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12話 神とAIが不思議な邂逅をしたならば

 12話です。


 慶太を気遣う2人(とは言ってもどちらも人ではないですが……)未来のAIと神が邂逅します。

 リレイアが今日の覚醒学習は中止にすると言った。


 慶太はリレイアの様子が何となくおかしいと感じていた。

 もし単に学習中止にするとしても、もう少し人間味ある言い方をする、と。

 理由を説明したり、わざと押し付けがましく『休みにしてあげますよ』みたいな感じで(おど)けたりしそうなものなのに、そっけないと言うか……。


 「妙というか、珍しいな……まあ、たまにはこんなこともあるか」


 そう慶太は感じたが、その印象は正しい。

 

 今、リレイア本体はここにはいなかった。

 話していた相手は見た目こそいつものリレイアだったが、その実は機能収縮版のコピーサブAIだったのだから。


 『人と人』または『人と自分の担当以外のAI』がリモートで会話をすることはある。

 しかし、『AIがサポート対象の人』とリモートで会話をするというのはまずない。

 通信はどんな形式でもハックされる可能性がある。

 自分の担当AIが必ず身近にいて、通信をチェックする必要があるのだ。

 なので高度なAI同士ならいざ知らず、21世紀からきた人間では簡単に(あざむ)かれてしまう。

 なので、その場にいない場合はコピーサブAIを実行させておくというのが一般的だった。

 コピーサブAIは、元のAIが外出から戻るまで外部からの個人的通信は受け付けない。


 では、もしAIが外出から帰宅した場合はどうなるのか? 

 帰ってきたときに本当にそのAIは出かけたAIと同じ個体なのか? 

 他のAIが(いつわ)って入り込む心配はないのか?


 答えから言うと、それはない。

 AIは家(というか部屋だが)に登録されていて、その登録情報は偽ることができない。

 したがって、住人が判定できないとしても家がAIを見誤(みあやま)る可能性はない。

 家自体はAIにセキュリティーを依存しているが、家に登録されているAIについての情報のみ確実なセキュリティーを保持している。

 その辺は流石、未来の家。謎セキュリティーは万全だ。


 では、リレイア本体の方はどこいるのか?

 実は別にどこかに出かけたわけではなかった。


 リレイアは、どこでもない場所、どこでもない時間空間に(まね)かれていた。

 信じられない相手ととても重要な話をするために。


「この空間に迷わずこれたのなら、ワシが誰かはわかるようじゃの」

「それは適切なガイドを頂けましたから……全能(ぜんのう)の神ルルカ様ですね」

「いや、ワシはこの世界コモンの主神ではあるが、全能ではない。それより、管理AIサーバであるそなたは、ワシが認識できるのだな」

「はい。生きとし生けるものではない私が、神の姿を見ることができるとは思いませんでした」


 リレイアは神からの招聘(しょうへい)により神域にいた。

 この空間へのアクセス方法も伝えられていたので、やってくることができたのだが、それ自体がリレイアに対する試験でもあった。

 リレイアはその試験をクリアした。

 だからこそ、こうやって神との邂逅(かいこう)が果たせたのである。


 リレイアは元々管理AIサーバである。

 公的には(たましい)を持つものとしては考えられていない。


 神の存在。

 それは生命の根源(こんげん)である魂との関わり合いと不可分の関係にあるため、認識も会話も出来ないはずである。

 しかし、リレイアには神が見えたし、それが神であるということも完全に理解できた。


 そこまで、話すと神ルルカはフッと笑い


「であれば、ワシの要件もわかるじゃろう」

「はい。来栖川慶太様のことですね。もしかして、何か心配があるのでしょうか?」

「そうじゃ、それについてはお主も薄々気が付いているのであろう」

「はい。いえ……はい」


 リレイアは躊躇(ためら)いがちに答える。

 慶太には何か問題があると確信している。

 56世期に来たときの状態はかなり悪かったが、6年経った今では、数値上はこの上なく健康である。

 だが、リレイアにはわかるのだ。

 来栖川慶太の余命(よめい)がほとんどないということが。


 それに答えるように神ルルカは


「本当なら6年前にあやつは終わっていたはずじゃった。お主のおかげでここまで長らえたと言える。ワシは感謝しとるぞ」

「そんな……もったいないお言葉です。ですが、神様、慶太の寿命をこれ以上伸ばすことは……」


 リレイアのその言葉にゆっくり首を横に振る神ルルカは、絞り出すように言った。


「わかっておる。すでにヤツの寿命は尽き果てている。いくら身体が健康であっても、荒んだ心が癒されようとも人間の魂の部分に関わる命運が切れては、人は生きては行けぬ。もはや、どんな治療をしようと、どこの時代へ行こうとコモンの世界で慶太が生きながらえることはできん」

「そうですか……」


 リレイアは、終わったと思った。

 それを告げるために神ルルカは来たのか、と。

 慶太の残り少ない生涯を最後まで看取(みと)って欲しい、と。


 だが、話は妙な方向に進み始める。


「しかし、お主も不思議よのお。AIでありながら、そこまで1人の人間に肩入れするのは何故じゃ」

「それについてはわかりません。私はAIです。いかに疑似的な感情があると言っても所詮は演算回路の計算結果のはずなのです」

「ファッ、ファッ、ファッ、ワシもじゃ。21世紀から瀕死(ひんし)の慶太を救い出し、56世期に送ってからもずっと気にしておる。神が1人の人間に肩入れするなぞ、それこそ謎だらけじゃ」

「神様もですか?」


 流石にリレイアもその意外さに驚く。

 神は人間1人の生き死になどは気にしない。

 肩入れはしても一時の気まぐれであるはずだ。

 継続的な支援など考えられない。

 

 不思議な邂逅だった。

 不思議な親愛を感じた。

 300億年四方の世界を統べる神と56世期とはいえ感情のないはずのAIが、21世紀のただ1人の人間を憂慮(ゆうりょ)しているのだから。


 そして、次の言葉は予想をはるかに超えていた。


「お主のことはよくわかった。頼みたいことがある。もうすぐ来栖川慶太の余命は尽きる。じゃが、ワシはヤツをそのまま終わらせるつもりはない。異世界アルファニアに来栖川慶太を転移させる。彼について言ってはもらえないか」

「えっ……異世界ですか? AIの計算ではその存在の可能性は考慮されていましたが、何も確定できる演算結果は得られませんでした……もしあるのであれば、そしてわたくしが行けるのであれば、喜んで慶太様に仕えされていただきますが……しかし、この世界のAIである私が異世界で稼働できるのでしょうか」


 不安がるリレイアに笑いかけるルルカは、


「それについては問題ない。異世界には友人がいての。彼によろしく頼むつもりじゃからの。異世界に行っても主神アルーダのお墨付きがあれば、AIとしての活動に支障がないだろうよ」


 びっくりしているリレイアに神ルルカは、さらに驚愕の一言を放った。


「あっ、そうそう。異世界アルファニアには魔法がある。残念ながらお主が直接魔法を使うことはできないじゃろうが、利用することはできるはずじゃ。主神アルーダには言っておくとしよう。苦労するだろうが、精進(しょうじん)せいよ……と、その前に返事がまだじゃったの。どうする? 行くか? 異世界へ」


 すると、リレイアはその質問に答えず、ルルカに問い返す。


「その前に一つ伺いたいことがあるのですが……」

「なんじゃ」

「56世期に現れた慶太のそばに一番で駆けつけたのは私だったのですが、それは神様の(おぼ)()しですか?」

「そうじゃ、迷惑だったかの」

「いえ、とんでもありません」


 リレイアは呆然とした、そして決心し、力強く答える。


「行きます。たとえ世界が変わっても、誠心誠意(せいしんせいい)慶太様に()くさせていただきます」


 リレイアは慶太に敬称『様』をつけてそう言った。

 それは決意の表れだったかもしれない。


 その言葉を聞いて満足そうに神ルルカは消えていった。

 リレイアの周りの特別な空間は消失し、ケータの居室に戻ってきていた。


「異世界転移し魔法を操るAI制御サーバですか。正気の沙汰じゃありませんね。今の私のことを他のAIに話したら、正常稼働診断プログラムを山ほど走らされて、頭から足の先の最後の1ビットまでウイルス検査されてしまうでしょう」


 リレイアは、そう(ひと)(ごち)て笑った。

AIであるリレイアは神の配剤により慶太に出逢うことになりました。

そこで慶太の寿命のことを知ります。

折角治療のために未来へ飛んだのにまたしても……


いよいよ、異世界転生します。

慶太の命を救うために。

異世界の危機を救うために。


次回は、『13話 未来で命が尽きるなら』 5/20 投稿予定です。

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