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39‐1 ハロウィンライブ

 時は流れ、あっという間にハロウィンライブの日がやってきた。

 屋外に設置された会場は、見渡す限り超満員。

 冬が近づいてきているというのに、この辺りだけ強い熱気が立ち上っていた。


「相変わらず人気だねぇ、ミルスタは。人口密度がすごいことになってるよ」


 俺の隣にいる稲葉雪緒は、あまりの観客の多さに感心した様子を見せている。

 何を隠そう、俺はこういうライブに一般参加することが初めてなのだ。

 正直、心細さは否めない。

 だから無理を言って、雪緒にこうしてついてきてもらった。

 親友であるこいつは、俺とミルスタの関係を知っている数少ない人間。

 関係値といい、立場といい、今まで以上に俺が雪緒を頼りにしていることは言うまでもないだろう。

 ちなみに雪緒の分のチケットも、玲たちが快く用意してくれた。

 天宮司との一件で世話になったわけだし、恩返しの意味も込めているらしい。

 あの件は主に俺のせいで起きてしまったこと。

 しかし彼女たちがまるで自分のことのように考えてくれているのが、嬉しくもありつつ、むず痒くもあるというか。


「ハロウィンライブだからか、コスプレしてる人も多いね」

「ああ、時期に合わせてそういう趣旨のライブらしいぞ。ミルスタもいつもの衣装に加えて、ハロウィンらしいコスプレも用意してるって」


 衣装の内容は聞いていないから、なんとなくの想像でしかないが……カノンは魔女っ娘、ミアはドラキュラなんて似合うんじゃなかろうか。

 玲は、そうだな、フランケンとか?

 掴みどころがないっていうか、ぼーっとしてることも多いし。


「なんかドキドキするなぁ……僕、こういう特別なライブ以前に普通のライブにも来たことないから。凛太郎は一回行ったんでしょ?」

「関係者席でな。前に見にいった時は、呆気にとられるくらい盛り上がってたぞ……コールアンドレスポンスの連発で」


 コールアンドレスポンスとは、簡単に言えばアーティストの呼びかけに対し、観客が決まった掛け声を返すことで応じるパフォーマンスのこと。

 ライブ会場全体が一体感に包まれる感じは、なんとも言えない興奮を与えてくれる。

 声を上げるのはあまり得意じゃない俺だが、こういう時ばかりはさすがに話は別だ。


「へぇ……じゃあ今日もあるのかな? この日のために、たくさんミルスタの曲予習してきたんだよね」

「そこまでしてくれたのかよ」

「せっかくチケットまで譲ってもらったわけだし、全力で楽しみたいでしょ?」


 雪緒がこういうことに意欲的なのは、少し意外だった。

 もちろんいい意味で。

 こんなに誘いがいがある奴なんて、中々いない。

 

 —―――なんて話をしていると、すでに開演の時間がすぐそこまで迫っていることに気づく。

 やがて大型のステージを照らしているライトが切り替わり、会場全体が期待を含んだ静寂に包まれた。

 時刻はすでに夕暮れ。

 薄暗くなってきた中で光るのは、赤、青、黄の三色のライト。

 そしてそれぞれのライトの照らす先に、彼女たちは立っていた。


『――――わん、つー』


 玲のいつもの掛け声から始まるのは、ミルスタの代名詞と言ってもいいデビュー曲。

 三人の魅力が遺憾なく詰め込まれたこの曲は、聞いているだけで不思議と心が躍る。

 そこに三人の歌声が合わさり、会場は大きな興奮で満たされた。


(こうして見ると……やっぱりすげぇな)


 身震いしてしまうほどの興奮を押さえつけ、俺は苦笑いを浮かべる。

 俺は今、これだけの人々を熱狂させられる存在と一緒に暮らしているのか。

 荷が重いと感じる部分もありつつ、優越感を覚えている自分がいることも事実。

 しかしこの状況は、彼女たちが俺を必要としてくれているから生まれているもの。

 ちゃんとそれに見合うサポートをしなければ、俺は彼女たちの側にいる資格を失うわけだ。

 

「今後は一層気合い入れていかねぇとな……」


 静かに決意を固め、俺は今日のライブに没頭することにした。


『みんなー! 今日は来てくれてありがとー!』

「「「おおおおおおぉぉおおお!」」」


 カノンの呼び掛けで、観客から咆哮が上がる。

 あまりの声量に鼓膜がひどく揺らされるが、不思議なことにまったく不快感がない。

 むしろこっちまでこの叫びに乗りたくなるというか、すでに謎の一体感の中に俺はいた。


『みんな、今日はコスプレしてきてくれた?』

「してきたよー!」


 引き続きカノンが観客に声をかけると、犬耳をつけた女ファンが大きな声で返事をした。

 それによって、会場内には小さな笑いが起きる。


『あはは! ありがとー! みんなも今日は全力で楽しんでいってね! 楽しんでくれないなら……いたずらしちゃうからっ!』

「「「おおおおおお!」」」


 カノンのお茶目なウィンクに、再び歓声が上がる。

 中には手を合わせて拝んでいる奴もいたりして、少し驚いてしまった。

 ここまで来ると、もはや一つの宗教だな。

 

『カノン、早速だけど、ボクらも着替えよう。せっかくおめかしして来てくれている子がいるんだからさ』

『そうね! みんな! ちょーっと待っててね! ほら、玲も行くわよ!』

『うん』


 三人が自分の衣装に手をかける。

 そして一瞬布が大きくはためいたと思ったら、すでに三人の姿は変わっていた。


『じゃーん!』


 どういう仕組みなのかはまったく見当もつかないが、三人はいつの間にかハロウィンにちなんだコスプレをしている。


 カノンは魔女っ娘。

 ミニスカートとニーハイによって生まれた太ももの絶対領域に、思わず視線が引き寄せられる。

 頭にかぶった大きなとんがり帽子も可愛らしい。

 

 ミアはドラキュラ。

 スーツにマントという露出の少ない硬派な服装だが、ピチッとしたズボンがミアの人並み外れたスタイルを強調している。

 そして歯にコスプレ用の牙をつけているようで、それがちらりと見えるたびに彼女の妖艶さを加速させていた。


 ここまでは、俺の予想が見事に当たっている。

 しかし、最後の一人である玲だけは、俺の予想から大きく外れていた。

 彼女が身にまとっていたのは、純白のドレス。

 おそらくドールのコスプレなのだろう。

 彼女の持ち前の美貌が、人形独自の美しさと不気味さに見事にマッチしていた。

 本当は乙咲玲なんて人間はどこにもいなくて、ただの動く人形だった――――。

 そんな風に言われても、今の玲だけを見たら信じてしまうかもしれない。

 それほどまでの存在感の違いを覚えた。


『次の曲は、ハロウィンにぴったりなあれで行こうかな』

『そうねっ! 行くわよ! "ハロウィン・パーティー"!』


 オレンジ色のカボチャをイメージしたであろうライトが、会場を強く照らす。

 再び大きな歓声が上がる中、玲たちはコスプレしたままパフォーマンスを再開した。


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