だぜ。その国ならうまくやってる」
「おい! 急に出てくるな! メイソンさんすいません。こいつも僕を手伝ってくれている妖精です」
今日何度目だろう。またも唖然とするメイソン。
目の前に現れた妖精は言わずと知れたクリスクロスである。
「なんでそんなことわかるんだ? クリスクロス」
「前にも言ったけど、妖精族は共感力があってうまく言葉にはできなけど、いろいろ伝え合うことができるんだよ」
そういえば、前もそんなこと言ってたっけ、とケータは思った。
この魔素病が流行っているのは王都クルゼナントだけだ、とクリスクロスが言った件である。
クリスクロスには、妖精同士での一種の概念伝達ができる。
それにより、魔法使いから魔素が抜き取られた影響が酷かったらうまくやっているとは言わないだろう。
現在、クリフラクト共和国は平穏だと言うことだ。
「そうなんですのね? でしたらおそらく和解は可能かと。ブルム子爵に掛け合ってみてもいいと思いますわ」
リレイアも異存はないようだ。
「えーと、それで、まだなんで私にそんなことをして頂けるかわからないのですが」
「ああ、すいません。クリスクロスが出てきたりするから、話の段取りがメチャクチャじゃないか!」
「おいらのせいにするなよ! 重苦しいとこをなんとかしてやろうと思って出てきてやったのに!」
そんな様子に処置なし、というポーズでリレイアが呆れていた。
◇
話は一時、脱線したがそれも一段落するとケータはメイソンに相談の内容を切り出した。
リレイアが立てた作戦の内容である。
「実はメイソンさんに僕らの始める事業の手伝いをして欲しいんです」
「事業ですか? それはどういう?」
「そうですね。いろいろ多角的にやるので、内容はコロコロ変わるのですがとりあえず場所は決まっています」
「はあ」
メイソンはまだ内容がわからないので、できるともできないとも返事ができない。
「2ヶ所あるのですが、まずはクルゼナントから北の街道を30km行ったところです。そこにまずは厩舎と休憩所を作ります。客の対象としては魔の森に向かう冒険者や狩人、ローアニエスト公国に向かう商人などです」
「なるほど、そういう人たちには厩舎と休憩所を作ると助かるでしょう。でも、商売になりますか? あまりに顧客対象が少なすぎると思うのですが……」
「まあ、そう考えますよね。リレイア、あれを見せてくれるかい?」
「はい。承知いたしましたわ」
ケータはリレイアに命じて、将来的にその場所に建造するものの予想図を表示した。
「なっ、何ですか? この巨大な建造物は! 砦のようにも見えますが」
「はい。ある意味当たりですが、ここはそんな単純なものではありません。これを街道沿い厩舎と休憩所がある位置から南西に15km移動したところに作ります」
メイソンはケータの真意を図り兼ねていた。
砦を築くとなるとクルゼ王国に叛旗を翻すのかとまずは思うわけだが、このケータという人間は随分王宮とも親しそうだ。
そうでないとすると隣国に対するもの、位置としてはローアニアエスト公国に対してのものだが、それだと逆に遠すぎる。
こんなところに砦を作ってもローアニアエストの主要都市を攻撃する起点にはできないはずだ。
となると。
「もしかして、魔の森関連ですか?」
「流石ですね」
「もしかしてスタンピードの危険があるのですか?」
「あー、はい。まあ、それもあるにはあります」
ケータは煮え切らない言い方をする。
メイソンもその辺はわかる。このアルファニアでは不確定要素が多い。
危険はある程度予測できるのだが、時期的なものを予想するのが難しいのだ。
すなわち、魔物の大暴走。いわゆる『モンスター・パレード』の危険は絶えずある。
流石に明日明後日に発生することはないが、半年後に発生しないとは誰も言えないのだ。
しかし、これから10年の間であれば、80%以上の確率で発生する。
リレイアの調査でそれがはっきりしていた。
「ここはその監視と前線基地を兼ねると」
「表向きは」
「表向き、ですか?」
「はい。実は僕にはもう一つ仕事があるんですよ。ここをその起点にしようと思いまして」
ここでリレイアが詳しく説明する。
このアルファニアに来た異世界転生者のうち、一部の人たちは幸せに暮らせていない点について。
一部の人たちは道を踏み外している点について。
一部の人たちは世捨て人のようになっている点について。
ケータがこのアルファニアに来た理由について。
「なるほど、『私も道を踏み外した一人』というわけですね」
「いえ、メイソンさんは違います。『幸せに暮らせていない』とは思いますが」
「……わかりました。ケータさんの仕事をお手伝いします」
メイソンはケータに協力すると約束した。
「それで、すぐにその砦を作り始めるのですか?」
「いえ、最初にやっていただきたいのは、この畑を二週間で倍にすることですが可能でしょうか?」
「出来はしますが、二週間で育つ農作物となると種類が限られます」
「いえ、農地の拡大と作付けが二週間で終わらせられると助かるのです。収穫については、三ヶ月以上かかるものは今は除外してほしいですが、とりあえずその期間内でできる各種農作物でひと月以内に今の倍の収穫量の農作物が必要なんです」
「それならば、なんとか」
ケータはうん、と頷くと。
「ありがとうございます。僕は王宮に戻ります。まずはメイソンさんの身柄を保証を勝ち取ってきます。クルゼ王国の保護の下で活動できないと仕方ありませんからね」
「本当に国の保護なんて受けられるのでしょうか?」
「まず大丈夫ですが、ダメだった場合はこの作物を全部僕個人のものとして使いたいので、売っていただけますか?」
「この失敗作を買っていただけるならありがたいですが……」
メイソンは不安げだ。
国の保護を受けられるとは信じられない。
更にケータにこの農作物を売って、その結果魔法師に悪影響が出たらケータたちまで迷惑が及ぶ。
そんな表情のメイソンを意に返さずケータは言った。
「次に来る時は二週間後の予定なのですが、メイソンさんの身柄が保証されたらもう一つの拠点の立ち上げに取り掛かって欲しいです」
「もう一つの拠点とは?」
「街道沿いにちょっとした施設を作ります」
「はあ」
ケータは二ヶ所の拠点のうち、一ヶ所はメイソンに明かしたが、もう一ヶ所にはついては今は話さないことにした。
砦はすぐに取り掛かるものではないので、将来の展望があることを見せたいので教えたのだが、別の方はとりあえず考えずに畑の方に注力して欲しかったからである。
「まあ、とりあえず畑をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか。
「先ほどの条件でなら可能ですが……ほんとに魔力を低下させるこの作物が役に立つならば……頑張ります」
ケータとメイソンは握手をして別れた。
次に会うのは二週間後。
王宮に掛け合って彼の身柄を国で保証してもらわなければならない。
ケータは急いで王都クルゼナントに戻っていった。
流行病の治療薬の原料を探していたはずが、なぜか北の街道で花屋を開くことになります。
次回は、『37話 なぜか花屋を開業すれば』 8/12投稿予定です




