22話 初依頼を受けたならば
冒険者になるためにギルドで仮登録。そして初依頼です。
僕は首都クルゼナントの冒険者ギルドで仮登録をして受付で初依頼を受けた。
初依頼はギルドの掲示板からFランクのものを選ぶのだが、僕が選んだのは『猫探し』だ。
報酬が少なく、達成は困難。危険度こそないものの、失敗して物笑いの種になりそうな地雷に属するような依頼だ。
冒険者ギルドで依頼を受けた場合、受付で仕事の詳細な情報が得られる。
猫探しの場合は、依頼主との連絡、対面による聞き取りが主になる。
しかし、僕がリレイアとやったのは、それらをすっ飛ばして猫の確保である。
──全く、おかしな話だよな。猫を探すのに依頼主に聞き取りもせずに猫を確保しよう、ってんだから。
皮肉を言うなよ。クリスクロス。
まあ、実際その通りではあるけれど。
猫の特徴やいなくなった場所と日時を聞き、その後は猫を探したりいなくなった場所でさらに聞き込みをしたりするのが普通。
そもそも猫の確保ができるなら、あとは依頼主に渡せば仕事完了のはず。
ここまで慎重な手順を踏むのは今回の仕事の目的が冒険者ギルド仮登録から本登録にすることだからだ。
何より成功が一番大事なのだ。
もし探す予定の猫に不慮の事故などで死なれては元も子もない。
そこで、ちょっとばかりズルをしたのである。
この一連の作業は全てリレイアの持つ未来の技術の賜物だ。
最初に依頼の張り紙の内容からギルド内の書類をハックして、依頼主を特定。
依頼主の家にナノマシンを送り込み、依頼した母子の脳内イメージから猫の容姿を特定。
その後、別の種類のナノマシンを街に解き放ち、猫の無事を確認次第仕事を受けた。
冒険者ギルドを出る時に、リレイアはさらにその仕事の続きを行っている。
発見した猫の場所に、透明化した超小型ドローンを出して猫を監視。
次に、猫の周辺に周囲に対する認識阻害機能を持つ簡易防壁を張り巡らしてから眠らせた。
念のために、防壁内部には防音フィールドも施した。
これで、誰も気づかないし、万が一猫が起きて鳴いたとしても、鳴き声が聞かれることもない。
本当はここまでナノマシンでできれば良かっただが、そこまでの能力がなかったので高機能の透明化ドローンを使用した。
ナノマシンは数を頼むのに適していて探査は早いが機能が少なくパワーもない。
ドローンは多機能だが足が遅く、いっぺんに数多くは使えない。
猫の無事を確認してからこのドローンで確保するまでは安全とは言い切れなかった。
だが、確保が済むまで冒険者ギルドでボーっ、と依頼を見つめて待っているということもできないので仕方がなかったのだ。
結局、僕がやったことと言えば、リレイアにその簡易防壁を檻状に変形してもらい滞在している宿まで猫を持ち帰ることだけだった。
認識阻害はその間ずっと掛けたままだが、さらに宿に入るときは檻を外から光学的に不可視に変更した。
おかけで『宿に動物を持ち込まないでください』とか『大きな荷物ですね。どうしたんです?』などと間抜けなことを言われることもなかった。
いい調子だ。
念話で状況をリレイアに聞いてみる。
──ここまでは楽勝だったな。
──当然ですわ。しかし、この猫は暴れないようにはしておりますけれど、このままではあまりよくありません。少し自由にストレスを発散させてあげた方が良いと思いますわ。
それは困る。
捕まえた猫は持ち主に渡すまでは元気でいてもらわないと。
──何か、いい方法があるのか?
──ありますわ。
そう言ってリレイアは、部屋の隅の猫の入った檻を外側からは透明で内側からは一旦不透明にした。
これで、僕らは猫がどうしているかはわかるし、猫はそこに壁があることがわかる。
リレイアの持っている技術力で壁を透明にしておくと、全く認識できずに猫がぶつかって怪我をするかもしれないのでこのような処理が必要だった。
ただし、狭いとストレスも溜まることから檻の内部を空間拡張して大きな広場程度に広げ、猫は自由に走り回れる領域を作った。
また、檻の壁は猫を傷つけることがないように柔らかく受け止める素材に変更した。
案の定、檻の壁に爪を立ててバリバリやっているようだから、素材の変更は役に立ったようだ。
檻自体は、そんな爪研ぎで壊れることはない。
餌もたっぷり用意すると、美味そうに食べていて猫はご満悦な様子だ。
さて、これからが本番だ。
順番がまるっきり逆だが、これから依頼者を訪ねて猫を探すフリをしないといけない。
僕はギルドからもらった正式受注者のみに渡される詳細情報に従い、依頼者に会いに行くことにした。
「すいません。ギルドで猫探しの依頼を受けたものですが」
「えっ? あっ、はい。マリノちゃーん、ラーニャを探してくれる冒険者の方が来て下さったわよー」
依頼主はマリノちゃんという女の子で猫の名前はラーニャと言うらしい。
訪ねたときはマリノちゃんのお母さんが玄関に出てきた。
僕らを出迎えた時には、最初、明らかに戸惑っている様子。
まさか冒険者に依頼が受けられると思ってなかったに違いない。
依頼が冒険者に本気で探してもらえることなどなく、ほとんどの場合は見つからなかったと申し訳なさそうにギルド職員が話しに来るというのが定番だからだ。
その辺はこの街の大人なら常識的に知っている。
結局、僕が冒険者の依頼受付票を見せて正式に受注したことを話してやっと依頼主のお母さんは信用してくれたらしい。
そしてそれからは猫についての話を徐々に引き出すことができた。
「うちの猫を探して頂けるのですか? それで、どのような……」
「はい。柄や色とか大きさとか、特徴なんかを」
「えー、マリノはちゃーんとラーニャのこと描いたよー。マリノの描いた絵、見てないのー?」
マリノちゃんは不満顔だ。
マリノちゃん本人は猫の特徴を捉えて描いたつもりだが、残念ながら僕には『死にかけのアメーバ』にしか見えない。
リレイアに言わせると『たぬきが ”ムン○の叫び” をしているよう』らしいが。
マリノちゃんの機嫌を察してお母さんが助け舟を出してくれた。
「ダメよ。ちゃんとお話ししないと。三毛猫の5歳オス、色は基本白ですが、珍しい青の紋が右の横腹にあります。髭にも特徴があって、左の2本目だけが長くて少しカールしています」
「なるほど」
そこで、リレイアから指示がきた。
──肩の形と寝癖、座った時に何かないかを聞き出してください。特徴を捉えた似顔絵の根拠になります。
僕は相槌を打ちながらも『猫って肩がないんですよねー』とか『昔、僕も猫を飼ってたんですが寝顔見ると好きだんです』などとお母さんの話の途中で特徴を話してもらえるように誘導していった。
──お前、話がヘタクソ過ぎ! この女の子のお母さん、話の腰を折られて不機嫌になるんじゃないのか?
やかまし。
僕はクリスクロスに心の中で突っ込む。
散々苦労したもの、小型の猫の割には肩がほんの少し角張っていて、寝るときに特徴が出るとか、座るときに右足を突っ張ると青の紋がはっきり見えるとか、いくつか特徴を聞き出すことに成功したのである。
「アイタッ」
「はい? どうしました」
「いえ、なんでもありません。ちょっと手首捻ったみたいで」
「はあ」
怪訝な顔をされた。
メモを取っててどうして手首を捻るのか?
実は、僕は聞いた内容からメモを取るではなく、似顔絵も描いていたのである。
僕はもともと絵なんて書けない。
リレイアがマリノちゃんとお母さんの脳内イメージを拾って、僕の持ってるペンを操ってぐいぐい動かすのである。
僕は思ってもない方に手首を捻られるもんだから痛いのなんの。
途中から手首に力を入れないようにして、リレイアのなすがままに手首を操られて似顔絵が完成した。
「あー、ラーニャそっくり!」
「えっ、見せてくださいますか? あっ、本当に似ています。そうです。まるでラーニャがそこにいるようです。冒険者さんは絵も素晴らしいのですね」
こちらとしては、実際に猫を確保しているし、見た人の脳内イメージから作っているのだから似せて描けるのは当たり前なのだが。
ここまでは計算通り。
ここで、僕は依頼主に一つ提案をする。
「ありがとうございます。では、この似顔絵をポスターにしてあちこちに配布して探してもよろしいでしょうか?」
「はい。でもよろしいのですか。そこまでしていただいて」
「もちろんです。大事なラーニャちゃんが見つかるのが一番ですから」
それから、僕は依頼者の家を後にすると、ポスターを依頼者の家を中心にそこいら中に貼っていった。
翌日、僕はまた冒険者ギルドに来ていた。
ギルドの掲示板にも似顔絵ポスターを貼らせてもらおうと思ったのである。
これは、今回の名を売るための一種の事前準備だった。
まずは窓口に行く。
「こんにちわ」
「はい。なんでしょうか?」
「これなんですけど」
僕は『猫探し』のギルド発行受諾書と似顔絵ポスターを出した。
「あー、これですね。……すいませーん」
窓口の担当者はバックヤードに声をかけた。
窓口の裏の方から『猫、猫の件』というヒソヒソ声が聞こえる。
程なく。
「はい。大丈夫です。本館と別館、冒険者ギルド案内所の大掲示板の3箇所にポスター貼り付けできるように手続きをしました」
僕はポスターに張り出し場所の位置が記載されたギルド認証印を押してもらった。
「おっ、猫探しかよ。酔狂なヤツだなあ」
「けっ、依頼じゃなくて、ポスターだと? 邪魔くせーな」
「あらっ、いいんじゃない? よく描けた似顔絵じゃない……似てるかどうかわかんないけど。見かけたら教えてあげるわ」
ポスターを貼っていると周りの人が無責任にいろいろ言ってくる。
リレイアが言っていた『違った意味で目立つ』というのが段々わかってきた。
さて、このポスター。
本来は冒険者ギルドに何らかの貼り紙をするときは管理料が発生する。
依頼に関する付随情報であるなら、張り紙はそんなに高額にはならないが、それでも張り出す場所が一等地ばかりなのでそれなりになるはずである。
それが、無料であった。
理由は『猫探し』がギルドの建前に関わる物だからである。
こういう場合は、ギルドも金を出せとは言ってこない。
そして、翌日。
僕は猫が見つかったという知らせを依頼主と冒険者ギルドに知らせた。
そして、ラーニャちゃんを連れて、依頼者の家を再び訪れていた。
「あー、ラーニャちゃん!」
「ほ、ほんとうに? ああ、確かにラーニャだわ。ありがとうございます!」
マリノちゃんは猫が帰ってきたので大喜び。
お母さんは、見つかったことが信じられないという様子であったが、丁寧にお礼を言ってくれた。
「それで、申し訳ありませんが報告の義務がありまして。その猫ちゃんを連れてギルドまでご足労願えませんでしょうか?」
ここでちょっと嘘を吐く。
本当はギルドまで猫を連れて行く必要はない。
持ち主が受け取りと依頼完了のサインをすれば終わりである。
だが、僕らには必要な工程だった。
「あっ、はい。大丈夫です。マリノちゃん。ラーニャちゃんのお出かけ籠持ってきて」
「はーい」
猫用の持ち歩き用の籠があるようだ。
これなら、逃げられる心配もなくて安心である。
ギルドに着いて、窓口で依頼達成の報告をすると、皆に驚かれた。
なんでも冒険者が猫探しを達成したのは2年ぶりだそうだ。
まあ、冒険者が猫探しを受けたのも2年ぶりだそうだが。
だが、本当に驚くのはこれからだ。
「はああ、本当に猫探しを達成されたんですね。で、その猫ちゃんが……嘘っ、これは凄い、似顔絵そっくりじゃないですか。いえ、よく描けた絵だとは思いましたが、ここまで特徴を捕えた似顔絵だったとは。これ、本当にすごいですね」
窓口での騒ぎを聞きつけて、あちこちからギルド職員が集まってきた。
連れてきた猫とポスターの似顔絵を見比べては「似てる似てる」と一応に驚いている。
その様子を見ていた別の職員や冒険者も集まってくる。
「これは大したもんだ。これだけ似た似顔絵が描けるなら、見つかったのもうなづけるな」
「猫探しの依頼達成は2年ぶりだってよ」
「ハッ、力自慢じゃなくて似顔絵自慢かよ。大した新人冒険者様だな」
いろいろな声が集まってくるが、総じてギルド職員は好意的。冒険者には揶揄されている感じがするが概ね好評だ。
どちらにしても注目を集めたことには変わりはないので、想像以上に名前が売れて今回は大成功である。
この依頼で仮発行だった冒険者カードは正式なものになり、立派なFランク冒険者となった。
その後、ひと月の間にもう2件ほど猫探しの依頼を達成し、薬草採集と町の労務者手伝いをこなしたことでEランク冒険者に昇格することができた。
ここまでは狙い通りだ。
最初は揶揄していた冒険者もいたのだが、採取中心の非討伐系の新人と割り切っているせいか絡んでくることはほとんどなかった。
僕に対する評価は「妙に名前が売れたが所詮、猫探しと薬草採取の初心者」であり「金になる討伐仕事の競合相手にならない無害な冒険者」である。
そんな日常を過ごしていたところ予期していないことが起きた。
貴族からの指名依頼が来たのだ。
まず、Eランク冒険者に指名の依頼が来ること自体が珍しかったが、その内容の方が珍しいものであった。
想定外の依頼に、僕は受けるかどうか一晩考えさせて欲しいとギルドに告げ、宿に帰ってリレイアと内容を検討するのであった。
冒険者になったケータですが、思わぬ依頼が舞い込みました。
その依頼とは……
次回から『パルマント子爵令嬢誘拐事件編』です。
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