表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/92

23話 指名依頼が持ち込まれたならば

冒険者になったケータを神も見ています。

本話は神同志の会話から始まります。

 ケータとリレイアがクルゼナントで冒険者として初依頼を受けていた頃、天界では異なる世界の神々が邂逅(かいこう)していた。

 コモン世界の主神ルルカは、親しい間柄であるアルファニア世界の主神アルーダと談笑していた。


 ルルカはアルーダに尋ねた。


「今回送った来栖川慶太はどうじゃ?」

「来栖川? ああ、こちらではケータ・リーフォンという者の人生を継がせることになった。想定通りじゃ。リーフォン家とはまだ接触していないが、そのうちこの世界で育った記憶も取り戻すことになる」

「そうなるとコモンで過ごした来栖川慶太としての記憶とアルファニアで育ったケータ・リーフォンとしての記憶の両方を持つのじゃな」

「そういうことだ」


 そこで、ルルカはちょっと心配になる。


「その者の記憶が、慶太に今後悪い影響を及ぼすことはないのか?」

「ああ、それは心配ない。お主の話を以前から聞いているからな。ケータとしての記憶は元の来栖川慶太の人生にプラスになるこそすれ、魂の傷が増えることなどない」

「計画していたこととはいえそのことだけが心配でのう」 

「大丈夫だ。安心して任せておけ」


 アルーダの言葉にルルカはホッとする。


「一応、最初の魔法修行を終えてクルゼ王国の王都に入ったぞ。冒険者としてやっていくらしい」

「ほう、順調ではないか」


 それに対し、アルーダは渋い顔をする。


「まあ悪くはない。だが、あの調子で果たしてあの者がこれまでの転生者を正す者としてやっていけるのかはまだわからん。これまでの転生者に打ち勝つほどの強い意志の力が感じらないのだ。魔法は意志力がないと伸びないからな。今まできた転生者の中には強力な魔法使いもいる。意志力の差がそのまま魔法力の差になって、負けることがなければ良いのだが……」


 アルーダはケータに懐疑的だが、ルルカはあまり気にしていない。


「単純な力比べでは負けることもあるじゃろう。だが、今まで送ったものたちより遥か未来のAIをつけておる。ケータに多少不利な点があるとしてもリレイアがカバーする。元々、魔法力でねじ伏せてもらうつもりはない。彼は今までの転生者とは違うものを望んでおるでの」

「そうなのか? 今までも能力だけなら能力的にも素材的にも優れた者がたくさんいた。そういった者達に優れたAIの随伴者をつければ良かったのではないか? なぜケータを選んだ」


 まだ(いぶか)しげに見るアルーダにルルカは笑う。


「そうさの……一言で言えば気に入ったからじゃ」

「なんと……そんな理由だったのか。だが、そんなものか。元来神は理屈で動くものでもない。世界の維持に支障がない限りはな」


 最初はその理由に呆れるアルーダだったが、やがて納得したようにそう言った。

 ルルカはアルーダの疑念については最初から気にしていない。


「ケータは、今まで送った転生者とは違う。他人を害したり、この世界の魔法文明を(おとし)めるような所業(しょぎょう)をしたりはしないはずだ。それだけは請け負っても良い。それこそが彼の資質じゃ。もし、そんなことをするようなら、ワシにとっては大きな苦痛となるだろう」

「ほう。随分信用しているんだな。そこまで一個人にこだわるのは珍しい……」


 そこでアルーダはちょっと間を置いてから。


「ケータはこれから試練を受けることになる。一人の厄介な転生者と相対することになるだろう」

「どう大変なんじゃ? こちらから守護者として付けたリレイア以外にももう一人其方が同行させておるのじゃろ? えー、何と言ったかの」

「クリスクロスだ」

「ああ、そのリレイアとクリスクロスがいれば、遅れを取ることにはないのではないか?」


 ルルカはその相手を知っている。

 自分で送った転生者なのだから当然だ。

 その力量を把握しているので、ある程度楽観していた。


 しかし、アルーダは意外な答えを返した。


「確かにな。単純な力押しなら負けることはないだろう。お互い正面切って勝負をするとすればな。だが、今回ケータたちは思わぬ理由で遅れを取るかも知れん」

「それはどういう理由でだ」

「ケータがこれから対する相手は、力が強いだけの転生者ではないからだ」

「なるほど、まあ、そうだな。あやつならケータと正面切って戦うことはないじゃろう……だが、最初から満点とも行くまい。負け戦があっても良い経験になるならな。ケータが生き残れるのならそれで良い」

「ああ、それは大丈夫だろう。ケータに足りないものを仲間の誰かが補うはずだ」

「ほう? して、ケータには何が足りないと言うのだ?」


 聞かれたアルーダは、顎髭(あごひげ)をいじりながら。


「仲間ではないか? ケータにはもう少し、この世界の人間と関わった方が良い」

「確かにそうだな……アルーダよ。誰か心当たりがあるのか?」

「ああ、近い将来にケータには大事な出会いがあるだろう……しかし、ルルカよ。本当にたった一人の転生者に随分こだわるな」


 ルルカはアルーダの揶揄(からか)うような言葉に苦笑しながらも、真顔に戻ると


「ケータには大きな借りがあるんじゃ。申し訳ないことをしたもんじゃ。神であるワシにもその罪滅ぼしをしたいと思うことがあるでの」

 

 と答えた。


 ◇

 

 暮らしにも慣れてきた頃、ケータはこの王都で部屋を借りた。

 これはリレイアとクリスクロスの勧めでもあった。

 

 冒険者ギルドのランクもEになり宿から定住居に変更したことで、首都で腰を据えて活動するように印象付けるためだ。

 また、いずれバレるとしても今しばらくは転移者であることを隠蔽(いんぺい)したいという事情もあった。


 まあ、身元についてはリレイアの未来技術によるセキュリティーが破られるとは思わないが、この世界の魔法のレベルもまだ計りかねている。

 高位の魔法使いがどんな能力を持っているか分からない限り生半可な対策では、防音しているつもりでも盗聴されたり、空間拡張していることがバレる可能性は捨て切れないのだ。

 力を付けるまでは転移者であることがバレるのは避けたい。

 最悪でも、魔法とは全く異なる未来の力を持っているリレイアがいることは、何としても隠さなければならなかった。


 そのためには、宿の中より定住居で行う隠蔽対策のほうが格段に安心である。

 リレイアが56世期の技術を本気で使って対策した場合は、宿で行っていた一夜漬けの方法とは異なりどんな魔法であっても破られる心配はないと言って良いだろう。

 また、現状の宿の中でも盗聴されたりすることはないだろうが、宿の滞在記録やさまざまな個人情報がどこかに漏れている可能性はある。

 何時に帰宅したとか、宿の飯をどれくらい食っているか、食の好みなども把握されるとどこでどんな陥穽(かんせい)に落ちるかわからない。


 ケータが定住居として借りた部屋は、王都クルゼナントの中では(さび)れたところだった。

 貧民街ではないが、貴族や裕福な商人のいる区画からは離れている。


 3階建ての集合住宅の1階の入り口を入ってすぐの部屋。

 近隣の住民が気になるところだが、それについてはリレイアがしっかり事前調査をしており、転移者や転生者でないことを確認している。

 過去の経歴や各人の脳内検索により、国家的なつながりや魔法結社のような危険な組織との繋がりもないことを徹底的に調査していた。

 また、クリスクロスも魔法による探査を徹底的に行ったので、実は魔法によって隠蔽された高位の魔法師という可能性もなかった。


 同じ集合住宅に住むものは、取るに足らない人間であれば良い。

 要人や大きな力を持つ魔法使い、有能な冒険者などがいては困る。


 逆に、善人かどうかは気にしない。

 実際、この住居の隣人の中には陰でコソ泥のようなことをやっている住人はいる。

 だが、大きな組織に属してはいないし、こういう子悪党がいる方が逆に安全である。

 考えていることが非常に浅く、どこかとまずい繋がりを持つことがあってもそれを隠す才覚はないので、こちらに筒抜けになるからである。


 家賃は安い。風呂がない。

 2部屋あるので客も一応入れるがやはり狭い。外の共用エリアもほとんどない。


 普通は冒険者は選ばないタイプの部屋だ。

 冒険者なら持ち帰った小さな獲物ぐらいは解体することがあるので、普通は部屋が狭くても簡単な作業ができる土間などがある物件を選ぶものなのだ。

 冒険者ギルドは中央公園を挟んで王都の反対側のエリアにあり、歩いて行くにはかなり距離があるのも冒険者には不向きだ。


 寂れているので周りに土地の余裕はあるのだが、この住居の敷地外で流石に解体をするには目立ちすぎる。

 だが、適当な近所付き合いをして穏やかな採取系冒険者を印象付けるつもりなので、これはこれでありである。

 無害で変わり者の冒険者と認識してもらうのにも一役買いそうだ。


 引越しは簡単だった。

 持っているのはこの街に来た時の手荷物だけだったからである。

 適当な家具を買って配置したら終わりのはずだが、ケータたちの新住居の生活準備はそれで済むはずがない。


 外部からみたり元の安部屋だが、内部は早速魔改造である。

 

 部屋を開けたところにある一室は、元のままにしてある。

 これは、不意に開けられた時の対策だ。


 安い4人がけの机と申し訳程度の炊事場がある。

 普段は居間にしていて、お客さんが来た時もここで応対するように見せかけるのである。


 次に、奥の一室であるが、ここには仕掛けがある。

 扉を開けると一見ベットと小さなクローゼットしかない寝室に見える。

 仮に誰かが忍び込んだとしても、空間拡張した領域には鍵がかかっているため、その狭い寝室に行き着くだけだ。


 だが、ここはリレイアにより空間拡張がかけられていた。


 部屋に誰もいなければ、僕とリレイアは奥の部屋に入る瞬間、空間拡張した領域に入ることができる。

 その広大な拡張空間はいくつかの部屋に分けており、キッチンが18畳、居間が20畳、風呂は洗い場も広くジャグジーも付いて30畳もある。

 寝室も12畳取ってあり、ここの机でも簡単な作業ができる。

 作業部屋は50畳もあり実験室も兼ねる。


 ここで魔法実験や演習なども行うことができる。

 亜空間を使っているので広げようと思ったらいくらでも行けるのだが、そうすると落ち着かないらしい。

 これでも十分すぎるわけで、広い部屋をもらえると言ってもこれ以上は帰って落ち着かないらしい。

 ケータには、広くて暮らしやすい大きさの限界というとこんなところなのかも知れない。


 拡張した領域ならば魔物の解体も十分できる広さではあるのだが、依頼で受けた魔物の解体は基本やらないことにした。

 何せリレイアがいるので、やろうと思えばどんな解体もボットが総出で瞬く間に終わらることはできるのだが、やらない。

 理由は『どこで誰が解体したか聞かれると困る』からである。

 そういうものは、面倒でも解体料金を取られてもギルドで行ってもらうことにする。

 ただ、表に出さない魔物の解体については、やることがあるかも知れない。


 最後に倉庫が30畳である。

 倉庫については本来必要はない。

 収納はリレイア経由でいくらでもできるからである。

 

 それなのに倉庫を作ったのは、ケータが自分で自分のものをしまうという感覚を持ちたかったからである。

 どうも散らかしても大丈夫というのは返って落ち着かない。

 これは、ケータが元々21世紀の人間であるからであり、心のちょっとした安定を得たいための場所である。

 ケータはズボラに見えるが、意外に掃除機がけも荷物整理も嫌いじゃないのだ。


 エネルギーについては当然異在力のお世話になっているが、その変換先は電気にしている。

 普通のご家庭の100Vの交流電源であり、壁にはコンセントもある。

 やはり大半を21世紀で過ごしていたのでリレイアに頼んで電化製品を用意してもらった。

 未来人には非効率であっても、このアルファニアより高度な文化であり、ケータには使い慣れた道具が一番快適なのだ。

 ただ、拡張されていない元の部屋にはコンセントもないし、電化製品も置かない。

 来客があったり、不意に部屋のドアを開けられた時に、うっかり見つかっては大変だから仕方がない。


 ◇


 ようやくこの部屋の整理が終わって、冒険者ギルドに定住場所変更の届出をした数日後、思わぬ来客があった。


「ごめんください。王宮の使いのものですが」


 なんで、王宮?

 僕は来客に返事を返す前にリレイアに念話で尋ねた。


──リレイアお前なんかマズった? 王宮に目をつけられるようなことしたのか?

──失礼な! 私はミスなんかしませんわ!


 リレイアは返事に怒気がこもっている。


──なんか3人来てるぞ。


 クリスクロスが姿を隠したまま、部屋のドアの外に出て確認したらしい。


──はい。確認しましたわ。1人はギルド職員です。指名依頼の件でしょう。わざわざ訪ねてくるのですから、急ぎの用事なのでしょう。

──そう言えば、昨日ギルドでそんなこと言ってたな。

──ちょっと厄介な人物がいるようです。早くお返事をしてください! 狭い家ですぐ答えが返ってこないのは不自然です。


 わかったわかった。

 僕は(うるさ)ったいリレイアに生返事して玄関に移動した。

 とは言っても狭い部屋、ほんの数歩で玄関なのだが。


「はい。すいません。今、開けます」


 ドアを開けて狭い居間に客を迎え入れた。


「王宮のブルムだ。冒険者ギルドからはすでに話は聞いていると思うが、ケイタ・リーフォン殿に人探しの依頼をお願いしたい」


 挨拶もそこそこにいきなり依頼を切り出された。

 しかも人探し? 

 僕は呆気に取られ、何か答えようかと思ったが、続けて隣の帯剣した女性が自己紹介をし始めた。


「パルマント様の屋敷にお使えしているマルキャルトです」


 不思議な名前だ。

 マルキャルトというのはこの世界の女性名なのか?

 転生前の世界で言えばヨーロッパ系の顔立ちに見えるが、ポニーテールが何となく武士っぽくも見える。

 背筋が伸びていて物腰も洗練されている。帯剣しているところから女性騎士だとわかる。


 この人がどういう理由で一緒に来たのか知りたかったが、まずは最後の1人を紹介してもらうまで待つことにする。

 まあ、話したことがある人だから、なんとなく覚えている。


 えーと……あっ、そうそう、冒険者ギルドでケータの依頼を受けた人だ。

 猫探しの報酬を受けた時もこの人だったな。


 そして、その窓口でお世話になったギルドの人が、早速用件を切り出した。


「ここからは私が。冒険者ギルドのサフールです。この間の『猫探し』の件ではありがとうございました」

「いえ、どうも」


 ギルド職員が依頼を達成した件でわざわざ礼を言うというのは、『猫探し』という依頼の特殊性からなんだろうな。


「こちらは王宮におられる貴族のブルム子爵様です。子爵様はケータさんの猫探しの1件を耳にされ、失踪されたパルマント家令嬢アリエッタ様の捜索を指名依頼したいとのことです」

「ベルンハルト・フォン・ブルムです。これっ! マルキャルト!  まず、挨拶をせんか!」

「ああ、失礼。マルキャルト・フォン・ルーエンです」


 意外な話に驚いた振りをして、わざとあたふたして見せる。

 そして、詳しい話を聞かないとわからないと言い訳などをしながら、来客の話を引き出すことにした。


 時間を稼いでいる間に、おそらくリレイアが持ってきた話の背景などを素早く捜査してくれるはずだ。


 来客の目に見えないが、部屋の外には(おびただ)しい数のナノマシンが散らばっていった。

 普通なら僕に見せないようにしているのだが、今は急ぎだったのでリレイアは散布情報をそのまま伝えてきた。

 その名の通りナノレベルのサイズなので人の目には見えないが、小さな虫が街中に広がっていくイメージだった……気持ち悪!


 さて、話の内容だが。

 僕は相手の話に相槌を打ちながら、とりあえず面倒なことになったと思った。

 貴族からの指名依頼は簡単には断れない。

 ……となると受けるしかないのだが、解決できるかどうかの目処がつかないと困る。


 その失踪した令嬢を探すわけだが、見つからなった場合が問題だ。

 仮に死んでいたりすれば、たとえ探し出せてもただでは済まない可能性もある。


──おいらもこの依頼は面倒に成りそうな気がする。

──そうだよなあ。


 クリスクロスも面倒事になりそうだと思っているらしい。


 貴族の中にはは無茶を言うものがおり、失敗の際に手際や方法が悪いとか難癖をつけて、こちらに罪を着せてくることもあるのだ。

 そんなことになるのであればペナルティを受ける覚悟で最初から断った方がマシだが、冒険者になったばかりで実績面で、そんなマイナスになることはしたくない。


「私は、パルマント家の令嬢アリエッタ様の失踪を追っているのですが、捜査が進んでいません。失踪した時に、周りに家人も他の貴族もかなりいたはずなのですが証言が合わないのです。それどころか、アリエッタ様の似顔絵を作ろうとしたのですが、どういうわけか特徴を捉えて書いたはずの絵がまるで似ていないのです。どんな絵師に頼もうともアリエッタ様の姿とは似ても似つかない絵を描いているので、人探しのポスターを貼ることさえできません」


 なるほど、それで僕の似顔絵の話に繋がるのか。


「私がギルドで聞いたそっくりの似顔絵から猫探しをした冒険者がいると聞きパルマント様に相談しましたところ、是非にと申せられ、手紙を預かって参りました」


 僕は渡された手紙を読んだ。

 

 “娘を。アリエッタを救ってくれ。報酬は十分に用意する。

  なんとしても元気な姿を見たい。

  だが、もし……もし、既に誘拐者により既に亡き者にされていたとしてもきちんと弔らってやりたい。

 

 その場合でもきちんと報酬は払う。

 なんとか、なんとか受けてもらえないか”


 文字は丁寧だがところどころ乱れていて、その必死さが伝わってきた。


 ちょっと気圧されながらも僕はちょっと(えり)をただしてこの依頼に向き直す気になった。

 僕は21世紀の日本で長く暮らしていたから、貴族と接するなんて考えていなかったし物語だけでしか知らない。


 貴族は家族に対しても冷淡という小説もあったが、この家族はそれには当たらないと言うことか。

 なるほど子を思う親の気持ちは貴族も平民も一緒なのだろう。


 それならば受けても良いのだが、いち早く調査をしているリレイアに尋ねる。


──リレイア、どうなんだ。できれば助けてやりたいとは思うのだが。

──ちょっと待って下さい。意外にややこしい……ああ、まだ令嬢は無事です。ですが、もう少し時間を下さい。自然に犯人にたどり着けるか。探し出せる道筋を模索中です。


 そうか、無事なのか。

 それなら助けてあげたいがここからが難しい。

 僕らの場合は。


 僕とリレイアはこのアルファニアでそこそこに目立つ程度でやっていきたい。

 冒険者としてある程度目立つことは重要だが、地道に地位を確立するつもりなのだ。

 一足飛びにリレイアの未来技術を使って、その出どころが他の転生者に気づかれるわけにはいかないのだ。

 従って、令嬢の無事の確認をしただけでは安易にこの仕事を受けられない。

 このままではその令嬢を救い出すことはできても「どうやって見つけたのか」の説明ができない。


「人、ですか? 僕は猫しか探したことはないんですが」


 僕は時間を稼ぐために返事を渋ってみせる。

 リレイアの調査で説明可能な救助方法の目算が立たなければ仕事を受けられない。


「ああ、人探しの経験がないことは知っている。だが、猫を子供の似顔絵から見つけることなどできない。さらに周囲の人間の話から再現して、本当に特徴を捉えた似顔絵ポスターを作るなど、決して凡庸(ぼんよう)と言えない手腕だ。効果的で独創的な視点を持っていると私は見ている。実はこの令嬢の似顔絵の作成には難航しており、多くの貴族に配布したり街角にポスターを貼り出しての調査ができないのだ。其方なら、特徴を聞いてなお数々の絵描きにも描けない令嬢の似顔絵も描けるのではないか」


 なるほど、あの件がそこまで評価されているのか。

 まあ、そういう事情なら僕のところに話が来るのは確かにわかる。

 だが、猫だぞ! 猫の似顔絵がに似ていたというだけで貴族の人探しを推薦して指名依頼を持ってくるとはギルドもちょっと過剰評価しすぎではないだろうか。


 するとそれまで話を聞いていただけの女騎士のマルキャルトが口を開いた。


「それに、採取依頼で集めてきた薬草もずいぶん危険な森でしか取れないと聞いている。ケータ殿。そなたは討伐は苦手であるのような仕事の受け方ですが、実は随分と腕が立つのではないですか」


──バレてるじゃねーか。この女騎士。脳筋っぽいけど、ただのバカじゃないらしいな。


 酷い言い草だな、クリスクロス。


 しかし、ぬかったなあ。

 たった3件の依頼達成情報だけで、そこまで読めるものがいるのか。


 実はFランクでは仕事の幅がどうしても狭くなってしまうので、楽な割にギルド貢献ポイントの高い薬草採取の仕事を2件こなしたのだ。

 めでたくEランクには上がれたのだが、採取場所では魔獣が出た。

 最近は魔法にも慣れていたので楽勝で討伐できたのだが、よく考えるとFランク成り立ての冒険者では二の足を踏む依頼だったようだ。


 討伐で目立ちたくないので、その時に倒した魔獣については時間経過のないアイテムボックスに放り込んだだけで、解体にも買取にも出さず、ギルドには知らせていなかったのに。

 流石に冒険者ギルドは薬草の生息場所のノウハウは持っているんだな。

 しかもその生息場所に危険な魔獣が出ることも。

 うーん、この調子だと他にもいろいろ見抜かれているかもしれないなあ。


 そろそろ誤魔化せないと思いリレイアを急かす。


──まだか! リレイア。そろそろ返事しないとマズイぞ!

──はい。今、解決の見通しの目処が立ちました。受けても大丈夫です。かなり面倒な手順を踏まなれけばいけませんが、依頼主に怪しまれずに令嬢は助けられます。


 リレイアのOKが出た。

 僕は散々迷ったフリをしてから、来客に依頼を受けることを告げる。


「そこまで言われるならば、微力ながら全力を尽くして探します。でも冒険者ランクEでは凶悪誘拐犯などの討伐に関わる依頼は受けられないのでは?」


 ブルム子爵に承諾しながらも、ギルド職員のサフールに依頼の受注条件の確認をした。


「そのことについては大丈夫です。もともと貴族の指名依頼については、ランクごとの条件は適用されません。まあ、受注する冒険者には荷の重い依頼は、冒険者保護の立場でギルドは貴族にお断りします。しかし、今回は騎士爵をお持ちのマルキャルト様が同行を申し出ていらっしゃいます。騎士爵が依頼に同行する場合はパーティの冒険者ランクはCランク相当になりますので」


 同行者? 何それ、まずいじゃない。


「私をケータ殿の調査に帯同させてください。改めて、騎士のマルキャルトです。いなくなった時の様子など一番関わっているのが私です。お嬢様が拐われた原因は私にあるのです。是非とも、私をお連れください」


 ああ、そういう理由でこの女騎士さんはいるのか。

 しかし、それは困る。

 マルキャルトさんが付いてくるとなると、リレイアの調査に沿って動く時大きな制限がかかる。

 リレイアの目算には、マルキャルトさんの参加は入っていない、はずだよな?


 そう思ったが、リレイアが念話で返してきた答えは。


──構いません。むしろ好都合です。騎士となれば、最下級とはいえ貴族階級の一員です。大手を振って活動できる場所が大幅に増えますから。


 ……そうなのか?


──じゃあ、受けちゃうよ。依頼。

──はい、受けてください。面白くなりそうです。


 なんで嬉しそうなの? リレイア。

 ずっと疑問だったんだれど、元はあくまで管理者サーバAIだったはずだったよねぇ。

 今では妖精の姿だけど


 何だか納得できないところはあったが、僕は依頼を受けた。


「では、一緒にお嬢さまを探し、必ずお救いしまいしょう。マルキャルト様」

「はい! それと私に敬称は入りません。マルキャルトとお呼びください」


 マルキャルトはすぐにも捜査を始めたいようではあったが、すでに夜も遅くなっていた。

 こちらでも状況を整理するからと宥めて、翌日から調査を進めることになったのだった。


冒険者になりランクもEになったケータですが、思わぬ指名依頼を受けることになりました。

貴族令嬢の誘拐事件です。

しかも、誘拐された令嬢にまつわる話がみな食い違っているとか。

まずはそれを調べなければいけません。


次回は、『24話 不可解な食い違いを調べてみれば』 6/28投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ