16話 未来のAIが悩んでみれば
16話です。
魔法を使えないリレイアですが、魔法に干渉する方法を取得します。
アルファニアに転生してからと言うもの、一つ困った問題が生じていた。
ケータが魔法修行をしようとすると必ずリレイアが同行を申し出てくるのだ。
何度も大丈夫だからと言うのだが聞いてくれない。
「ああ、ケータ。あの魔獣は危険です! 毒です。毒があるようです! ここはわたくしがぁぁぁ」
「お前の力は制限したから、ついてきても無駄じゃねーか? 力不足の役立たずだろ?」
クリスクロスがそう混ぜっ返す。
すると、どうやってるのかわからないが、パワー制限されているはずのリレイアが、魔物を大出力の武器で葬り去ってしまう。
「これくらいヤレますのよぉぉぉぉ!! 町工場舐めんなぁぁぁ!」
ちゅどぉぉぉおん!!
……リレイア……キャラが崩壊してるぞ?
町工場にトラウマでもあるんだろうか?…………
いやー、それにしてもこの破壊兵器の威力!
これ制限された『町工場程度の出力』のはずないよね。
魔獣はまっ黒焦げ。辺り一面、森の50m四方が火の海だ。
これでは僕の修行にならないし、クリスクロスもリレイアのやりたい放題にキレていた。
「お前、どういうつもりだよ! これじゃあ、ケータの魔法の練習になんねぇし、森を焼き払うほどの武器を使われちゃ困るんだよ!」
「そんなこと言っても、あの魔獣は危険でしたわ! それに出力は町工場並みに制限しましたわ! 毒もあったようですし、ケータに何かあったらどうするんですか!」
「お前は、過保護なバカ親か!」
「なんですってー!」
一事が万事こんな調子である。
リレイアはまだ直接火力に繋がる攻撃出力エネルギーを制限されずにいたが、我慢して制限予定火力内で攻撃していた。
それでいてあの火力を実現できたのは、まだこの世界では一般的でない爆薬か何かを適当に調合してブッ放したに違いない。
この世界の物質についてはすでに神アルーダから聞いて把握しているのだ。
たとえ火力が少なくとも未来知識で化学反応でも何でも使って、威力を増大することはいくらでもできる。
すなわち、一次的出力としては制限予定火力内の出力ではあるが、未来の仕組みを使った二次的火力は制限を大きく上回りオーバーキルもいいところなのである。
56世期の知識の応用なのだが、こんなことを続けられてはクリスクロスもお手上げだ。
神アルーダもリレイアが出力制限を守っている以上、強く出られないでいた。
リレイア自身もこのままではいけないとは思うもののケータを1人で魔法修行に出す気にはならず悩んでいたのである。
で。
結局どうしたかと言うと僕の魔法修行を後回しにすることになった。
リレイアが心配性になっている原因は、魔法に対する理解度の不足からだ。
すでにケータは魔法力・魔法習熟度ともに、この森で修行するのには十分なのだが、魔法自体をあまり信用していないがために、ケータが安全であるかどうか不安なのだ。
それならリレイアが先に魔法知識を習熟すればいい。
ケータと相手の魔法の力の差がわかれば心配せずに済む。
ケータが圧倒的な魔法を習熟しても良いのだが、それまでが大変だ。
とりあえず、ケータを守るバリアのようなものをリレイアは習得したいのだ。
リレイアは魔法を使えないが、相手の魔力に干渉することができれば、ケータを守ることができるようになる。
そうなれば、アルーダが課そうとしている制限も受け入れられるだろう。
その間、僕は、この世界の勉強をすることになった。
運動不足になるのは嫌だったので、小屋の周りの力場を400m四方まで広げてもらった。
その付近の草花を採ったりして、食べられるもの、薬草になるものなどを知った。
運動や武具を使った稽古などもした。
まあ、この世界は『剣と魔法の世界』でもあるし、魔法が使えても運動神経が鈍くて武器でやられたら困るからである。
それに、リレイアは一日べったりで、部屋の中でも外でも僕にアルファニア世界の知識を教えていた。
「ケータに教えんのはいいとしてもよ。ずっと着いていたんじゃ、リレイアの魔法の研究なんてできないじゃないか! お前も魔法を習得しなくちゃいけないんだろうがよう!」
「してますわよ?」
「へ?」
クリスクロスはリレイアに噛みついた。返事を聞いて『何言ってんだ?』って顔になっている。
リレイアは僕の勉強にかかりきりなのだからクリスクロスがそう思うのも当然だ。
僕は助け舟を出すことにした。
「リレイアは高性能なAIだからな。僕に教えているぐらいでは、研究の障害にはならないのさ」
「そうなのか?」
「ああ、多分数日で成果を出してくるよ」
「信じらんねぇ」
「まっ、見てなって」
納得いかない感じのクリスクロスだったが、それから本当に数日でリレイアは魔法に干渉する方法をマスターしてしまった。
僕も最初にアルーダ様に詰め込まれた知識から1ランク上の魔法知識を習得していた。
◇
リレイアがマスターした魔法に干渉する方法。
「羅鉄鋼」の分析を行う前に、アルーダから与えられた知識の考察から始めた。
まずは基本。
魔法の属性は8個ある。火、水、風、土、光、闇、無、聖。ここまではわかる。
そして対照属性。
火と水、風と土、光と闇。
無属性には対照属性はなく、聖属性は無以外の全ての属性の対照属性とも言える。
つまり「聖」の対照となるのは「魔」なのである。
例えば、火属性の魔素はすでにそれ自体「魔」なのであるので「聖」の属性とは対照とも言える訳だ。
それなら「聖属性の魔素」というのは理屈に合わないのだが、これは「魔」の属性を持たないだけで他の振る舞いは他のものと同列であるため「魔素の一種」と考えた方が理解しやすい。
言うなれば、火、水、風、土、光、闇は魔性がプラスの魔素、聖は魔性がマイナスの魔素。
言うまでもなく、無は魔性がゼロを示すと考えられる。
その他もろもろと魔法・魔素の持つ意味・指向・作用などについて順に理解を進めたのち、「羅鉄鋼」の分析を始めた。
「この欠片の構成要素はほぼ鉄です。あちこち錆びちゃってますし、鉄の構造がボロボロでミクロで見ると穴だらけで、何か不純物が混じっています。こんなもので魔獣に対応できるんでしょうか?」
軽くカンカンと叩いてみると意外に硬い。
「思ったよりも丈夫ですね。ここまでボロボロだと一気に崩れてしまうのではないかと、慎重に叩いてみたのですがその心配はなさそうです。そういえば、この欠片は、農夫が使うと神アルーダは言っていたでしょうか」
この世界の農具。特にこの地方の鍬や鍬、鎌などとこの羅鉄鋼の欠片を見比べる。
「ああ、全て農具の先に羅鉄鋼を挟み込む場所がありますね。挟み込むと尖った出っ張りができます。その尖った部分を槍に見立てて相手側に向けるのですね」
リレイアは羅鉄鋼を上から見たり下から見たり、触ったりしている。
「あれだけ丈夫なら確かに使い道はありますわ。しかし、農民が魔物に襲われた場合、体力差が大きいですから単に丈夫なだけでは対処できないと思うんですけれど……。先ほどはおっかなびっくり軽く叩いただけですが、もう一度しっかり強度テストをしておきましょうか」
そう言いながらも大切なヒントになる道具だ。
壊してしまっては困る。
だが、そもそもそんなに脆いものなら魔法以前に普通の武具や魔獣の牙や爪に対抗できるはずもない。
それなら、まずは普通の鉄と軽くぶつけて見まることにした。
カシャン
なんと欠片にぶつけた鉄は真っ二つに割れてしまった。
しかも鉄がぶつかったのに、羅鉄鋼をつけた農具に反動がほとんど来ない。
「これは凄いです! 今ぶつけた力は子供が石を投げた程度の威力しかなかったはずです。こんなボロボロな欠片でも神様がくれた品ですから、恐る恐るぶつけたんですが。それなのにぶつけられた相手の鉄鋼が綺麗に二つに割れますかね? まあ、こんなことが可能なら確かに農夫が小型の魔物を倒すことは可能ではありますね」
リレイアはじっくり考えると言った。
「しかし、そうなると本当にこの欠片の正体が何なのか気になります。成分はと……この欠片の構成要素はほぼ鉄です。成分からでは鉄が割れた理由がわかりませんわ」
リレイアは羅鉄鋼を詳しく調べ始めた。
まずは非破壊検査として考えられるすべての検査を行い、その後拡大して細かく見ていくことにした。
虫眼鏡ぐらいの倍率から、光学顕微鏡、電子顕微鏡レベル、そして流石は56世期。
21世紀ではあり得なかった電子一つ一つの位置情報記録を取り始めた。
「ああああ、これは何でしょうか!? 鉄以外の不純物だと思ったものがおかしな挙動をしています。一部の物質の最外殻電子が明らかにおかしい。K殻は2個で安定のはずなのに、8個の電子で安定しています。またM殻も8個で安定するものと16個で安定するものがあります。いや、これは電子……のような物ではあっても何か違うもののようです。それと鉄との化合物も不明なものが見えます」
リレイアは、21世紀の高校生でも知っている元素の周期表を空に書き浮かべるとあーでもないこーでもないといってその形を変え始めた。
その表の隣に火、水、風、土、光、闇、無、聖 と書き込み、ひとしきり考えると新たな元素記号を編み出した。
Mf 火属性魔法素。(fire)
Ma 水属性魔法素。(aqua)
Mw 風属性魔法素。(wind)
Me 土属性魔法素。(earth)
Mr 光属性魔法素。(ray)
Mb 闇属性魔法素。(black)
Mu 無属性魔法素。(Unattributed)
Mh 聖属性魔法素。(holy)
「とりあず、この世界で魔素と言われる物を化学的に命名してみましたが、こんな物でしょうか? Mで始まる元素はいくつかあるので、記号がダブらないように命名するためちょっとこじ付けがあるのは仕方がないでしょう。これを元に仮の魔法元素付周期表を作るとすると……」
「電子の挙動から考えて第三周期に入れるのが妥当に思えますが、場所は一考の余地ありですね。聖属性魔法は同じ仲間としては扱うには何か違和感があります。まあ、分子量や電子数で並べることができないので仕方ありませんが。問題はそう簡単に化合物が作れないことです。例えば、単純に 火属性ナトリウム(NaMh) のような物はできません」
そこで、リレイアはしばらく考えていたが。
「何も従来の周期表と同じ並べ方を考える必要はありませんね。大体第一周期から第三周期の間にあって、他の元素との折り合い方も特殊ですから。となると、こうですか」
どうも気に入らないみたいだ。
「従来の形に捉われることはありませんわね。そうするとこんな感じでしょうか?」
まずまずと言ったところで、暫定的な線が見えてきたらしい。
次は、リレイアが使用可能な形の魔素を含んだ物質の合成だ。
今、わかっているのは羅鉄鋼の中に、魔素を含んだ分子があると言うことだけ。
それを再構成する方法を見つけるか、それとも……
リレイアが最初に試したのは、56世期ならではの高等技術。
力場に作用することで疑似的な超微細レベルのピンセットを生み出して、原子1個単位で直接つまんで化合物を作る方法だ。
だが、この方法は何度試しても失敗する。
この魔法元素というのは単なる力場では掴むことができなかった。
いや、正確には掴んだ瞬間に雲散霧消してしまうのだ。
この方法は諦めたらしい。
となれば次に、何とか魔法元素の電子を弾いて化合物同士をぶつけてみた。
魔素を含んだイオン化合物はできないか?
高圧高温状況下ではどうか?
しかし、火属性ナトリウム(NaMh)とか、闇属性マグネシウム(MaMb)とかの期待していた化合物は得られなかった。
しかし、それでもリレイアはめげず、最初に神アルーダからもらった羅鉄鋼を1分子1分子気の遠くなるような忍耐強さで調べていった。
やがて。
「あっ……これは。見つけました。魔法素と普通の物質の化合物が安定して存在しています。これだけで決して全ての魔法系統を網羅することはできませんが、とりあえずこれを応用すれば魔法を唱えることができない私でも扱うことができます」
リレイアが羅鉄鋼の構成物質の中でボロボロの鉄の穴の中にある不純物だと思っていた化合物は、ベンゼン環に似た構造を持っていた。
「コモンで存在する分子はこのアルファニアでも安定して存在できるようです。このように両方存在できる分子はいいとして、問題は魔素を含む分子ですね」
「普通のベンゼンはC6H6。これはC5MfH6。炭素の一つを火属性魔法素に置き換えた物です。正しくは複素環式化合物ですか。これも仮称で魔芳香族とでも呼びましょうか。この形なら安定して『触れ』ます」
リレイアが『触れ』ると言うならば、その物質を作ったり扱ったりすることができると言うことだ。
しかし、このままでは単に一つの魔素を含む分子を扱えるようになっただけだ。
魔法に対し大きな対抗力を生み出すことはできない。
分子レベルで扱えるようになったのは進歩には違いないのだが。
「念のため、トルエン(C6H5CH3)のように水素を置換したものは……と、この方法だダメそうですね。一瞬出来かけますがすぐ分解します」
それでもリレイアには十分なヒントとなったようだ。
魔芳香族をそれぞれの属性ごとの6種類生成することに成功した。
火、水、土、風、光、闇。
無属性と聖属性は作れなかったが、それは後の課題とした。
少なくとも6種の魔素を『触れる』ようになったのだから。
ただ、依然として分子一個では大きな力を発揮することはできない。
しかし、今までの数々の実験は無駄ではなかった。
魔芳香族に水素置換が可能であることを発見すると、問題の解決はすぐそばだった。
魔芳香族が単分子であったとしても、メチル基を水素置換できるとわかったので、それを横に数珠繋ぎすればいいだけだ。
魔芳香族同士の高分子化。
ポリ化合物の誕生である。
例えば、火属性魔芳香族の高分子化合物により膜を形成すると火属性魔法に対しては反発し、水属性魔法を吸収するバリアとすることができる。
見た目はビニール袋みたいな膜なのだが、中級魔法士の唱えるファイアボール相当の火属性魔力を10発食っても破れなかったのである。
また、逆に火属性魔芳香族で塊を作り、それに起爆エネルギーをぶつけると炭素水素がまず燃え出し、最後に残った火属性魔法素の衝突により大炎上することがわかった。
爆発したように見えるがその温度上昇はとんでもなく数万度に達しているため、そこらの魔法使いの放つ火属性魔法とは別格の威力を持つようになった。
大魔道士の複合属性付きの灼熱魔法に匹敵した。
その後は早かった。
魔法そのものは使えないものの魔法に作用させる物を生み出すことができて、対抗できるならばあとは56世紀の技術がある。
リレイアは魔法に対する防御方法を確立すると、次には魔法の探知、最後に魔法による攻撃方法を考案していった。
ただし、攻撃魔法は威力を上げることにはほとんど注力せず、相手の守りのタイプに応じたバリエーションを増やすことに注力していた。
その背後には56世期の技術力があり、単なる火力勝負なら負ける気がしなかったことと、ケータを守る観点からなるべく苦手を作りたくなかったからである。
やがて、リレイアはケータの勉強を中断して言った。
「明日から魔法修行を開始して下さい。わたくしも同行します。今後は少々の無茶にも対処できますので、ケータは存分に大型魔獣を倒す訓練を積んでください」
「リレイア。ついに魔力を扱えるようになったんだね」
「ええ」
それを聞いて驚くクリスクロス。
「マジかよ。まだ3日と経ってないんだぞ!」
「なんなら試して見ますか?」
本気にしないクリスクロスだが、僕は意外にいい案だと思う。
ここでリレイアの実力を知っといてもらった方が後々助かるだろうし。
「そうだなー。クリスクロス、やってみろよ!」
「ええぇぇぇ! やるってーのか?」
「ああ、まずは火属性からかな」
それから、クリスクロスは初歩の火属性魔法をリレイアに送ったが、届かずにかき消された。
「やるな!」
「いや、自信のあるリレイアに打つなら最低でもその10倍の力で魔法を打たないと耐久力わかんないぞ?」
「そ、そこまでなのか?」
「大丈夫だから」
僕にはわかる。
リレイアが大丈夫だと行ったら、今の100倍でも大丈夫だろう。
「おいら知らねぇぞ」
クリスクロスは、強力な魔法陣を浮き上がらせると火属性魔法をリレイアに向かって打った。
「バーン・テンペスト」
ファイアボールとは桁が二つ違うほどの猛火がリレイアに襲い掛かると思った瞬間、わずかに空間が光ったがやはり魔法はかき消えた。
「スゲェもんだな。信じるよ。でも他の属性はどうなんだ?」
「無属性と聖属性以外なら大丈夫です」
「その属性メインの攻撃魔法はないから大丈夫」
「そうなのですか?」
リレイアが怪訝な顔をする。僕もちょっと意外だ。
なぜ、無属性と聖属性の攻撃魔法は本当にないのだろうか?
「ああ、その二つの属性を主属性とした攻撃魔法はねーよ」
クリスクロスは断言した。
◇
翌日からクリスクロスの態度が軟化した。
やっとリレイアとも打ち解けたような気がするが……
「なんで、魔力反転した時に毒性を追加しちゃいけないんですか!」
今度はリレイアは万が一に備え、相手の魔法で対魔法膜が破れた時の対策を練っているらしい。
なんでも、破れた瞬間に再構築するだけでなく、破れた膜が毒液化して相手に浴びせて反撃する仕組みを考えているとか。
「そんなおっかないこと考えてんじゃねーよ。実はお前、妖精じゃなくて悪魔なんじゃねーか?」
「んっ、まあ、酷い! 信じられませんわ! 安全のためじゃありませんか! ケータも何か言ってくださいまし」
打ち解けたように見えたのは、気のせいだったらしい。
またまたすいません。エセ科学で(エセ魔法かも)
とりあえず、リレイアも魔法に干渉する技術を手に入れたと言うことでお願いします^^;;
次回は、『17話 ケータが修行を続けてみれば』 6/3投稿予定です。




