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21話 冒険者を始めてみれば

冒険者始めます。

 王都に入るためのドタバタはようやく収まったが、今度は長く滞在するためにはクリアしなければいけない問題がある。


 今持っているのは、期間が2週間しかない滞在票。

 長く継続して暮らすためには、何か名目が必要になる。


 他所から来た人間がこの街で手っ取り早く暮らすためには商売をするか、冒険者になるかのどちらかだ。

 すなわち、商業ギルドか冒険者ギルド。

 このどちらかのギルドに属していれば、街に住むために大きくお金がかかることはない。


 農夫になるという方法もあるのだが、土地を買うのは在住3年以上であるし小作すると言うのは、小作を募集している農家をこの街の中で探す必要があるので現実的ではない。

 下手をすると農奴扱いされる可能性もある。


 最後に、単純に住民として登録するという方法。

 これはこの街で保証人が必要だし永住権はかなり高いので最初から考えていない。


 リレイアは冒険者ギルドに登録することを提案していた。

 しかし、僕はそれだけはゴメンだった。


「いーやーだあーーー! 冒険者はイヤだ! 異世界に来て冒険者ギルドに行くとか絶っっっ対イヤ! トラブルの予感しかしない!」

「なんでですの? まあ、トラブルはないとは言えませんけど……」


 リレイアは(なだ)めるがケータは収まらない。


「ほら、そうだろう? きっとトラブルに巻き込まれるよ。だいたい、これだけでかい街だろう? 強力な魔法を使いこなす転生者もきっといるに違いないさ。バレるだろ? 敵対するだろ? まだ、魔法も上達してたない僕が戦う羽目にでもなったら、一巻の終わりなんじゃないか?」 


 街に入る前に上級まで魔力を高めたかったのだが、商人の一行と王都に来ることになった。

 今の魔法レベルは当初の目標に達していない上に、街に入るときのゴタゴタでは役に立たなかった。

 自信もなくなって自分はお荷物だと感じる。

 ちょっと、(ふさ)ぎ込んでしまいそうなくらい。

 やだなあ、冒険者をどーしてもやらなきゃならないのかなあ。


「まあ、無理強いはしませんけど……それなら、一旦気分でも変えませんか? 外出でもして」


 うーん、そうだな。

 問題を抱えたまま部屋にいると気分が(くさ)してしまうし、このまま納得しないうちに丸め込まめて冒険者をさせられるのも嫌だし。


「わかった。じゃ、外に出ようか」


 そう言って宿を出た。

 リレイアとクリスクロスは姿を隠す。

 だが、ケータには見える。あくまで他の人には見えないようにしているだけだ。

 会話も念話で行う。


 一旦街の中央に出て、露店でお茶を買った。

 この街では素焼きの陶器に入れてお茶を売ってくれる。

 最初は陶器代がかかるが、次からはその陶器を持っていけばお茶代のみで済ますことができる。


 街の中央をまっすぐ通り抜け、中心部から15分ほど離れたところにある公園に座った。

 僕は声を出さずに、頭の中で考えてリレイアとクリスクロスに問いかける。



―― さっきの話だけど、商人も良くないか? まあ、商人も楽じゃないけど、21世紀では技術系の営業担当だったから、一応客相手の交渉はできるよ。冒険者になるぐらいなら商人の方がいい。ほら、ポルテーロさんという商人の知り合いもいるし。

――商売もゆくゆくはやっていくつもりですけれど、まずは冒険者が手っ取り早くて今後の調査にも好都合ですわ。


 商売をやるつもりもあるようだ。

 しかし、リレイアはとにかく冒険者を推してくる。

 でも、なんとか回避したい。 


――そうなのか? ほら、さっきも言ったけど、他の転生者にバレるかも知れないし危なくないか?

――大丈夫です。こちらの素性がバレそうなスキャン関連の魔法については無力化、偽装ともに目処が経ちましたの。それにこの街は大きすぎて異世界からの特定の人物を炙り出すのは大変すぎますので、ありふれた冒険者の方が返って一般的で目立ちません。それに、わたくしリレイアは56世期の技術というアドバンテージは信用していただいていいですわ。そう簡単に負ける気はしませんの。


 命の危険はそう多くないのはわかったが、目立つのも嫌なのである。


――本当に目立たない? 目立たずに調査や捜査を続けるのは難しくない?

――いえ、全く目立たなくて良いわけでもありませんの。冒険者として少しは顔を売りますわ。街の外からきた者が冒険者となるからには腕に自信があって当然です。その中で普通に頭角を表す方が自然なんです。さあ、しのごの言わずに冒険者ギルドに登録して下さいませ。


 ほら、やっぱり目立つんじゃん!


――うわあ。やっぱいやだあ。うーん、中高生の夢みたいな異世界転移で定番すぎる冒険者。やりたくない……僕は厨二病ではないんだよ。


 そこで、今まで黙っていたクリスクロスも突っ込んできた。


――なーんだ。お前、冒険者が嫌なんじゃなくて、目立ちたくなかったのか。けどよ、商人やるにしてもアルーダ様との約束を果たすには人目にある程度付くのは仕方がないぜ。いい加減諦めろよ。


 いろんな理由をつけてはいたが、要は目立つのが嫌なのだ。

 けど、商人も確かに交渉やら何やらで人付き合いは必要か。

 でも有名になるのと人付き合いするのは違うだろ?


――やっぱり冒険者の方が悪目立ちするよ。バンバン魔物を討伐して冒険者ランクなんぞあげようものならあっという間にマークされる。そういうのは本当に避けたい。

――そうは言うけど、おいらも冒険者の方がいいと思うぜ。街中の依頼もあるけど、どちらかと言えば街の外の仕事の方が多いんじゃねーねのか? そうすりゃ、あんまり他人と関わらないで済むだろ? 大体、お前にまともな商人ができるとは思えねぇし。戦闘はまだまだだが、それはおいらでも手伝えるしな。


 ああっ! 味方がいない!

 リレイアだけじゃなく、クリスクロスも冒険者を推してくるのか!


――でもさ、でもそういう冒険者家業を続けていくうちに、魔法力に飽かせてあぐらを掻いている異世界転生者を見つけたら、片っ端から懲らしめないといけないんだろう? そんなのことできないよ。大体、魔法だって、やっと慣れて来た程度だしどれだけ上達するかわからない。やっぱ、商人で交渉能力を上達させて、困った転生者とは話し合いで解決していけば良いんじゃないかなあ。


 必死に抵抗する。

 ここで拒否しておかないと本当に冒険者としてやっていかないといけなくなる。


――いえいえ、最初はケータに腕っ節を期待なんかしませんわ。たとえ手練れが来たとしてもきっちりお守りしますの。それにケータが悪目立ちしているのに釣られてしゃしゃり出てくるヤツは小物です。負けはしません。逆にそんな目立ち方をしたら、本当にずる賢い大物転生者は隠れてしまうでしょう。まあ、私の作戦では変わった方法を取るつもりですかので、違った意味で目立ってしまうかもしれませんけど。


 ん? また、わけのわからないこと言ってきた。


――違った意味で目立つ?

――冒険者になったら、力で名をあげるようなことはしませんわ。まずは『猫探し』という依頼をこなすつもりですわ。


 さらにわからん。


――『猫探し』? 何だそれ。聞いたことないぞ。犬じゃダメなのか? どうしてそんな依頼があるんだ?

――ええ、犬ではダメです。このクルゼナントでは犬を飼うのは禁止なんですよ? だから街中に犬がいないでしょう?


 確かに見かけたことはないが、まだこの街にきたばかりだしな。


――なんで犬は禁止なのさ。

――魔素がですねー。ああ、もうそのうちちゃんと説明しますから、猫探しで冒険者始めますよ。


 でもなあ。


―― まあ、いいか。力づくでないなら……でも、いやだあぁ。

――いつまでゴネてるんですの?


 結局、最終的には折れた。

 冒険者にならないなら何になるんだ、と言われて言い返せなかったから。

 商人とか言っては見たものの当てはないし乗り気でもなかった。

 仕方なく、僕はあれほど嫌がっていた冒険者登録を了承した。


 やると決めたなら僕は案外迷わないタチだ。


 21世紀で40年過ごし、未来で6年療養生活、今はケータ・リーフォンと名前も変わり16歳の体になった。

 いろんな経験をして性格だって少し変わったようでも、そう言うところは変わらない。


 ところで、冒険者ギルドはどこにあるんだろう?

 まあ、まずは中央広場の地図を見に行くのが早いのだろうけど。

 都市の主要部署が記載されているからな。


 行ってみると地図には冒険者ギルドの記載はちゃんとあった。

 早速場所を確認し、さらに10分ほど歩いて冒険者ギルドのある一角にやってきたのだが……


「地図によると方向はわかるけど曖昧(あいまい)なんだよなあ。漠然(ばくぜん)とここいら辺としか書いてなかったし……って、えええええ」


 そこで呆然として周りを見た。

 地図は漠然とこの辺を示していたのではない。

 ()()()()()()()が冒険者ギルド関係の施設だったのだ。


 他の街の冒険者がこのギルドを見たら例外なくその規模の大きさに驚くらしい。


 そりゃそうだろう。

 ファンタジー小説で見る冒険者ギルドといえば、小汚いせいぜい2階建の建物で多少広くても半分は酒場だったりするのが定番だと思っていた。


 入ったところに案内所があり、冒険者ギルド本館にたどり着くまでに、ギルド提携の武器屋に病院、多数の喫茶店やレストラン、飲み屋などがある。

 いずれも冒険者ギルド証の提示で割引などが受けられるらしい。

 進んでいくと、4階建だがフロアが50m四方もありそうな巨大な本館があった。

 体育館のように天井が高い別館は、面積的にはさらに大きい。

 本館の裏には、冒険者ギルドに付属の機関として魔物の研究所とこのギルド全体の管理棟があるらしい。

 これはもう冒険者街または冒険者モールといった感じであった。


 そこにわんさわんさと人がいる。

 これが全て冒険者というわけではなく、当然、依頼者などやその他ギルド関係者もいる。

 にしても、相当な数の冒険者がこの王都にいることには変わりがない。


――すげえな。ここには冒険者がこんなにいるのか。


 クリスクロスでさえ驚いている。

 この世界で長く生きているはずの妖精であるはずなのに不思議なので、尋ねてみた。


――クリスクロス。街中で冒険者にあったことはないのか?

――いや、街は好きじゃないが、あちこち入ったことはあるぜ。ギルドもな。けれどこれほど人数がいて、こんなデカイ冒険者ギルドがある街はねえって。


 なるほど。この王都の冒険者ギルドは特別なのか。


 まずは、登録ということで案内板を見てみると、登録自体は本館でも別館でもできるらしい。

 リレイアが言っていた『猫探し』という依頼があるかどうかわからなかったので、依頼の多い本館に行くことにした。

 別館というのは基本機能はあるものの、メインは討伐後の報酬受け取りや討伐魔獣の買取りなどをするところなのだそうだ。

 どちらかと言うとギルド仕事が終わった後に行くことが多いらしい。


 本館に入るとすぐ上に登る階段で2階へ上がる。

 途中の踊り場から1階のフロアが見渡せるのだが、あちこちに依頼内容が多く張り出されている掲示板があり、多くの人でごった返している。

 こんなに人がいたら仕事を受けるのも大変だと思っていたのだが、そこはよく出来ているらしい。


「次の方。依頼達成ですね。ギルドカードをお願いします。はい。討伐依頼の証拠、髭大熊の牙ですね。確認しました。魔石や皮の換金はどうしますか? ああ、民間ですね。結構です。ギルド提携の店なら買取割増が受けられます。ありがとうございました」

「はい。次の方。ああ、薬草の採取ですか。お待ちください。ああ、こちらの条件は依頼者に採取した薬草を届けることになっています。依頼者のサインを書類に戴くようにしてください。この窓口に薬草を持っていらしても達成になりません。代理で窓口受取もできますが、一割の手数料がかかりますので直接取引の方がお得になります。どうされます? はい、わかりました。では、サインを頂いたらもう一度ギルドにお越しください」


 ギルドの窓口は忙しそうだ。

 これだけたくさんの冒険者がいれば、多数の窓口があってもかなり待たされる。

 それでも、手続きが次々と進んでいくのは、ギルドの効率的な仕事依頼システムが機能しているからである。


 このシステムは単に窓口業務を円滑にするだけのものではない。


 ギルドの仕事依頼システムとは、冒険者が早いもの勝ちではなく平等に依頼を受けるためのシステムである。

 例えば掲示板に受けたい仕事があった場合、自分のギルドカードを依頼の張り紙の左下の金文字で数字が記載されている黒三角のエリアにかざす。


 ギルドカードに白い文字で、Reqと表示されれば仕事の仮受付け(リクエスト)が終了である。

 あとは各階にある仕事受付窓口で本受け付けを行った後、受付から呼び出しがかかった冒険者は正式受付となる。


 正式依頼を受けた冒険者には依頼条件などの詳細必要資料や討伐魔獣の追加情報などが手渡される。

 受付内容はギルドカード内にも設定され、正式受付時に更新される。


 では依頼の競合はどう処理されているか。


 依頼が張り出されてから冒険者が仮受付したとき、最初であるならば30分のカウントダウンが始まる。

 カウントダウンが始まったことは、右上の赤三角ゾーンに白抜き文字で1分単位に時間が減ったことで認識できる。もちろんこの機能は、電気仕掛けではなく魔法で実現している。


 その30分は他の冒険者も仮受付をすることができるのだ。

 これは、早い者勝ちだと依頼の取り合いでいざこざが必ず発生することから始まったシステムである。

 そして実際に競合した依頼が決まる方法は、抽選である。

 早いもの勝ちではない。


 ただし、いくつかの優先順位がある。

 同一クラスで連続して抽選に外れている冒険者がいる場合は優先して受注できるようになっている。


 また、ギルド側からの拒否権が発動することもある。

 基本的にクラスごとに受け付けられる依頼は決まっているのだが、たとえクラス的には受け付けられる条件を満たしていても、ギルド側が不適切と思う場合は、抽選から外される。


 例えば、採取クエストばかりこなしている弱小パーティが、いきなり討伐クエストを受けようとしても危険と判断されることがあるのだ。

 このような円滑で平等で危険度を考慮したシステムが冒険者に受け入れられているせいで、ごった返しているギルドも混乱はない。

 どの冒険者も大人しく列に並んでいる。


 まあ、とにかく登録だ。

 本館の窓口に向かう。


「こんにちわ。冒険者になりたいんですけどこの窓口で受付できますか?」

「はい。大丈夫です。申請にはクルゼナントの住居証明またはクルド王国の住人であることを証明する物でもよいです。これは、その土地を納める領主に発行してもらわないと行けませんが。滞在証でも大丈夫ですが、二週間以上のものが必要です」


 うん。その辺はわかっている。


「ええと、これなんですが」

「ああ、二週間の滞在証ですね。そちらの待合室でお待ちください。待っている間に魔法による経歴調査を致しますのでレジストはしないようにお願いいたします」


 一旦、窓口を離れて、長椅子で待つ。

 新人の冒険者ギルドカードの申請には最低限の審査があるのだ。

 まずは経歴の調査。待合室で待っていると審査をする小部屋に一人ずつ呼ばれ魔法によるスキャンを行い、犯罪歴がないか確認される。

 ギルドにはそんなレベルの高い魔法師がいるわけではないので、レジストしようと思えばできる。

 もちろん、そんなことをすればギルドカードは発行してもらえない。

 

 身元調査に関しては、かなり緩い。

 はっきりしなくともカード取得はできる、ただし仮発行である。

 窓口で預かった滞在票に関しても、正規なものであるか確認されるのでそれなりに時間がかかる。


 滞在票をもらう際のエストレモ老夫妻との関係は嘘だが、滞在票そのものはクルゼナント正門で発行された本物である。

 背後関係までは確認されることはない……はずなのだが、窓口からすぐに呼ばれた。


「ケータ・リーフォンさん、窓口までお願いします」

「はい」


 窓口に向かうと担当者は滞在票を目の前に出していった。


「この滞在票はあと残りが一週間です。仮登録を済ませた時に初依頼を終わらせた後、3日間以上の連泊証明が必要になります。これだと今日依頼を受けて2日程度で終わらせないと本登録が間に合わなく成りますが……」


 なんだ、そういうことか。

 滞在票の背後関係で何かバレたのかと思ったら、本登録までに滞在票の期間が切れてしまうか心配しているらしい。

 ここのシステムは、仮発行の身分証のまま最初の仕事が終了し、拠点の住居または宿(3泊以上の連泊が条件)の証明書があれば場合は正式認可となり、立派なFランク冒険者となる。

 なるほど、そう言われると心配になってきた。


――『猫探し』なんて手間のかかることをやって大丈夫なのか?

――余裕ですわ。今日中に依頼者にところに行って、明日には下準備、明後日には猫を見つけて冒険者ギルドに、解決の報告へ行く予定ですの。


 ……いや、期間に余裕ないだろ。

 完全にカツカツのギリギリじゃないか……


「あの、ええと」


 ケータの顔が不安に見えたのか、受付の人がさらに心配しているようだ。


「ああ、大丈夫です。最初の依頼は短期間で終わるようなものを選びますので」

「そうですか。即日で完了する依頼はそこそこ人気ですので、お気をつけ下さい。こちらとしても初依頼の方にある程度優先は致しますが、元々初依頼で受けられるFランクの物は限られますので」

「わかりました」


 窓口で、仮発行のギルドカードをもらい、依頼の掲示板に向かう。

 受けられるのはFランクの依頼とは、付近の森で取得できる薬草の採取クエストや、首都住民の手伝いをするいわゆるアルバイト仕事のようなものが多い。


 Fランクでは、討伐は一角うさぎ程度までであり、それも仮発行のカードの場合は受けることが出来ない。

 つまり仮発行のカードで討伐任務は許されないと言うことだ。

 小物と言えども一角うさぎは立派な魔物であり一般人には脅威だ。

 以前は仮発行の冒険者にも討伐が可能であったが、事故が多発したため本登録が済んだ後のみ受付可能な依頼となっている。


 掲示板の前へ来て、猫探しの依頼を探した。


――二件ありますの。


 リレイアが掲示板を見て言った。

 これだけ大量の張り紙があって、たった二件かと思ったが、この依頼の特殊性を考えると妥当だ。


 依頼が見つかったがケータたちはそこを動かなかった。


 通常なら、仮受付を申請に行くのが普通だ。

 依頼の張り紙には最低限の情報しかない。

 詳細な情報は依頼を受けた時に説明を受けたり、追加情報書類を渡されることになっているのである。

 詳細な内容を知るためにも、依頼を受けると決めたら即窓口に行くべきなのだ。


 けれどリレイアがいれば事情は変わってくる。

 リレイアは依頼の張り紙の情報を二件ともハッキングして、ギルド内の追加情報書類を盗み見ていた。

 猫探しの場合は、詳細情報としては依頼主についての個人情報だ。

 一件目の調査は早々に終わったらしい。

 二件目の調査は最初に5分調査し、再度、ナノマシンを街中に放った。


 この一連の手順はもちろん違法な行為だ。

 本来、依頼主や捜査対象の情報は依頼受注後に得られるものなのであるから。


――お前ら、何ずりーことやってんだよ!


 それは仕方がない。


――今回は目をつぶってくれ。

――まあ、いいけどよ……。


 渋々承知するクリスクロス。

 問題は、その依頼が達成可能かどうかだ。

 15分ぐらい経った。


――どうだ?

――左のはダメです。右の奴は ……大丈夫です。行けます。


 ダメってのは……そうか、探すまでもなく当の猫はもう死んでるのか、可哀想に。


 この依頼は失敗するわけにはいかない。

 すでに居場所と無事を確認して成功するのがわかっている依頼のみ受注、というズルをする。


 僕は二枚の依頼の張り紙のうち、右側にある猫探しの依頼にカードをかざし、依頼受付窓口に向かった。

 カードにはReqの文字とよく見ると依頼番号も浮かび上がって見えている。


「この依頼お願いします。」

「これは……『猫探し』ですか? これは仮発行で受ける依頼としては、お辞めになられた方がよろしいか、と」

「受けられないんですか?」

「いえ、受けることは可能なのです。しかし、ある程度失敗のリスクがあり、3回連続の失敗で仮発行のカード失効となるんです。もし、失効してしまうと以後1年は冒険者ギルドカードの取得ができなくなってしまいますので」


 窓口のギルド職員は歯切れ悪く、しかしきっぱりと勧められないことを告げてきた。


 さて、このリレイアが指定してきた『猫探し』という依頼はどういうものなのか。

 ギルドが勧められないと言っていた理由は何なのか。


 まず『猫探し』の依頼者だが、猫を探して欲しいと頼むのは当然一般市民、それも子供が多い。

 しかも、基本的には子供の小遣いからの依頼なので依頼料はあってないが如し。

 もちろん、親がついてくるのだから安すぎる依頼料には色をつけようとするが、それには冒険者ギルドが逆に断っている。


 さらに、探してほしい猫の特徴を尋ねても子供相手なので、要領を得ないことが多い。

 いなくなった場所も時間も曖昧なんてこともある。

 すなわち、実入りが少なく、ほとんど成功が見込めない依頼なのである。


 では、なんでそんな依頼が存在するのか。

 それは冒険者ギルドの成り立ちに関係している。

 冒険者ギルドは、その初期段階においては疎まれる場所であった、


 冒険者は荒くれ者。金次第で動く危険なゴロツキ。

 そういったイメージを払拭するため、市民に開かれた組織であるということの証として、『猫探し』という依頼は冒険者ギルドの黎明期から続いている『建前としての依頼受付』なのだ。

 なんでもこのクルゼナントの初代ギルド長が「みんなのための冒険者ギルド、猫を探す仕事でも引き受けますよ」というポスターを貼り出したのが由来であるらしい。


 そんなわけなので、実際の猫探しの依頼は、たまに家猫が家出して子供が泣き出した場合に親子連れで持ち込まれたりするのだが冒険者が受けることはほぼゼロ。

 捜索の期限が迫ってくると、ギルドの職員が片手間に探しているのが実情である。

 結局、子供たちには『一生懸命探したけれど、見つからなかったです。ごめんなさい』というお詫びのみで、終わるケースが多い。


 見つからなかったけれど、冒険者ギルドはちゃんと子供の依頼もこなしていますよ、というポーズが得られればそれで良いのだ。

 子供の親にしてもその辺の事情は当然知っているので、抗議に来ることもなく、ギルド職員に『お世話になりました』と言って帰ることがほとんどであると言う。


 そんな依頼をこれから冒険者になろうという新人が受けようとするのだから、止めるのは当然である。


 しかし、ケータの受けるという意志は変わらない。

 まあ、見つけられることがわかってやっているので、そんなことで意志が揺らぐわけはないのであるが。


「大丈夫ですよ。まあ、もし失敗したら別の仕事を受けますし、3回連続は失敗しませんから」

「そうですか? あまり、おすすめは出来ないのですが、子供たちのためにも頑張ってくださいね」

「ありがとうございます」


 僕は依頼の正式受付を済ませると、気の毒そうに見送るギルド職員にお辞儀をしてギルドを後にした。

 後ろめたい気持ちをリレイアにボヤく。


――あーあ、あんな顔されると逆に申し訳なくなるなあ。

――そりゃー、まあ、詐欺みたいな仕事の受け方ですからね。


 リレイアの依頼受付の事前調査は以下の通りだ。

 第一段階として、仕事の依頼書をハッキングして依頼者を特定し、56世期の技術で依頼者の子供と両親の脳スキャンも行って正確な猫の姿を把握。

 第二段階として、首都全体にナノマシンを解き放ち、その猫がまだ生存しておりどこで何をしているかを正確に把握する。

 ついでに猫がひょんなことから事故死などしないように、未来技術で保護領域の設定をしている。

 本当はこの異世界でやるのなら保護領域の設定は未来技術ではなく魔法技術でやった方がいいような気もするが、それは2つの理由でリレイアは選択できなかった。


 まず一つ目は、攻撃と防御に関する魔法干渉は進んでいたが、今回のような探索と保護を行うような魔法技術の習得はまだ未熟であったこと。猫を完全に保護できるかわからなかったこと。

 もう一つは、前回の宿での隠蔽や遮音とは怪しまれる度合いが桁違いであること。個人的に自分のテリトリーに隠蔽や遮音をかけるのは見過ごしてもらえる、と言うより魔法師なら誰でもやることなので監視されることはない。だが、街に探査の魔法を放てば、何事かと怪しまれ術者を逆探知しようとする者がいる訳だ。


 リレイアの未来技術の異質さも見つかる原因となり得るだろうが、魔素の研究をある程度進め、さらにこの街に入る時にいろいろと試した経験からある程度自信があった。21世紀からの転移者しかいない世界なら、魔素を介さずに56世期の純粋な未来技術だけを使えば見破られる可能性はまずないと言えるようになったからである。


 事前調査はいいとして、具体的な動き方がわからない。


――で、どうするよ。すぐに捕まえて飼い主の元に連れていくわけにはいかないぞ。

――まあ、依頼書には『可愛い三毛猫です』としか書いてませんし、依頼を受けた時にもらった詳細資料にあったのは、子供が描いた猫の似顔絵だけですからね。それも、とても似ているとは言い難い。タヌキが ”ムン○の叫び” をしているような絵ですからね。唯一のまともな手がかりは依頼者の住所ですけれど、この付近を探したら見つかったというのでは、手際が良すぎて逆に怪しまれてしまいますわ。


 ごもっともである。


――なんか作戦があるんだろ。

――今回は、ささやかに名を売ることにこの依頼を使わせてもらいます。まず、子供と両親に会いに行ってください。そこで、話を聞きながら猫の特徴を捉えて、ケータが似顔絵を描いて下さい。


 僕に絵が描けるわけがない。

 クリスクロスもツッコんできた。


――お前! 絵なんて描けんのか?

――描けないよ。似顔絵なんか無理だって!


 しかし、それにはリレイアが。


――大丈夫です。適当に描けば筆が勝手に件の猫に似るように私が筆先を動かします。それと話の途中で誘導尋問をかけて下さい。内容は私が指定します。子供と両親から本人も気がついていない特徴を喋らせて描いた猫の絵が似ていることについて信憑性を持たせます。こっちは当の猫を知っているのですから楽なものです。


 なるほどね。話の中で特徴をしゃべってもらわないと描きようがないからな。

 それなら猫の似顔絵は特徴をよく捉えているわけで、特定して猫を捕まえてきても怪しまれないだろう。


――お前ら! ほんっと、ずるいな。


 クリスクロスはご立腹だが、僕は逆になんだか面白くなってきた。

 

――それと、捕まえる前にもう一つやることがありますの。ケータが描いた似顔絵をポスターにしてあちこちに貼りまくります。少なくともギルド職員に印象付かせないとダメですわ。猫を救出したら謝礼を受け取る際に、子供と両親と猫をわざと連れてギルドに行くようにします。その時にギルド職員がケータの似顔絵があまりにも見つけた猫にそっくりでびっくりするという筋描きです。

――うわあ、それって冒険者ギルドに似顔絵を描く能力と依頼者から対象の特徴を掴む能力があることについてデモンストレーションするってことだろ? 



 そこまでやるか?……まあいいか、了解。


 ギルド職員には好意的に見られるだろうし、今まで全部謝ってきた猫探しが解決することでメンツも立ててやれる。

 逆に他の冒険者からは、似顔絵で依頼をこなした風変わりなヤツとして見られるだろうし、ガチな戦闘系冒険者から目をつけられることがなくなるわけだ。

 依頼の報酬金額も低いし、名が売れる割に競合相手と認識されないのはいいな。


――もう、おいらどうでもいいや! 好きにしろや!


 クリスクロスはついに投げてしまったが、僕はこういうのは大好きだ。

 やる前からニヤニヤしてきてしまった。


渋々、始めた冒険者。

なるべく目立ちたくはないけれど、ある程度目立たないと仕事も調査もしにくい。

そんな中で、この王都クルゼナントならではの『猫探し』という依頼を受けます。


次回は、『22話 初依頼を受けたならば』 6/21投稿予定です。

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