ターニャとティーナ
「ううっ……コウタロウさん。
私、コウタロウさんがいなかったら……
びえーん!」
「ターニャ、しっかりして。
わ、私だって頑張ってこらえているんだから……
でも……や、やっぱりダメです……
うわーん!」
ここは商会の一室。
俺が商会を退いたことを伝えるとまたも泣かれてしまった。
一人はターニャ。
もう一人はティーナである。
役職でいうとターニャがシマダ商会幹部でティーナが幹部補佐となる。
俺のことを知るガラン支店の最高責任者の二人だ。
ショートカット、愛嬌のあるくりんとした瞳、低身長、少女のような快活さが特徴的なターニャ。
ロングヘア、キリっとした瞳、女性にしては背が高め、いかにもスレンダー美人といった感じの方がティーナである。
真逆のような見た目の二人だがこう見えて実は双子の姉妹で、歳は二十三歳だったかな。
ティーナは年相応って感じがするが、ターニャの方は小学生ぐらいに見えなくもない。
こんなこと言ったら、俺もあの大男の二の舞になるから口には絶対出さないけど。
いやあ、それにしてもターニャはまだしもティーナまで泣くとは予想外だ。
あの暗い牢獄から助け出したときさえティーナは涙一つ見せなかったというのに。
少しずつ心の傷が癒えてきている証拠かな。
魔法の実験体奴隷であった二人はそれはもう辛い過去がある。
思い返せばこの娘たちとも色々あったなあ。
彼女たちとの出会いを語るとあまりにも長くなり過ぎるのでここでは割愛させてもらうが……まあ俺にしてはずいぶんと危ない冒険をしたのだ。
あれから十年。
すっかり大人に成長し、尚且つ自然体で泣いてくれている彼女たちを見ているとなんだか俺も胸にくるものがあるな。
娘に向ける父親の感情はきっとこんな感じでなのであろうか。
〇
「ガランの街の見どころですか……やっぱりオークションじゃないですかね?
この街を訪れる人の大半はオークション目当てですし」
「近隣にダンジョンがないので冒険者は滅多に足を運びませんしね。
そんな安全な立地だからこそオークションの会場として選ばれているわけですし。
しかし、コウタロウさんがオークションを覗いたところで欲しいものなんてあるのでしょうか?」
「それはあるよね。
なんせコウタロウさんはあの三柱様から色々と頂いているんだし。
まったく三柱様からの頂き物なんてオークションに出したらいったいどれだけのお金が動くことやら」
「当の本人は全然興味なさそうですしね」
「こらこら二人とも。
興味ないは語弊があるぞ。
俺だってちゃんとありがたいと思ってるんだ。
このマジックバッグとかさ」
「それだけじゃないですか」
「あの時は珍しく興奮されてましたもんね。
あんな子供みたいなコウタロウさんを見たのはあれが最初で最後です。
普段見せないはしゃぎように紅龍様も面食らっておられました。
あれは面白かったですね」
「そ、その話はやめてくれ」
「ふふふ。
あの時のコウタロウさんは可愛かったですね」
「ふぉっふぉっふぉ。
確かに。
紅龍様の手前少しひやひやしましたがな」
「エマさんにドラファルさんまで……
ま、まあその話題はここまでにしようじゃないか。
オークションについて話を戻そう。
なにも予定を立てずにガランにきちゃったけど、今日はオークションやっているのかな?」
それからはターニャとティーナにいろいろと聞いた。
ガランはオークションの街なだけあって、ほとんど毎日なにかしらのオークションが開催されているようである。
さすがに大きな金額が動くような貴重なものが出品されている時は事前の予約が必要となってくるらしいが、今日はそこまで大きなオークションではないらしい。
偶然にも今日は少し珍しい茶器が出品されているようで、そこにドラファルさんが食いついた。
「なんと!
トウゴロウ氏の茶器が出品されているのですか!
コウタロウ様。
これは参加するしかないですぞ!
彼はマイナーな陶芸家ですが実に味のある茶器をその手で生み出してきたのです。
これはなんとしてでも私のコレクションに加えなければ!」
なかなかお目にかかれないテンションのドラファルさんに思わず顔が引き攣ってしまう。
俺が紅龍さんからマジックバッグを貰ったときもこんな感じだったんだろうか。
だとしたら結構恥ずかしいものがあるな。
俺とエマさんはドラファルさんに連行されるような形で店を出た。
鼻息荒く足早なドラファルさん。
目当ての茶器が売れてしまうことを危惧しているらしく、どうやらこのままオークション会場に直行のようだ。
俺たちビギナー冒険者の姿なんだけどドレスコードとか大丈夫なのかな?
まあ、いいか。
オークションというものを体験できるいい機会だ。
欲しくなるようなものがあるといいけど。




