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13話 未来で命が尽きるならば

13話です。

未来でもやはり治療できなかった慶太。

神に送られ、AIリレイアと共に異世界に渡ります。

 来栖川慶太の体に異変が起きた。

 すでに56世期に来て6年の歳月が流れていた。

 

 健康を取り戻しているように見えた体は、急速に衰弱していった。

 体の傷は治せても、(たましい)についた傷は心の奥底に(わだかま)っている。


 これを(いや)(すべ)はこの発達した未来にもない。

 いよいよ、命運が(つい)()きる時がきたのだ。


 リレイアは、せめてもの延命(えんめい)策として、慶太を亜空間に移動していた。

 元の居室(きょしつ)全体はもぬけの(から)となっていて、ここには慶太の他にはリレイアしかいない。

 亜空間では時間の進みをわずかながら遅らせることで、悪化を食い止めているが時間の問題だ。


 すると、その空間が異質なものに変わっていく。

 神域(しんいき)に包まれたのだ。

 そこには、天井も地面も存在しないが、不思議な雲があり時々光が虹色に光が走る。

 慶太の状態は悪いままだが、これ以上は悪化しない。


 そして神々が現れた。


 中央に主神ルルカ、隣にはその属神ルーラウがいる。

 さらに、時神(ときのかみ)ペトリチカ、哲意神(てついしん)サムナル、理神(ことわりのかみ)ローラスナウなど多くの神が主神の両脇にかなり離れて現れ列を成す。

 これらの神は時を超える時、心の意味を問う時、人の運命を変える時などこれから慶太を救うのに必要な仕事をするために呼び集められた。

 神が並び終えると、その外側には光の柱が手前から奥に順々に立ち、さながら光の宮殿となる。


 そこで神ルルカが語る。


「今日、来栖川慶太の命が尽きる。一応不慮(ふりょ)の事故がないようにこの場所は、時間経過のない保護空間となっておる。これから異世界アルファニアへ転生するわけじゃが、このままでは異世界に行っても生きながらえることはできん」


 その言葉はリレイアはうなづく。

 来栖川慶太の身体は衰弱しているだけではなく存在感が失われつつあり、もう本当に残りの命が少ないことが見て取れる。


「残された時間は少ない。今のうちに慶太の全人生を遡及(そきゅう)して異世界に、何歳時点の精神と肉体をベースにして転生させるか決めなければならぬ。サムナル、ペトリチカ。この来栖川慶太の運命と意志の流れ(さかのぼ)り基準点を探せ」

「「ははっ」」


 サムナル、ペトリチカの2神は同時に手を振る。

 手の先から細い神力(しんりょく)が横たわる身体の周りに降り注ぎ明滅(めいめつ)しながら慶太の体は少しずつ若返っていく。

 やがて落ち着き薄いベールのような(まく)に包まれた少年の姿になった。


()めよ」

「「はっ」」


 2人の神から神力が途切れ、慶太はそのままの姿で横たわっている。

 若返る前よりその存在感が大きいようにも見える。


「ここじゃな。こやつの不幸な人生も16歳までは、命を縮めるほどダメージを受けていない。そこで、異世界に送る彼の身体と精神年齢は16歳を基本とする。心配なこやつの魂の負担については、コモンから解き放たれることによって解消するじゃろう。問題は記憶じゃ。今の状態は16歳以降の記憶も失われている」


 そこまで言うとルルカはリレイアの方に向き直る。


「ワシが救いたいのはここまでの()(ざま)そのものでもある。苦い経験も必要じゃ。よって、21世紀で過ごした40年と56世期で過ごした7年については、その記憶をこの体に戻す」


 そういう神ルルカの言葉にリレイアは(あわ)てる。


「ちょっとお待ち下さい。ルルカ様。それでは慶太様は、あの不幸な記憶を持つ限り、異世界でまた同じように命をすり減らしてしまうのではないのですか」


 それには、神ルルカはフッと笑う。

 それには人を、いや人だけでなく神をも安心させる慈愛と過去の後悔が含まれていた。


「大丈夫じゃ。こやつの命運を削っていたのはほかならぬ神じゃからのう。異世界に行くときは、神々の干渉の()しき(ごう)を取り除いた状態で転生することができる」

「しかし、それでも……」

「まあ、待て。お主の言いたいことはわかる。こやつの経験と記憶と性格が、また自分の命運を削る何かを引き込むと考えているであろう?」


 コクコクとうなずくリレイア。


「それについては、異世界に行くことで悪しき運気(うんき)の流れを『ほぼ』断ち切ることができるでな。あくまで『ほぼ』であって『完全に』ではないが、あとはお主の仕事じゃ。アルファニアの主神アルーダからも全属性の上級魔力を与えることになっておる。転移当初は中級レベルじゃが、成長とともに少しずつ伸び一応上級の魔法使いになることは約束されておるが、最高レベルまで魔力は伸びるかどうかは今後の精進(しょうじん)次第じゃな」


 そう言って、神は空中の一点を見つめるとそこに小さな宝玉(ほうぎょく)が浮かび上がった。

 慶太の方へ右手で押すように突き出すとそれは慶太の胸の中に溶け込んだ。

 一瞬、慶太の顔が(ひず)み、髪の毛が真っ白になってしまった。


「慶太様!」


 リレイアが()け寄ろうとするが、それをルルカは制する。


「大丈夫じゃ。これが、こやつの記憶と経験そのものじゃ。一度に辛い経験が戻されたことにより髪の毛に影響が出たようじゃが、他には影響はないようじゃ。この髪の色も時期に解消される」


 そこまで言うとルルカはちょっと俯く。


「本当は、性格も治そうかと思っていたのじゃ。すぐ『自分など』、『自分が泥を(かぶ)れば済むならそれで良い』のような自虐(じぎゃく)であったり、自己犠牲(じこぎせい)であったりするその性格をな。だが、出来んかった。これは、ヤツの性格の根本に(ひも)づいておっての。これを変えては、慶太が慶太でなくなってしまうでの」

「ああ、わかります。そこが困ったところなんです。自己犠牲は、確かに立派な心のあり方だとは思うのですが、その根源(こんげん)に自分を軽視(けいし)する()(ばち)なところが見受けられるので」


 それをほー、と言う感じでルルカは(うなず)く。


「よくわかっておるの。そこじゃ。そこをサポートしてもらうためにお主について行ってもらいたいのじゃ。そなたには、こやつの悪い意味での自己犠牲を()めてもらいたい」

「そういうことでしたか。それなら納得です。もし捨て鉢な自己犠牲を発揮しそうな時は慶太様を徹底的に説教してやりますよ。……と、それはいいとしてそれだけですか? 私をサポートに呼んだ理由は」

「いや、それは確かに慶太が慶太として暮らしていくには一番重要ではあるのだが、アルファニアで生き抜くためには、お主の……というか56世期の力が必要になる」


 そこまで言うと、また一呼吸置いてルルカは語り出した。


「実は、アルファニアには21世紀のコモンからすでに数百人の日本人が異世界転移しておる。転移の際には、皆アルファニアの主神アルーダから上級レベルの魔法力を与えらている。転移後の人生は、アルファニアに住んでいるものより優位にあるはずだ。しかし、転移者のうち何割かは無謀(むぼう)な冒険の果てに死んだ。世捨(よす)て人となった者もいる。もちろん、異世界のためになって働き続けておるものもいるのじゃが、決して十分ではない。じゃが、一番問題となるのはその魔法的優位のみを使い、原住民を(ないがし)ろにしてまで利己的(りこてき)贅沢(ぜいたく)な生活をする者たちである。いわゆる『あぐらをかいた』者たちよ。こやつらは自分が吸っている甘い蜜の邪魔をするとなれば牙を()くだろう」

「わかりました。ですが、その困った者たちがアルファニア全体にどういう影響を与えているんですか?」

「魔法嫌悪(けんお)じゃ。正確には嫌悪感が引き起こす魔法文明の衰退(すいたい)じゃな。魔法的に優位な立場の者たちの横暴に異を唱えるのは当たり前なのじゃが、魔法自体が嫌悪の対象となれば魔法能力も減退(げんたい)し、やがては転生先の惑星ランゾルテ全体から魔法がなくなるやも知れぬ。この魔法を持つ貴重な文明が衰退した場合は、アルファニア全体の意味消失(いみしょうしつ)につながる」


 その一言(ひとこと)(ひる)むリレイア。


「お、恐ろしいことですね。しかし、魔法のある無しがそんなに大きいものなのでしょうか」

「ああ、それは世界の継続には意志が必要であるからじゃ。一般に高度な文明があれば、それだけ強い意志の力が強い。そして、魔法を持つ文明はその中でも桁違いの意志力を持つ。まだ、文明を持つ星の少ないアルファニアでは、この星の魔法を持つ文明の持つ意志力は絶大である。この文明が残ったとしても魔法がなくなれば、アルファニアの世界全体が(つぶ)れてしまうほどにな」

「わ、わかりました。わかりましたけれど、私は魔法も使えませんし、何をすべきかもわかりません」

「魔法についてはそのうち何とかなるじゃろう。慶太は魔法を転生直後からある程度使えるのだから、よく観察してちょっと考えてみると良いぞ。これ以上のヒントはやれんな」


 なんとかなるとは無責任ではあるが神様の言うことでもあるし、リレイアはそれ以上気にしないことにした。


「魔法についてはわかりました。では、私が異世界でまず最初にすべきこととは?」

「そうじゃな。まず一番大事なのは、慶太の治療と生活の安定じゃ。その上で使命としてそなたにやって欲しいのは慶太とともに魔法の啓蒙(けいもう)を行なって欲しいのじゃ。魔力は程度の差こそあれ大抵の人間が持っているのじゃが、それに気がつかず魔法が使えないと思っているものも多い。その意識を変えて欲しいのじゃ。そのためには魔力が少なくても起動できる魔法の開発もお願いしたい。わずかな魔力があっても使える魔法がなくては、気がつきようもないということじゃからな」


 リレイアは認識の違いに戸惑(とまど)っていた。

 コモンには魔法はなかったものの歴史上数々のファンタジー小説は存在していたので、魔法はすでにあるもの又は現象という先入観があるからである。魔法とは開発するという考え方はなかった。

 しかし、同時にそれならばできるのではないかとも考え始めていた。


「次に『あぐらをかいた者たち』についてもどうにかして欲しいがの」

「悪い転生者を(かた)(ぱし)から討伐(とうばつ)するんですか」

「いやいや、そこまで苛烈(かれつ)なことは言っておらん。まあ、場合によってはその必要があるかもしれんが。しかし大抵は、ちょっと()らしめる程度で改心(かいしん)する者も多いのじゃ。なるべくは説得とか自分の傲慢(ごうまん)な態度などを気づかせることで、円満(えんまん)に済ませたいものじゃの。こちらが手加減しているのに相手が暴れた場合はかなり厄介(やっかい)なことになるじゃろうが、それでもまあ遅れをとることはないじゃろう。何せ相手は魔法が使えるとはいえ21世紀の日本人じゃ。そなたには56世期の力と知識がある」


 過大な期待を掛けられても困る。

 56世期の力があると行ってもAIが万能ではないことをリレイアは知っている。

 しかし、それも良しとしよう。


 だが……


「荷が勝ちすぎてはいませんか? 私にではなく『慶太には』です。性格的に。それと私に56世期の力があると言っても、慶太が魔法に習熟するまではやはり危険があります」


 そこで、いきなりワッハッハと呵呵大笑(かかたいしょう)したルルカは


「わかっておるわかっておる。まずは転生者との対決は避けよ。異世界の大魔法使いともな。多少悪人がいたところで放っておけ。最初にやるべきは、アルファニアに慣れること。その中での成長じゃな。生活の基盤を得ること、魔法に習熟(しゅうじゅく)することはもちろん慶太の人生において、説得とか人に気づかせる、(さと)すということは、彼の行動のベクトルとは正反対じゃ。自分の魔法力にあぐらをかいて幅を利かせている転生者を見たとしても、今の慶太では影で割を食った人々をサポートするくらいで、転生者本人には何もしないであろう」

「それはわかります。そうなるに違いありません。ため息をつきながら他人の尻ぬぐいをする姿が目に浮かぶようです」


 慶太の性格については意見の一致を見るAIと神である。


「そこを変えていくのが、お主の役目じゃ。慶太は尻込みするじゃろう。そこを焚き付けろ。そのために心を強化してあるのじゃ。説得に失敗したとしても心が折れないとわかれば、再度挑戦する気力も湧くというものじゃ」

「ああ、なるほど、慶太は『すでに自分の心が強くなっている』ことに気がついていないので、それを試させることで本人が自ら気づくように仕向けるのですか」

「その通りじゃ。まだまだ話しておきたい事はあるが、そろそろ時間じゃ。ローラスナウはおるか」


 一人の神が呼ばれた。

 理の神ローラスナウ。


「はっ、ここに」


「こやつの命運はかなり補強したのだが、それを保ちながら異世界に送るのはかなり難しい。運命を(つかさど)るそなたなら転移時の危険を察知(さっち)できよう。転移の術はそなたに(まか)せたい」


「ルルカ様。大変名誉な事ではありますが、辞退いたします。わたしでは危険を察知することはできても、異世界転移時の非常事態には対処することができません」

「そうか……では、ルーラウ」

「はっ」

「誰か適任はおるか」


 ルーラウは周りの神を見渡す。

 名乗り出る神がいれば任せるが、自分がでしゃばることなどできない。

 この難しい転移には、成功の確証がなければ候補者の名前を上げることなどできない。


「いえ、単なる異世界転移であれば身分の低いわたくしのような属神でも問題ありません。しかし、今回の転生者は転移の際に大きな危険を伴います。対処するには専任の神がいない以上、難しいかと」

「そうじゃの……では……ヌルスはおるか」


 その一言に神々の間で動揺が広がる。

 ヌルスとはまだ誰にも属しておらず、何も司ってもいない最も下位の神である。

 このような大義をこなせると誰もが思っていない。


「はっ、ここに」

「お主に来栖川慶太の転移を申し付ける」

「はっ、し、しかし」

「なに、ワシも力を貸す。それとこれをもってヌルスを次元神(じげんしん)とする」

「はっ!!……拝命(はいめい)します」


 周りの神々はヌルスを見る。

 しかし、もう誰も力不足だとは言わない。

 思いもしない。


 それまでは半人前の神であったはずのヌルス。

 だが、主神ルルカが次元神に命じた以上、その神にはその力が宿る。

 主神が「次元神」という仕事を与えた以上、疑念の余地がない信頼に値する力を持つというのは、天界の不問律(ふもんりつ)なのだ。


「さて、リレイア。待たせたの。慶太のことは頼んだぞ」


 慶太に転生の時が訪れる。

 すでに髪の毛の大半は黒に戻っているが、毛先が2cmだけ白いままである。


「少し残ってしまったの。これをどうにかするのはリレイアの役目じゃ。なーに、このままでも問題はない。ここからは急がずゆっくりと慶太と成長するが良い」

「わかりました」


 ルルカはちょっと間をとり、やがて。


「では、始めようかの」


 ルルカが右手を振り、やや遅れてヌルスが右手を振る。

 光がルルカからヌルスを経由する瞬間、大きな神の威厳(いげん)がその体に宿った。

 ただの神から次元神にヌルスが成った瞬間だった。

 そして、白い光に包まれ、来栖川慶太とリレイアはアルファニアに転生していった。


 転生が終わった後、神々は神域から退場していったが、ヌルスとルルカ、ルーラウだけが残っていた。


「どうした?」

「ルルカ様。せっかく地位と力を与えて下さったのに、転生は不首尾(ふしゅび)に終わりました。わたくしはまだ未熟なのでしょうか?」


 転生を終えたヌルスはおろおろしている。


「なぜじゃ。アルファニアへの異世界転生はワシもしかと見届けたぞ」

「はい、転生自体はうまくいったのですが、貴重な『神の力』を『魂二つ分以上』使ってしまいました」

「ほう……そうかそうか。……いや、問題ない。お主の『神の力』は無駄に使われたわけではないのは見届けておる。今後アルファニアへの転移はお主に託す。(はげ)めよ」

「はっ」


 ヌルスはホッとした顔で神域から退場していった。

 ルーラウはルルカに問う。


「『魂二つ分以上』とはどういうことでしょう?」


 それにルルカは悪戯(いたずら)でもしそうな顔で答える。


「だから魂を複数送ったであろう?」

「……魂を持つのは慶太一人のはず……ええっ!」

「そうじゃ。ワシも驚いたがの……もう、この神域も閉じる。行くぞ」

「そ、そんな。待ってください。信じられなくて……ああっ、わかりましたよー」


 最後にルルカとルーラウが去り、神域は収縮し、意味消失し消えていった。


 神様ルルカとAIリレイアが慶太について話す時、もっと前向きで自分を大事にする性格になって欲しいという願望があります。

 21世紀で死に56世期でも死んだ慶太が、異世界では今度こそポジティブに暮らしていけるでしょうか?


次回から『異世界の章・転生編』です。


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