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王都サンドリア

 

 次の日、俺たちは王都に向かうことに決めた。


 ヌワさんとローデンブルク家に別れの挨拶をしてイプスールを出る。


 エマさんがなんだかもじもじしていたので何事かと聞いたら、彼女は秘かに海水浴の準備をしていたらしい。


 海の街なのにまるでそのことが頭から抜けていた。


 ミレーヌと再会したことのインパクトがあまり強すぎたな。


 チリッチ君のスライム研究のこともあったし。


 エマさんはちゃっかり水着を買っていた。


 そういえば俺がチリッチ君と研究所で話し込んでいたときに街にファラと散策に出ていたっけか。


 おそらくその時に購入したんだろうな。


 エマさんがマジックバッグから取り出したのはまさかのハイレグ水着。


 その布面積じゃどう考えてもその立派な乳房は収まらんでしょと思わずツッコみたくなった。


 それに、そんな水着姿のエマさんと海水浴だなんてとても俺の下半身が耐えられない。


 独身主義ではあるものの俺だって男だ。


 ヒト科の動物で哺乳類で一匹のオスなのだ。


 コントロールできる性欲にも限界がある。


 過ちは犯さないにしても、下半身はきっと反応してしまうだろうな。


 そういえばヨガで性欲を完璧にコントロールしていた変わり者の友人がいたな。


 バックパッカーとして世界を周り、最期にたどり着いたインドでチャクラを開いたらしい。


 あの時にその術をしっかり教わっておけばよかった。


 まったくエマさんは俺の理性と本能のせめぎ合いを強要させてくれる。


 かなり疲労するから勘弁してほしいね。


 というわけで残念ながら今回は水着回なし。


 海の綺麗な街はまだまだある。


 それまでおあずけだ。


 〇


 イプスールを出発してから四時間ほど経ったころだろうか。


 休憩を挟みつつも着実に王都に近づきつつあった俺たちにトラブルが発生した。


 俺たちの行く手を塞ぎ、馬車を囲むならず者たち。


 馬車旅の名物である盗賊の登場である。


「命が惜しければおとなしく身包み置いてきな」


 この世界で暮らし始めて早十年。


 しかも商人として世界中を巡っていたものだから、どれだけの盗賊とエンカウントしたことだろうか。


 すでに恐怖どころか驚きもない俺はふあっと欠伸しながら馬車を降りる。


「それで?

 なにが欲しいんだい?

 といってもなにもないけど」


 頭をぽりぽり掻きながら俺は盗賊のボスらしき男に訊ねる。


「……舐めた態度取りやがって。

 殺されてえのか?」


「まさか。

 それにしても冒険者を襲うなんてよっぽど切羽詰まっているのかな?

 どうせ襲うなら商人の馬車から奪えばいいのに」


「はっ!

 俺様はそんなこまけえことは考えねえよ。

 目についたものは殺し、奪う。

 それだけよ」


「随分と腕に自信があるようだけど……

 まあ、いいか」


 するとエマさんも馬車から降りてきた。


 エマさんの姿をみた盗賊たちはヒュウーと口笛を鳴らす。


「ほう。

 こいつは当たりだったな。

 おい、てめえら!

 この女は傷つけるなよ」


「へえ。

 女の人には手を出さないって優しいところがあるじゃないか。

 無傷で彼女を捕まえてどうするつもりだい?」


「馬鹿が。

 そんなこと決まってるだろ。

 奴隷商に売り払うんだよ。

 まあ、その前にじっくり俺たちで堪能させてもらうがな。

 どんな声で鳴くか楽しみだぜ」


 べろっと舌なめずりして下卑た笑い声をあげる盗賊たち。


 まあ、初見で予想はついていたがこの盗賊たちは同情余地なしの部類だな。


 確認して損した。


「じゃあ、戻ろうかエマさん。

 ドラファルさん、あとは任せたよ」


「御意」


 その後、ほんの数秒で壊滅する盗賊たち。


 盗賊にも色々な人間がいる。


 ラシャール君たちみたいな好ましささえ感じてしまう信念ある盗賊から、目の前のこいつらみたいな下種な盗賊まで。


 大半は後者なのだが、前者の類もそこそこ見かけるのだ。


 なので、面倒ではあるがこうして一応その人となりを確認をしている。


 いい人材であれば商会に引き抜いたり、仕事先を斡旋してやったりもする。


 何故と言われても特に理由はない。


 偽善と言われればそれまでの行いだ。


 まあ、宝探しみたいなものだ。


 商会の幹部たちとも皆変わった出会いをしているからなあ。


 スラム街で、雨の路地裏で、牢屋で、モンスターの胃の中で……


 いつどこで素晴らしい人材に出会うかわかったもんじゃない。


 だから、たとえ面倒であってもこうしてアンテナ張っておかないとな。


 今回はハズレだったけども。


 縄で簀巻きにされ道脇に転がされる盗賊たちを置いて再び馬車は走り出す。


 この道は比較的交通量も多い。


 通りがかった他の馬車が街まで連行してくれることだろう。


 警備団に届ければそれなりのお金になるしな。


 〇


 盗賊に襲われるトラブルはあったものの、三分ほどで片付いたので旅程にはさして影響がなかった。


 当初の予定通り日没前に王都に辿りついた。


 王都サンドリア。


 アルマシア王国最大の都市だけあって巨大な街である。


 都市の規模だけでいえば世界一であろう。


 これまたバカでかい入り口の門をくぐって王都に入る。


 それにしても、王都か……


 仕事で渋々来ることはあったが、本当に不愉快な思い出しかない。


 傲慢な貴族、擦り寄ってくる商売敵、高圧的な近衛兵、慇懃無礼なギルドの役人……


 正直言ってこの世界で俺が好きな都市ランキングのワースト一位である。


 まあ、そんな思いをしていた当時は俺もまだまだひよっこの商人だったからな。


 力を付けた今ならまた違ったように映ることを期待しよう。


 さて、ひとまず宿探しだが……


 おっ、あそこに見えるスマートなシルエットは彼なのではなかろうか?


 俺たちが近づいていくと、そのシルエットの人物は貴族の執事かのように優雅にお辞儀をする。


「おひさしぶりでございますコウタロウ様。

 ドラファル様、エマ様も。

 ……おや?

 これは珍しい。

 妖精ですか」


「ファラだよ」


「ふふっ。

 ファラ様ですね。

 ようこそ王都へ」


 その人物はやっぱりスコット君だった。


「ひさしぶりだね。

 スコット君も元気そうでなによりだよ。

 それにしてもよく俺たちが向かっていることがわかったね。

 ヌワさんから通達でも貰っていたのかい?」


「いいえなにも。

 しかし、ドラファル様の強大な気配を感じたものでこうして参った次第です。

 むしろコウタロウ様もご一緒だったことに驚いているぐらいですよ」


「ふぉっふぉっふぉ。

 上手く隠しているつもりなんですがの。

『霊炎』は騙せませんか。

 腕はちっとも衰えていないようですな」


「お褒めにあずかり光栄です」


 二つ名。


 それは冒険者であるなら誰もが憧れる最強の称号である。


 ランク最高位のプラチナの中でもさらに一線を画した実力を持つと判断された冒険者にのみ二つ名は与えられる。


 現在、二つ名を与えられているのは三名。


『嵐姫』、『槌滅』、そして『霊炎』。


 そんな『霊炎』の名を冠するのがシマダ商会サンドリア支部代表のスコット君なのである。


 ……雇っておいてなんだけど、なんでここにいるんだろうな。

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