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さて、今日作るのは、豆腐ハンバーグだ。
ひき肉と豆腐を混ぜ合わせることで、普通のハンバーグと比べ、カロリーと脂質を抑えることができる。豆腐は体にもいいし、値段を抑えることもできるため、一石二鳥どころではない。
問題があるとすれば、少々味気ないところだろうか。ただ、それは工夫次第でどうとでもなる。
まずは、みじん切りにしたたまねぎを、飴色になるまで炒める。
この間に、ソースを作る。しいたけやえのきををフライパンで炒め、そこに水、酒、みりん、醤油、砂糖、出汁の粉を入れて、軽く煮立たせる。最後に片栗粉でとろみをつけてやれば、和風あんかけソースの完成。
たまねぎが飴色になったら、一旦皿に移しておく。
ここからは、いよいよタネ作りだ。
豆腐を泡だて器でよく潰し、滑らかになるまで混ぜる。
そして、合い挽き肉、炒めたたまねぎ、たまご、パン粉、塩コショウとナツメグを加え、ペースト状にした豆腐とよく混ぜ合わせる。
タネが完成したら、ほどよい量を手に取り、空気を抜きながら形を整える。
このとき、手のひらにサラダ油を薄く塗っておくと、タネがくっつきづらくなり、焼き上がりも綺麗になる。ちなみにこれは、最近学んだことである。
すべて形を整えたら、焼きの時間だ。
フライパンにもサラダ油を引き、タネを強火で焼いていく。いきなり強火なのは、表面に焼き色をつけていくためだ。
両面にしっかり焼き色がついたら、火を弱め、蓋をかぶせて蒸していく。これで中まで火が通るようになる。
数分後。竹串を刺してみると、透明な肉汁が溢れてきた。火が通っている証拠である。
皿に盛りつけ、上からあんかけをたっぷりとかけたら、和風あんかけ豆腐ハンバーグの完成だ。
◇◆◇
「すごいですね……りんたろう先輩。さっきから全然手が止まらないっていうか」
サナは、料理を作る凛太郎をボーっと眺めていた。
玲たちは、その様子を得意げな顔で見守っている。
彼女たちにとって、凛太郎というサポーターがいることは、この上ない自慢であった。
凛太郎が褒められると、自分のことのように嬉しくなってしまう。
「期待していいわよ。凛太郎のご飯は絶品なんだから!」
「楽しみです……! でも……」
サナの不安げな顔に、三人は首を傾げた。
「私ってそのー、意外と大食いでして……引かれてしまわないか心配で」
そんな悩みを聞いた三人は、噴き出すように笑う。
「ちょ、ちょっとぉ! 笑わないでくださいよ!」
「ごめんごめん。何を言いだすのかと思えば、可愛いことで悩んでるなって」
「もう、これでも本気で悩んでるんですよ?」
そう言って、サナは頬を膨らませる。
後輩らしい可愛い仕草に、玲たちは自然と笑顔になった。
「気にすることない。私たちも、いつもたくさん食べる」
「特に玲が食べる量見たら、度肝を抜かれるわよ?」
「えー⁉ こんなに細いのに⁉ 全然そんなふうには見えないんですけど……」
訝しげな視線を向けられた玲は、嬉しそうに頬を押さえた。
「細いって言われた。なんだか嬉しい」
「ま、ボクらは食べても栄養がここに行くからね」
ミアが胸を張る。
ボーイッシュな印象に似合わない豊かな胸が、わずかに揺れた。
負けじと、玲も胸を張る。それを見ていたカノンは、二人を睨みながら、舌打ちをこぼした。
「何よ、自慢しちゃって。サナもこんな先輩嫌いよ……ね……」
「どうしました? カノン先輩」
サナの胸元を見たカノンは、言葉を失った。
――――こいつもでかいやんけ……。
服の上からでも、しっかりとした膨らみが見て取れる。
玲ほどではないにしろ、ミアとはほぼ互角と言っていい。
「敵よ……! あんたら全員敵!」
「えぇ⁉ 急にどうしたんですか⁉」
駄々をこねるように暴れるカノンを、サナは必死に押さえ込む。
「――――何やってんだ? お前ら」
◇◆◇
リビングに戻ると、何故かカノンと柴又が取っ組み合いをしていた。
こいつらのことだ。またくだらない話で喧嘩ごっこでもしていたのだろう。
「ほら、できたぞ」
「わぁ……! ハンバーグだぁ!」
「好きなのか?」
「はいっ! 大好きです!」
柴又の、あるはずのない尻尾がブンブンと揺れている。
なんだ、意外と素直じゃないか。ちゃんと後輩らしいところもあるもんだな。
「にしても……すごい量ですね」
柴又は、自分の前に置かれた皿を見て、ボソッと呟いた。
それぞれの皿には、ハンバーグが四つずつ盛りつけられている。
そこに、簡単なサラダと、山盛りの米。
「多かったら残していいぞ。そいつらが食ってくれるから」
「あ、いえ。これくらいなら余裕です!」
「余裕なのか……」
ミルスタが特殊なだけかと思っていたが、やはりアイドルはみんな大食いなのだろうか。
「もし足りなければ、ハンバーグのおかわりもあるから言ってくれ。もちろん米もな」
「ありがとうございます! いただきますっ!」
「よく噛んで食えよ」
「あ、それマミーにもよく言われます」
「母上呼びはどうしたんだよ……」
マジで気まぐれでボケるやつだな。
手を合わせた柴又は、ハンバーグに箸を入れる。
変人さが目立つ彼女だが、箸の使い方は意外にも綺麗だった。根は相当真面目なのだろう。
しっかりしているから、ダル絡みされても嫌な気持ちにならないのかもしれない。
「うっ――――うまぁああああ!」
ハンバーグを口に運んだ柴又は、大袈裟に叫んだ。
「きのこの旨味が詰まったトロトロのあんかけと、ふわふわでジューシーなハンバーグ! これにお米! 合わないはずがありません!」
「食レポ上手いな……じゃなくて、興奮しすぎだって」
そう言いつつ、俺は自然と漏れる笑みを抑えることができなかった。
こんなに素直に喜ばれると、作った側としては、やはり嬉しいものだ。
「それにしても、このハンバーグ……こんなに肉厚なのに、全然くどい感じがしませんね⁉」
「ああ、豆腐を入れて肉の量を抑えてるからな。油もカロリーも、意外と控えめなんだ」
「え⁉ お豆腐が入ってるんですか⁉ 全然気づかなかった……」
ハンバーグを口に運び、柴又は首を傾げる。
自分でも食べてみたが、豆腐が入っていると知らなければ、とても気づけないくらいには上手く馴染んでいると思う。
「凛太郎、おかわり」
「はいはい」
玲から茶碗を受け取り、山盛りにして返す。
玲がパクパクと米を口に運ぶ様は、はたから見るとまったく噛んでいないように見える。
しかし、よく見ると、玲の口が高速で動いているのが分かる。これは、飯を早く食べることと、よく噛んで食べることという相反することを両立させるために、玲が独自に編み出した技である。
気配を消すのもそうだが、こいつはどうしておかしな技ばかり習得するのだろうか。
「ほら、言った通り、よく食べるだろう?」
「はい!」
ミアがウインクすると、柴又は安心したように笑った。
俺がいない間に、何かあったのだろうか?
まあ、男には言いづらいこともあるだろう。俺は気にせず、ハンバーグを口に運んだ。




