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「りんたろーさんは、一体何が言いたいん? ウチに分かるように教えてーな」
「ああ、分かりやすいように言ってやる。俺は、自分の過去を呪って、世界で一番自分が不幸なんですって言いたげなあんたの面が気に入らないんだ」
「っ!」
「おまけにアイドルである理由が、親と会って文句を言うため? ただ一目会いたいだけっつーならまだ応援するが、そんなクソにもならんことやってどうすんだよ。いいか? 俺たち高校生は、ガキだけどガキじゃねぇんだ。馬鹿な目標を抱えて笑っていられる時間は、とっくに終わってんだよ」
「……クソにもならん、やと?」
ここに来て、シロナの顔が初めて大きく歪む。
眉間にキュッと皴を寄せ、まるで子供のように地団太を踏んだ。
「もういっぺん言ってみぃや! じゃあなんや⁉ ウチらを捨てたクソ親を許せっちゅーんか⁉ そないなことできるわけないやろ! どうせ子供を捨てられるような親なんや! 有名になったウチらが金を持ってることを知れば、絶対のこのこ現れる! ウチらを財布として利用してやろうってな! そこにドギツイ一発をお見舞いしたるんや!」
「じゃあ、もし現れなかったら?」
「……現れなかったら?」
シロナの言葉が止まる。
「現れなかったら……そりゃ、その……」
「……」
「……どないしよ?」
シロナは不安そうな顔をしながら、そんな風に言葉を漏らす。
先ほどまでは駄々をこねていた彼女は、まるで迷子の子供のようになってしまった。
「あんたの掲げる目標には、なんの信念も、なんの欲望もない。こんな質問に答えられないくらい、今のあんたは空っぽなんだよ」
「ウチが……空っぽ?」
静かになり、自分を見下ろすシロナ。
自分でも気づいてるんだ。こんな目標を掲げたって仕方がないって。
親に会いたい。今どうしているのか知りたい。会って成長した自分を見てほしい。
それを目標とするならば、誰も否定なんてしやしない。
しかし、そういう人間とは違い、シロナは行き場のない感情を誰かにぶつけたいだけ。
こんなことをしていても、親に会える可能性は極めて低い。
そんなの、自分でもよく分かっているはずだ。
分かっているのに、やめられない。
何故なら、それがなくなった瞬間に、自分がどこにいるのか分からなくなってしまうから。
「……あんたは別に頭が悪いわけじゃない。でなきゃトップミーチューバーになんてなれないからな。だからこそ、ずっと不思議だったよ。どうして親を探すっていう目標のために、アイドルなんて不確定にもほどがある方法を選んでるのかって」
「っ……!」
「そして俺は、その理由にすぐ気づけた。皮肉にも、本当にあんたと俺は似た者同士らしい」
肩を竦め、俺は苦笑いを浮かべる。
本気で夢を叶えようとするのであれば、方法を考え、試行錯誤と努力を繰り返し、時間や金銭、あらゆるものを犠牲にしなければならない。
シロナはそれを理解している上で、楽をした。
まあアイドルになることが楽かと言われればそれは違うが、つまりは真の目的を果たすために、シロナは全力を尽くしていないという話である。
この現代において、人を探す方法なんて山ほどあるのだから。
「気づいてんだろ? 自分にとって、親を罵倒することに大した価値がないって」
「……」
黙りこくっていたシロナは、そのままソファーに深く腰を沈めた。
そして、腹の底から湧き上がってくるような笑い声を漏らす。
「……シロ?」
「にゃははは……せやなぁ、確かに……気づいてたんやなぁ、ウチは」
クロメからの心配の声を受けつつ、それでもシロナは笑う。
まるで人の珍解答を笑うかのように――――。
「ぜーんぶ、りんたろーさんの言う通りですわ。何を強がってたんやろ、ウチ。本当は全部、どうでもいい癖に」
「……」
「りんたろーさん。りんたろーさんも、ウチみたいに自棄になったことあります?」
「……ああ、あるよ。なんなら、ほんの一、二か月前までそうだった」
出ていった母を恨み、仕事ばかりで家族を放置した父を恨んだ。
ただ漠然と父のようにはならないと誓い、一生働かないなんて目標を定めた。
けど、その目標に意味なんてない。
俺はただ、自分は周りとは違うのだと勝手に諦め、拗ねていただけだった。
「……ま、今は違うけどな」
ガキのように拗ねるのは、もうやめた。
俺は料理ができる。
掃除ができる。
洗濯ができる。
ゴミ出しだって、整理整頓だって得意だ。
これまで培ってきたものたちを、俺はあの三人のために使う。
いつか、〝あいつ〟の専業主夫になることを願って――――。
「羨ましいわぁ。ウチは……ウチらは、どないしようね。こない無駄な努力をしてもうて、ちと……すぐには動けそうにあらへん」
乾いた笑いを漏らすシロナと、それに寄り添うクロメ。
ありもしない目標を掲げて、行き当たりばったりで生きてきた結果が、今のこいつらだ。
俺も一歩間違えれば本当にこっち側にいたのかもしれないと思うと、背筋に寒気を覚える。
しかし、だからってこいつらが手遅れなんてこともない。
誰かが差し伸べた手を、掴むだけの力が残っているのなら。
「散々好き放題言わせてもらったが、最後にもう一つだけ言いたいことがある」
「……なんや? 今ならなんでも受け入れたるで?」
「一度でいいから、正式なオファーを出して、ミルフィーユスターズとコラボしてみてくれ」
「え……そ、そないなこと……ウチらにそれをやる意味はもう――――」
「意味ならある」
俺が変われたのは、あいつらがいてくれたから。
ならば俺と同類であるこの二人も、何か影響を受けてくれるかもしれない。
「頼む。一度だけ、俺とあいつらを信じてくれ」
「……」
俺の頼みに対し、シロナは――――。




