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7-3

『修正のご報告』

感想欄とメッセージにて柿原聖斗というキャラクターの名前にご指摘をいただき、急遽変更が必要な名前だと判断しました。よって以下の通りに差し替えさせていただきます。


柿原聖斗 → 柿原祐介


詳しい事情についてはこの場では控えさせていただきます。

見つかる範囲ですでに名前の差し替えを行いましたが、見逃している部分も多く残っていると思われます。お手数ですが、見つけた方は誤字報告、またはメッセージにてご指摘いただけると幸いです。意図していないことだったとは言え、混乱させてしまい申し訳ありません。

「一年生の頃に委員会が同じでさ……そこから仲良くなったんだけど、実はそれ以来ずっとあいつのことが好きなんだよ」

「……そっか」


 "実は"というレベルじゃないと思うが。

 つまるところ、本人にはあれだけ分かりやすい態度を取っている自覚はないのだろう。意外と自分を鑑みることは少ないし、まあ分からない話ではない。

 ただ隠しきれていると思っていることが少し滑稽なだけで。


「でも、梓は多分俺のことを仲のいい友達としか思っていないんだ。だから男として見られるにはどうしたらいいんだろうって……」

「うーん……」

 

 おいおい、クソ難しいじゃないか。

 実際は彼女なんていない俺には、この相談は重すぎる。


「男らしい姿を見せる、とか?」

「それは……やってるつもりなんだけどな」


 そりゃそうだ。柿原以上にモテる男を俺は知らないし、どんな時でもクラスの先頭に立てるこいつに男としての魅力がないはずがない。


「じゃあ――――素直にデートに誘う、とかはどうだろう」

「そ、それは……さすがに緊張するな」

「今まで俺は祐介君が二階堂さんを含めたいつもの四人でいるところしか見たことなかったからさ、あんまり二人きりで出かけたことはないんじゃないかと思って」

「……驚いたな、その通りだ。竜二と二人で出かけることはあっても、女子側と二人っきりになったことはないと思う」

「ならそれが意識させるチャンスなんじゃないかな。こっちから意識しているって姿勢を見せないと、まず恋愛的な雰囲気にならないと思う」

「確かに……」


 俺の(でっちあげの)アドバイスを、柿原は真剣な表情で聞いている。

 ちなみにこの戦法は、少しずるい手段だったりもする。

 例えばこれで二人きりを断られた場合、まずもう脈はない。故にこの時点で諦めることができる。告白したわけじゃないから、ダメージも少ないはずだ。

 もしデートが叶った場合、多少なりとも脈はあるということになる。しかしそれが勘違いである場合も多大に存在するため、ここで焦ってはいけない。

 まずは相手を女性として意識しているぞ、とアピールする。それを相手が気持ち悪く思うならば、その時点で恋人になるのは絶望的だ。諦めるしかない。

 

 とまあ、これが俺が適当に考えた理論である。


「二人きりで誘ってみる、か――――ありがとう、凛太郎。挑戦してみるよ」

「お役に立てたなら何よりだ。頑張れ、祐介君」


 傍から見ていてもお似合いの二人ではあるし、成就したらいいなぁと素直に思う。

 それと数分程度でも相談に乗るために時間を使ったのだから、これが成就しないと損した気分になる。どうか成就してくれ、俺の数分のために。


「――――失礼しました」


 ガラガラと扉が開く音が聞こえ、前のクラスメイトが教室を出ていく。

 ちょうどいいタイミングだ。


「俺の番みたいだ。それじゃあ、祐介君」

「ああ、本当にありがとう、凛太郎」

「友達の悩みなんだし、当然さ」


 俺は柿原に手を振って、入れ違いになるようにして教室に入った。


 はー……しんど。


◇◆◇

「えー、志藤凛太郎君。まあ二者面談になってしまったわけだし、とりあえずは気楽によろしくね」

「はい。よろしくお願いします」


 机を挟んで目の前に腰掛ける若い女性――――春川百合先生に向かって、俺は頭を下げた。

 彼女こそがうちのクラスの担任であり、男子人気ナンバーワンの美人教師である。


「で、君の進路の話なんだけど……決めていることってある?」

「あー、そうですね。とりあえず大学に行くことは決めてます。やりたいことはまだ見つかってないですけど」

「分かる分かる。高校二年生じゃそんなもんだよねぇ。ぶっちゃけ本命は三年生だから、今はまあその程度の感覚でも十分だと思うよ」


 話の分かる人だ。

 彼女は美人だからという理由以外にも、生徒たちの気持ちに人一倍理解があるという部分で人気がある。

 それでいて不真面目過ぎないメリハリのある空気感を出してくれるため、かなり理想の教師像と言えた。


「志藤君は成績もいいし、結構勉強はしっかりしているタイプだよね」

「そうですね。一人暮らしをするために、父親から良い成績をキープするよう言われてまして」


 これは本当。

 あの親父とて子供の一人暮らしは心配なようで、別れ際にそんな条件を言い渡されていた。

 まあ実際のところ、優秀な自分の遺伝子を継いだ男が下手な成績を取ることが許せないだけかもしれないが。


「一人暮らしかぁ……高校生の身じゃ大変でしょう? ちゃんとご飯食べてる?」

「何だか母親みたいなこと言いますね……」

「私だってもう親になれる歳ですもの。実家からは『結婚はまだかー!』って月に一回電話が来てもううんざり」

 

 春川先生は、確か今年で26歳。きっと大人にしか分からない苦労を日々感じているのだろう。

 んー……ただどうでもいい話だなぁ。


「でも肌のハリはいいし、問題はなさそうね。私なんてもうシミの心配ばかりしてるのに……」

「あはは」


 うん、この話こそクソどうでもいい。


「えーっと、あとは……あ、そうそう! 志藤君は行きたい大学とかあるの?」

「んー……可能なら"GMARCH"は狙いたいですけど」


 GMARCHとは、東京の学習院大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学の六つの大学の頭文字を並べた言葉である。

 進学校に片足を突っ込んでいるこの学校なら、現実的に目指せる範囲だ。

 ちなみにこの上に早慶上智と呼ばれる早稲田大学、慶応義塾大学、上智大学の三つが存在するが、ここへ行くためには今の勉強量じゃ少し厳しい。

 

「うんうん。君の成績ならGMARCHは悪くないと思うな。三年生になったら結構頑張らないといけないかもしれないけど」

「そこは理解しています」

「なら問題なし。一人暮らししているだけはあって、考え方はしっかりしてるね」


 春川先生は手元のファイルに俺の情報を書き込むと、それをぱたりと閉じた。


「はい、じゃあ二者面談終わり。気をつけて帰ってね」

「ありがとうございました。失礼します」

「あ! 帰りに外で待ってる柿原君を呼んでおいてね!」

「分かりました」


 スムーズに終わったことに感謝しながら、俺は教室から出る。

 それに気づいた柿原が顔を上げたため、教室に入るよう指で指示を送った。少し緊張の面持ちになった彼は、そのまま教室へと入っていく。


 さて、部活にも入っていない俺がこれ以上学校にいる意味はない。鞄を背負い直し、校門へ向かって歩き出す。


 ――――その途中。


 廊下の向こうから、見覚えのある金髪が歩いてきている姿が見えた。我らがアイドル、乙咲玲である。

 そしてその隣には、仕立てのいいスーツを着た背の高い黒髪の男が並んで歩いていた。

 ずくりと頭に痛みが走り、突然忘れようとしていた(・・・・・・・・・)幼少期の記憶が甦る。


 そうだ、あの男はどこかで――――。


「あ……凛太郎」


 俺に気づいた玲が、そうつぶやく。

 するとぴくりと隣の男性の眉が動き、俺へと視線を送ってきた。

 

「あれ、乙咲さん……三者面談今日だったの?」

「え? あ、うん、そう。柿原君の次」


 玲のやつ、猫かぶりモードになった俺に一瞬たじろいだな。

 

「む、君は玲のクラスメイトかい?」

「はい、志藤凛太郎と言います」

「……志藤?」


 男性は俺の名前を聞いた途端、顎に手を当てて考え込む様子を見せる。

 そんな彼の思考を邪魔したのは、隣に立っていた玲であった。


「お父さん、早く教室前に行かないと」

 

 お父さん――――そうか、この人が玲の父親か。

 髪色は違うが、端正な顔立ちはどことなく彼女に引き継がれているような気がする。


「ああ、会社を出るのが少し遅れてしまったんだった。すまないね、志藤君。挨拶も雑になってしまって」

「いえ、お気になさらず」

「そうか、では失礼するよ」


 忙しそうな人だ。

 玲とその父親は、俺の横を通り抜けて春川先生が待っている教室へと向かっていく。

 これ以上眺めていても仕方がない。

 俺も彼らに背を向け、歩みを再開した。


「――――なあ、志藤君」


 突然呼び止められ、俺は思わず振り返る。


「君、どこかで会ったことないか?」

「……気のせいじゃないでしょうか」

「……そうか。すまない、変なことを聞いたね」


 最後にそう告げて、二人は廊下を曲がって姿を消す。

 

 心臓が早鐘を打っていた。

 頭の中に中身のない嫌な感情が駆け回り、冷や汗が滲む。

 やがて浮かんできたのは、母親と親父の顔。

 

「くそっ……最悪の気分だ」


 俺は誰もいない廊下で悪態をつき、嫌な感情を振り払うべく歩き出した。

 

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