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世界皇帝

 

「えー、説明させていただきやすと、ここにある紙幣の総額が1京3200兆6800億イェンございやす。

 その他、宝石類や美術品なども合わせますと2京イェン近くになりますな。

 三柱様からの贈答品の価値がこちらで判断しかねるもんで換算しておりません」


 情けなく座り込んでしまった俺だが、ようやく目の前の現実を直視できるぐらいに回復してきた。


 いや、悪いことじゃないけどまさかこれだけ溜め込んでいるとは思わないじゃないか。


 兆とか億とかいった金額は仕事の書類上で見ることはあったけど、実際に紙幣として目の当たりにするとここまで迫力があるとは。


 それにしても1京イェンって。


 どうすりゃいいんだこんな金。


「ふぉっふぉっふぉ。

 いやはや凄まじいものです。

 私の有する資産などこれを前にしたら豆粒みたいなものですな」


「えっ?

 ちなみにドラファルさんってどれぐらい持ってるの?

 こんなこと聞くのはマナー違反かもしれないけど……」


「おおよそ300兆イェンぐらいですな。

 伊達に長生きしておりませんぞ。

 まあ、コウタロウ様にはたった十年ほどで抜かれてしまいましたが」


 いやいや300兆って。


 そんなに金持ってたのねドラファルさん。


 庶民感覚の俺からしたら十分イカれた金額だぞ。


 千年生きてると言っても年間3000億貯めてる計算になる。


 やはり生ける伝説と呼ばれるだけあるんだなあ。


 それだけあるならウチで働く必要ないじゃないか。


 ますますウチで執事をしている理由がわからん。


 ん?


 となると世界最強の魔女であるエマさんはどうなんだろう?


 俺の視線に気づいたのか、ちょっとはにかみつつも答えてくれた。


「私は2兆イェンほどしか持ち合わせておりませんよ。

 コウタロウさんと比べるまでもありません。

 十分満足しておりますけどね」


 いや、そうでしょうよ。


 2兆もあれば誰だって満足するよ。


 でも、あれか?


 やっぱ、金持ちになると2兆あっても物足りないなんて事態に陥るのだろうか?


 このあいだのオークションでも魔法の触媒となる素材にぽんっと3000万払ってたし。


 社会的ステータスに比例して、求める商品の値段も高くなっていくのかもしれないな。


 それにしても2兆イェンか。


 エマさんもウチで働く理由ないじゃないか。


 2兆イェンっていったらあれだ。


 ファラ1万羽分だぞ。


 俺がメンタルをボロボロにして買ったファラが一万羽だぞ。


「コウタロウ、失礼なこと考えてる。

 ファラ、わかる」


 ファラが少しムッとした表情でこちらを見ていた。


 おっと、いかんいかん。


 ファラの値段で計算するのはさすがにいろいろとダメだな。


 いや、まてよ。


 いつの間にかここにあるものすべてが俺のものだと受け入れてしまっていたが、そんなことありうるのか?


 俺のものではなくシマダ商会としての資産なのではなかろうか?


 たとえそうだとしても凄まじいものがあるけども。


「いやいや、この金庫内のものはコウタロウの旦那個人の資産ですぜ。

 シマダ商会としての資産はそれぞれの支店にて管理しております。

 なんせ世界中に展開しておりますんでね。

 必要になるたびにここまで取りにくるのは面倒でしょう。

 それでも一部はここの地下3階にて保管しておりますがね」


「そうだったのか。

 あまりにも把握してなさすぎてトップだった身として面目ない。

 ……いや、それでもちょっと多すぎないか?

 みんな俺に気を遣って安月給で働いていたりしないだろうな?

 なんだかすごく不安になってきたんだが」


「滅相もありませんぜ旦那。

 むしろシマダ商会で働くものは貰いすぎるほど貰っておりますよ。

 ワシら幹部や幹部補佐なんて、いまでは貴族より金を持っていますからな。

 金があり過ぎて困っているぐらいですわ」


「いまと比べたら盗賊時代の稼ぎなんて雀の涙みたいなものです。

 おかげさまでかつて以上に貧しき人々に手を差し伸べることができていますよ。

 目の届く範囲ではありますがね」


 それを聞けてほっと一安心。


「それで、本日はどれだけ持ち出されますかね旦那?

 全部持っていってしまいやすか?」


「全部ってこの量をか?」


「旦那のマジックバッグなら余裕でしょうよ」


「確かにそれはそうだけどなあ……

 こんな大金どうすりゃいいんだか。

 そうだ、ボーナスとして商会のみんなに配っちまおうか」


「旦那、気持ちはありがたいですがさすがにワシらもこれ以上は必要ないですぜ。

 ただでさえ金の使い道がなくて困ってるんでね。

 おそらくほかの幹部も同じ気持ちでしょうよ」


 せっかくいい使い道を見つけたと思ったのに断られてしまった。


 ボリス君、エマさん、ドラファルさんにも目を向けるもこぞって首を振られてしまう。


「シマダ商会の経理に関してはナターシャさんがしっかり管理してくれていますからね。

 コウタロウさんが指示なさったとおり、みんな十分過ぎるほど貰っております。

 ちょっと与えすぎじゃないかとナターシャさんは心配しているぐらいでしたよ」


「そ、そうか。

 それはなによりだよ」


 ナターシャさんといえばそうだ。


 俺への給料は適当に管理しといてって雑に任せた記憶があるなあ。


 俺が普段まったく金を使わないのを見越して動いてくれていたんだな。


 その結果これだけの金を知らずに溜め込んでいたわけだ。


 手間かけさせて申し訳ない。


「ふぉっふぉっふぉ。

 いやあ、それにしても世界皇帝の資産ともなると威圧感が凄いですな。

 まさしく巨万の富。

 いまにもうねりを上げて襲い掛かってくるような気さえしますぞ」


「ん?

 ドラファルさんいまなんて?

 世界皇帝?」


「おや、ご存じありませんでしたかな?

 察しのいい一部の権力者たちは畏怖を込めてそう呼ぶのですよ。

 シマダ商会の真の主を」


「それはエドワード君のことじゃなくて?」


「エドワード君は素晴らしい人材ではありますが、シマダ商会を率いる器量としてはまだ物足りないのかもしれません。

 その辺が分かる人には分かるのでしょうね。

 そういう人物は得てして愚かではありませんので、そのことについて踏み込んではきませんが。

 シマダ商会を敵に回すことになりかねませんので」


 な、なんかとんでもないことになってないか?


 世界皇帝?


 俺が?

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