次の街へ
次の日、俺たちはアントン君に見送られベールズの街を後にした。
やけにあっさりと思うかもしれないが、これから世界中を周るのだ。
街のひとつひとつをすべてを堪能していたら、アルファスの屋敷に帰る頃にはおっさんからおじいさんにジョブチェンジしてしまうことになる。
のんびり周りたいのは山々だが、時間は有限だ。
腰を落ち着けてしまわないうちにちゃっちゃちゃっちゃと進んでいこう。
「次の街はガランですね。
あそこは確かオークションが有名でしたっけ?」
「そうだね。
美術品やら骨董品やら魔物の素材やらなんでも出てた記憶があるなあ。
俺はまだ参加したことないや。
二人はオークションに参加したことは?」
「私は何回かありますよ。
気になるマジックアイテムとか魔法の触媒になる魔物の素材とかが出されたときに覗いてました。
ドラファル翁はどうです?」
「私はちょこちょこ参加しておりますぞ。
珍しい茶器が出品されていると、欲しくなってしまう性分なもので。
いやはやお恥ずかしい」
「ははは。
そういえば、ドラファルさんは茶器コレクターだもんね。
マジックバッグの中も茶器だらけですごいんじゃない?」
「それがですね、コウタロウさん。
ドラファル翁は屋敷の一室を茶器を飾る部屋にしてしまっているんですよ。
メイドのマリーが掃除しにくいからどうにかしてほしいって言ってるのに、なかなか片付けてくれなくて……
コウタロウさんからもなにか言ってあげてください」
「ははは。
茶器は飾ってこそだもんね。
コレクションをディスプレイしたくなる気持ちも分かるなあ。
マジックバッグにしまっておくだけじゃ、なんだか寂しいしね」
「さすが、コウタロウ様。
分かってらっしゃる。
素晴らしい茶器を眺めながらのティータイムは格別ですぞ」
「もう、コウタロウさんまでドラファル翁を甘やかすんだから。
マリーに怒られても知りませんからね」
俺はなにかをコレクションしたりする趣味はないけど、現世に一人収集癖がある友人がいたなあ。
狭い部屋を効率よくつかって、これでもかと言わんばかりにフィギュアやポスターが飾られていたっけ。
さすがに窮屈だろうし少し手放したらとどうかと訊ねたが、一つ一つに切り離せない思い出が詰まっているから無理だと一蹴されたっけか。
典型的なコレクターだったなあ吉田君。
今でもあの狭い部屋にフィギュアやらを色々と溜め込んでいるのだろうか?
さすがにもう少し広い部屋に引っ越したかな?
社会人になってから疎遠になってしまったが、元気にやっているといいけど。
ふと頭をよぎった現世の懐かしい顔を思い出しながら、馬車の窓から覗く異世界の景色を眺める。
わけもわからずこの世界に降り立って、はや十年か。
今では現世の記憶の方が夢だったかのように感じてしまうことがある。
俺はエマさんをちらりと見ると、どういうわけか目が合ってしまった。
エマさんはその青く澄んだ瞳で俺のことを見つめていた。
「ん?
どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。
ただ、いつものスーツ姿じゃなく冒険者姿のコウタロウさんも可愛らしくていいなと思って見惚れていただけです」
「何言ってんだか。
それにそこは可愛らしいじゃなくて、カッコいいと言ってほしいところだな。
ほら、こうして剣も下げてるんだし」
「こう言ってはなんですけど、剣があることで余計に戦い慣れしてない感じが出ちゃってますよ。
そこがまた可愛らしくていいです」
「えっ?
そうなの?」
「ふぉっふぉっふぉ。
確かにコウタロウ様は普段のスーツ姿の方がお似合いではありますな。
実は私もエマ殿と同じように思っておりました」
「まじかあ。
それ、早く言ってよ。
なんだか一人だけコスプレしてるみたいで恥ずかしくなってきた。
個人的にはしっくりきてたんだけどなあ」
「コスプレ?
なんですかそれは?」
それから街に着くまでの間、俺は自分がコスプレ野郎だと思われないようにするにはどうしたらいいか真剣に考えていた。
威圧感なのか、立ち振る舞いなのか、雰囲気なのか……
ちょっとは戦えるように二人に訓練してもらおうかな?




