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17話 ケータが修行を続けてみれば

17話です。

今度はケータが修行します。

 リレイアの魔素の研究が一段落した。


 魔法を直接操ることはできないものの、魔素を利用した魔法に対する防御膜の生成が可能になった。

 攻撃面でも神アルーダから貰った羅鉄鋼(らてつこう)をヒントに、魔法の防御を打ち破る兵装も開発していた。

 その攻撃力は凄まじく、クリスクロスが力一杯張った魔法結界をパリンパリンと破っていた。

 相手をさせられたクリスクロスはかな〜り怒っていた。


「本気出してもっとデカくて強力な結界を作れば、そんな攻撃屁でもないぜ」


 最後はそんな負け惜しみを言っていたけど、あの結界は間違いなくバリバリ本気で唱えてた術だったはず。

 まあ、何にしてもリレイアの対魔法の攻防に目処(めど)が立ったのは朗報だ。


 そうなると次はいよいよケータの番である。

 今は魔法の修行を中心にやっているが、この世界で暮らしていくにはこの世界の知識を得ること。

 そしてこの世界に慣れるために、どこか町に入ってこの世界の住人と触れあうことである。


 知識については、神アルーダからリレイアがこの世界について一通りの知識を得ている。

 これから人と会話するまでにケータ自身もある程度、この世界の常識をわきまえておく必要がある。

 そのためにリレイアから知識面、クリスクロスに補足してもらうという形式で勉強していった。


 戦力については、体力もないし剣も槍も弓も使える訳ではない。

 唯一魔法だけは、アルーダから与えられた中級の魔法を唱えることができるが、実践不足でまだ十分とは言えない。魔力は伸び代がかなりあるはずなので、習熟度を上げて早く上級レベルに到達したい。

 だが、それを鍛えて上達を待っていると中々町に入れないのも事実だ。

 そこで、敵対勢力から身を隠すこと、見つかっても逃げおおせることを修行の第一目標として考える。

 具体的には、なるべく転生者の魔法使いとしては知られずに、街に入るために魔法の隠蔽(いんぺい)秘匿(ひとく)について学ぶことにした。


 ケータはファンタジー世界の町並を楽しみにしていたのだが、しばらくはお預けだ。


 まず、知識面から。

 ケータはリレイアとクリスクロスから今いるこの国の基本情報について教わった。


 この国はクルゼ王国という。

 ルーア大陸の東南に位置する資源豊かな国である。

 人口80万人を誇るクルゼ王国一の首都であるクルゼナントは、国の中心よりやや北側に位置する。


 首都からさらに北には、サーマ平原があり、農畜産業の中心となっている。


 さらに北に行くと国境があり、その向こう側にはローアニエスト公国があるがこの国は謎に包まれている。

 大昔に大軍による侵略が歴史書の記述上存在するのだが、国のどこを探してもその戦乱の後がない。

 国使を送っても(ろく)に滞在させてもらえず送り返されてしまう。

 嫌われているのかと思うと毎年きっちり挨拶状が届き、付け届けのような贈り物を送ってくる。

 但し、王族同士の婚姻などは決して受けない。

 旅行者も受け入れるが、人気になっても宿を増やすようなことはなく、それ以上観光が盛んになったりもしないのだ。

 「礼は尽くすが親しくはならない」のである。

 よってクルゼ王国としてもこの国との国交についてはある程度諦めている。


 しかし、商魂逞(しょうこんたくま)しい商人はどこにでもいる。

 首都クルゼナントから北に伸びる街道は、ローアニエストのどこに繋がっているのかが不明であるにもかかわらず、商人たちは馬車を走らせ細々と貿易を行っていた。

 ローアニエスト公国には数々の名産品があり、うまくいけば輸入して大きな儲けを出すことができるのだ。


 東には港町ジャル・シャロウがあり、首都へ海産物が供給されている。

 バロー海に面しているため漁業は盛んであるが、港の整備が遅れており船による貿易が進んでいないのもあって、商人たちは活路を求め、北への航路の整備をしきりに国に迫っているが、クルゼの王家は首を縦に振らない。

 やはり、ローアニエストは得体の知れない国という印象が強いからだろう。


 南には、山や森などが多く、林業、鉱業、そのほか工芸や衣類、初歩的な工業地帯も存在していた。

 西から南にかけてラングレー山脈がある。

 この山脈があるために国境は少しあやふやだが誰も気にするものはいない。

 どうせ越えられないのだ。

 大変険しく標高も高いためその向こう側にあるタリオトルテ大帝国との国交はない。


 もし、この山脈を超えて交易が可能だとすれば、この国はもっと賑わっていたかもしれないが、大国であるタリオトルテに滅ぼされていた可能性も十分にある。

 この大山脈は自然の要塞であり、防波堤であった。


 北西はホン・ワリャン連邦と接しているが、総じて友好的であり貿易も盛んである。


 歴史的には小規模な領土の奪い合いはあったもののクルゼ王国に対する大規模な侵略は一度もなかった。

 これはホン・ワリャン連邦が豪族の寄せ集めであり、内乱が絶えず隣国に攻め入るより自国の他豪族を抑えることが重要だったからだと言われている。

 今は七つの氏族に分かれており、それぞれの領土を干渉することなく納めている。

 農地も広いが、放牧と狩猟の明け暮れる騎馬民族が、ホン・ワリャンの本質と言える。


 そんなわけで、このクルゼ王国は歴史的には建国以来800年の間、安定している。


 そんな歴史から見てもわかるとおりクルゼ王国は軍国主義とはかけ離れている。

 王城は本格的な戦争に備える必要がなく、都市の規模からは少し小さい。


 ただし、先ほど歴史的に大戦はないとは言ったが、それは人相手の戦争がなかったと言うだけで、別の厄災で過去に一度この国は滅びかけたことがある。

 それゆえ、都市を囲む城壁は高く堅固だ。

 これは隣国に対する備えではなくこの国の自然で特筆すべきである魔物・魔獣の存在に対抗するためだ。


 その数は今持って大変多く、凶暴で強大である。

 この国の民はそれに悩まされ続けているのだが、一方でその魔物・魔獣の討伐により得られる魔石や肉、貴重な皮や血、骨、爪と様々な資源がまたこの国を富ませる要因ともなっている。

挿絵(By みてみん)


 ◇


 来栖川慶太がいるのは、この首都クルゼナントから南に30km離れた草原で魔物・魔獣が多いため極端に人影が少ない。

 見つかることはほとんどないだろう。

 すでに宵闇(よいやみ)が迫ってはいたが、行くつもりなら大した距離ではないので首都に向かうことはできる。


 しかし、慶太は今日も夜をこの草原で過ごすことに決め、野営の準備をしていた。


 リレイアがニヤニヤしながら聞いてきた。

「ケータ。もう町に入れるんじゃないかしら? 随分と魔力も知識も上がっているみたいですのね」


「魔力は上がってても、転生者だと見破られないだけの隠蔽や秘匿の知識はないだろ? わかっているくせに聞くな!」

「それを補って余りあるこの国や王都の情報をすでに十二分にお教えしておりますのに〜」


 わざと(そそのか)してるな?

 この異世界に来てからリレイアの性格が変わってないか?


「転移してから全然クルゼナントに入る計画を立ててないだろう? それは、まだ行くなってことなんだろう?」

「ふふ。そうですわね。まだ、この野宿生活を続けなければなりません」

「まだ野宿かあ」


 そんな僕のリレイア会話にクリスクロスがツッコんできた。


「お前らなあ。野宿とか言ったって、こんな上等なもの食って、風呂に入ってふかふかのあったかいベッドで寝てんじゃねーかよ。どこが野宿なんだ!」

「いえいえ。町で暮らすのが文明人のやり方なんですのよ。満足に人と会話もできない神もどきには理解できないかもしれませんわね」

「んだとぉぉぉ」


 まーた、リレイアとクリスクロスがやり合ってる。

 どうしていつまでも仲が悪いんだろ?

 しかし、平原の広っぱ暮らしに僕も少々飽きてきたところだ。


「リレイア。いい加減、本当に町に行って見たいんだけど」

「隠蔽や秘匿については私が何とかします。それでも、街に入るにはケータの各中級魔法の威力が一定レベルになることと、上級魔法師程度まで魔力を伸ばす訓練が終わってからです」


 各中級魔法威力のレベルか。

 そうだった。ものによっては上級の威力まで上がっていたが、全部試したわけでもない。

 アルーダ様に詰め込まれた魔法をもう少し練習しないといけないのか。

 

 確かにここは快適だ。

 小さな丸太小屋に見えるのはカモフラージュされていて実は中は広い。

 リレイアにより亜空間展開されているので3LDKぐらいの大きさはある。


 神様に禁止されてしまったので、未来の住居やコクーンの時の技術は使われていない。

 机や椅子があり、台所もトイレも風呂も寝室もあるが、コモンの世界のものとは違う。

 そろそろ町に入る予定なので、慣れるためにアルファニア世界で一般的な家具になっているのだ。


「でも、そろそろ考えても良いかも知れませんね」

「ん? 何をだい? リレイア」


 リレイアは僕の頭を指差す。


「街に入る準備と……その髪と目です」


 僕の髪は日本人なので基本黒目黒髪なのだが、神様に過去のしがらみを断ち切るために治療してもらった名残で先端の2cmだけが白髪なのだ。


「これ、変えるのか?」

「おイヤですか?」

「うーん、そうだなあ。確かに先端だけ白髪なのは目立つし、日本人転生者だとわからない方がいいな」

「わかりました。目立たないように変更します。可逆的な変更ですが、ある程度は定着させます。魔法などで見破られるのも困りますから」


 それから、リレイアは僕の姿を少し変更した。

 髪は黒からダークブラウンに(先端の白髪部分も染めている)。

 目も黒からダークブルーに。

 骨格も少しいじって東洋生まれには見えないようにしたらしいが、それはよくわからない。


「あんまり冴えねーな」


 クリスクロスはそう言うが、あまり目立たない容姿なのでこれはこれで気に入っている。

 この世界ではこの姿で生きていくんだな。



 日も暮れた。

 夕飯までもう少しという頃。


 ピピッ、ピピッ、ピピッ


 警告音が鳴った。

 日本で暮らしていた時に使ってた100円タイマー見たいな音ではあるのだが、そうのんびりできる事態ではなさそうだ。

 家の外の様子を小屋の周りにあるセンサーから取得し、壁をスクリーンがわりに映し出した。


 すると、こりゃあ、随分と。。。


 この小屋に近づくものがいる。

 その数、20体以上。

 なぜか知らないが、結構な数の生き物がこの小屋の方に押し寄せている。

 先頭にいるのは猪かな? その後ろにいるのは・・・なんだアレ。


「ああ、あれが魔獣ってやつですね。練習がてら、魔法で倒してみてください」


 リレイアがそう言い。


「まっ、いいんじゃねーか。こんくらいなら」


 クリスクロスが同意する。


 やれやれ。

 僕は早速、小屋の外に出て、先ほど覚えたばかりの中級魔法を放った。


「ウィンドウ・カッター」


 まずは、風の刃で猪を狩る。

 一撃で首を落とすと、そのまま2、3歩歩いて倒れた。


 そして次が本命。

 初めて本格的な異世界の大型魔獣だ。

 これに対抗する異世界魔法といったらこれでしょう。


「ファイヤー・ボール」


 腹が割れて紫の口が開いている気持ち悪い熊のような魔獣が迫ってきていた。

 その口に僕の放った火の玉が吸い込まれる。


 ズ、ゴブ


 とくぐもった音がしたと思ったら、そのまま火の玉を飲み込んじゃったよ。

 弱いなあ。ファイヤー・ボール。

 でも、応用次第か。魔力もこのあと伸びるだろうし。


 魔物は構わず向かってくる。

 考えるのをやめて、慌てて次の呪文を唱える。


「サンダー・フォール」


 カミナリが魔物を撃つ。

 一瞬うずくまるが、奇声をあげて向かってくる。


 キェェェェ。


 あっ、まずい。

 すぐに魔法が浮かばないや。


「しょうがないですね」

「しょうがねぇなあ」


 リレイアとクリスクロスが異口同音に呆れるのはやめてほしい。


 リレイアは杖をひと振りすると、小さな雲が高速で魔物に迫り、その中から黒い虫みたいなものがたくさん出てきた。気持ち悪!

 魔物は訝しげにちょっと立ち止まったが、それが最期の行動となった。


 ザザザザ、キーーーーン。


 物凄い金属音とともに、胸の間にある紫の口に入った途端、頭、左右の腹、下肢を強烈に貫いた。虫のような黑い物体は、魔物の直前で収束し5本の剣となって魔物を切り裂いたのだった。

うーん。えげつない。


「こいつ、と、とんでもねーな」


 クリスクロスもドン引きしている。


「大したことじゃありませんわ。無属性の魔素を数センチ単位の小型ボットにまとわせて、切り裂いただけですのよ。無属性の防御膜は作れませんでしたから、ここら辺で試しておきたかったのですわ」

「まあ、そうゆうのは必要か」

「それに、相手の魔属性の適応状況もナノマシンでわかるようになったので研究は進んでおりましてよ。それにしてもケータの魔法弱いですね。使えないじゃないですか。中級ならもう少し強いのかと思いましたよ」


 リレイアはこんなのちょろいとばかりに杖を左右にパタパタ振って答える。


「ちげーよ。こいつはまだ下手くそなんだよ。相手次第で魔法を変えるべきなんだがわかっちゃねーんだ。使う魔法を選んでりゃ打ち取れただろうな」


 クリスクロスはそういうが、誉められてんだか貶されてんだか……


「それにケータの魔力は伸びてるからな。中級魔法を使っても、魔力が上級レベルまで行けば、ファイヤー・ボールでも押し切れるだろうよ」


 おっ、そうなのか?

 そいつは嬉しい話だな。


「それにしても不思議だな。異世界転生した奴ら、判で押したようにファイヤー・ボール使いたがるがなぜだ? あんなもん、ネタ呪文だろ?」


 わかんないだろうな。

 21世紀のファンタジー小説事情なんて。

 とりあえず、異世界来たらファイアー・ボールなんだよ。


 それに、ファイヤー・ボールが使えないネタ呪文だとは僕は思っていない。

 確かにファイヤー・ボールもサンダー・フォールも中級魔法だが、あくまで『素』のままである。

 魔法は組み合わせや魔法以外の要素で、威力や属性の強化ができるのだ。


「そうなんですか? それならそれで良いです。でも、このままだと一晩中魔物が襲ってくるでしょうね。こういう小屋は人が住んでいるように見えますから。自動迎撃を仕掛けましょうか。どんな風にいたしましょう?」


 そうだなあ。

 このまま一晩中、小屋を襲う魔物の相手をするわけにもいかないし。

 でかい音や派手な火の手をあげて首都の方から見られると困るから迎撃は斬撃で。

 ずっと襲われるのもぞっとしないし、認識阻害も掛けておいて欲しい。


 それより、さっきは随分派手にぶっ放したんだけど大丈夫だったかな?


「ちゃんと干渉波処理してあリます。首都の方から見ている人がいたとしても気づいた人はいないはずです。まあ、今夜の守りは認識阻害と斬撃には賛成ですね」


 リレイアは干渉波処理と認識阻害、自動迎撃システムを小屋のまわりに展開した。

 まず干渉波処理とは、音の打ち消し波形をぶつけて音を広げないようにする処理だ。

 要するにノイズ・キヤンセリングだな。これで、見える範囲の外側では音は全部打ち消されているので、察知されることはない。

 認識障害というのは、小屋があるという認識を邪魔するもので動物も人間もすぐ近くに来ても小屋に気づかず遠ざかっていくだろう。

 自動迎撃システムは、それでも小屋を襲ってくるような魔物をセンサーが自動認識して斬撃を放ち迎え撃つ。

 先程の5本の剣見たいな奴が無音でギロチン状に近づく魔物を切り刻んでしまう。


 夜は猪を食材にして、リレイアに夕飯を作ってもらった。

 僕の好みは未来の生活で完全に把握してもらっているので安心だ。


 出てきたのは野菜たっぷりの猪鍋だった。

 いわゆるぼたん鍋というやつだな。

 白飯と鍋はうまかったが、酒は付けてくれなかった。


「ケータ、転移した今は16歳ですよ」


 リレイアに指摘されて気づく。

 

 あっ、そうだった。

 うーむ、若くなったのは嬉しいがお酒飲めないのかあ。

 とほほ。


「ダメですわ。2年我慢してください」


 あー、この世界は成人18歳かあ。

 20歳からじゃないだけまだマシだけど2年の我慢かあ、2年は長いなー。


「なんでだ? この世界で飲酒年齢制限なんか守ってるやついないぞ?」

「ダメです。ケータの体はあくまで子供なんですから」


 ちぇっ、クリスクロスの()()()()()はリレイアに止められた。


 僕は食事の後、ゆっくり風呂に浸かり、ベットに入るとすぐさま寝入ってしまった。

 流石に慣れないことで疲れていたらしい。


 リレイアは回収した猪の体の残りと一部急所を突いてほぼ無傷の魔物を解体調査していたらしい。


「魔法……魔法はまだわかりませんわ。先ほどの魔物を解体してみましたが、確かに分析できない何かがあるのはわかりますの。ですが、殺された魔物に残る魔法の要素は時間とともに劣化が激しいようですね。あとは、えーーと。これですわ! とりあえずはこのガラス状の塊から解析します」


 リレイアは魔物の解体結果から魔法を解析するのを諦め、ガラス状の魔石の取得のみにとどめた。

 その他の部分については、皮革や骨などの採取も行っていた。


 僕は翌日、採取した魔石と各部位を見ただけだが、クリスクロスは、


「ボット? だっけか? ありゃあ、とんでもなくエグいなあ」


 と言っていたので、解体の詳しい様子はリレイアに尋ねないことにした。

 確かに小ロボットが群がって魔獣を切り裂いていくグロい姿は見たくないからね。


酷いお絵描きですいません。

Windowsのペイントブラシにマウスで描いたにしても酷い……それでもないよりわかりやすいかと思いまして……


次回は、『18話 旅人と出会(でくわ)してみれば』 6/7投稿予定です。

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