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暗殺ギルドへ

 

 次の日、俺は天蓋付きのベッドで目を覚ました。


 知らぬうちに溜め込んでしまっていた金銭を吐き出すために王都での宿も最高級のものを選んだのだが、なんだか成金趣味過ぎてあまり落ち着かない。


 サービスは素晴らしいのだが、内装がちょっと派手過ぎるのだ。


 天蓋付きのベッドはもちろんのことドアノブといった小さなものにまで細かく装飾が彫り込まれている。


 隙あらば飾り付けておこうといった具合だ。


 部屋一面がごちゃごちゃとした装飾にまみれていているせいか趣というものが感じられない。


 王都の富裕層はこういったものがお好みなのだろうか?


 だとしたら俺の趣向とは相容れないなと思う。


 俺はどちらかというと機能性を重視した無駄のないシンプルなもののほうが好みである。


 ほとんど使うことのないワイシャツの胸ポケットすらなくして欲しいぐらいだ。


 あのポケットどう活用すればいいんだろうな?


 枕もとで眠るファラはそのままに俺はベッドから身を起こす。


 どういうわけかファラはいつも俺のベッドで眠るのだ。


 こんなおっさんの隣じゃなくエマさんのところで眠ればいいのにと思うし、エマさんもちょくちょくファラを誘っているのだが、彼女は頑なにそれを断って俺の隣で眠る。


 こうも懐かれていると本当に娘のように思えてきてしまうな。


 しかし、ファラの幸せのためにもずっと一緒にいるわけにはいかない。


 彼女を受け入れてくれる妖精の里が見つかり次第引き取ってもらうつもりではいるのだが、このままだとその決意も揺らいでしまいそうだ。


 スースーと小さな寝息を立てるファラを起こさないようにそっとベッドから降りる。


 ミネラルウォーターを一杯飲んで、顔を洗う。


 時刻はまだ朝の六時。


 暗殺ギルドの長とやらとの顔合わせは夜中となっている。


 日中はなんの予定もないのでこんな時間に起きる必要はないのだが、いつもの習慣のせいかこの時間には目を覚ましてしまう。


 俺は仕事人間であるが、基本的に自堕落だ。


 動物的な本能に従って生きていたらちっとも行動を起こさない人間であると自己分析した俺は一日のルーティンを決め、それに従って無理矢理身体を動かしでもしないと駄目であった。


 最初は辛い部分もあったが、十年近くも続けているとすっかり俺の身体は順応、プログラミングされてしまった。


 決まった時間には眠くなり、きっかり七時間眠ると自然と目が覚める。


 屋敷で仕事に専念している時はよかったが、その日の予定が定まっていないぶらり旅の中だと時間を持て余してしまいがちだな。


 日中は王都を観光するとしてもどこを周ろうか?


 まあ、いいや。


 朝風呂でもしながらのんびり考えるとしよう。


 〇


 その日もあっという間に夜になった。


 まったく歳を取るごとに時間が過ぎるのが早く感じてしまう。


 三十代の俺でこんな感じなのだから、千年近く生きるドラファルさんだと一日はどれほど一瞬で過ぎ去っていくのだろうか?


 聞いてみたところで、それは本人にしかわからない感覚なのかもしれないが。


 日中の王都観光はマルギットさんが色々と案内してくれた。


 マルギットさんはサンドリア支店の幹部補佐であり、つまりは俺の正体を知る商会の古株である。


 燃えるような赤い髪をした美しくも豪快な女性で、なんとスコット君の奥さんでもある。


 スコット君が二十八歳でマルギットさんは三十一歳だから、姉女房ってことになるな。


 商会で出会った二人は長い職場恋愛の末での結婚。


 元々結婚など眼中になかったマルギットさんにスコット君が猛アプローチをかけたらしい。


 スコット君は涼しい顔してなかなか愛に熱い男なのである。


 もちろん二人の結婚は商会を上げて盛大に祝ったぞ。


 アルファスの屋敷での結婚式は楽しかったなあ。


 二人の幸せな空気に感化されたのか、そこから夫婦になる従業員も増えたっけか。


 あの年は結婚式ラッシュでなかなか賑やかな一年だったと思う。


 あの日を境にエマさんから俺へのアプローチも過激になってきたし。


 というよりエマさんが俺に好意を持っていることに気付いたのもその年だな。


 あれからもう五年だ。


 そろそろ他の異性に関心を向けてくれてもいいものだけど。


 王都観光では武器屋や露店市場、ファラの希望で甘味処などを周った。


 大抵の商品はシマダ商会で手に入ってしまうものだから、ショッピングを楽しめないのはこの生業のもったいないところである。


 シマダ商会が手を出していない分野は武器商、奴隷商といった俺の商人としてのポリシーに反するものぐらいで、それ以外の分野にはおおよそ進出しているはずだ。


 すっかり驚きの出会いというものが減ってしまった。


 なので、チリッチ君のようなまだ未知の領域を開拓しようとしている人を見るとつい応援したくなってしまうのである。


 そんなことを思いながら歩いていると、背中を丸めてとぼとぼと歩く小さな少女が目に留まった。


 荷車を引いていることから露天市場に出店していたみたいだが、その様子から見るにあまり売れなかったようだ。


 ファラがお腹空かしていたこともあって、市場の隅々まで巡ったわけではないから彼女の露天は見逃していたな。


 明日にでも探してみるとしよう。


 これまでの仕事で培った商人としての勘だが、なんとなく面白い発見がある気がするのだ。


 まあ、所詮は勘だから外れることも多いのだけど。


 〇


 商会に着き、俺たちの案内はマルギットさんからスコット君にバトンタッチだ。


 支店長のスコット君だけでなく、副店長のマルギットさんまで俺たちと共に行動しているからか、従業員から向けられる視線にも好奇心が宿っている気がする。


 そりゃあ、初心者冒険者装備で身を固めた見た目もちぐはぐの三人組を自分たちのボスが接待していたら興味も湧くだろうな。


 無関心でいる方が難しいであろう。


 そんなわけで早々と商会を出ることにして、俺たちは暗殺ギルドのある場所へと向かうことにする。


 暗殺ギルドが看板なんて出しているわけがなく、その組織の存在は一般の市民にはもちろん貴族にすらあまり知られていないらしい。


 知っているのは王族や一部の貴族、商人といった権力者に限られ、彼らとコンタクトを取るための情報だけで莫大な金額が動くこともあるようだ。


 まあ、コンタクトの手段を漏らしたものは契約違反として秘密裏に処理されるらしいけど。


 これから対面する相手に少し緊張しながら、スコット君を先導に夜の王都を歩く。


 スコット君はまず一人のホームレスに声を掛けた。


「なんだ坊主。

 酒でも恵んでくれんのか?」


 何日も風呂に入っていないようなみすぼらしい恰好の老人に、スコット君はマジックバッグから酒を取り出す。


「シマダ酒造大吟醸 紅龍だ」


「ほう、そりゃあいいや」


 スコット君がマジックバッグから取り出した酒に俺は驚く。


 あれはウチの商会で出している最高ランクの日本酒の一つじゃないか。


 紅龍様の土産で持っていった時に大層気に入ってもらえたようで、しまいには「私の名前を付けろ」などと催促されてしまったっけか。


 ちなみに他にも「翠狼」の名を冠したワインと「蒼鯨」の名を冠したウイスキーがある。


 どれも一本500万イェンはする一品で、ホームレスに恵んでやるにはいささか高価すぎる代物だ。


 ホームレスの老人は欠けたおちょこを取り出て器用に注ぐとそれをくいっと飲む。


「うめえな。

 こりゃ本物だ。

 ……それで?」


「食堂を探している」


「どんな食堂だ?」


「ケイブリーボアのステーキが食べられる食堂だ」


「ステーキの焼き加減は?」


「ウェルダン」


「……ついてきな」


 おおっ、なんかカッコいい。


 察するに紅龍、ケイブリーボア、ウェルダンが暗号だったらしいな。


 こういう裏組織へと繋がる暗号というのはこの歳になっても少年心をくすぐられるものがあるなあ。


 さびれたバーのキッチンを抜け、真っ暗な地下通路に入り、隠し扉を通り抜け……


 老人の後ろをついて歩くこと十分ほどして、とある扉の前にたどり着いた。


 場所は変わらず地下。


 まさか王都にこんな地下通路が形成されてるとは思わなかった。


 しかも迷路のように入り組んでいるものだから、暗さも相まってこの場所を自力で発見するのは困難であろう。


 扉の下から中の明かりがほんの少し漏れている。


 どうやら先方はすでに待ち構えているようだ。


 ふうと一息深く息を吐き……いざいかん。


 スコット君がドアノブに手を掛けた。

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