1話 神の世界を覗いてみれば
初めての連載小説になります。
この1話では、異世界の神とこちらの世界の神との会話で始まります。
現状、異世界は困ったことになっていて、それをこちらの世界の神が助けています。
そして、こちらの世界の神は、なぜか一人の日本人をなぜか気にかけていますが……
この神々の話から始まり、未来のSF風味をちょっと加え、やがて異世界へ向かう物語。
読んで頂けたら幸いです。
よろしく。
世界に神はいるか?
その答えは「いる」。
確かに神は存在する。だが神は人の前には現れず、人はその真名を知らない。
如何なる宗教の崇める神の姿も本当の神とは異なる。
人知れず、神は世界を治めているのだ。
では、世界はいくつあるのか?
この世界は唯一のものなのか?
その答えは「世界は一つではない」。
そしていくつあるかは神でさえもわからない。
◇
ここに二つの世界の神、主神二人と属神一人が神域で話している。
どうやら話の内容は危機に瀕した文明についてのようだ。
「困ったことになった。この文明が失われるとアルファニア世界全体の存続が危うくなる」
そう嘆くのは、アルファニア世界の主神アルーダ。
「それは重々知っておる。だからこそ、お主の世界に人を何百人も送っておるじゃろうが?」
そう返すのは、コモン世界の主神ルルカだ。
そう。
コモンの世界からアルファニアの世界へは、すでにたくさんの人が文明の救済のために送られていた。
そしてその多くは、21世紀の地球の日本人である。
世界と文明の価値。
世界というからには数多の銀河があり、その中に膨大な星がある。
文明の数もたくさん在るに違いない。
なぜ世界全体を束ねる主神アルーダが、その中でたった一つの文明の危機を気にしているのか?
それは、危機に瀕している文明が重要な意味を持っているからである。
アルファニアという世界。
その中のソヌーという小さな太陽を持つ星系。
第四惑星ランゾルテ。
そこに住まう人族は、アルファニア世界でたった一つ魔法文明を持っていた。
では、そもそも文明が世界にどう寄与するのか。
その答えは「世界の存続は文明の価値にかかっている」である。
高度の文明の存在があればそれだけ価値が上がる。
また、ある程度以上のレベルであれば文明の数が多いことも価値に寄与する。
その合計価値で、世界の意味は向上し安定する。
地球が存在しているコモンの世界で考えてみよう。
コモンの範囲は半径300億光年ばかりの球体と思って貰えばいい。
膨張しているので日々大きくなっているが、今の所そんな大きさだ。
所謂宇宙と言われている部分が、地球では138億光年程度と認識されているが、本当の宇宙はそれよりかなり広い。
これがこのコモンという世界の括りになる。
コモンの世界は、高度な科学文明に支えられていて、銀河を越える宇宙船を保持するような高度な文明が数多く存在している。
地球以上の文明レベルだけでも数十億はあり、文化的裾野も広い。
それゆえ、コモン世界は安定しているのだ。
それにくらべ、アルファニアの世界は、若く誕生から約8,000万年しか経っていない。
文明の数がアルファニアの全世界に数千しかなく、それほど高度な文明も存在していない。
それでもどうにかこうにか存続する力があるのは、ランゾルテの文明が魔法という『他の世界にはない価値』があるからである。
その文明の維持のために、アルファニアの神アルーダがコモンの神ルルカに日本人の転生を希望しているのだ。
「それにしてもルルカ様、なぜ21世紀の地球の日本人ばかりなんです? この時代の地球文明は優れたものではありませんし、第一コモンには魔法もないのですよ? どうせ人を送るにしても、他の星のもっと高度な文明から人を派遣した方が良くないですか?」
そうルルカに問うのは、属神ルーラウという若い女神だ。
属神とは、従属する神である。
ルーラウはルルカに仕えている。
「ああ。それは、私から話そう」
答えたのはルルカではなくアルーダだった。
「まず、高度な文明から人を送ってもらっても役に立たない。低レベルな文明を馬鹿にするか、無理矢理引き上げようとして失敗するか、だ。それと、魔法がコモンのどこにないことはわかっている。転生時に私が魔力を与えているので、魔法が使える状態で生活を始められる」
それにルーラウは首を傾げる。
「馬鹿にされようが何しようが、そこまで低レベルな文明ならば、少し知恵を授ければ飛躍的に向上して世界は安定するのでは? 魔法というのはそれほど重要な物なのですか?」
「そうだ。其方たちのコモン世界には、銀河を渡る宇宙船を持つような高度な文明があるだろう? 魔法を持つ文明が、その高度な文明数千個分の価値があると言ったら?」
そこでルーラウは目を見開いて驚いた表情で言う。
「そこまで……なの……ですか?」
「そうだ。文明の発達でどの星の人類も高度なことができるようになる。だが、それは高度な技術が意味を少しずつ上乗せして行っているに過ぎん」
コクコクうなづくルーラウ。
「ところが魔法というものは、言葉と魔素から超自然的、超科学的な力を発揮する。その意味自体が果てしなく大きい。たとえ、その力が生み出すのがコップ一杯の水であってもな」
「なるほど、魔法に意味があるのは分かりました。では、21世紀の地球の日本人を送る理由は?」
ルーラウはアルーダにそう尋ねたのだが、答えたのはルルカだ。
「ワシが決めたんじゃよ。魔法のある世界に最も適した者を考えると21世紀の地球、それも日本人が一番適しているとわかった。理由はいくつかあるの。まず、21世紀の地球はランゾルテに対して文明レベルで少し進んでおることじゃ。劣っていては困るが、進みすぎていてもランゾルテの民とうまくやっていけない」
そりゃそうだろう。文明が下等だったら、支配してしまうかもしれないし。
「さらに、なぜか特にこの時代の日本人は魔法世界にも異世界にも理解があるのじゃ。魔法という突飛なものに驚くほど柔軟に対応する」
ルルカが話し終えるとアルーダが話を戻した。
「先ほどの話に戻るが、ルルカよ。すまぬが、また転生者を送ってはくれまいか?」
「構わぬが……これ以上送っても事態が良くなるようには思えぬ。まず、今まで送った転生者はどうなっておる? 使命を果たしておらんのか?」
ルルカはさも不思議そうに尋ねるが、それに対しアルーダは語り始めた。
「……転生者たちは皆、最初は良く尽くしてくれていた。魔物に悩まされている村を救い、魔法と共に21世紀の文化をも広めた。ランゾルテの国の中にはだいぶ文明レベルが上がったものもあった」
さらに、苦渋の表情を浮かべて。
「だが、だんだん閉塞感に包まれ始めた。格差が生まれ、転生者がいるところは発達し、そうでないところは富裕層と貧窮層に分かれた。また、科学技術を浸透させようとして失敗するものもいた。魔法を広げようとして、逆に魔力を持たない者たちから反感を買ったりし始めたのだ」
ルルカはうなづくが、疑問が残っている。
「転移した者たちのせいで世の中のバランスが崩れかけておるのか。だが、アルーダよ。それでもお主は、転生者を望んでおるようじゃが……」
「ああ、そうなのだ。現状、転生者を継続して受け入れなければならない事情があるのだ。実は、この星全体の魔素量が増え、魔獣が活性化してきておる。もはや、ランゾルテに住まうものだけでは抑えきれぬ。このままでは、人族の治める領土のうち相当な数の国が滅びるだろう。最終的に人族が生き残らなければ魔法文明が失われる」
「そうなのか……」
ルルカは事情は納得したのだが、このままの方法で転生者を送るのには賛成できない。
「では、どうする? 送る者達の選択を変えるのか……」
「それができればありがたいが、実際のところはどう変えればいいかがわからん。能力だけなら送ってもらっておる転生者は優秀だ。ほとんどの者は、文明に貢献し、魔物や魔獣を討伐して社会を支えている。問題はその転生者が周辺の魔を払った後に目的を失ったり、それほど老いてもいないのにリタイアする場合でな」
ルルカにはアルーダの言っている本当の問題点が分かってしまった。
いや、神ならすぐにわかるだろう。
それは人の弱さ。
当初は目的のために頑張れたとしても、直にその熱意を失うことが多い。
そのことにはある程度気がついていたからこそ、比較的継続して仕事をする習慣のある日本人を送っていた。
だが、日本人も変わりつつある。
基本的に真面目であるが、最近の若者は一段落するとそれまでの仕事を離れることが多い。
昔の日本人が持っていた『一生の仕事』という感覚を持ち合わせているものは減っている。
さらに、魔法に理解があるような若者は、ともすると夢見がちで折れやすい性質がある。
目標があるうちは頑張るのだが、それがなくなると無気力になり、生来の真面目さがなくなる。
怠惰になったり、犯罪者になるケースもある。
しかし、それだけではなかった。
文明レベルの差についても思った以上に問題があったのだ。
「最近はしばらく討伐の暮らしを終えた後、町や村を地球の21世紀の知識を使って改革しようとする者たちもいる。魔法があるせいで暮らし向きは地球の19世紀のレベルにあるが、本来科学的な文明レベルはいいところ17世紀といったところなのだ。いきなり科学レベルを一気に上げるのは無理なのじゃよ。そのギャップに民も転生した者も惑い折り合えず、物別れに終わることが増えてしまった」
「しかし、そんな者ばかりではないのでは……」
「ああ、そうだ。我慢強くこの文明に力を注いでくれるものもいる。だが……彼らも転生者同士の通信技術を得てから変わってしまった」
「なんと!」
通信手段の確立による問題。
転生者同士がお互い連絡しあって「これ以上頑張っても良いことない」という認識が共有されてしまったのだ。
何も知らなければ大変だと思っても頑張るが、討伐を終えた後の人生がうまくいかないと聞かされて仕舞えば、それでも頑張る者は少なくなる。
「アルーダよ。その者たちは結局どうなったのじゃ?」
「ああ、ほとんどの者は上級魔法を使えるから楽な生活を送っている。最近は、ランゾルテの民との軋轢を避けて田舎暮らしをするものが多い。スローライフなどと本人たちは言っているな」
ある程度働くと『もう自分の責任は終わった』とばかりに悠々自適の生活をしているらしい。
しかし、アルーダの話にはさらに続きがあった。
「だが、そやつらはまだ良い方なのだ。問題は上級魔法を使えることをいいことに大きな街や国単位の有力者と連み、利権を得て狡賢く暮すもの達だ。犯罪者もいる。そういった者たちがお互いに連絡を取り、悪事が組織的になってきている。上級の技術があり魔力が大きく国を超えて指名手配されるほどの魔法重犯罪者として知れ渡ってしまっている」
「そういう者たちは多いのか?」
「いや、数は少ない。割合から言えば僅かだ。だがな。彼らは全て上級魔力を持っていることは民の皆が知っている。そこで起こったのが魔法嫌悪なのだ。言葉にしないが魔法を疎んじているものはかなりいるに違いない。そしてついにある小国が魔術師追放の政策を打ち出した」
最終的な問題は、魔法嫌悪だった。
文明が魔法を拒否して仕舞えば全てが終わる。
「……深刻じゃの。ちょっと考えてみるわい。アルーダよ」
「ああ、だが人の手を介する限り急ぎはしない。危機とはいえ、魔法文明も100年や200年で途絶えることはない。目前の危機とは言っても、それは『数百年も一瞬である我々神にとっては』だからな」
そこで、神ルルカと神アルーダは別れた。
ルルカはそれを解決させる人物を一人だけ、思い浮かべた。
「じゃが、あやつを転生させるにしても何か方策が必要じゃの」
「えっ!?」
ルルカの独り言にルーラウが問う。
「いや、なんでもない」
ルルカは立ち去った。
だが、残されたルーラウは気になっている。
「しかし、ルルカ様が気にしているのはあの日本人なのでは? 主神であるルルカ様がたった一人にかかずらわっていて良いのでしょうか? これは本人に確認してみる必要があります。それほどの価値がある人間なのか」
そう言ってルーラウも立ち去った。
いきなりですが、申し訳ありません。
読み返してる途中で気づいたのですが、なんとこの1話では主人公が出てきません。
最初に書き始めた内容から、何度も変更したのでこんなことになってしまいました。
この後、主人公が波瀾万丈な人生を辿ることになるので、その前準備を書き足していたからなのですが……初連載なのに前代未聞ですね。
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