表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/92

33話 王都に心配事が持ち上がれば

 令嬢の誘拐を解決し、一段落したケータたち。


 これで、安定した冒険稼業に精を出せると思ったら、またしても面倒事に巻き込まれます。

 マルキャルトがパルマント家を辞する日が近づいてきた。


 子爵家当主ダラム・フォン・パルマントもマルキャルトが、娘であるアリエッタと単なる主従ではなくかけがえのない親しい親友であることを判っている。

 たとえ、護衛の任務がこなせなくとも長くパルマント家で暮らすことを(いと)いはしない。


 だが、マルキャルトはそれに甘えることはできなかった。


 ケータと冒険者パーティーを組んだ後も毎日依頼をこなすわけではないが、依頼があれば護衛の仕事はできないのだ。

 本来、護衛の立場であるなら冒険者としての仕事を兼任することなどできるわけがなかった。

 仕事がある日は外出を控えるから大丈夫、というアリエッタの言葉は逆にマルキャルトには重く響くのだった。


 散々悩んだ結果、マルキャルトはパルマント家を出ると告げた。


「キャル、行ってしまうの? 冒険者の仕事を続けながらでもここにいて良いのよ?」

「それは許されない。私は自分の仕事を果たせていない。新しい仕事を始めたことで、あなたに不自由されているわ。アリエッタ、そうでなくてもあなたはもっと外に出るべきなのに。ダラム様もそれを願っている」

「いいじゃない! それくらい! どうしても外出が必要な日は別の護衛をお願いするわ」

「……それは」

「あっ……」


 アリエッタはマルキャルトを傷つけたことに気がついた。

 他の護衛を頼むことでマルキャルトは、パルマント家の仕事を全う出来ていないのだから。


 『護衛としては働かなくてもいい』と言っているのと同義である。


「キャル。ごめんなさい」

「いや、いいんだ。仕事ができていなかったのは事実だ。アリエッタこそ、護衛がいなくて外出できない日はつらかったろう」


 そんなことはない、と首を振るアリエッタ。


「それに、冒険者として生きると決めたのも私のわがままなのだから」

「いえ、マルキャルトが本当の騎士になるのは嬉しいの。最初は冒険者なんて、と思ったけれどそれで騎士を続けられるんでしょう?」

「ああ」

「……わかった。もう言わない。今までありがとう」


 アリエッタとマルキャルトは一緒に過ごした日々を惜しんでいた。

 わだかまりも後悔もなかった。


 ◇


 そして、数日後

 マルキャルトがパルマント家を離れるその日、マルキャルトは号泣していた。


「ア゛リ゛エ゛ッ゛タ゛さ゛ま゛〜」

「あらあら、元気で行ってらっしゃい。キャルは泣き虫ね」


 ドライに対応するアリエッタ。

 この日は絶対にマルキャルトが帰るまでは泣かないと決めていた。

 昨日も泣いた、一昨日も泣いた、明日も泣くかもしれない。

 でも、今日だけは泣かないと決めたのだ。


 最後に当主ダラム・フォン・パルマント子爵は言った。


「まだ子爵家である当家によく仕えてくれた。ありがとう」

「護衛の任務を全うできず……申し訳あ゛り゛ま゛せ゛ん゛〜」


 答えている途中でまたボロボロになるマルキャルト。


「いや、本当によくやってくれたと思う。

 単なる護衛でなくアリエッタの面倒をよく見てくれた。

 それに、しばらくはこの街で依頼をこなす予定なんだろう?

 会おうと思えばいつでも会える」

「あ゛り゛か゛と゛う゛ご゛さ゛い゛ま゛す゛〜」


 その日は最後までグズグズのマルキャルトであった。


 ◇


 次の日から、マルキャルトはケータ達と一緒に冒険者の依頼をこなしていた。


 マルキャルトはすでにケータとリレイアがこことは違う世界から来たことを聞いているが、まだそれがどう言うことなのかは知らない。

 本当は知りたいだろうに自分から聞くことはなく仕事仲間として毎日僕らと同行し、魔物の討伐依頼だけでなく薬草の採取などの地味な依頼も文句も言わずにこなしてくれる。


 ブルム子爵の計らいで爵位は継続することになったのだが、普通なら貴族である以上冒険者として働くことに格下げ感を持つものだ。


 だが、本人はまるで気にしていない。

 稀有(けう)な立場になったとはいえ、それが悪いこととは考えていないのである。

 むしろ、諦めていた騎士爵が継続できることを喜んでいた。


 それにはケータも感謝していたのだが、マルキャルトには別の問題があった。

 それも、本人はまるで気にしていない。


 だが、周りはそうはいかなかったのだ。


「ケータ。今日も討伐依頼頑張りましょう!」

「マルキャルト、その前に家! 住むところ!」


 マルキャルトはパルマント家を辞したあとは、宿屋暮らしをしていた。

 Cランクの冒険者の稼ぎ出す報酬は少ないものではないが、ずっと宿屋暮らしができるほどではない。

 もし、この王都で冒険者を続けるなると宿のランクはそれなりに落とさなければやっていけない。


 本人は住むところなど至って気にしていないのだが、ケータは当然気になる。

 なんと言っても若い女性が、宿のランクを落として危ないところで一人暮らしをしているのである。

 マルキャルトは剣技だけでなく体術も優れていて襲われる心配はないものの外聞が悪すぎる。


 結局、その日はマルキャルトに押し切られて普通に討伐依頼に出かけてしまった。

 依頼を達成して報酬を分けた後に解散。


 ケータは自室に戻り頭を悩ましていた。


「リレイア。なんとかならないのか、マルキャルトは。ちゃんとした部屋に住んで欲しいんだけど……」

「このアパートなら、空きがあるみたいだぜ」


 リレイアに尋ねたのだが、クリスクロスがそう返してきた。


「いや、このアパートに女性は済ませられないよ。風呂もないし」

「あるじゃん」

「ん? 何を言ってる?」


 ケータの疑問にリレイアがクリスクロスの勘違いに気付く。


「いえ、この部屋の風呂は亜空間拡張領域に私が作った特別なもので……」

「えっ? あーーー、そうだったそうだった。あまりにも普通に使ってるんですっかり忘れてたぜ。ここ本当は狭っこくて汚い二間だったんだよな」


 狭くて汚いは余計だ、とケータは思う。


「なら、マルキャルトを住む部屋にもこの領域作ってやりゃ良いじゃん」

「それが、そうはいきませんの。この領域を保持するには私がいなければなりませんし、リモートで制御するのは高位の魔法使いが探索魔法を掛けた時にバレる可能性が否定できませんもの。こんなアパートに若い女性騎士が住もうと言うだけで、ワケありと周りから見られてしまいますから危険です」


 クリスクロスは、ふーん、と言ってそっぽを向いたが納得したんだかしてないんだか……


「あっ、良いところがありますわ!」

「ん?」


 突然、リレイアがクルクル回ってふんぞり返る。

 きっと名案なんだろうし、仕草は可愛いけどちょっとウザい。


「……どこだよ? それ」

「あのパン屋ですわ」

「パン屋って……クルゼナントに入る時に知り合いの設定で(だま)したエストレモ老夫妻のところか?」

「騙したなんて人聞きが悪いですわ!」


 なんかとんでもないことを言い出した。

 ちょっと怒ってるみたいだが、今はそんなことより話の続きだ。


「……それで? あそこに居候するのか? もう1人住むには狭いだろ」

「いえ、あそこには使ってない3階の部屋があるんです」

「いや、確か昔は倉庫として使ってた狭い部屋で人が住むようなところでは……って、お前! やりやがったな!」


 ケータがツッコんだところで、クリスクロスが話に入ってきた。


「そういえば、あそこの掃除しているときに『もしもの時には役に立ちますわね』とか言って何かやってたな」

「そうなのか」

「あー、おいらもごそごそ何やってんだと思いながら、リレイアのやることだからほっといたんだが、あの時に部屋を広げてたのかあ」


 全く知らない間にいろいろと……

 そんな話、聞いてないぞ。

 ケータはリレイアを(にら)んでやったのだが、あっさり無視して言うには。


「と・に・か・く! 最初は予算の都合で二階建ての予定で建築されていたので、あそこの三階は物置として使える程度の部屋しかなかったのですが、その奥にはデッドスペースがありますの」

「なるほど。では、暮らすのに十分なんだな?」

「はい。あの時は、とりあえず使えそうだと思ったので構造の強化をしましたの。あとは、表から三階の様子が推し測れないようにカモフラージュしていたのと、パルマント夫妻が三階に上がらないように認識阻害をかけただけですわ」


 その話にもいろいろツッコミたかったが、とりあえず続きの話を促した。


「うまく改装すれば、十分に広い空間が確保できるんですの。外観の変化については、あの建物の三階を認識したことがある人間をピックアップして意識を書き換えましたの。数が少なかったですから、元から三階であったかのように認識を書き換えるのはそんなに手間ではありませんわ」

「問題はないのか? 時間とか作業量とか資金とか」

「今のままでは水回りにもう少し手を入れる必要がありますが、そこは誰にも気づかれないように済ませますの。部材については、手持ちのものを使いますのでお金はかかりませんが地球のものですのでそれなりにバレないようにします。工事自体は今夜中に終えるつもりですわ」


 マルキャルトが暮らすための準備はすぐにできるらしい。

 だが、もう一つ心配がある。


「でも、どうやってエストレモ老夫妻に部屋を貸すように持ちかけるんだよ。部屋を貸したことなんてないだろうし、きっかけがないじゃないか」

「ありますよ……まあ、きっかけを作るアテですけど。そのための機会は作らないと行けませんけど。それに利点もありますの」

「きっかけを作るアテ?」

「以前、脅されて逃げた下っ端の……」


 そこで、クリスクロスが気が付いた。


「あいつか!」

「どいつだよ?」


 ケータは知らないので仕方がないが、頭の悪い会話だ。

 クリスクロスは覚えていたらしい。


「あの小麦の仕入先だろ?」

「正解ですわ。今のところなんとかなってますが、ガメツイ仕入先の番頭から突き上げが厳しくなってますの」


 そこでケータも思い出した。


 エストレモ・パン店の小麦は、昔の仕入先であるラテラル小麦商から仕入れている。

 その仕入担当は店の方から『あの店からならもっと金を搾り取れるはずだ』と言われているらしい。

 このままだと、あのパストレモ老夫妻は小麦の仕入れの値上げを受け入れざろう得ない。


「で、それがマルキャルトが住み込む話とどう繋がってくるんだ?」

「えー、それにはちょっとした作戦を仕掛けます」


 またしても何か企んでるらしいリレイア。

 聞きたいような聞きたくないようなケータが話を促す。


「……それで」

「カールさんには腰を痛めてもらいます」

「「なんでだよ!」」


 今度は、ケータとクリスクロスが同時にツッコむ。


「まあ、話を聞いて下さい。あの夫婦は年寄りのクセに働きすぎなんですの。最近、またナノマシンを飛ばして体調を診たんですが、このままでは疲労の蓄積が大きくて……」

「それで?」

「マルキャルトがパンを買いに行った時に、ちょうど腰を痛めるように仕組みます」

「……それで?」

「マルキャルトが助け起こしてベッドに寝かせますが、その日はそれで店を閉めることになるでしょう」


 まあ、いつものパターンみたいだ。

 聞きたくないが、続きを促すと。


「ベッドに2人揃ったところで、マルキャルトに眠りの魔法粉を撒いてもらいます」

「それ、マルキャルトも眠っちゃうんじゃないか?」


 すると、リレイアは二、三度瞬きすると。


「ああ! それいいですね! 彼女も働きすぎですから」

「きっとその後は『気がついたら3階に住むようになっていた』って言うんだろ?」

「簡単に言うとそうなりますわ」


 作戦や何か企む時、敵にも味方にも容赦ないリレイア。

 もう少し、思いやりというか……だが、考えてみると……

 実はそれほど悪くない方法なのか?


 どうしようか迷った挙句、マルキャルトは騙す方から騙される方に方針変更されてしまった。


 結局リレイアが立て直した作戦は、次の通りだ。


 マルキャルトには『話題のパン屋に美味しいパンを買いに行ってくれ』と頼む。

 接客中に、忍び込ませておいたナノマシンが動いて主人のカールさんが腰を痛める。

 マルキャルトがそれを助けないわけがないので、そのままカールさんを抱えて2階に寝かせる。

 2階に老夫妻とマルキャルトが揃ったところで、ボットが眠りの粉を散布する。


 その隙にボットを3階に送り込んでマルキャルトの部屋を整える。

 夜寝静まったら、翌日の臨時休業の札を下げる。

 これはノーラさんが下げたように記憶を改竄(かいざん)する。


 もちろん、カールさんの腰は念入りに治療しておく。

 3階にマルキャルトが住んでいる日常がすでに数週間前から始まっているような記憶を3人に植え付けて終わりだ。

 パン屋の3階に住むようになったきっかけは小麦の仕入れの際、脅されていたのを助けた縁ということにする。


「なんか、マルキャルトまで騙すのは気が引けるなあ」

「それはしょーがねーんじゃねぇか。いつまで経っても住む場所決めないアイツが悪いんだろ?」


 クリスクロスの言うことはもっともだ。

 ケータは早くマルキャルトにちゃんとした場所に住んで欲しい。

 一つ気になるのは、貴族であるマルキャルトが貧民街に近いところに住むことだ。


「それは、多分気にしませんわ。彼女」

「まあ、そうは思うんだけどね。僕も。それにあそこに住んでもらうと、もう一ついいことがあるし」

「いつでも美味しいパンを持ってきてもらえることですわね!」

「ちっが〜う! まあ、それも確かに嬉しいけど、違う!」

「なんですの?」


 そこでなんか言うのが恥ずかしくなった。


「ねぇ、なんですの?」

「いや……マルキャルトもさ、若い女の子じゃん!」

「まあ……そうですわね」

「だから……若い女の子がパン屋に下宿しているのって、なんかいいじゃない」


 そういった途端、リレイアとクリスクロスが笑い転げた!

 スッゴイ勢いで!


「ケッ、ケータ。ふふふふっ、たっ、確かにそれは良いですわ……クッ、ククククク」

「あーもう、なんだよう! それより、仕入れの件はどうなるんだよ!」


 まだ笑ってる2人。


「あー、笑かしてもらったぜ」

「そうですわね。ケータの可愛いところを一つ見つけましたわ」


 やめてくれ、ケータは顔を伏せる。


「それより……」

「そうそう、仕入れの件ですけど。これは冒険者ギルド経由で噂を広めますわ」

「具体的には?」

「マルキャルトの住む場所については、冒険者ギルドに登録する必要がありますよね?」

「ああ、冒険者は定住できる権利と引き換えにその場所を登録する必要があるな」

「まあ、マルキャルトの場合はこの国の貴族ですから、定住の権利は冒険者として得る必要はないのですけれど、冒険者ギルドとしての規定から届け出することになりますわ」

「それで?」

「サフールさんにも協力して頂いて『騎士であるマルキャルトが評判のパン屋に下宿している』という話を広めてもらいます」

「ちょっと待て。マルキャルトはすでにパン屋の3階にいる日常を刷り込まれる訳だよな。辻褄が合わなくならないか?」


 そこで、リレイアがノンノンという風に杖を振る。

 ウザい。


「それはケータに行ってもらいます。ケータはパーティーのリーダーですので代理で届け出ができます」

「本人の委任状がいるんじゃないか?」

「そこは……なんとか致しますわ!」


 リレイアは書類をでっち上げるつもりだ。

 本人のサインもリレイアなら絶対見破れないレベルで偽造できるし、マルキャルトの記憶はいじる……必要もない。

 アリエッタを救うときには、ポスター貼りの手続きまで小まめに動いてくれたマルキャルトではあるが、元来そう言う事務仕事には大雑把で苦手なのだ。

 特に自分自身のことなど無頓着なので、委任状が必要なことまで気が回らないだろう。


「と・も・か・く! ケータはこの前の騒ぎで注目されてますから、ただの手続でも周りの人が気にするのは間違いありませんもの」

「……ったく、もう! でも、それでうまくいくか? 商人なんて冒険者ギルドをそこまで気にしないもんだろう? 話がうまく広がるとは思えないんだけど」

「本来ならそうですが、ここの冒険者ギルドの特殊性を考えればわかりますわ。あの規模でいろんな店が入ってるんですよ? 商人は絶えず有力な冒険者の動向は気にしているはずで、噂は必ず耳に入ります」

「そうかあ、それなら仕入先は貴族の下宿先になっている店には手が出せなくなるな」


 この計画は実行され、マルキャルトは定住居を得ることができたし、ケータは旨いパンをいつでも持ってきてもらえるようになったのである。


 ◇


 王都クルゼナントは800㎢という広大な大きさを持っている。


 これは日本の東京23区より大きい。

 クルゼナントはほぼ円形の街であるから23区の江戸川区と大田区の間の海が、ちょうど土地になったぐらいの大きさと考えればわかりやすいかも知れない。


 人口80万に比してかなり大きい街と言える。


 従って、この中では城壁の中であるにもかかわらず、大きな池や河川も通り、農業に従事するものもいた。

 その大きさゆえに流石に全て城壁で囲うことはできなかったものの、それでも4割程度は城壁を持っていたし、城壁がない部分についても魔石が並べられ魔法障壁が魔物・魔獣の侵入を許すことはなかった。

 海に面しているわけではなかったが、首都は大きな平原の中にあり東西南北に大きな街道があるため物流の問題はない。


 この街の問題は過疎である。

 大きさの割に人口が少なすぎて目が行き届かないのだ。


 他の国では盗賊が街中にいることはなく、街の外にアジトを設けて荷馬車を狙ったりする。

 だが、このクルゼナントでは悪人は見つかる心配と過ごしやすさを天秤にかければ当然、王都内で悪事を働く方を選ぶ。

 街中に盗賊が集まって寝ぐらを作っていても楽々隠し通せる。

 そのおかげで町の外の盗賊団が知らず知らず大きくなって町を襲うと言ったことはなかったが、そういう組織が隠れ住むのには十分なのだ。

 クルゼナントは獅子身中の虫を抱える王都なのである。


 

 そんな王都クルゼナントでは、一つの事件が(くすぶ)り始めていた。

 それが発覚したのは、この街の貧困層が徐々に増えていったことからである。




 (さかのぼ)ること2週間前の王国の御前会議。


 クルゼ王国の国王エリウス・フォン・クレーゼは問う。


「最近、街の様子がおかしい。何というか、ワシには活気を失っているように見えるのだがどうだ」

「はい。エリウス様。貧困に喘ぐ民が徐々に増えております。表立った流行り病があるわけでもなく、どうしたものか原因がわかりません。活気がなくては街の機能を失います」


 家臣の一人が答えた。


「それでは関税を一時的に引き下げてはどうだ?」

「それも考えましたが、そもそも働けない状態にあるものも多く、効果があるとも思えません」

「ほう。税が苦しめているわけではなく、自然に貧困が広がる理由があるのか。農作物なども凶作に見舞われているわけでもないのに」


 別の家臣が案を出し、それにまた誰かが答える。


 そこで、家臣の一人は一般論を話した。

 そして今回はそれが当てはまらないことも。


「貧困の原因は数々ありますが、普通は関税の重さ、流行り病、農作物の不作、戦争などです。今回は労働力の低下が原因と考えられますが、いずれにも当てはまりません。強いて言えば流行り病ですが、教会の治療に関する報告にも特定の病気が広まっていることはないとのことです。ただ、体に力が入らないというような訴えが家族が上がる割には、当人が教会に治療に来ないという事例が散見されまして何かきな臭い感じがいたします」


 国王エリウスは話をふむふむと聞いていたが、突然命令を下す。


「一筋縄ではいかないようだな。では、ブルムを呼べ。冒険者ギルドに調べさせる」

「ははー」


 周りは国王が、聞いているのか聞いているふりで興味がないのかと内心疑うのだがそうではない。

 今はいろんな家臣があーでもないこーでもないと言っているだけで、会議は何一つ進まないことを見抜いていたのだ。


 一度言葉を発すればその決断の早さと的確さに驚く。

 それは仕える年数が多い家臣ほど実感している。

 よって、宮殿内の貴族や諸侯、兵士や使用人に至るまで信頼が厚い。

 名君なのだろう。


 ブルム子爵が国王エリウスの元にやってきた。


「エリウス様、ブルム参上いたしました」

「うむ。貴殿なら既に気づいていると思うが城下の様子がおかしい。出入りの商人や宮廷内の魔導師などにそれとなく聞くと言うことも考えたが、あらぬ噂が広まっても困る。まずは、冒険者ギルドに調べさせるつもりでおるのだが、信用が守れる者が必要なので情報を出せない以上、仕事を受けるものもいないであろう。何か方策はないか」


 ブルム子爵はちょっと考える。

 だが、それはポーズであって心当たりはあるようだ。


「はい。そうですね……1人、面白い冒険者がおります。何とも不思議な方法で幾度も見つけにくい探し物や隠れた犯人の検挙を成し遂げています。ギルドに張り出す一般依頼ではなく、この者に指名依頼としたいと思いますがどうでしょう」


 そこで、王エリウスはしばし考える。


「そのものは信用できるのか?」

「はい。ロブナントが信頼を置いております」

「ロブナントととな? あやつについては今一つ信用できないのだが、逆にあやつが信用しているものは確かに信頼できるな」

「はい」


 奇妙な会話だが、それがロブナント子爵という人物の評価だ。


「よし。ブルムとロブナントが目をかけているのであればかなりの知恵者なのであろう。功名心の塊やら、力自慢の高ランク冒険者など今回は不要である。その方向で進めよ」


 ケータが知らないところで一つ仕事が決まったらしい。

 マルキャルトは正式にケータ達と冒険者暮らしを始め、懸案の住処も決まりました。


 ところが、王都では知らないうちに問題が起きており、その調査に白羽の矢が立ちました。

 ケータは自分の知らないところで、仕事が決まってしまったようです。

 この問題、少々厄介な様子で……


 次回は、『34話 王都を陰で蝕むものは』 8/2投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ