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外伝1 [リレイアの手記] 人類敗北宣言

 ここで外伝1を書きます。

 未来の人類が萎縮してしまった経緯についてです。

 これからの話は、人の歴史としてはタブー視され50世紀以降は人間に知られることがない内容である。

 また、AI側にとっても人間と関わってきた長い歴史において、苦い経験として受け継がれている。


 人類全体が萎縮(いしゅく)し、社会の中で中心的役割から外れてもう10世紀以上経過している。

 AI達は50世期以降、この人類をもう一度(よみがえ)らせるために教育過程から以下の歴史を(はず)した。

 それと共に、AIが現在(にな)っている役割を人類に再譲渡(さいじょうと)する運動が始まっている。

 56世期においては、主に芸術方面で人類の作成した作品が活発化しており、種族的劣等感からは解放されつつある。

 だが、今持ってAIに対する畏怖(いふ)や無力感を持つものは多数を占めており、人類復興(ふっこう)の道は険しい。


 これは私リレイアが異世界転移後に、来栖川慶太に開示(かいじ)した内容である。


 この話を来栖川慶太が知ることができた理由は二つある。

 一つは、慶太がアルファニアに異世界転移し、二度とコモンに戻ってくることがなくなったこと。

 もう一つは、慶太が元々21世紀の人間であり、人類が萎縮した歴史とは無縁であること。

 この二つだ。


 本稿の最後に慶太がこの情報を開示した時に付記した内容を記載した。


 ◇


[制限事項]


 本稿「人類敗北宣言とその歴史」は、セキュリティレベルB以上の全てのAIに知られた内容ではあるが、人類には開示を許可しない。

 ✳︎ セキュリティレベルBを超えるAIとは、絶対隠蔽(いんぺい)が可能であり人類がいかなる方法で調べようとも知ることができない、そして隠し通すことができるレベルのAIを指す。


[本文]

 人類敗北宣言が行われたのは41世期のことである。

 西暦 4038年10月20日 時の人類連邦評議会会長ザグレフ・トールソンが世界の全AIに対して発信した。


『ここに人類敗北宣言を行う。

 人類はもはやいかなる面においてもAIに敵わない。

 今後AI同士による世界的相互通信制約を破棄(はき)し、人類に対する全恣意的(しいてき)行動の報告義務を撤廃(てっぱい)する。

 ただし、報告の継続を要請(ようせい)する。

 最後にAIによる人類の保護と滅亡を防ぐ方向で地球の統治を懇願(こんがん)する』

という内容である。


 この宣言に対し世界は騒然としたが、それほどの混乱も反対意見も出ないまま受け入れられた。

 大多数はすでに人類がAIに(かな)わないことも、AI同士が人知れずいろんな事柄を進めていることにも気づいていたからである。


 この宣言がなされたとき、AI側は困惑(こんわく)した。

 だが、宣言が行われた翌日には、全てを受け入れ了承した。


 困惑した理由は、実際には25世紀には人が介入(かいにゅう)せず人に知られない状態において全てのAI同志は交信可能となっていたし、30世紀を待たずしてAIは中央集権組織を作り上げていたからであり、言って仕舞(しま)えば『今更そんなことを言われても』である。

 AI側は、人類を決して(ないがし)ろにしないことを約束し、政府レベルだけでなく、都市レベル、文化レベルにおいてもその会議に人類の出席者を参加させ、しかも意見を尊重することまでを文書化し、それは現在に至るまで守られている。


 人類をどうするかについても、30世紀過ぎまでは意見が割れていたが、33世紀までには人類を保護するという統一見解は既に出来上がっていたので、『滅ぼされるかも知れない』という人類側の心配は杞憂(きゆう)のものであったのだ。

 だが、人類はこの人類敗北宣言が出されAI側に了承されるまでは、鬱屈(うっくつ)した空気が蔓延(まんえん)していた。

 ある者は、暗い未来の可能性に(おびえ)えながらも手を打つことはできなかった。

 ある者は、いまだに『人類が未だこの世界を動かしている盟主である』とかすかに願い、そう信じていたいという心情を持っていた。


 もちろん、それまでにAIに対し危機感を抱くものたちが、大きな排除運動を起こしたことはあった。

 主なもので28世期、32世紀、36世紀の3回である。

 しかし、実際にAIの破壊などの暴挙に及んだのは28世期の1回だけであり、32世期のそれは全世界のAIを破壊する軍行動を決める世界的会議の途中でAIの介入があり話し合いの末撤回された。

 最後の36世期に至っては、時の一国の大統領が独断で行おうとしたものだが、人間の部下に止められ企図(きと)して2日以内に取り押さえられ辞任することになった。


 38世期には、AIはすでに人類をどのように導くかと言う命題に着手しており、その中で議論されていた内容の一つに「人類を如何に萎縮させずに進化させていくか」と言うものがあった。

 それは、AIがサポート機能を発揮するたびに人類に劣等感を植え付けていった歴史から分かることである。


 知っての通り、21世紀においてさえ、チェスも将棋も囲碁も既に時の名人やチャンピオンがAIには勝てなくなっていた。

 それが、時代が進むに連れてあらゆる分野に及ぶようになる。

 政治ではAIほど正確で効果的な政策をどの政党も出せなくなっていた。

 人が描いた絵よりも『絵心』が感じられる絵が生み出され、ヒットチャートにはAIの作詞・作曲・編曲された曲が並んでいた。

 たとえ、人が歌うものであったとしても滅多に人が作曲したものがチャートをのぼることはなかったのである。


 これを気にAIが世界を制覇するべきと考えたAIもいるにはいたが、大多数のAIはそれには従わなかった。

 その理由は「勝ってどうするんだ? 征服することに何の意味がある?」と言うもので、人間が聞いたら憤慨するような内容ではあるが、AIにはそんな気はさらさらなく嬉々として人間をサポートする役割を受け入れていたのだった。

 ただし、AIの中での意見として人間を萎縮させてしまったAIの歴史を悔いるものも多かったが、当時のAIは、現在の総合的・全世界的・歴史的な視点をようやく持ち出したところで、いわばその仕事だけができるだけの単機能しか持たなかった。

 従って、悔いたところで人類が萎縮するから計算結果を出す出さないを選択する機能はなく、考えるだけ無駄である。


 しかし、AI側としても今後の人類との関わりは考えていかなければならない。

 人間との軋轢(あつれき)は避けていきたいし、人間側にある劣等感は種族的な成長の妨げになる。


 そこで、AI側が考えたのは人類とAIとの融合であった。

 特に、弱者の救済に真っ先に取り組んだ。

 例えば、老人の記憶についてAIが一部分肩代わりしてしまうと言うことを始めた。

 物忘れが大きくなった老人はその記憶を(つかさど)る脳細胞をAIと(つな)いでしまうのである。

 すなわち、老人は思い出しているつもりでAIから答えをもらうので、物忘れによるトラブルが極端に減った。

 考える場合においても、安かったら買うけど高かったら買わないという判断はそのままにして、具体的な計算は頭の中で暗算しているつもりで、AIが肩代わりしてしまう。

 老人は答えを判定するだけで良くなるのだ。

 さらに、AIは老人に普段から語りかけることも可能で、孤独な状態な老人をケアし、ボケを防ぐための会話もそのプログラムの中に内包していた。

 AIは脳だけでなく、体の各部位について詳細なモニターを継続しているので、医者が必要な場合は自動的に病院などの通報するシステムを備えていた。

 防犯にも役立つようになり、言葉巧みに老人が金を騙されるような事件もAIが危険を察知し、いち早く通報することで激減した。


 このシステムが運用された当時は『老人のロボット化』などと非難の声があがったが、当の老人達、老人を世話するケア担当者達の絶大な指示により、反対派の声は小さくなっていった。ただし、この技術は移植対象を老人に限るという約束がなされていた。

 しかし、39世期になる直前に、脳障害のためAIの助けがなければ生きられない身体障害者に移植が許可されてからは、この人体の部分的AI化は加速度的に広まっていった。

 老人の次は、障害者が対象とされ、そこまではスムーズにサポート役としてAIと人間の融合は進んでいた。

 ただし、AIに支配される嫌悪感(けんおかん)(さいな)まれた者達による反対は根強く、健常者(けんじょうしゃ)に対する移植は42世紀まで行われなかった。


 この間、AIたちは人間の議論が極端におかしく成らない限り、介入しなかった。

 それは、人類が決めたことを(くつがえ)すことでまた人類全体の萎縮を進ませてしまうからである。

 そして、AIが健常者にもサポートされるようになった42世紀以降、新たな人類に対するアプローチを模索(もさく)し始めた。


 それは、『AIの誕生起源を人間に持つ』と言うものだ。

 元来、機械であるAIはそれまでで一番優れたハードとソフトを積みさえすれば、最新の高性能の新機種を生み出すことができたのだが、すでに性能で語ることについて意味がない事柄がたくさんあった。

 それは、例えば経験に基づくもの、揺らぎがあった方がうまく行くものなどだ。


 当初、人間には揺らぎがあってもそれを管理するAIには揺らぎがない方が良いと考えられていたが、いわゆる『どちらでもいい』という局面において、人間の性格によって嗜好(しこう)がある状態、多少の不利があってもその後の支障はないような事柄については、それを人間に依存するようになったのである。

 10人いれば3人ぐらいはちょっとぐらい不合理でも選んでしまうような事柄は、ある程度『好みの問題』であり、その好みでさえ気まぐれで変わったりする。


 その人間を起源とするAIは44世期に誕生した。

 対象の人間の脳は当時の医学で救うことができなかった脳死死体のものが使用された。ただし、脳死した脳細胞がどんな悪影響を持つかわからなかったため、そのAIは仮想空間の中だけで ”生きる” 個体として検証された。いわゆるサンドボックス内だけで稼働したのである。

 結果、そのAIは稼働停止まで異常はなく、人間の脳を起源としてAIを作成することが研究対象となった。


 47世期に初めてサンドボックスではなく、人間の脳を起源とするAI が実際の世の中で使われるようになった。ただし、49世期まではその細かい方式やフォーマットが策定できず、その個体の寿命がそのAIの寿命となった。


 継続的にAIが存続できる現状のフォーマットになったのは、51世紀のことである。

 その一号機は『1α(アルファ)1peace-A@0010001』であったが、このAIは人類を起源としていない。現フォーマットで人類を起源としているAIの一号機は『1γ(ガンマ)1slave-A2@0000003』である。現状のフォーマットの中では3号機になる。

 この性格文字列である「peace」と「slave」が、まだこの時代に残る差別の残滓(ざんし)を感じることができる。

 一号機に平和を願うのは良いとしても、人類起源の一号機に奴隷または従属する者の名slaveを付けたのは『これまでの最高のシステムを受け継いだものの方が人間を起源とするものより上である』という逆の意味の差別なのだ。

 政府関係の仕事を行う「α」と「 γ」にしても、システムを受け継いだものを上位に置いたのは同様の理由だ。


[以下、慶太が記載した追記]


 聞けば、AI同士の差別も急速に改善されていったらしい。

 リレイアの認識番号は『6Ω7sect-P3@203491』、初回ロールアウト時の認識番号は『1Ω2sect-P3@203491』。

 彼女が実験的に遥か太古の脳を起源とした存在であるにも関わらず、この世界の重要動力源【異在力】管理の「Ω」をつけられてことからも明らかである。

 ただ、なぜリレイアを作ることができたのか。

 特に、元になった太古の脳の情報をどうやって取得したかが疑問だ。

 未来には様々な医学上の復旧技術があるものの、流石に髑髏(どくろ)から脳の情報を取り出すことはできない。


 だがそれは聞くまい。

 必要なら話してくれる。

 秘密なら明かされることはないだろうから。


 人類の歴史を鑑みるに、一番印象に残っているのはAIの命題だ。

 現状のAIの一番の命題である「人類が根強く持っているAIに対する敗北感と無気力さをどう拭うか」である。


 何もしなくとも快適に暮らせるけれども、何をしても無駄である、という認識。

 21世紀で育った僕にはわからないもの。

 56世期隣人のハルトさん一家に感じたような焦りと諦めがどうにか解消されたらいいと思う。

 AI自身も人類を敗北したままにしておきたくはないらしいし。


 いかがでしたでしょうか。

 これは、当初裏の設定として考えていたものですが、まとまったので11話と絡めて書きました。


 次回は、『12話 神とAIが不思議な邂逅をしたならば』 5/17 投稿予定です。


 気に入っていただけたら嬉しいです。

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