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資産

 

「がっはっはっは!

 これはコウタロウの旦那!

 それにドラファル翁にエマ嬢!

 お久しぶりでございやす!」


 デラリオ支店の前で堂々の仁王立ちで待っていたのはラシャール君である。


 デラリオ支店を任せているシマダ商会幹部の一人だ。


 筋骨隆々の身体に、獅子を思わせる長髪、スーツの袖から覗く岩のような拳、頬を走る深い傷跡。


 いかにも歴戦の猛者といった感じだ。


 元盗賊団の団長を務めていただけあってなんとも迫力のある風貌の男だが、実際はとても優しく気さくな人物である。


 かつて世間に名を轟かせていた義侠の盗賊団。


 悪事を働く貴族や商人からのみ金を奪い、孤児や病人といった社会的弱者に奉仕する彼らの姿に感銘を受け、俺が自らコンタクトを取りシマダ商会にスカウトしたのだ。


 義賊とはいっても犯罪者には変わりない。


 彼らには真っ当な方法でその崇高な理念を体現してほしかったのだ。


「それにしても連絡もなしに来訪されるとはコウタロウ様も人が悪い。

 抜き打ちの査察とかですかい?」


「まさか。

 信頼して任せてるのにそんなことする必要がないだろう?

 とりあえず中で話そうか。

 伝えなきゃいけないことがあるんだ」


 そこからはいつもの流れである。


 俺の退陣を伝えると、涙もろいラシャール君はもちろんのことクールなボリス君も大号泣である。


 慕ってくれているのはとても嬉しいけど、この展開に慣れてきてしまっているせいかなんだか他人事のように感じてきてしまっているなあ。


 どこか事務的な作業になってきているようにも思う。


 行く先々でこのように泣かれてしまうのであれば、幹部を一所に集めて退任式の場を設けた方が良かったかもしれないなと思う俺であった。


 〇


 しばらくして泣き止んだ二人に、この街を訪れたもう一つの目的を話すことにする。


「コウタロウ様の資産でございやすね。

 もちろん、厳重に保管してありますとも。

 ネズミ一匹侵入を許しちゃおりませんぜ」


 ラファール君曰く、俺の資産とやらはラドリオ支店の最下層である地下10階に保管されているらしい。


 ちょっと緊張するがさっそく確認に行ってみよう。


 先導するラファール君の後ろを四人と一羽が列を作ってついて行く。


 魔道エレベーターに乗り込むが、エレベーターの押しボタンに表示されている階数は5階からB3階までしかない。


「コウタロウ様の資産の在処は死んでも守らなくちゃならんトップシークレットなんで色々と手順を踏まなきゃならんのですわ。

 行き方も俺とボリスのみ知るだけです」


 ラファール君はそう説明してくれながらそのぶっとい指に魔力を込める。


 魔力で青白く光る指先がリズムよく、そしてランダムにエレベーターのボタンを押していく。


 どうやらパスワードになっているようだ。


 パスワードの入力が終わるとぶぅんと音がしてエレベーターは降下し始める。


 体感からして明らかに地下3階よりさらに深くへ降りていっているのがわかる。


 エレベーターを降りると、そこには暗く巨大な空間が広がっていた。


 飲み込まれてしまいそうな恐ろしいほどの真っ暗闇。


 そしてそこに潜むなにかの気配。


「コウタロウ、ファラ怖い」


 肩の上のファラが身を縮こまらせる。


「大丈夫ですぜ、妖精の嬢ちゃん。

 魔道ゴーレムが数体中をうろついていますが、俺たちに襲い掛かることはありゃしません。

 仮に襲い掛かられたとしても、このメンツじゃ容易に返り討ちですわな」


「ふぉっふぉっふぉ。

 我々程度に撃退されてしまうゴーレムでセキュリティーはよろしいので?」


「がっはっはっは!

 我々程度とはご冗談を。

 ドラファル翁やエマ嬢を相手できるゴーレムなんておりゃしませんよ。

 そんな兵器が生み出された日にゃ世界の終わりですがな」


「むう。

 想い人の前で化け物扱いはやめてほしいものです」


「おっと、こりゃ失礼。

 それじゃ、向かうとしましょうか」


 ラシャール君が魔法を唱えると暗闇が消え去った。


 白い大理石で出来た巨大な空間の中を六体のゴーレムが不規則にうろついていた。


 前方には王都の城門並みに大きな金庫が見える。


 どう考えてもあれだろうな。


 さすがにデカすぎじゃないか?


 あのデカい金庫に2億イェンが保管されていたとしても、嬉しさより恥ずかしさが勝つぞ。


 100万イェン紙幣で200枚なんて片手で持てるぐらいのサイズだからな。


 なんだか怖くなってきた。


 そんなことを考えているうちに一行は金庫の前にたどり着いた。


 ラシャール君が再び魔法を唱えると、ガコンと音がして金庫がロックが外れた。


「では、コウタロウ様から中へどうぞ。

 まあ、さほど驚きゃしないでしょうがね」


 俺はごくりと生唾を飲み込み、金庫の中へゆっくりと足を踏み入れた。


「ははっ、冗談だろ……」


 中に広がる眩い光景に俺は思わず立ちすくんでしまう。


「コウタロウ、すごいね。

 キラキラがいっぱいだよ。

 ……コウタロウ?」


 ファラに頬をつつかれて俺は正気に戻った。


「なんじゃあこりゃあ……」


 俺は呟いた。


 とても現実とは思えない。


 これ全てが俺の資産だって?


 信じられない。


 目の前に広がる札束の山、山、山。


 マフィア映画で見るようなパッキングされた札束の塊が金庫を埋め尽くすがごとく積みあがっている。


 札束だけじゃなく金銀財宝も盛りだくさんだ。


 金の延べ棒に数多のジュエリー、不思議な見た目の魔道具、絵画、それに楽器まで。


 ここにあるもの全てが眩い輝きを放っている。


 いったいどれほどの価値があるんだ?


 威圧感さえ覚える目の前の金の圧力になんだか気が遠くなってきた俺は力なくその場にへたり込むのであった。

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