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41‐3

 ミーチューブに力を入れると決めた日の深夜。

 ツインズとの対決のことを考えてしまって寝つきが悪くなった俺は、特にきっかけもなくベッドの上で目を覚ました。

 時刻はまだ午前二時といったところ。

 二度寝はするとしても、この変にそわそわしている心を落ち着けないことには、またすぐに目を覚ましてしまう気がする。


「……水でも飲むか」


 俺は部屋を出て、リビングへ向かう。

 すると消したはずの光が、リビングの方から漏れていることに気づいた。


「あ……凛太郎」

「玲? お前何やって……」


 リビングのソファーには何故か玲が座っており、その前にある大きなテレビには、ミーチューブにツインズが上げた動画が流れていた。

 動画の内容は、〝クロメに激辛ラーメン大食いさせてみた〟というミーチューブらしいものであり、汗だくになりながらラーメンを口に運ぶ彼女たちの姿は、面白おかしく、なんとも目を引く。

 

「私、ミーチューブなんて全然見たことなかった」


 動画の方に視線を戻した玲は、そんな風につぶやいた。


「チョコレート・ツインズのことも、ほとんど知らなかった。だから、少しでもあの人たちのことを知ろうと思って、ここで見てた」

「……なるほどな」


 これは玲なりの研究だったらしい。

 ここまでただただ突っ走ってきたミルフィーユスターズ。

 彼女らの世代にはライバルらしいライバルもおらず、大きな障害にぶつかることなく成長してきた。

 本人たち的にはどうだったのかは知らないが、少なくとも俺の目にはそう映っている。

 自分たちに敵対してくる存在――――いわばそんな未知の相手に、玲は一体どんな感情を抱いているのだろうか。


「……凛太郎も、この人たちのこと、魅力的だと思う?」

「え? ぶっ……!」


 思わず吹き出しそうになる。

 玲に言われて画面を見てみれば、そこには胸元を大きく開けた服を着てアピールしているシロナが映っていた。

 どうやら〝男性悩殺ファッション〟とやらを着こなすという企画らしい。

 

「み、魅力的かって言われても……」


 動揺してしまった心を落ち着け、冷静になって動画を見てみる。

 美少女二人が、わいわいと楽しみながらいろんな服を着回しているこの動画。

 シロナのトークは面白く、クロメのリアクションはとても新鮮。

 そこに加わる凝った編集が、さらに動画の魅力を引き上げている。

 見ているだけで頬が緩むという話は、まあ、分かる。


「……楽しそうにしてるのは、やっぱり魅力的だよ。こういう活動を楽しめるかどうかっていうのは、才能だと思うから」


 好きこそものの上手なれなんて言うように、結局楽しんで何かに取り組む奴に勝てる要素はない。

 どういう事情があれ、こいつらは全力でミーチューブを楽しんでいる。

 それが魅力的に映らないはずがない。


「私もそう思う。だからさっきみんなで話している時、ちょっとだけ違和感があった」

「違和感?」

「二人とも、ミーチューブをやってみたいって様子じゃなかったから」

「……まあ、そりゃそうだろうな」


 ミーチューブに力を入れたいと思っていたら、もっと早く始めようって話が出ているわけで。

 今回のように、そうする必要ができたから始める――――そんなモチベーションでも仕方ない。


「うん……でも私は、みんなでミーチューブを楽しみたい」


 玲はテレビの画面に視線を戻した。


「義務感でやるなら、多分どうやってもツインズには勝てない。それどころか、まったく伸びないって可能性もある気がする」

「さすがにそれは……」


 ない、と言いたいところだったが、あながち否定もできない。

 何度も言うが、ミルスタの人気は段違い。

 しかし人気にかまけて適当な動画をアップして、それで手放しに喜ぶほどファンだって馬鹿じゃないはずだ。


「私たちは、ミーチューブを楽しむ必要がある。そのためには、まずミーチューブのことを知って、好きにならないと」

「それで研究ね……」


 テーブルの上にはノートが広げられており、動画で気になった部分などが簡単にメモされていた。

 本当に簡単に書かれすぎて何が書いてあるかいまいち分からないが、それはいいとして。

 このストイックさには、相変わらず感心するほかない。


「でも、さすがに夜更かしはよくないと思うぞ。明日だってあるんだし……って、日付的には今日か」

「ん、それはごめん。もう少し見たらちゃんと寝る」

「……」


 こうなった玲に心変わりさせるのは難しい。

 どうせ無茶されるのであれば、せめてわずかでも負担を減らしてやるのが俺の役割だ。

 

「ちょっと待ってろ」

「え?」


 俺はきょとんとしている玲を置いて、キッチンへと向かった。

 それから材料が揃っていることを確認して、台の上に並べていく。

 並べた物は、牛乳、ココアパウダー、砂糖、そしてマシュマロ。

 この時点でマシュマロココアを作ることは分かってもらえると思う。

 冬の気配が濃くなってきた今日この頃。

 深夜ともなるとかなり気温が下がり、下手すれば風邪を引く。

 そんな時は、体を温める飲み物が一番だ。

 

「まずはココアパウダーを溶かして……っと」


 マグカップにココアパウダーと、少量の水、そして小さじで砂糖を加える。

 料理をするようになって初めて知ったことなのだが、実はココアパウダーとインスタントのココアはまったく違うものらしい。

 まず、ココアパウダーは全然甘くない。

 むしろ苦みの方が強く、いわゆるビターチョコに近い感じ。

 だからこうして砂糖を追加しないと、飲めない人もいるはずだ。

 むしろ甘味が苦手な人は、砂糖を入れずに飲むことを勧める。

 この辺の調節が効くのが、インスタントにはない魅力と言えるだろう。

 それから俺は、水で溶いたココアパウダーに牛乳を注いだ。

 だまができないように均等に混ぜ合わせ、これでココア自体はほぼ完成。

 あとはこれを電子レンジで温めて、最後に玲がおやつ用に買っていたマシュマロを何個か浮かせれば――――。


「ほい、マシュマロココアだ。体が温まるし、糖分も摂れるぞ」

「わ……! ありがとう」


 俺からココアを受け取った玲は、そのままちびっと口をつける。


「ふぅ……温かくて、甘くて、ホッとする」

「そりゃよかった。しばらくそのままで楽しんだら、一緒に渡したスプーンでマシュマロを溶かしながら飲んでくれ。マシュマロの甘さが広がって、また違った風味になるから」

「分かった」


 しばらくココアを楽しんだ後、玲はスプーンを使って表面に浮いていたマシュマロをゆっくり沈める。

 するとマシュマロ自体がじわじわ溶け始め、小さくなっていった。


「マシュマロとココアが合わさって、すごく美味しい……ありがとう、凛太郎」

「むしろこれくらいのことしかできなくて悪いな」

「ううん、むしろ十分すぎる」


 そう言ってもらえると、俺も救われる。

 カノンやミア、そして玲の努力を想えば、俺のサポートなんて些細なものだ。

 だから俺は、甘えず、油断しないことを心掛ける。

 こいつの努力が無駄になってしまわないよう、一緒に戦っている意識を持つ。

 まあ……本当にそうできているかは置いといて、これはそういう意識の問題だ。


「……少しは仮眠できるようにしておけよ。徹夜はさすがに肌に悪いぜ」

「ん、分かった。私もカノンに怒られたくない」

「そりゃそうだな」


 玲がこんなことをしていると知ったら、おそらくカノンは烈火のごとく怒るに違いない。

 こうしている間も、今まさにカノンが起きてくる可能性があるわけで。

 万が一にも怒りの業火に巻き込まれることを避けるべく、そろそろここを離れた方がいいだろう。


「朝早いし、俺は寝るぞ。おやすみ」

「ん、おやすみ、凛太郎」


 そんな挨拶を最後に、俺はリビングをあとにした。

 

 

 

 

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