27話 隠れ家で対決準備をするならば
カリオンに言われるままにケータを待ち受ける準備を進めるジョアン・ザーグ。
元貴族の館を危険な罠だらけに改造。
しかし、いくら準備を進めても不安が募るようで……
ジョアンは隠れ家でケータを迎え撃つ準備をしていた。
そこは、旧貴族の屋敷でカリオンが手に入れていたものだ。
通称『 うたた寝の迷宮』。
元は子供騙しのトリックハウスで、反転する壁のドアとか、騙し絵で隣の部屋に行けると思ったら壁であったりとか、さまざまな仕掛けを金に飽かせて作った貴族の別邸であった。
カリオンはケータと対決するにあたり、ある仮説を立てていた。
あの冒険者の手並みは鮮やかすぎた。とても人の成し得る技とは思えない。
であれば、そのほかに『人でない者』が仲間にいるに違いない。
「しかし、あの冒険者……ケータ・リーフォンとか言ったか。あいつがそれほど非凡な才能を持つようには見えないな。かといって、その『人でない者』を暴くのも難しい、と」
そう独り言た。
ここまで大掛かりな改造を施すにしては、罠があからさますぎる。
『人でない者』がいる、というカリオンの予想が正鵠を射ているのであれば、その者にはこの仕掛けは容易に見透かされてしまうだろう。
どんな意味があると言うのか?
この迷宮に仕掛けられた罠は、その屋敷の名の通り眠ったままになるのだろうか。
◇
屋敷の改造は終わり、罠の動作を止めた一室でゴロツキの1人がジョアンと話をしていた。
「ジョアンの旦那。ここまでする必要があるんですかい? 相手は最近冒険者ギルドでちょっと名前が売れてきただけのあの『猫探し』でがしょーが。女騎士が一人付くとは聞いてますが、それを含めても恐れる必要があるとは思えねーですがね」
「五月蝿い。あいつらは油断なんねーんだ。あのカリオンが警戒しているタマがそこらの三下であるわけがねぇ。現に巧妙に足が付かないように罠を張り誘拐した令嬢が、あっという間に見つけられちまった理由が今もわからん」
ジョアンはケータの手並みを見ていたし、カリオンが殊更に忠告してきた内容を考えてそう答えた。
実は彼も苛立っている。
罠の内容はわかっても、あの罠を貼った意図が読めないのだ。
「だとしてもですよ。”斬鬼” と ”凶魔” それに ”裏刺し” までが出張ってるんですぜ」
「だからなんだ」
「……わかりやしたよ。金はたんまりいただいてるんだ。それだけの仕事はヤリやすよ」
意見をしようとしたゴロツキは、その逆鱗に触れたことを悟りあっさり引き下がった。
だが、薄笑いを浮かべているのを見るとゴロツキ共は、怖気付いてるジョアンを腹の底で笑っているようだった。
ジョアンは薄笑いをしているゴロツキを屋敷の外に追い払うと、ブツブツと独り言を話し出した。
「しっかし、気味の悪い屋敷だぜ。罠もさることながら、意味のわからない人形がウロウロしてやがる。着ているのは見たこともない異国の服だ。この世界でないどこかの制服らしいが、それすらバラバラだ。人形の中身もみな違う。魔法仕掛けのゴーレム、ホムンクルス。それに電気? とかいう訳のわからない力で動いている鉄にスライム皮で人間風にしているものが30体以上もいる」
その中の一体が近づいてきた。
「ナ・ニ・カ ゴ・ヨ・ウ・ハ・ゴ・ザ・イ・マ・ス・カ」
「ねーよ。あっち行ってろ。木偶人形が!」
「ソ・ウ・デ・ス・カ ケケケケケ……」
ジョアンは持っているコーヒーカップを投げつけたが、器用に空中で受け取ると笑ったままで表情のない人形は出ていった。
隠れ家の守りの配置は、まず屋敷の外周にゴロツキ共を20人程うろつかせておく。
これは散歩している一般人に見えるもの、たまたま狩人が屋敷の近くの原っぱで集まって焚き火をしているように見せかけたもの、など様々であった。
本来、隠れ家を見つけにくくするのが目的ならば、不審者を大量にうろつかせるのは悪手である。
見るものが見ればその不審な行動は、隠れ家が余計見つけやすくするのであるからだ。
しかし、元から到底隠し通せるとは思っていなかった。
こちらから教えてやる義理はないが、この屋敷では『手厚いおもてなし』をしてやる予定なのだ。
ゴロツキ共はその第一弾であり、ケータ達を不意打ちと剣や槍なので出迎えるためのものである。
この連中には話しかけられた場合、ごまかす必要はなく隙を見て襲い掛かるように命令していた。
要するに捨て駒なのだが、仕留めた場合の高額な報酬がゴロツキには美味しい話なのであった。
隠れ家の守りは屋敷の外だけではない。
屋敷の中には手練れの冒険者崩れ3人を雇い入れていた。
いずれも裏の世界の二つ名持ち、”斬鬼”、”凶魔” それに ”裏刺し” だ。
”斬鬼” は魔法は使わない。
だが、強力な魔道具で魔法が使えない結界を展開して相手を追い詰める。
魔法が通用しない結界内で相手を切り刻む鬼。
自分だけは、結界内で使える魔剣で狂犬のように切り刻む殺し屋である。
別名魔術師殺し。
“凶魔” は『味方殺し』とも言われている。
最初は依頼者の言うことを聞いているが、キレると建物ごと大規模魔法で相手を吹っ飛ばす。
そこに依頼者だろうが人質だろうが誰がいても関係なく大規模の殺戮魔法を叩き込む殺人鬼。
今回、屋敷内に他のゴロツキ達が入ることを拒否したのもこの男がいるせいであった。
連続で大規模魔法を唱える魔力と自分だけを守る範囲防御により、周囲を地獄に変える狂気の悪魔である。
”裏刺し” は気分屋だ。
興味のない仕事の成功率は低いが、興味が湧けば報酬に関係なく執拗に命を狙う執念深い男であった。
さらに、殺しの対象以外も巻き込んでのあたり構わず殺しを楽しむ享楽殺人者でもあった。
例えば、依頼された殺しが必要なくなったとしても殺したければ殺した。
その報酬が支払われるかどうかも気にしていなかった。
外のゴロツキ共は余裕を見せていたが、屋敷の中にいるこの3人には心底怯えていたのだ。
とにかく外でのみ仕事をする。
ほとんどが突破されたら屋敷内まで追うことはせず、その場から逃げ出すことしか考えていなかった。
さて、カリオンが作り替えていた屋敷のトリックはどういうものか。
元々は、騙すと言っても娯楽のためであり、隣の部屋に入ったとしても別のドアからすぐに戻れたり、罠にかかって矢が飛んできてもスピードは遅く、先端は柔らかい綿のポンポンであり、安全な子供を楽しませる程度のものであった。
ただし、流石に異世界のトリックハウスであるから日本のそれとは動力源が違う。
そこかしこにある仕掛けのほとんどは魔法を利用したものであった。
大概は魔石を使った魔道具によるトリック中心で、驚かせる方法も大掛かりで派手な物であったが、仕掛け自体は凡庸であった。
これをまず、本格的な攻撃用に作り替えた。
吸盤付きのおもちゃの矢は毒付きの鉄製の矢に変えられ、挟まれると転ぶ程度のトラバサミは足を切断する凶悪な物になっていた。
騙してぶつかる壁には毒が塗られ、飛んでくる矢は戦場で用いられる速度を持っていた。
そして、仕掛け自体も機械仕掛けのものと魔法仕掛けの物を混ぜて、わかりにくくさらに大量に追加したのである。
油断させるものと仕留める目的のもの。
また、動作原理を変更しているものもある。
魔法で動作していたもののいくつかをわざわざ機械仕掛けにした理由は、魔法探知で見つからないようにするためだろう。
また、どう考えても子供騙しにもならない天井落としやら仕掛け床やらをたくさん用意していた。
一つ一つは殺傷能力はあっても罠の発見が容易であるのだが、あまりの数にもはや自分自身もうっかり歩くのが危険なほどになっていた。
さらにカリオンから言われた鏡だらけの部屋が5室。
元から存在しているワケのわからないのは鏡だらけの部屋である。
単純な合わせ鏡の部屋もあれば、部屋の中に無数の鏡があって迷路のようになっているものもあり、近づくと倒れてくる罠付きのものもあったが、なぜか罠があることが鏡があるせいで丸わかりになっている意味のない部屋もあった。
そして、なぜかその5部屋に関してはカリオンに近づくなと言い含められていた。
ジョアンにとってもそんな部屋に興味などなく、最悪失敗した時の逃げ出す時間稼ぎの準備ぐらいに考えていた。
屋敷の仕掛けの準備は終わり、ゴロツキ共を迎え討つ配置につかせ、ジョアンは部屋の罠を作動状態にして2階の監視用の一室に移り、ケータたちが来るのを待った。
◇
一方、ケータはマルキャルトとともにその隠れ家に向かっていた。
ここを見つけたのは、当然リレイアの索敵ナノマシンによってであるが、表向きには例によって似顔絵で見つけたことになっている。
ケータはジョアンの似顔絵を描き、冒険者ギルドとその周辺に張り紙をした。
その張り紙は一見首都クルゼナントの町中に無作為に貼られてるようでいて、隠れ家周辺にたどり着くように貼られているのであった。
さらに、そのキーとなる場所の張り紙にのみ見かけたら少額の情報料を払う旨が記載されていた。
隠れ家は貧民街に近いこともあり、比較的少額の情報料でも小悪党ジョアンを売る連中はいたのである。
隠れ家の周りにはゴロツキがいたが、その中に腕の立つ者はいないのがその所作、物腰からもわかった。
ケータはマルキャルトにゴロツキを引きつけてもらうことを頼む。
「マルキャルト。申し訳ないが屋敷に近づこうにもとにかく敵の数が多い。まずはそちらの相手をお願いしても良いかい。何とかその隙には入り込もうと思うんだが」
「ケータ殿、それは構いませんが中にも腕の立つ相手は必ずいます。大丈夫ですか?」
「ええ、中はカラクリ屋敷と聞いています。あまり立ち回りが得意なものは動きにくいのではないかと。大規模魔法も家の中では打てないし。何か大きな危険があれば飛び出しますので。外で戦ってもらった方がその時に連携もしやすいですから」
「そういうことならわかりました。ゴロツキ相手なら何人いても問題ありません」
この会話はお互いにお互いを思い遣った嘘をついている。
ケータはマルキャルトを危険な屋敷の中に入れたくはなかった。
マルキャルトもケータが人数の多い方を担当させ、プライドを立ててくれていることを知っている。
本当の強敵は屋敷の中にいるのだ。
マルキャルトはケータ一人でそれに立ち向かうと言う。
本当は彼女はそれを助けたい。
だが、マルキャルトはそれを口にせずこの作戦を快諾した。
マルキャルトはまだ戦っているケータの姿を見たことはない。
しかし、ケータは何か不思議な力を使う。
そしてそれが自分より遥かに強いことを肌で感じ、今の自分の実力では足手まといになることを知っていたのである。
マルキャルトは歩を進め、ゴロツキたちの待つジョアンの隠れ家に向かおうとしたがケータが呼び止めた。
「待ってください。マルキャルト」
「なんです?」
ケータはマルキャルトに懐から小さな小瓶を渡し、二言三言話すと屋敷に向かっていった。
マルキャルトは少しの間、その小瓶を眺めていたが、やがて決心が着いたようにゴロツキ連中の待つ方へ走っていった。
マルキャルトはゴロツキ相手に一人で立ち向かう。
外にいる連中を惹きつけている間にケータは屋敷へ急ぐ。
マルキャルトは緊張していた。
周りをうろつくのは格下の相手であっても、彼女にとって楽な戦いではないのだ。
ケータたちはジョアンの待つ隠れ家をあっさり見つけます。
もちろん、罠があることは承知の上。
最初に立ち向かうのはマルキャルトです。
次回は、『28話 マルキャルトが一人で戦うならば』 7/12投稿予定です。




