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崩御

 

 アルマシア王。


 王都の式典を通りかかったときに一度だけ見たことがある。


 遠目からではあったが、真っ白な口ひげも相まってどこか優しそうな印象を受ける人物だったな。


 そんなアルマシア王の突然の訃報。


 歳はまだ四十代半ばだったはずだ。


 先代の王たちと比べるとあまりに早すぎる死である。


 これは裏でなにかあったか?


「どう思うドラファルさん?

 どことなくきな臭さを感じるんだが」


「そうですな。

 私もそのように思います。

 王の座を狙う何者かによる謀略ではないでしょうか?

 断定をするのは早計ですがね」


「やっぱりそう思うか。

 ちなみにそんなこと考える奴に心当たりはあるかな?」


「それはもうたくさんおりますとも。

 今代のアルマシア王の治世は上手くいっていたとはお世辞にも言えませんからな。

 配下である貴族もとても抑え込めていませんでした。

 欲をかいた輩すべてに命を狙われていてもおかしくないでしょう。

 王の器ではありませんでしたが、人格者ではあったためにこのような結末で終わるのは不憫でなりません」


「そうか。

 そうなると犯人探しは難航しそうだなあ」


「でもまあ、仮に暗殺であった場合、犯人は次の王座に就く人間に近しい人物であることは間違いないかと」


「確かに。

 アルマシア王家は世襲制だったよな?

 今代の王には子供がいるのか?」


「ええ。

 王位継承権を持つ四人の子供がおります。

 第一王子、第二王子、第三王女、第四王子の計四名ですな」


「なかなか子沢山だったんだな。

 王位を継承するのは無難に第一王子なのだろうか?」


「でしょうな」


「そうなってくるとアルマシア王国の行く末が心配ですね……」


 そう口を挟んだのはチリッチ君である。


 ミレーヌもなんだか嫌そうな顔をしているな。


「というと?」


「第一王子のデュパーノ様は王に相応しい人物とはとても言えません。

 王子という権威を笠に着て、色々と好き勝手やっているようです。

 飲む打つ買うはもちろんのこと、さらには狩りと称して逃げ惑う奴隷をなぶり殺すような非道も行っているとの噂もあります」


「私は女性の奴隷をゴブリンに襲わせる見世物をしてるって話を聞いたわ。

 しかもあいつ、私にまで気持ち悪い色目使ってくるのよ。

 魔族を抱くのも悪くないとか言っちゃてさ。

 何度蹴り殺してやろうと思ったことか。

 失礼ったらありゃしないわよ」


 思い出しただけで頭にきたのか、ミレーヌの身体から闘気のようなものが出ている。


 まあまあ落ち着いて。


 そんな時はファラでも眺めて癒されるといいよ。


 テーブルのファラはフルーツボウルの果物をはむはむしている。


 人族のごたごた話なんてファラからしたら退屈だろうなあ。


 あとでいっぱい構ってあげよう。


「要するに典型的なダメ王子ってことか。

 いや、ダメってレベルじゃ済ませられないなあこりゃ。

 そんな話を聞いたら増々そのデュパーノって奴の仕業に思えてくるよ」


「デュパーノ王子を傀儡の王にしようとしてる貴族の可能性も考えられますね。

 しかし、そうなってくると他の王子や王女が心配です。

 跡継ぎにはなれないとしても王族としての権力はありますから、排除しようとする動きが起きても不思議ではありません」


 エマさんが唇に指を当てながら、考え込むような仕草を取る。


「エマさんの懸念も否定できないな。

 デュパーノってのはアレみたいだけど、他の王子、王女はまともなのか?」


「王に相応しいかどうかは判断しかねますが、人としては問題ないように思います。

 第二王子のエリクセル様はマジックアイテムに傾倒している研究者気質の人物ですね。

 権力闘争には一切関心がないようで、なかなか社交界に現れない人物として有名です。

 第三王女のユーファミア様はニューズ魔術学校に通っていて、ご学友からも慕われる模範的な生徒であるという話です。

 最近は学業の傍ら冒険者としての活動も始められたみたいですね。

 第四王子のトリス様はまだ三歳の子供だったかと」


「なるほどなあ。

 となるとやっぱりデュパーノとその周囲が怪しいか。

 ミレーナやチリッチ君はこれからどう動くんだい?」


「王宮からのお呼び立てがない限りは動きようがないって感じですね。

 妻の実家のような大貴族であればまだしも、ローデンブルク家のような弱小貴族にはさして影響がありませんから。

 どれほど王を慕っていたとしても混乱中の王宮に入ることすら難しいでしょう」


「パパのところはバタバタしてんじゃない?

 といってもヴァーミリオン家は軍事貴族だし、パパも脳筋だから国防以外にできることなんてそんなにないけどね。

 コウタロウたちはどうするの?

 シマダ商会的には大事件なんじゃない?」


「うーむ。

 確かにデュパーノが王座に就いたらその権力で商会にちょっかいをかけてくるのは目に見えてるよなあ。

 そうなったとしてもエドワード君と王都のスコット君で対処できるとは思うんだけど。

 どう思う二人とも?」


「あの二人であれば問題ないかと」


「私もそう思います」


「だよね。

 俺もそう思うよ。

 でも顔は出しておいたほうがいい気がするね。

 王家が相手だと対処の仕方も難しいだろうし」


「私はそこまで心配しておりませんが、事が動き始める前に一度顔を出しておくのは良いことかと。

 となると次に向かうのは王都ですな」


「もし王家が商会に手を出してきたらどうしましょう。

 コウタロウさんはどうお考えですか?」


「そうだな……」


 俺はテーブルの上でゆっくりと手を組む。


「度が過ぎる場合にはもろとも消えてもらうしかないかもな。

 デュパーノも、それに群がる貴族にも」


 俺が静かにそう告げると、凍り付くような沈黙が流れる。


 ファラが両手に抱えていた果物をポロっと落とした。

 

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