10話 未来の『力』を知るならば
10話まで来ました。
慶太が知りたがっていた未来の力の正体が明らかに成ります。
今までで最もSF風味ですが、同時に小難しいパートでもあります。
お楽しみ頂ければ幸いです。
ある日リレイアが言った。
「慶太の知りたがっていたこの時代の力の源である異在力について、今日からお教えしますわ。この時代にエネルギー問題が存在しないのは、この異在力の制御が可能になったからですの」
今まで散々はぐらかされていたが、ついにこの時代のエネルギー資源について教えてくれるらしい。
しかもいつもの覚醒学習ではないらしい。
何か理由があるんだろうか?
「今日は対面で教えてくれるんだ」
「はい。関連データは覚醒学習で流し込みますが、これについては私がお話しいたしますわ。なんと言っても異在力は私のAIとしての専門の仕事に関わりますので」
【異在力】
それがこの56世紀を支えるエネルギー資源の名前であるらしい。
「いや、エネルギー資源そのものとはちょっと違うんですが、まあ最初はその理解でいいでしょう」
いきなり訂正されてしまった。
今日のリレイアはいつもと違ってざっくばらんな感じはしない。
どちらかと言うと告知や報告のための真面目口調だ。
「異在力を21世紀の人間に説明するのは大変なのですが、慶太の場合、勉強対象の分野に下地がある分だけ適性はありますね。時間がかかってもわからないってことはないでしょう」
一応、褒められたのか。
しかし、僕の知識の何が役に立つんだろう?
「ケータは量子力学について、少しカジっていますね」
ああ、量子力学か。
そうか。
僕は文系ではあるし理系に対する知識欲もない。
おまけにやっていたのは営業だ。
けれど、ほんの少し量子力学の知識がある。
というのも、21世紀で働いていた会社がエネルギー問題を扱っていたからだ。
火力、水力、風力、原子力に変わる新しいエネルギーを模索するベンチャー企業。
新たなエネルギー源が見込みがあるのかないのか、それを考えるには単なる情報の有無だけではわからない。
もちろん、情報の真偽、質、量が必要になるが、その種々選択にはどうしてもミクロな視点、マクロな視点から物を捉えれる知識が必要になっていた。
その新たなエネルギー源を考える場合、継続的な投資の結果ペイするか否か。
開発の進捗予想とエネルギー効率の未来図。
それを見極めるためのシステムが必要だった。
所属していた会社は業界では後発であり、余程大きなブレークスルーでもなければ生き残っていくのが難しい。
それを打破するための切り札を量子コンピュータに求めた。
いわゆるビッグデータとかの分析は当然のこととして、新興エネルギー産業の各企業が行っている研究の成長曲線を資金やバックボーン、そのエネルギー資源の有用性、各種公害の発生のリスクと研究企業の対処解決能力、それまでのロビー活動の方針やそれをおこなった人材までを対象として、将来的期待値を正確に割り出す。
量子コンピュータを使い、これまでのエネルギー効率の算出を正確に早くすることで、どの方法をどの割合で発電するのが効率であるか正確に割り出せる。
すなわち『我が社が次世代エネルギー産業の有望株を正確に割り出します』と言っているわけだ。
その一点で、他社との勝負に勝てると踏んだ会社はその開発に手をつけ膨大な研究開発資金を集めに奔走していた。
文系の営業であったにも関わらず、どこで誰と話すかわからない以上、量子コンピュータ並びに量子力学の基礎を叩き込まれた。
そんな知識が今になって役に立つとは思わなかったな。
しかし、その異在力の『異』ってのは、異世界から量子テレポーテーションでエネルギーでも取得するのかねぇ。
「違います! 量子テレポーテーションで物質は送れないことは知っているはずでしょう? 送れるのは情報だけですよ。これは量子力学を基礎からやり直しますか?」
じょっ、冗談だってーの。
流石にそれは覚えてるよ。
量子力学の基礎の再学習とかやめてくれ!
脳に負担がないと言ってもピンからキリまであるのだ。
今から量子力学なんぞ脳に無理やり詰め込まれたら頭から煙を吹いてしまう。
話さなくってもリレイアは僕の脳波から思考を直接読み取って話を進めるのでやりにくいよなあ。
「まあ、いいでしょう。実は量子力学も量子コンピュータの知識も異在力とは全く関係ありません」
な、ないんですか。
でも量子力学についてさっき聞いたよね。
「はい。直接の関係はありませんが、その考え方の中に異在力にたどり着くヒントがあるのです」
あーそう。
「量子力学の中で『2重スリットの実験』というのを覚えていますか」
出たよ。
これ本で読んだ時、新手の詐欺じゃないかと思ったんだよな。
世界中の数学者や物理学者の全員が結託して素人を騙そうとしてるんじゃないか、と。
ああ、それについちゃ、ちゃんと覚えてるよ。
衝撃的だったからな。
その干渉の話がなけりゃ僕の会社で扱っていた量子コンピュータなんて出て来ないだろうから。
「ふふ。そうかも知れませんね。まあ、別の切り口もあるのですが。それはさておき、『2重スリットの実験』に対する『コペンハーゲン解釈』は知っていますよね。あと『ド・ブロイ=ボーム解釈』は?」
知っている。
『ド・ブロイ=ボーム解釈』はダメな解釈というのが会社内の見解だった。
自分もそう思う。
数学的にじゃあなく、単純に勘とか印象でだけど。
深く知っているわけじゃないのだから、数学的とか理論的にはわかるわけがない。
ただ、“わからないのは知らない変数があるからだ” というのがちょっと独善的で傲慢に聞こえたんだよ。
『まだ知らないだけで解明すれば唯一解に到達できる』というのが量子力学で習った内容にそぐわないと思う。
量子力学では『真実は常に一つ』とは限らないからだ。
リレイアは続ける。
「どちらの解釈が正しいかは、実はあまり意味がありません。その結論は40世期までわからない事です。しかも40世期にわかったのは、どちらが正解かわからないことが証明された、という内容です」
うーん、頭が痛くなってきた。
つまり『円周率は計算しきれてないけれど割り切れないことはわかっている』みたいな話なのか?
「異在力というのは、ほぼやけっぱちみたいな量子実験から始まったのですよ。有効な実験結果が出なかったある科学者が、量子コンピュータで『ド・ブロイ=ボーム解釈』の数式の解を求めたんですよ」
へっ? ちょっと待って。
それは意味がないよね。
数式ではなく、境界条件の再設定で最後の収束結果の変位を記録するはずでは。
まあ、波動関数の数式を否定はしてないけど、それって重さと長さを足し算するくらい意味のないことなんじゃあないの?
「はい。矛盾することをわざとやっています。恐らく結果なんか求めてなかったんでしょう。当てずっぽうな気晴らしのテストだったんだと思います。しかし、その中でサブ空間というべきものが見つかってしまったのです」
見つかったって。どうやって。
「『ユークリッド空間』はご存知ですね」
普通のxyzの3次元ぐらいしかわかんないぞ。
「はい。その3次元の理解で結構です。その各軸を実数ではなく複素数で取り……」
ちょっと待て。
普通の3次元の空間しかわかんないよ!
「先ほど求めた数式の解の収束結果の分布図を入力し……」
さらに、ちょっと待て。
数値の関連性に意味がないのでは。
って言うかすでに理解できないんだけど。
「そうですよ。理解できなくて当然です。意味がないんですから。この場合、大事なのは結果だけなのでね」
そう言って、普段なら脳内イメージでしかやり取りしないリレイアがわざわざ、紙に計算結果をプロットしたものを印刷して持ってきた。
どんな結果だろうと意味がない数値なんて、ってこれは……この紙切れはなんだ? この空間はなんだ?
その時、見せられた紙切れに描かれた図には、xyzの三次元空間では表せない図形が、印刷されたプリント用紙に斜めに表示されていた。
これって、三次元プリンタかな。
「いえ。原始的な紙のプリンタですよ。プリント用紙もトリック用のホログラムなんか仕込んじゃいませんよ。ただの紙です。この計算結果を導き出すときに、ただの数値の羅列を図形化してプロットして印刷すると、何の変哲もない原始的なプリンターでもランダムで17次元から19次元の亜空間が生成するのです」
……何なんだ。これは。
普通、紙に普通のプリンタで印刷しても立体にはならない。
なるわけがない。
でも、目の前の紙は、間違いなく立体的に突き抜けて見えている図形がある。
紙を折ってできた立体ではない。
ホログラム素材が乗っているわけでもない。
しかも、紙が透けているわけではないのに、上から見て紙の下に立体的に突き抜けている部分が認識できる。
僕の目がおかしくなったのか?
見えないはずの紙の裏側が見えるというか、認識できるというか、あー、全然わけがわからない。
まあ、いいや。
いや、よくはないけど考えるのやめた。
思考停止した……
これが異在力なんですか?
これがエネルギーとどう繋がるのか全くわからないんだけど。
「そうですね。これだけではエネルギー資源にはなりません。この現象も5分からせいぜい20分といったところで消失します。ですがこれがきっかけで量子テレポーテーションを応用した技術を利用し、量子もつれを任意に発生させることが可能になりました。それが、45世期の後半のことです」
そこで、リレイアはもう一つの実験装置を取り出した。
「さきほどはランダムと言いましたが、その後の研究で亜空間の発生位置、次元数、規模などが制御できるようになりました。そこで、一方の素粒子を見かけ上の亜空間が発生予定位置に置きます。もう一方の素粒子に十分近い場所で、マッチで火をつけた時にその情報を先程の計算結果から発生した亜空間に転移させます」
実在できるんですか?
「出来ないですね。虚数解となった後、発生した亜空間で爆発します。ところがこの爆発が面白い挙動を示すんですよ。流石にその様子は肉眼で視認できないので、モデリングした映像を見せますね」
計算結果のプロットから、亜空間の発生と量子テレポーテーションの様子が映し出される。
見せたいのは極小の素粒子の振る舞いであるから、注目すべき量子テレポーテーションの挙動を観察する画像はナノサイズだ。
電子顕微鏡的な画像でも見せられるかと思ったが、画面にはマッチの火の情報が亜空間内の電子雲状に収束する瞬間に爆発するモデリング映像が写っていた。
見た目は再現CGみたいに見えるが、これは計算の結果ではなく、実際に目の前で起こっていることを人の目で見えるように視覚化したものだ。
ただし、期間については圧縮してみせるために過去のデータに基づいたシミュレーションとなるらしい。
そこで、驚くべきことがことが……
爆発による拡散は一瞬で終わり亜空間いっぱいに広がるとゴム風船のように、空間自体を膨らまして行った。
やがてゴム風船はそのままの形を維持し続け、そこで時間表示が切り替わった。
実験の様子を早回しで見せているらしい。
1日、10日、1ヶ月。時間経過の映像を見ているうちにその空間が萎んでいく。
一方、亜空間と擬似的に接している通常空間の部分には金属板があり、なんかのメーターが付いている。
これは何だ。エラく古くさいメーターだが。
「ああ、それは電力計です。わざわざ21世紀のものを使ったんですがね。馴染みやすいかと思いまして。それとどんな形のエネルギーにするかは自由なのですが、21世紀で暮らしていたなら電力に変換するのが一番わかりやすいかと……」
まあ、そうだね。
電力にするのは変換先のエネルギーとしては確かにわかりやすいけど。
ただね、21世紀だってそんな古臭いアナログメーターは使わないよ?
などと言っている間に……恐ろしいことに気づいた。
この実験結果をシュミレートした動画は早回しのまま電力計を写し続け、テロップで実験開始からの期間を表示している。
電力の表示は、12V5Aをずっと差し続けている。
そして期間は電力の放出の計測を始めて3,600ヶ月……300年?
「あー、本来ならもう少し効率が高いですが、この実験例では60Wで300年程度ですね」
信じられない。。。。
これ、途中からシミュレーションだって言ってたけど間違ってないか?
えーと、マッチ1本だよね。
マッチ1本で60Wの電力を300年供給し続けられるわけか。
これが、事実なら確かにエネルギー問題は解決するけど。
でも、どうやってエネルギーを取得しているかわからない。
「まあ、今までの常識からすれば疑われるのも当然かと思いますが、過去のデータから言ってもこれだけの出力が得られるのは間違いありません。エネルギーの取得方法については、爆発後の縮退時に次元交換が行われています。電力を取り出す部分は、原子炉の第一冷却器のような機能を持っています。まあ、例えはどんなものでも良いです。冷房の熱交換をイメージしてもらっても構いません。ともかく、エネルギーが電力に交換されるたびに次元縮小が進行していきます。ただ、原子炉の冷却器と異なるのは冷却の熱からタービンを回すのではなく直接に電気変換ができるところです」
直接変換の方が効率がいいわけか。
ところで直接変換できる理由は?
「わかりません」
は?
「わかりません」
はあ?
じゃあ、電気以外には変換できないの?
「いえ、歯車を用意すれば運動エネルギーに、ガスを用意すればガスの励起状態が変更されます」
勝手にですか。
「そうです。まるで、変換前のエネルギーが相手のエネルギー変換方法を知っているかのようにです」
そ、そうなんだ。
と言うことは、部屋の灯は直接光のエネルギーになってる、ってこと?
「はい。異在力の変換先を部屋の灯に指定すれば、勝手に光に変換されます」
この部屋が浮いているのも?
「はい。反重力に勝手に変換されてます」
はえ〜、そりゃ面倒がなくていいけど、凄いもんだなあ
でも、たくさんのエネルギーを一度に取り出すことは出来るの?
「あー、できなくはないです。ですが、こちらのエネルギー変換が非効率な場合失敗し、亜空間が崩壊します。パン、と風船が割れるみたいに。ただ、亜空間が壊れる際に危険を伴う代償はありません。取れるはずのエネルギーがとれないだけで、こちら側に爆発、感電、放射能といった悪影響はないのです」
じゃあ、安全かつ細く長く取り出せるエネルギーなんだ。
「そうですね。ですが、大きなエネルギーが必要になる時があります。そのために私たちがおります」
はあ。
AIであるリレイアはなぜか得意気であるのだが、なぜかはよくわからない。
「我々管理AI『Ω』の1番の仕事は、異在力の管理なんですよ。ちなみに私は約40万個の亜空間管理をしています」
そ、そりゃ凄いな……。
それ、一度に使えたりするの。
「出来ますね。でもそんなことしません。この時代では先ほどの実験とは桁違いの効率的なエネルギーを得ることができますから、40万個も繋いでそのエネルギーを解放すると星の一つや二つ吹き飛んじゃいますよ」
あー、本当にヤバいやつだ。これ。
さっきは実験のために非効率なものだったけれど、効率的なものでは21世紀の発電所一つ分のエネルギーを取り出せるらしい。
それを通常40万個ぐらい管理していてそのエネルギーを自由に使えるとのこと。
しかもずっとそのエネルギー量を30年ぐらい取り出し続けてもなくならない。
この見た目かわいい妖精は一度に取り出せるエネルギーは惑星衝突ぐらいのエネルギーを出せるし、総エネルギーは21世紀の地球上の全ての発電所のエネルギー100年分ぐらいは優にあるわけか。
「今の私は、ケータの個人所属の管理AIですからね。うまく働かせて下さいね」
しかし、こんなことで解決できるとは。。
アインシュタインはE=mc2で、物質とエネルギーが可換である事を立証した。
それが原子力の元であるが、56世紀では亜空間転移の歪みをエネルギー変換することで ”異次元に発生する力を現在の次元に転換する力” 、異在力として使っているということか。
いやはや、未来とはとんでもない。
いや、本当に未来に来たんだ、と分かったのはこの時だったかも知れない。
最初に謝っちゃいます。ごめんなさい。
「理屈が通ってねーよ」とか「量子力学の用語だけ抜き出してんじゃねーよ」というお叱りがあるかもしれない。
一方で「何書いてんのかわかんない」とか「小難しい」とかもの指摘もありそう。
でも、SF的な部分をどうしても書きたくて、「量子力学」とか「天文」の本を読んで悩んで悩んでこのパートを書きました。
本当の未来のエネルギーはどうなっていくのか?
僕の考えた答えは「電力でも、光でも、熱量でも、重力でも好きなものに変換できるエネルギー源」という超ご都合主義になってしまいました。
よくわかんない場合は、とりあえず「リレイアがすごい力を使えるんだ」と言うことで、あとの部分はフレイバーテキスト(ゲームなんかにある効力はないけど、物語の舞台背景を豊かにする文章)みたいなもんだと思って頂ければ……
次は、未来の人々の話です。
歴史的なしがらみで、未来人はちょっと屈折している姿を描きます。
次回は、『11話 隣は何をする人なのか聞いてみれば 』5/13 投稿予定です。
気に入っていただけたら嬉しいです。




