貴族の屋敷へ
ヌワさんの貴重な表情の変化を見れた俺たちは次にミレーヌの屋敷へ向かうことにした。
街の中心部から馬車で十五分ほどのところにその屋敷はある。
ローデンブルク家の屋敷はイプスールの郊外にひっそりと佇んでいる。
波の音しか聞こえない閑静な場所で、なかなか住み心地がよさそうだ。
貴族様の屋敷にお邪魔するのなんていつぶりだろう?
俺は貴族のことが好きではない。
波風立てないよう様付けしているが、本音ではちっとも敬意など持ち合わせていない。
商売の邪魔する奴らはだいたい貴族なる連中なのである。
理由なく税を上げようとしてきたり、賄賂を要求したりなんてのはまだ優しいもので、盗賊をけしかけて嫌がらせをしてきたり、しまいには殺し屋を送り込んできたりする始末だ。
ここまで商会を発展させていく中で、どれだけ貴族に殺意を覚えたことか。
庶民が成り上がるのが気に食わないのか、自分たち以上に力をつけて欲しくないのか。
ヴァーミリオン家のような民を第一に思うような立派な貴族なんてごく一部で、たいていの貴族は権力闘争や私腹を肥やすことしか考えていない。
まったくしょーもない連中なのである。
貴族に対して敵意しか持ち合わせていないそんな俺がこうしてローデンブルク家を訪れたのは、ひとえにミレーヌの旦那であれば問題ないだろうという期待からである。
門番の騎士に昨日の別れ際に貰ったミレーヌからの招待状を見せると、思いのほかすんなり通してくれた。
貴族の屋敷にありがちなお堅い空気感もない。
ローデンブルク家の元来の姿なのか、それともミレーヌが嫁いだことで軟化されたのか。
なんにせよ実に好感触である。
さて、あのギャル奥様の旦那はどんな人物なのだろうか?
〇
馬車から降りるとミレーヌ自らお出迎えにきてくれた。
ミレーヌは動きやすそうな袖のないワンピース姿だ。
余所行きの着飾ったドレス姿よりこっちの方がミレーヌらしさがあるな。
ミニ丈から覗く褐色の太ももが健康的な美しさを感じさせる。
おっといかん、人妻の肌をそうじろじろ見るもんじゃないな。
隣にはタンクトップ姿のアンスリアさん。
どうやら庭で訓練をしていたらしく額には大粒の汗が滲んでいる。
野郎の汗と違ってどこか清らかさを感じる汗だ。
ちょっと変態みがある感想かもしれないが、そう感じてしまったのだから仕方がない。
それにしても二人のプライベート姿をこう並んで見てみると、肌の色が違うとはいえ姉妹のように見えなくもないな。
一目で仲睦まじい間柄であることがわかる。
まあ、イプスールまでの道中の様子で大変仲良しであるのは知ってるけど。
「いらっしゃーい。
ようこそ我が家へ。
おもてなしさせてもらうよー」
「はは、お邪魔するよ。
アンスリアさんも訓練中にすまないね」
「いえ、とんでもありません。
こちらこそこのような格好でのお出迎えをお許しください」
「それは問題ないよ。
訓練頑張っているようだね。
そうだ、あとでドラファルさんにも稽古をお願いしたらどうだい?
きっとためになるんじゃないかな?」
「よっ、よろしいのですか?」
「ドラファルさんが良ければだけどさ。
どうだろう?」
「ふぉっふぉっふぉ。
もちろんかまいませんとも。
私もいまだ道半ば。
僅かな時間ではありますが共に武の道を邁進しようではありませんか」
「はいっ!
よろしくお願い致します!」
「えーいいなー。
私も伝説の男の指導受けたーい」
「ミレーヌ様もご一緒にどうぞ。
その身に宿る武の血脈を是非見せていただきたい」
「おーし!
サラブレットの力見せちゃうもんねー!」
「そしたら俺たちは見学でもしていようか。
その前にミレーヌの旦那さんに挨拶しとかないとな。
旦那さんは中にいるのか?」
「いや、いまは仕事で出かけてるよ。
でも、そんなしないうちに帰ってくると思う。
あっ、旦那が帰ってきたとしても適当にくつろいでていいからね」
「貴族様なんだからそうはいかんだろに」
「あはは。
旦那はそこらへん全然気にしないよ。
それに立場が下なのは旦那のほうじゃん。
なんせ相手は世界皇帝なんだし」
「やめろやめろ。
友人の旦那さんにペコペコされるのはご免だ」
「えへへ。
ウチらマブダチだもんねー」
にひひと笑うミレーヌ。
考えてみれば過去と合わせてたった三日の付き合いなのだが、なんの疑いもなく自然と心を許してしまっているんだよなあ。
いやはやギャルパワーとは恐ろしいものである。




