32話 やっかむ輩に絡まれてみれば
一歩間違えばやられていたケータたちですが、当然ほかの冒険者はそんなことを知りません。
おまけにケータは、討伐が苦手な採取系の冒険者と思われていました。
貴族の女騎士を仲間にして、いきなりランクアップをすれば当然やっかみもあるわけで……
アリエッタ令嬢の救出、その後犯人の捕縛と二つの依頼をこなしたケータ。
主犯の捕縛に失敗し、みすみす殺されてしまった。
それでも依頼としては成功であり、敵の脅威度が高かったこともあり提示報酬の3倍が支払われた。
冒険者のランクアップは重要度と報酬額による貢献度がものを言う。
通常ならその貢献度に加えて、ランクアップ試験を受ける必要がある。
だが、ケータの場合は貴族の指定依頼の成功と今回の報酬額、さらに王宮からの推薦状により、即座に冒険者ランクC になる資格を有していた。
それがなぜか冒険者ギルドの手違いで支払いが遅れることになった。
しかし、手違いがなんだったのかという説明はギルドからないし、ケータも遅れることについて何も言わない。
そのため、累計報酬額が足りず冒険者ランクCになるのは見送られた。
その後、冒険者Cランクに上がることになったが、あくまで正式にマルキャルトと組んでパーティ登録をすることにより、昇級したことになっていた。
「ケータさん。今回も魔物討伐ですね?」
「はい。マルキャルト様がいるので、討伐依頼もこなせるようになったんです。今のうちに僕も魔法攻撃を覚えて足手纏いにならないようにしようと思いまして」
冒険者ギルドで、窓口の担当のサフールさんと話している内容はもちろん嘘だ。
ここでの発言は、わざと周りの冒険者やギルド職員に聞こえるように言っているのだ。
サフールさんはケータと口裏を合わせてくれている。
なぜ、こんな面倒くさいことをしているかというと『猫探し』と『薬草採集』でDランクになった駆け出し冒険者が、さらにCランクになると風当たりが強いからである。
すなわち、あくまでケータは『ひ弱な調査・採取系の冒険者』であり、たまたま騎士様とパーティを組めたので『Cランクに上げてもらえた』という風評を作るためだ。
冒険者がランクアップした場合、その理由は公的に開示される。
理由が、貴族の指名依頼であったり大きな報酬額であったりすれば、ケータの一番嫌う目立ち方をしてしまうわけだ。
それを避けるためにも、あくまでも騎士加入によりCランクにアップしたことにしたかったのである。
ケータはパーティーに有力新規メンバーが増えたおこぼれでCランク冒険者と扱われるわけだ。
ケータとしては、これで何とか冒険者ギルドでの風当たりを避けることができると考えていたが、それだけでは十分ではなかった。
逆に、そんな棚ぼたみたいなランクの上がり方だったため、他の冒険者からやっかみを受けることが増えている。
ましてや組んだ相手が女騎士となるとなおさらである。
このところ連日、DランクとCランクの冒険者を中心に絡まれたり、難癖をつけられることばかりだ。
「女騎士様の後ろに隠れてCランクに成れるとは、羨ましいねぇ」
「さすがはCランクになった冒険者様は俺たちとは違うところを見せてもらいてぇなあ。一つ、お手合わせでも願いたいもんだなぁ」
揶揄われているだけならともかく、手を出そうとしてくる奴はどうにも鬱陶しい。
──ちょっと懲らしめてやりますわ。ケータ、ギルドの鍛錬場を借りて、勝負して下さい。マルキャルト様を見届け人にして。
──おいらも腹が立ってきた。やっちまえよ、ケータ。
おいおい。
リレイアもクリスクロスも意外に血の気が多い。
──そう言う腕っ節で言うこと聞かせる実力主義みたいなのは辞めよう、って言ったじゃないか。
──いえ、確かに能力があることは見せますが、高位魔法や腕力ではない方法を使いますの。具体的には身のこなしとスピードですね。
ケータの剣の実力や体捌きは、まだ全然なっちゃないのだ。
──ちょっと強い冒険者とまともに打ち合うと普通に負けるよ? 僕。
──ええ、身のこなしもスピードも私が魔法を使わずサポートしますわ。
──まあ、それなら……でも、またズルするのか……
──はい。当初の計画と少し異なりますが、ちゃんと実力の一端は見せることにします。単なる力自慢ではないという点では予定通りですわ。『スピード系の魔法を唱える冒険者としては一級品』という印象を周りに持たせます。それもこれも、ブルム様が持ってきた依頼であまりにも早くCランクに上がることになってしまったからですの。ある程度納得させるための方策ですわ。こうでもしないと、本当に『マルキャルト様におんぶに抱っこの冒険者』という印象が他のギルド職員にも付いてしまいますの。
──うーん、仕方ないか。
それに、ギルド職員でも事情を知ってるのはサフールさんだけである。
妙に腕っ節が弱いという評判があると、サフールさん以外が窓口で受け付けた場合、討伐依頼の受注が認められないかも知れない。
Cランク冒険者としてはひ弱だと思われて。
──そうですわ。この大きなギルドでわざわざ依頼を受けるために、話のわかるサフールさんを一々探して回るのは流石にいやでしょう?
──うん。イヤすぎる。
ギルド仕事を続けることを考えるならば、Cランクになったことで受けられる仕事が増えるのは本当に助かるのだ。
依頼を受けなくても常設の討伐対象である魔物や魔獣を狩れば報酬は得られる。
だが、依頼としてCランク以上限定の強力な魔物を討伐する場合、その報酬額は明らかに美味しいのだ。
スピード系という討伐もできるタイプの冒険者としてやっていく。
そういう指針がなかったために先日、ケータはちょっとしたミスをした。
──ちゃんと考えてねーからこの前みたいなチョンボをするんだ。ケータがでかい魔物化した熊を解体と討伐買取りに出そうとしたときは、焦ったもんな。
──ほんとですわ。あの時は、収納してある魔物に未解体のものがあったからよかったですけど。
──クリスクロスもリレイアも変なことを覚えてなくて良いから。
たまたま近くの森でかなりでかい熊の魔物が狩れたので、うっかり解体と買取りに出そうとしたのだ。
その熊の魔物の討伐は、普通は5人以上のBランクパーティが必要とされる。
もし、あの時ケータが冒険者ギルドでその大物を取り出していたら大騒ぎになるところだった。
その時はまだ、マルキャルトは正式加入前であったため、ケータはDランクであった。
危険な大物討伐を成し遂げたとなれば、目立ちすぎるのはもちろん無謀な冒険者としてギルドから指導が入ってしまう。
まあ、リレイアが機転を効かせて魔物の熊の代わりに一角ウサギを出してくれたのは良かったのだが……
「にいちゃん! 一角ウサギぐらい自分で解体しな。少ねぇ報酬がなくなっちまうぞ!」
解体所のおじさんに大勢の前で諭されて、とんだ赤っ恥を掻かされてしまったのだった。
──それにおいら達の正体を明かす前にも、マルキャルトにも疑われていたじゃないか。
──ああ、まあ、そうだったんだけどさ。
令嬢誘拐事件を持ち込まれてた時、ブルム子爵ならともかく、それほど勘が鋭いとも思えないマルキャルトにも、実力があるのがバレていた。
考えなしにかなり強い魔物が出る場所で、ほいほい薬草採取依頼をこなしていたのだから当然である。
いずれ他の冒険者にも勘付かれるだろう。
だったらスピード系の冒険者として、最初から腕が立つように見せる方がいくらかマシと考えた。
「ああん、黙っちまってどうしたい? 震えてんのか? ああ?」
…………そうだった。絡まれてたんだっけ。
念話のやりとりと考え事をしている間、絡んできた連中はケータがすっかり怖気付いてると思ったらしい。
「いえいえ、それじゃ、やりましょうか。ギルドの鍛錬場を借りて……ああ、そうだ。まだ、冒険者成り立てで手持ちの金も少ないんですよ。いっそ負けた方が、鍛錬場の借り賃を出す、ってことでどうですかね?」
ケータは多少悪辣だとは思ったが、ちょっと相手を煽った。
それに周りの野次馬たちが、ドッと湧く。
「言うじゃねーか」
「新人野郎、やり返しやがった」
当然、相手の男はキレた。
「なっ、なんだと! お前、俺に勝てると思ってんのか? ……ハァン、その女騎士様と一緒に戦うってんなら、こちらもCランクの冒険者を1人追加させてもらうぞ! おい、チレーナ! お前、俺に加勢しろ!」
ケータにケチをつけた男。
新人に負ける気はさらさらないが、妙に余裕ありげにも見えるケータの様子に、話している途中で思いとどまる。
この余裕の根拠は多分相方の騎士がいるからだろう。
女の騎士とは言え、そこそこはやるだろう。
もしかしたらかなり強いと言うこともありうる。
だが、ここで騎士は除外して、一対一の勝負にしたんじゃあ周りの連中に笑われるだろう。
お前は女から逃げたのか、ってことになるからだ。
しかし、そうなら話は簡単である。
一対一がダメなら、二対二にすればいい。
これならば、名目上は公平な勝負になる。
幸いなことに、ここにはチレーナがいた。
チレーナはCランクでは上位者だ。
たとえ、あの女騎士が凄腕だったとしてもすぐに負けるとは思えない。
時間稼ぎしている間に、ケータを早めに片づけて二対一にすれば勝ったも同然とでも考えているだろう。
そんな風に思っていることは、ケータたちは重々承知。
最後にとどめの一言を言った。
「いえ、マルキャルトは戦闘に参加しません。見届け人になってもらおうと思ってるんですよ。王宮騎士が見届け人なら安心でしょう?」
「ふざけるな! 女の陰に隠れてうまい汁を吸うことしか出来ねぇ脳なしがよくも吠えたな! やってやろうじゃねーか!」
まさかの一対一の申し出。
これで引き下がれなくなった。
わらわらと人が集まり、やっちまえ、と消しかけている。
賭けを周りに持ちかけ始める奴もいる。
ギルド職員たちが出てきた。
その場を治める気なのだろうが、僕はその中の一人であるサフールさんに、鍛錬場の使用許可をお願いする。
サフールさんはそれを平然と受け、使用許可を出した。
その他の冒険者も職員も含め、周りに動揺が広がる。
「サフール! 止めなくて良いのか?」
「はい。ここまで事が大きくなったのなら、当人同士でケリをつけてもらうしかないでしょう。幸い、ケータさんは先日の依頼で報酬が入る宛があります。仮に負けてもギルドに払う金がなくて困ると言うことはないでしょう。それに……」
「それに?」
「ケータさんの本当の実力、見たくありませんか?」
「お前なあ……」
他のギルド職員が止めずに許可を出したサフールに呆れている。
周りからは『負けても心配いらねーらしいぞ。さすがはCランク冒険者様だ』とヤジが飛んでいる。
僕はその中を太々しく鍛錬場へ歩いて行った。
◇
ケータ達は別館に向かっていた。
この対決に使う鍛錬場は、ケータが出した使用許可依頼を受理した時のものではない。
見物目当ての野次馬が膨れ上がって小さな鍛錬場では入り切れず文句が出たため、本館から別館に場所を変えたのだ。
この鍛錬場は、大型魔獣の解体場としても使われることがあるので、本当にだだっ広い。
ケータはすでに、鍛錬場の中央から10m右に位置にいた。
相手も同様に、鍛錬場の中央から10m左の位置にいる。
中央にはマルキャルトがいて、口上を述べる。
「これからケータとティへーラの対戦を行う。殺傷能力Aレベル以上の魔法は禁止。武器は本物を使うが心臓を貫く攻撃以外は可とする。勝敗はどちらかが降参するか、戦闘不能となった場合だ。一定以上のダメージがあり、危険と判断した場合は私マルキャルトが止めることとする。両者依存はないか?」
ケータは立会人であるマルキャルトの話をろくすっぽ聞いてなかった。
唯一思ったのは、あの相手はティへーラって名前だったんだ、と言うことぐらい。
とりあえず、話が終わったところでケータとティへーラは答える。
「僕はその条件でいい」
「俺も構わねーよ」
マルキャルトが開始の合図として剣を振った。
ケータはまず牽制の魔法として気弾を放つ。
気弾は風属性の魔法だが僕のはもう一つの属性を加えてアレンジしてある。
通常ならまん丸い気玉が飛ぶのだが、ケータの魔法は水属性の膜を張って楕円に潰して先を尖らせている。
細くて先頭は流線型であり、少し長めのピストルの弾という感じだ。
スピードも風の抵抗が少なく格段に速く鋭い。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ…………
「何っ! 無詠唱か!」
音は情けないが勢いと盾で弾いた感覚から、食らうと洒落に成らないことがわかる。
速射してくる魔法に、まずは不利を悟り右へ左へと避けながら魔力の消耗を待ち、途切れた時に前進する機会を伺うティへーラ。
だが、ケータの魔力は気弾程度では途切れることなどない。
「こっちの魔法は唱えてる余裕がねぇーか。だが、盾があれば弾けねーこともねー! 唱える暇がないならこれでお返しするまでよ!」
そう言って、今度は何かを投げてきた。投擲用のナイフか?
ナイフ自体に魔法が仕込まれていると面倒なので、速射している魔法の密度を上げて、ナイフごとティへーラを叩く。
「うっ、速い! クソー。弾き損なったか。だが、まだまだ耐えられるぜ。こんな空気玉!」
ナイフにはやはり魔法が仕込まれていたようで小爆発を起こした。
ティへーラは小さい盾を使い密度の上がった気弾を防いでいたが、いくつかを食らっていたようだ。
しかし『耐えられる』もないもんだ、と思う。
実はこの対戦の少し前、マルキャルトの話の間、ケータは念話でリレイアとクリスクロスにちょっとしたお願いをしていたのだ。
この決闘のルール。
冒険者ギルドではよくある制限付き決闘で使われるのだが、実は結構ガバガバなルールなのである。
殺傷能力Aの魔法というのは、魔法名についての指定であるので、同じ魔法でも高い魔法力を持っている場合、中級の魔法使いでも容易に即死級の魔法となる。
こんなルールが罷り通っているのは、そもそも決闘なんぞそうそう起きないことと、もし起きたとしても低レベルからせいぜい中レベル程度の争いになるからだ。
しかし、ケータはCランクに成り立ての冒険者であってもその威力は二つ位ランク上のものである。
このままではまずいと思ったケータはリレイアに頼み込む。
──リレイア、相手に防御膜貼っといてくれないかなあ。気弾でギリギリ破れるくらいの。
──ええ。あの冒険者ではケータの気弾がまともに当たったら、体に穴が空いちゃいますもの。当たりどころが悪ければ即死ですわね。了解しましたわ。
もう一つ、ちょっとした脅しを入れるためにクリスクロスにもお願いをする。
──クリスクロス、君には水の槍を逸らして欲しいんだけど。
──ん? 気弾だけじゃダメなのか?
──一応、殺傷能力の高い魔法も使えるところを見せとくんだよ。
水の槍は少し上のランクの魔法であるが、このルールでは許容範囲内。
だが、ケータが唱えた場合、おそらく弾けずに即死する可能性が高い。
──あのバカ。一回死んだ方がいいと思うけどな。まあ、わかった。当たりそうなら逸らしてやるぜ。
そんなわけで、たかだか牽制用の魔法を『耐えられる』ように弱め、必殺の魔法は逸らせるように戦っているのだが、相手は気づいてもいないのだ。
◇
それから5分後、まだ戦闘は続いていた。
ケータは基本的に気弾で牽制しながら、水槍の魔法も織り交ぜて攻撃している。
最初は杖を使っていたが、魔法については無詠唱であり杖により威力の上積みも必要ないため、小太刀に持ち替えていた。
時々、無理を承知で切り込んでくるので、ケータは小太刀で防ぎ受け流す。そしてまた距離を取っては魔法戦に持ち込む。
すでに、ティへーラはボロボロだ。
ケータの魔法の威力はこの世界に来た時より数段強力になっている。
リレイアは即死させないため防御膜を相手であるティヘーラに張っている。
そのため、魔法を避け損なっても貫通はしないが腕も足も青痣だらけ。
まともに当たった場所は何箇所か折れているだろう。
そろそろ潮時だ。
気弾から、水槍に全部切り替えてティへーラの盾だけに当たるように集中させる。
クリスクロスも水槍を逸らすのを辞める。
「うわぁぁぁぁ!」
ティヘーラの持っている盾がフレームごと壊れて吹っ飛び、慌てて構えた剣も弾き飛ばされる。
「まっ、参った!」
おぉぉぉぉ
どよめく野次馬たち。
ここまで一方的になるとは思ってなかっただろう。
翌日から僕らは、冒険者ギルドで絡まれることはなくなった。
魔法の速射能力が高いことも知れ渡った。
だが、一撃必殺ではないように見せたことから別の陰口を言われるようになった。
「確かに怒らせると面倒なヤツだけど、それほど高位な魔法を使える訳じゃねーよなあ」
「まあ、そりゃそうだ。Cランクには文句ねぇーが、BやAに上がるタマじゃねーよ。ティヘーラも盾を構え損なって降参とは情けねーな」
「あんな弱そうなヤツだが、あのスピードだからな。まあ、見かけじゃわからんな。いかにも弱そうだが」
それを聞こえないフリをしてケータは思う。
その『弱そう』っての二度言う必要があったんですかね?
大事な事だったんだろうか?
まあ、ケータの釈然としない気持ちはともかく、高すぎないその評価に満足して冒険者生活を過ごしていけるようになったのである。
マルキャルトは騎士の地位を持ったまま、ケータたちと共に冒険者を続けることが可能になりました。
お世話になったパルマント子爵家、そして親友のアリエッタと別れることになります。
そして、冒険者として王都で本格的に討伐依頼をこなすケータたちに、また厄介ごとが……
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