表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

1st Trackless Region“hard-boild cliff”

不毛の荒野の一角に、海の見える崖があった

そこには岩が転がるばかりで草木一つない

吹き抜ける風は冷たく、生命の顕現さえも赦さない

風が支配するこの荒れ狂う大地

かつての領主がこの地を冷徹な崖と名付けたのも遥か昔…


ある日崖に一人の男が現れた

左肩には赤みを帯びたスカーフを巻き

手には煌めく弓を携えていた

男は崖の端まで歩き海を眺める

風は拒絶するかの如く、男を叩きつけた

しかし、男はそこにいることが当然であるかのように

全く微動だにせず海を見つめ続けた

やがて風は力を失い吹き止んだ

「凪いだみたいだね」男は柔らかな口調で呟いた

そして、身を翻して去っていった


翌日、男はまた現れた

風は今度は追い返すのではなく

男を包み込んで優しく迎え入れた

柔らかな風を纏い、男は海を見つめて

「探し物があるんだよ」と呟いた

果たしてそれは自分への言葉なのか

それとも風への言葉なのか

風には知る術がなかった


数日が経ち、その間に男はいろいろ呟いた

風は囁き掛けたが、男に届いたかは分からない

時には強く、時には凪いで

陽の光すら射し込まない崖で

灰色の風に包まれた男は

「この場所こそが貴女の求める秘境でしょうか…」

そう呟くと、煌めく弓に矢を番えて

天に向かって矢を放つ

「貴女に矢を向けるとは失礼ですが…」

風には男がそう呟いたように思えた

男の放った矢は風を切り雲に穴を空け

崖に陽の光を取り戻した

「…ありがとう」

男がそう呟いた

  瞬間…

風が凪いだ

男は海に軽く手を挙げて颯爽とその場を去っていった

あとに遺されたのは

力強くも寂しげな崖と

風に押されてしぶきを上げる灰色の海

そして崖の端に突き刺さった矢が

朽ちるに任せてその場に佇んでいた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ