表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/51

スピード入社

 

 ファラがシマダ商会に入社した。


 入社させたといった方が正しいかもしれない。


 俺の意図を汲み取ってくれた四人の動きは早かった。


 ティーナは面接書類を取りに、ターニャはお茶を汲みにそれぞれバタバタと出ていき、すぐに戻ってきた。


 エマさん、ドラファルさんは所定の位置である俺の背後にすっくと並び立つ。


 形だけの面接のスタートである。


 戸惑うファラをそっちのけでこちらから一方的にシマダ商会の理念、経営方針、待遇などを口早に伝え、書類に名前と血判を押してもらい、これでファラも晴れてシマダ商会の社員である。


 おめでとうフレッシャーズ。


 共に頑張ろうフレッシャーズ。


「それではファラさん。

 これからよろしくお願いします。

 シマダ商会の繁栄のため、一緒に頑張っていきましょう」


 俺が握手を求めると、ファラは未だに現状を把握できていないながらも、おずおずと俺の指に触れてくれた。


 これにて面接は終了だ。


 時間にして五分あまり。


 怒涛のスピードでファラをシマダ商会に引き込んだ形になる。


「ふぉっふぉっふぉ。

 いやあ、愉快愉快!

 シマダ商会には様々な種族のものが働いておりますが、まさか魔物までも雇ってしまうとは!

 まさに前代未聞。

 ここまで常識外れな商会は古今東西ありますまい!

 ふぉっふぉっふぉっふぉ!」


「ふふふ。

 本当、コウタロウさんはとんでもないお人です。

 こんなのますます惚れ直してしまいますよ。

 絶対お嫁に貰ってもらいますからね」


「いやあ、やっぱり私たちのボスはとんでもないねティーナ」


「そうね、ターニャ。

 魔物を死なせないために雇ってしまうなんて、思考回路どうなっているんでしょう?

 きっとコウタロウさんの脳みそはとんでもない魔法触媒になるに違いありません」


「魔法触媒って……

 気味悪い想像しないでくれよティーナ。

 考えるだけで頭がなんだかむずむずしてきた」


「あはは。 

 脳みそが逃げようとしているんじゃないかな」


「そうかもしれんなあ。

 そうだ、ターニャ。

 ファラが着れそうな洋服用意できるか?」


「あはは。

 その冗談は看過できませんねえ。

 頭蓋骨引っぺがして、脳みそ本当に魔法触媒にしてしまいますよ」


「ん?

 ……いやいやそういうことじゃないって!

 ガランの街でファラのサイズの洋服を用意できる仕立て屋がいるかなって話だよ!

 ターニャの背の低さを煽ったわけじゃない」


「ふむ。

 まあ、信じてあげましょう。

 コウタロウさんがそういったセクハラまがいの冗談を言わない人だとはわかっておりますし」


「そ、それはなによりだよ。

 じゃあ、仕立て屋の件は任せたよ」


「あいあいさー」


「それでは私は皆さまのお食事を手配して参ります。

 ファラさんはフルーツで大丈夫ですよね?」


「だってよファラ。

 なにか好きなものはあるか?」


「う、うん?

 大丈夫……大丈夫?

 ファラ、頭こんがらがってる」


「はは。

 そうみたいだな。

 ティーナ、甘くて瑞々しいやつを頼むよ」


「かしこまりました。

 それでは失礼します」


 ドアの向こうに消える二人を見送って、俺は再びファラに向き直ることにする。


「それで、シマダ商会の一員にしたのはいいですが具体的にどうしましょう?

 ガランの街であの二人に世話してもらいますか?

 それとも屋敷に送って、そこで過ごしてもらいましょうか?」


「そうだなあ……

 ファラはどうしたい?」


「どうしたい?

 ファラは忌み子。

 ファラはなにもできない。

 世界から消えるしかない」


「それはダメだ。

 さっき雇用契約を結んだだろう?

 ちゃんとシマダ商会の社訓を守ってもらわないと」


「社訓?

 ファラわからない」


「社訓その壱、心身ともに健康であれ。

 社訓その弐、我慢をするな。

 社訓その参、仲間同士で助け合え……だ。

 世界から消えるなんて言語道断だよ。

 わかったかい?」


「ん?

 わ、わからないよ。

 ファラ、わからない」


「わかったかい?」


「で、でも……」


「わかったかい?」


 俺はじっとファラを見つめる。


 なにか言いたげそうなファラだが、俺は反論のひまを与えるつもりはない。


 ファラは言葉に詰まったかのようにその小さな口をちょっとパクパクさせていたが、やがて言った。


「……わかった」


「グッド」


「ふぉっふぉっふぉ。

 ここまでごり押すコウタロウ様はひさしぶりに見ましたな。

 いやはやお優しい」


「これが優しさなのか俺にもよくわからないよ。

 なんせ2億のヘッドハンティングだからね。

 簡単に死なれてしまったらそれこそ2億をドブに捨てたようなもんだ。

 無駄金になってしまうのを避けたいだけかもしれないよ?」


「いいえ。

 間違いなくコウタロウさんの純粋な優しさですよ。

 自分では気付いていないでしょうが私にはわかります」


「はは。

 ありがとうエマさん。

 そうだといいけどね」


「そうだよ」


 エマさんに続いてそう肯定したのはまさかのファラだった。


「コウタロウ、どうしてファラに優しくする?

 どうして……どうして?

 ファラは忌み子なのに……」


 人形のような綺麗な瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。


「ファラは世界からいらないって言われた。

 ファラは消えないといけない。

 でもコウタロウは消えちゃだめって言う。

 ファラは消えたくない。

 ファラは……消えなくていいの?」


 涙をこぼしながらじっと俺を見つめてくるファラ。


 どうして……か。


 そんなこと俺にもわからん。


 なにせこのメンバーの中でファラの次に混乱しているのは何を隠そうこの俺なのだから。


「優しさに理由なんてないし、理由が必要ってものでもないだろう。

 だけど、ファラが消えてはいけないことに関しては理由をつけることができるよ。

 ファラはシマダ商会の社員で、俺は一応ここの社長だからね。

 ファラを捨てた世界のことなんて俺は知らない。

 君はこれからシマダ商会のみんなと生きるんだ。

 これは社長命令です」


 その言葉に泣きじゃくるファラ。


 子どものようにわんわん泣きじゃくるファラの小さな背中を指でゆっくりさすってあげながら、俺はふうと一息ついた。


 とりあえずひと段落かな。


 俺にしては上手く彼女の心を解きほぐせたのではなかろうか。


 なんだかどっと疲れた。


 ファラを絶望の淵から救えたのはいいが、そういえば俺2億失って素寒貧なんだよなあ。


 とても旅を続けられそうにないぞ。


 エマさんとドラファルさんの二人から金を借りて旅を続行するのもどうかと思うし。


 どうしたもんか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ