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道中にて

 

 次の日、俺たちはラシャール君たちと別れを告げ街を出た。


 ホテルのモーニングビュッフェでお腹パンパンになったせいかすでに少し眠い。


 高級ホテルなだけあって、昨夜のディナーと同じくモーニングビュッフェでも贅を尽くしたものがこれでもかと並んでいた。


 普段であれば朝はトースト一枚とコーヒーだけで済ませているのだが、貧乏性が出てしまいついつい食べ過ぎてしまった。


 エマさんの食べっぷりが俺の食欲に拍車をかけたのもある。


 濃厚デミグラスソースのハンバーグ3つに山盛りのきのこパスタ、とろとろチーズのマルゲリータ2枚にチリソースたっぷりのケバブサンド4つをぺろりと平らげていた。


 おまけに締めのデザートとして巨大なスイーツパフェも瞬く間に胃の中に収めてしまったもんだから恐れ入る。


 その時すでに満腹だった俺は見てるだけで胃もたれしそうだった。


 なぜそれだけ食べてその細いウエストをキープできているのだろうか?


 豊満なバストに栄養を吸い取られているとしか考えられない。


 アルファスの屋敷での食事の時も見た目の割によく食べる女性だなあと思っていたものだが、改めてその底なしの胃袋を思い知った形である。


 次からはエマさんの食べっぷりに引っぱられないようにしなくては。


 肩の上のファラも食べ過ぎたのかうつらうつらしている。


 モーニングビュッフェではその小さな顔をクリームまみれにしながら夢中でパフェにがっついていた。


 妖精は花の蜜やフルーツを好むことは知っていたが、まさかパフェを食べるとは驚きである。


 てっきり自然のものしか口にしないと生き物であると勘違いしていた。


 ファラに聞いたところ、妖精は甘ければなんでも食べれるみたいだ。


 しかし、食べれるとはいってもフルーツや花の蜜と比べて人の手が加わった甘味はカロリーや添加物が桁違いなのでファラの健康のためにもなんでもかんでも与えてはいけないのかもしれない。


 そんなことを考えていたら首筋にファラの頭がこてんと当たった。


 どうやら完全に寝てしまったようだ。


 夢を見ているらしく、小さな声で寝言まで呟いている。


「うーん、ぽよんぽよんに潰される。

 エマのおっきいぽよんぽよん」


 ……ファラ、どんな夢見てんの?


「ふふふ。

 寝てる姿もこれまた可愛らしいですね。

 なにか寝言を呟いているようですが、どんな夢を見ているんでしょう?」


 エマさんは内容までは聞き取れなかったようだ。


「……さあ。

 きっと幸せな夢なんじゃないかな」


 アナタの巨大な乳房に押しつぶされている夢だとはとても言えない。


「次はイプスールか。

 デラリオからかなり距離があるね。

 長旅になりそうだ。

 どれぐらいで到着するかな?」


「そうですなあ……おそらく明日の夕暮れ時になるかと」


「大陸の端っこだし、やっぱりそれぐらいはかかるよね。

 まあ、急ぐ必要はないんだ。

 のんびり行こう」


「今日は野営……キャンプですね。

 なんだかいよいよ旅って感じがしてきました。

 年甲斐もなくはしゃいでしまいそうです」


「そうだな。

 焚火を囲んで温かいココアでも飲みながらまったりしようか。

 でも、魔物が出る危険性もあるからそこは注意しないといけないね」


「結界魔法はお任せください。

 とびきり強力な結界を張らせていただきますよ。

 ワイバーンの火球もへっちゃらです」


「ははは。

 それは頼もしいや。

 ワイバーンの襲撃はさすがにないと思うけどね」


「ふぉっふぉっふぉ。

 コウタロウ様がそう申されるとなると少し身を引き締めないといけませんな。

 ワイバーンを相手するとなると、ブラッディーヴァイパーよりは多少骨が折れますから」


「ふふふ。

 確かにそろそろトラブルに見舞われてもおかしくありませんね。

 むしろコウタロウさんがいるにも関わらず、ここまでなんのトラブルもなかったことが不思議なぐらいです。

 ドラファル翁、その時はしっかりサポートさせていただきますね」


「二人して酷い言いがかりだなあ」


 俺ってそんなにトラブル体質なんだろうか?


 これで本当にワイバーンになんか襲われた暁にはどうしたものか。


 いや、まさかね。


 しかし、そんな俺の思いも空しくこの後一行はトラブルに見舞われるのであった。


 〇


「コウタロウ様、お休みのところ失礼いたしますぞ。

 なにやら問題が発生しているようです」


「んあ……どうやら寝ちゃってたみたいだね。

 一人任せてしまって申し訳ない。

 それでどうしたの?」


 ドラファルさんが見つめる先には豪勢な馬車があった。


 見た目からしておそらく貴族のものだろう。


 あのエンブレムは確かローデンブルク家のものだったかな。


「どうやら立ち往生してしまっているようですね」


 騎士らしき人物が馬車の車輪の前に膝まづいてなにやら手を動かしている。


 おそらく問題が発生したのだろう。


 とりあえず助けてやるかということで、俺たちは馬車を降りた。


「どうされましたか?」


 俺たちが近づいていくと騎士は腰の剣に手をかけた。


「何者だ!」


 おや、意外。


 声色からして騎士様は女性あるようだった。


 ショートヘアの後ろ姿しか見てなかったもんだから、てっきり男性かと思っていた。


「そう警戒なさらなくて大丈夫ですよ。

 俺たちはしがない旅の商人です」


 そう語りかけるが、女騎士様は剣の柄から手を離さない。


 俺たちをじろりと観察している。


「商人だと?

 ……その姿は冒険者のように見えるのだがな」


 あっ。


 俺が言い出しっぺなのに自分たちが冒険者に扮して旅をしていることをすっかり忘れていた。


「……こ、これは失礼しました。

 盗賊に襲われないために冒険者に扮しているのです」


「……そんな真似をしている商人は聞いたことがないな。

 普通は護衛を雇うものだが……その費用すらもケチっているのか?」


「え、ええ。

 商売がなかなか上手くいかないものでして……」


 咄嗟に出た言葉でなんとかごまかそうとする俺。


 すみません、実は1京イェン稼いでいます。


「冒険者の中には盗賊まがいのことで生計を立てている輩もいると聞く。

 怪しいな……

 貴様、本当に商人であるというのなら腰の剣を置いて商人のギルドカードを私に見せろ。

 そこの二人も武器を外すんだ」


 俺たちは女騎士の言う通りに装備を外した。


 両手を上げながら近づいていき、俺はギルドカードを見せる。


「シルバーのギルドカードか……

 誰でも取得可能なコッパーのカードであればまだ油断出来ないところではあったが……確かに商人であるようだな」


 俺はほっと胸を撫でおろす。


 ギルドカードをシルバーで止めておいてよかった。


 冒険者と同じように、商人にもギルドカードがある。


 仕組みもまた冒険者ギルドと同じ。


 そのランクによって世間の信用度が上がる仕組みだ。


 シマダ商会の幹部や幹部補佐はもちろん最高ランクであるプラチナのギルドカードなのだが、俺は裏に引っ込むために更新をストップしていたからな。


 ビジネス相手と直接対面することになる幹部たちが持ってさえすれば、仕事上なんら問題はない。


 プラチナのギルドカードは稼いでいる商人の証みたいなもんだから、なにかと標的にされやすいし。


 ……んー、よくよく考えると部下にだけそんなリスキーなものを持たせている俺ってひどいな。


 身代わりみたいにしちゃってすまない。


 憶病な経営者を許してくれ。

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